Interview

DAOKO 自身がプロデュースを手がけたアルバム『anima』で魅せた新境地と初の生配信ライブから見えた新時代の可能性。

DAOKO 自身がプロデュースを手がけたアルバム『anima』で魅せた新境地と初の生配信ライブから見えた新時代の可能性。

DAOKOのニューアルバム『anima』がリリースされる。すでに6月24日に配信がスタートし、その多彩にして今、聴くべき示唆に富んだ内容が話題を呼んでいる本作は、DAOKO自身がプロデュース/作曲に深く関わり、新たなチャプターを開いた意欲作となった。気鋭のトラックメイカーやバンドメンバーとともに自身の世界を築き上げたDAOKOに、先日行われた無観客配信イベントのこと、アルバムの意図や現在の心境を訊いた。

取材・文 / 佐野郷子 撮影 / 沼田 学


SUPER DOMMUNEで開催された無観客配信リリースイベント

ニューアルバム『anima』がデジタルリリースされた6月24日にSUPER DOMMUNEとDAOKO公式YouTubeチャンネルで無観客配信イベントが開催されましたね。

アルバムの配信リリースに合わせて何かイベントができないかと思って、以前からよく視聴していたDOMMUNEがいいんじゃないかと思ったんです。出演するのは初めてでしたが、新しく出来た渋谷PARCOにもようやく行けたし、DOMMUNEを主宰する宇川直宏さんにもやっとお会いできて楽しかったですね。

前半のトークパートではDAOKOさんとサウンド・プロデューサーの片寄明人さんによる『anima』のトーク、後半はバンドセットでライブも行われました。初めての配信ライブはいかがでしたか?

片寄さんとのトークはリラックスしてお話しできたんですけど、無観客の生配信ライブは初めてだったので、自分に向いているかどうかはやってみないと分からないなと思っていたんです。でも、やってみたら、いつものバンドでのライブのテンションと変わらずに出来たなと感じました。スタジオでのライブってしんみりなりがですけど、そうはならずにテンションを高くキープできたのは、たぶんバンドのおかげですね。

この時期はリハーサルもままならない状況だったのでは?

そうですね。密になれない状況なので、リハーサルもそんなに入れなかったんですけど、やっぱりこのバンドでツアーをやっていたのは大きかったですね。いきなりでは難しかったと思います。永井聖一さんと西田修大さんのツイン・ギターは初めてだったんですが、それぞれ一緒にやってきたので、二人になると最強だなと。

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AR演出を駆使した配信ライブで見えてきた可能性

SUPER DOMMUNEと渋谷5GエンターテインメントプロジェクトのコラボレーションによるAR演出も視聴者の目には刺激的でした。

宇川さんの提案で急遽決まったんですが、これからしばらくは配信ライブが続くことを考えたら、そういう新しい演出は効果的だし、差別化する意味合いもありますよね。視覚的な演出を含めて、今はみなさんが配信ライブの可能性を色々探っているところだと思います。

AR演出によって視覚も楽しませるのはDAOKOさんの音楽とも親和性が高いように感じましたが?

そうですね。配信ライブが増えてきて、これからは視覚的にも音的にもそれぞれがオリジナリティをどうやって出すかが問われていくようになるのかもしれないですね。海外のリスナーの方の反応が予想していた以上に多かったし、SuperChatでいろんな国の言語が飛び交うのもいまどきですよね。DOMMUNEは私のライブを担当してくれているPAの方が入ってくれたので、音も良かったと言ってもらえたのは嬉しかった。

DAOKOさんのボーカルもバンドのプレイも生のライブの緊張感と熱量が配信からもリアルに伝わってきました。

コロナの影響でメンバーもスタッフも顔を会わせるのは久しぶりだったし、ライブでみんなのエネルギーがここぞとばかりに放出されたような気がしましたね。私もその熱い演奏の波に乗って歌うことができたかな。お客さんがいない寂しさはあるんだけど、今は観る側も演奏する側も安心して楽しめることが大切なのかなと思います。

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自らプロデュースに関わったアルバムをこのタイミングで聴いてほしかった。

7月29日にフィジカルでリリースされるアルバム『anima』の制作はいつから始まっていたんですか?

