SNS&ストリーミング発・超新世代アーティスト特集  vol. 4

Review

ヨルシカ 物語、音楽、映像、小説などが絡み合いながら、その表現を発展させているふたり

ヨルシカ 物語、音楽、映像、小説などが絡み合いながら、その表現を発展させているふたり

ボーカロイド系プロデューサーとして名を馳せたn-buna(ナブナ)が女性シンガーのsuis(スイ)を迎えて立ち上げたバンド、ヨルシカ。豊かな物語性を下敷きにした世界観、ボカロ系/J-POP/J-ROCKを自由に行き来するような音楽性、そして、中性的なイメージの声質と幅広いサウンドに対応できる表現力を備えたsuisのボーカル。2017年に活動をスタートさせたヨルシカは、その多面的な魅力によって幅広いリスナーを獲得し続けている。

ボカロPとして「ウミユリ海底譚」「メリュー」「夜明けと蛍」などのヒット曲を持つn-buna。彼のソロライブにsuisがゲストボーカルとして参加したことをきっかけに結成されたヨルシカの最大の特徴は、n-bunaが自ら創作したストーリーをもとにすべての音楽が作られていることだ。昨年4月と8月にリリースされたアルバム『だから僕は音楽を辞めた』『エルマ』は2作で“対”を為すコンセプチュアルな作品。その中心にあるのは、19世紀末のロンドンで活躍した作家、オスカー・ワイルドが残した「人生は芸術を模倣する」という一節。音楽を残していなくなった青年・エイミー、彼の楽曲を真似することで音楽をはじめる少女・エルマを主人公に、“音楽を辞めた人間”“模倣から音楽を始めることの意味”を表わしたのが、『だから僕は音楽を辞めた』と『エルマ』の2作だったというわけだ。

……と、こんなふうに説明すると、「ストーリーを理解しないと楽しめない?」「物語ありきの音楽?」と思われるかもしれないが、そんなことはまったくなく、何の予備知識がなくても純粋にポップスとして楽しめるのもヨルシカの魅力。エモーショナルなバンドサウンドと繊細なメロディラインが共存する「心に穴が空いた」、切ない疾走感をたたえたギターサウンド、思春期のヒリヒリした感情をリアルに伝えるボーカルが印象的な「藍二乗」など、一つ一つの楽曲を取り出しても、そのクオリティの高さを実感してもらえるはずだ。SNSやストリーミングで「この曲、何だろう?」と惹き付けられ、ヨルシカという名前で検索しているうちに「ここには大きな物語が存在している」ということに気づき、その奥深い世界にハマっていく。この構図こそがヨルシカの求心力につながっているのだと思う。

アルバム『エルマ』が配信、ストリーミングを中心にスマッシュヒットを記録。さらに「第34回日本ゴールドディスク大賞」の“ベスト5ニュー・アーティスト【邦楽】”に選出されるなど確実に注目度を上げているヨルシカはは、今年に入ってから、新たなストーリーに基づいた作品を作り始めている。まずはNetflixで配信中のアニメーション映画『泣きたい私は猫をかぶる』の主題歌「花に亡霊」、挿入歌「夜行」、エンドソング「嘘月」を制作。主役キャラクターを志田未来、花江夏樹が演じていることでも話題の本作は、“猫の姿になって、大好きな男子に会いにいく”というストーリーを軸にした青春ムービー。切なさ、愛おしいさ、儚さを併せ持ったヨルシカの楽曲は、映画の世界観と物語を鮮やかに彩っている。この3曲によってヨルシカは、“物語×音楽”というスタイルをさらに深めたと言っていいだろう。映画の公式HPに寄せられた「今回使っていただいた挿入歌、主題歌達はヨルシカとしての作品性をそのままアウトプットしたものでもあり、この映画の創造力とぶつかり合って輝くような、独立した二作品が綺麗に調和を保っているような、そんな景色を作る音楽になっていればと、そう願っています。」というコメントからも、「花に亡霊」「夜行」「嘘月」に対する手ごたえの強さが伝わってくる。

そして7月29日には、待望の3rdアルバム『盗作』がリリースされる。「花に亡霊」「夜行」を含む本作のメインテーマは、「音楽を盗作する男」の破壊衝動。オリジナリティとは何か? 音楽を成立させるものは何か?といった創作に関する根源的な問いをちりばめながら、よりディープな表現が展開されている。これまでの作品と同様(ストーリーやコンセプトを抜きにしても)、現代的なポップミュージックとしての魅力も十分。ギターロック、エレクトロを軸にしたハイブリッドなサウンド、そして、楽曲の世界観と物語をリアルに描き出すsuisのボーカルは、本作によってさらなる高みに達している。

また初回生産限定盤【「盗作」書籍仕様】は、小説「盗作」を含めた書籍型の装丁。盗作家の男の独白と、彼が出会った少年との交流が描かれた小説は、n-bunaの手によるもの。 物語のなかで少年が弾く「月光ソナタ」を収録したカセットテープも付随されるなど、アルバム『盗作』の世界をよりリアルに体感できる。

物語、音楽、映像、小説などが絡み合いながら、その表現をさらに発展させているヨルシカ。作品に対する解釈や二次創作がSNS上に拡散することで、その音楽世界はどこまでも大きく広がっていくことになるだろう。

文 / 森朋之

アルバム「盗作」特設サイト


オフィシャルサイト
https://yorushika.com

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