前作『私的旅行』がリリースされた後、水面下で自主的に動き始めていて、興味がある音をつくっているトラックメイカーに自分から声をかけたりしながら少しずつ進めていきました。2月にはほぼレコーディングも終わっていたので、ぎりぎりコロナの影響を受けずに済んだんです。

緊急事態宣言を受けて、リリースを延期したアーティストも多かったですね。

私の場合はリリースも本来の予定通りです。せっかく録音もできたので、鮮度が保たれるうちに発表したいという思いもあったし、アルバムもコロナの状況下で聴いてもしんどくない内容だと思ったので。アルバムがはつらつとしたキャッチィな曲ばかりだったらリリースも延期していたかもしれないけど、今回は自分でプロデュースにも関わり、そっと人の心に寄り添うような曲も多いので、このタイミングで聴いてもらうのがいいかなと思って、配信は先に、CDは追っかけでリリースすることになりました。

今年は1月に小袋成彬さんと共作したシングル「御伽の街」、3月には「おちゃらけたよ」をデジタルリリース。DAOKOさんの新生面を少しずつ見せてきましたね。

制作自体はゆるやかに進めていたんです。「御伽の街」は小袋さんがまだロンドンに移住する前に録ったし、「おちゃらけたよ」のトラックを手がけたインドネシアの22歳のビートーメイカー、pxzvcさんも小袋さんに繋いでいただいたんです。彼は日本のアニメやカルチャーが大好きらしく、以前からDAOKOを聴いてくれていたみたいです。制作のやりとりはすべてネットでしたけど、今はそうやって国境を超えて一緒に音楽が作れるし、ワールドワイドに音楽を届けることができる。そういう時代の新しい可能性はまだまだたくさんあると思います。

今回のアルバムはDAOKOさんがトラックメイカーやミュージシャンとともに作曲に関わっていることがポイントですね。

次のアルバムは自分で制作に深く関わりたかったので、この2年くらいはデモテープをつくりながら期限を決めずに納得のいくアルバムにしたいと考えていたんです。曲作りのためにソフトを買って、手探りでデモを作って、それを元にみなさんに助けてもらいながら共作していくかたちになりました。

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自分のやりたいことを作品として可視化することが目標だった。

アルバムの共同プロデューサーである片寄明人さんは、メジャー1stアルバム『DAOKO』以来になりますね。

片寄さんとはその後も交流が続いていて心の距離が近い間柄だったんです。最初に出会ったのは17歳のとき、レコード会社の方を介して紹介されたんですけど、スタジオワークに不慣れな私を導いてくれて、音楽の好みや波長も合うのでいつかまた一緒に音楽を作りたいと思っていたんです。そんなタイミングで、片寄さんと私にYMO結成40周年記念のトリビュートコンサート「Yellow Magic Children ~40年後のYMOの遺伝子~」の出演依頼があって、これはきっと運命に違いないと。

DAOKOさんと片寄さんの組み合わせはちょっと意外な気もしましたが?

ああ、そうかもしれない。片寄さん自身がGREAT3やChocolat & Akitoでも活動しているミュージシャンだから、アーティストの気持ちをよく理解してくれるんですね。プロデューサーとしても型にはめるのではなく、その人の個性をみつけて伸ばしてくれる方なので、私も気兼ねなく意見が言えるし、意見を聞くことができる信頼感があるんです。

DAOKOさんは今まで様々なサウンド・プロデューサーと組んできましたが、それとは違うアプローチになったわけですね。

今までも楽しくやってきたんですが、今回のアルバムは自分のやりたいことを作品として可視化する、実現することが目標でした。デビューした頃は分からなかったことや見えていなかったこともありましたが、少しずつ自分も成長して、できることも増えて、もっと好きなことを自分なりの方法でかたちにしたいと思うようになってきたんです。

去年は個人事務所を設立したり、初めてバンド編成でツアーを行うなどDAOKOさんにとって変化の大きい年でしたが?

そうですね。自我が芽生えたんです(笑)。年齢的にも女性としても変わっていくタイミングだと思うし、今まで積み重ねた経験や読んできた本や触れてきた文化などのすべてが自分の糧になっている。ティーンの頃はジタバタあがいていたけど、今は生きやすくなってきましたね。これまで一生懸命やってきたことは身になっていると思うし、だから今、自由に楽しくできる。

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音楽の素晴らしさを体感したバンドメンバーと超えた高いハードル

『anima』にはバンドメンバーでもある網守将平さん、永井聖一さん、大井一彌さん、鈴木正人さんも編曲/共作で参加。DAOKOさんの世界を斬新に拡張していますね。

 「二○二○ 御伽の三都市 tour」の後にレコーディングしたんですが、バンドでライブをやって、あらためて音楽の素晴らしさを体感したことはやはり大きかったですね。グルーヴというものを感じたのも初めてだったし、その音の中に自分がいるのが刺激的で楽しくて、これを何とかアルバムでも表現したいと思って。

網守将平さんと共作した「anima」は、従来のポップの概念さえ超える先鋭的な曲で驚きました。

このアレンジのデモが届いたときは、網守さんの才能が爆発していて、感動のあまり泣いてしまったんです。それくらい圧倒されましたね。

東京藝大作曲科、主席卒業の異才ぶりが遺憾なく発揮されている。

音楽を感覚でとらえてきた私とは真逆のタイプといえるんですけど、どこかでフィーリングが合うというか。ただ、網守さんの明確なビジョンに自分がどういう風に応えられるのか、これは相当ハードルが高い、ヤバいなと覚悟しました。ラップを乗せるのは今まででいちばん難しかった。

先の読めないスリリングな展開の曲とDAOKOさんの魔法のかかったようなラップは、まさに新しい扉を開いた感がありますね。

ここまで韻を踏んだことはなかったし、「anima」のめくるめく展開に自分の言葉を乗せるのは挑戦でしたね。この曲は音楽的にもすごく新しいので、あらゆる音楽好きの人に聴いてもらいたいですね。ある意味、J-POPを超えちゃってますけど、J-POPを聴いている人にも「スゴい!」と思わせる曲になったと思います。

いつかライブが再開したらぜひ聴いてみたい。

メンバーはやってみようと言っていましたけど、私が出来るかな? 自分でもこの曲が出来たときの達成感は格別でしたね。バンドのメンバーと一緒に作った曲は、みなさんが自分の個性を発揮しながら、DAOKOに似合う音に仕上げてくれてすごく愛を感じたし、お互いが刺激しあえる相互作用で音楽を作ることができました。

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あらためて確認できた自分のアイデンティティ、声と言葉。

アルバムのテーマはあらかじめ考えていましたか?

特にテーマを設けることなく、とにかく自分のやりたいことを思いきりやってみたらどういうアルバムになるんだろうなと思っていたんですが、結果的には自然体の今のDAOKOが表現できたなと思います。

インディーズ時代からの旧知のトラックメイカーからゲーム音楽の大御所まで、様々な人を組んでもDAOKOさんの声と言葉は音に埋もれない存在感がありますね。さらに記名性が高くなっている。

自分の声と言葉はやっぱり自分のアイデンティティになっているんですよね。今回、時間をかけて緻密に作ったので、自分でもそれをあらためて確認できたというか、自分の声が楽器の役割をしていることを自覚できたんです。だから、いろんなトラックでフリーに表現ができるし、ジャンルや流行りは意識せずに好きなことを好きな人たちと楽しめる。このアルバムがサブスクのジャンルで、「J-POP」ではなく「オルタナティブ」になっていたのは、自分でも「なるほどな」と思いました。

イマジネーションを掻き立てるDAOKOさんの言葉も音と一体となっていますが、「anima」という言葉はどこから?

歌詞は自分の思いや、読んだ本から影響を受けた哲学などが反映されているんですけど、頭の中が言葉でいっぱいになるタイプなので、今回は日々の言葉のストックから書いた歌詞が多いですね。アルバムタイトルにもなった「anima」は、アニミズムや心理学の本とか読んで引っかかっていた言葉で、ラテン語で “生命”や“魂”という意味なんですけど、日本の八百万の神や「古事記」にも通じるなと。自然にあるものはデザインされていないけど、デザインされたような美しさがあり、それは人間にも置き換えられるんじゃないかとか。そういう普段考えていることを歌詞に散りばめています。

時にはユーモアと毒を潜ませて独自の表現にしていくのもDAOKOさんらしい。

そうですね。独特の言葉使いをしていると自分でも思います。自分の言葉は自分が発して好きな言葉にしたいんですね。聴く人がいろんな解釈ができるような余白を感じさせる言葉の方がロマンチックだと思うので。

大変な時代だけど、ネガティブにならずにエネルギーを注ぎたい。

印象的なアルバムジャケットは、再開発中の渋谷の風景だそうですね。

Twitterで知った鉄道イラストレーターの「始発ちゃん」という方と一緒に渋谷をロケハンして描いていただきました。渋谷には十代の頃から仕事やプライベートでも訪れる機会が多かったんですが、最近の渋谷は再開発によって激変して、寂しくはあるんだけど、この景色も今しか見られないんだなと。かつて渋谷にこだわっていたこともあったし、楽しい思い出もたくさんある街ですけど、街も自分も変化していく。優しさと寂しさが共存しているこの絵は、自分の描く絵や世界観にも共通している気がします。

しばらくはライブも難しい状況ですが、今後はどんなビジョンはありますか?

自分でも納得できる血が通ったアルバムが完成したので、みんなの反応が今まで以上に気になりますが、これからもいろんな表現を続けていきたいですね。お客さんを入れるライブはまだ先になると思いますが、配信も含めて何かしらコミュニケーションが取れる方法を探りつつ、動きを止めずにやっていこうと。今、アーティストは大変な時代だけど、ネガティブにならずにエネルギーを音楽や表現に注いでいきたいですね。そこからきっと新しい時代の希望が生まれると信じています。

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DAOKO

1997年生まれ、東京都出身。ラップシンガー。15歳の時にニコニコ動画へ投稿した楽曲で注目を集め、2012年に1st アルバム『HYPER GIRL- 向こう側の女の子 -』をリリース。2014年には映画『渇き。』の挿入歌に「Fog」が抜擢され、庵野秀明氏率いるスタジオカラーによる短編映像シリーズ「日本アニメ( ーター) 見本市」の第3弾作品『ME!ME!ME!』の音楽をTeddy Loid と担当し、世界から大きな注目を集める。2015年には1st アルバム『DAOKO』でメジャーデビュー。2017年は映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の主題歌「打上花火」をDAOKO × 米津玄師で発表し、YouTubeでMVが3億回視聴される大ヒットを記録。2018年には3rdアルバム「私的旅行」をリリースし、第69回NHK紅白歌合戦に出場。昨年は写真と絵の個展 ”DAOKO × SHINKAI BABA 気づきEXHIBITION『Enlightening my world』”、自主企画ライブイベント「チャームポイント」、新たなバンド形式でのツアーを成功させ、今年は「二〇二〇 御伽の三都市 tour」を開催。小説や絵、自身のMVのコンテ・企画・衣装を手がけるなど多彩なクリエイティブ活動を展開している。

オフィシャルサイト
https://daoko.jp/

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