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おかえり、東宝ミュージカル。生田絵梨花、木村達成らが根本宗子、三浦直之と新しいミュージカルを作る。生配信演劇プロジェクト「TOHO Musical LAB.」上演!

おかえり、東宝ミュージカル。生田絵梨花、木村達成らが根本宗子、三浦直之と新しいミュージカルを作る。生配信演劇プロジェクト「TOHO Musical LAB.」上演!

新型コロナウイルスの影響により公演中止が続いていた東宝の舞台がシアタークリエに帰ってきた。
7月11日(土)に上演された第1弾は、無観客のライブ配信にて劇場からステージパフォーマンスを届けるプロジェクト「TOHO Musical LAB.」。
コロナという季節を経験した劇作家が物語を描き、フレッシュなキャストが演じる、生まれたての新作ミュージカルだ。“LAB.”と名前がつくとおり、「30分程度の短編オリジナル・ミュージカル/今回が初演であること/内容・テーマは自由/スタッフ・俳優・ミュージシャンは感染予防対策に細心の注意を払い制作すること」を条件に製作され、“実験的”な作品がここに生み出された。
今回届けられるのは2本。作詞・脚本・演出を劇団「ロロ」主宰の三浦直之が担当し、作曲を夏目知幸が手がけ、木村達成、田村芽実、妃海 風、森本 華(ロロ)が出演する『CALL』。そして、脚本・演出には根本宗子、作詞・作曲/音楽監督を清 竜人が務め、生田絵梨花と海宝直人、ダンサーのrikoと届ける『Happily Ever After』。
彼らが紡ぐミュージカルが、どんな新しい景色を見せてくれるのか。7月11日(土)に配信された「TOHO Musical LAB.」の模様をレポートしよう。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 桜井隆幸


シアタークリエ復活の第1弾の作品に呼んでいただいて誇らしい

まず、『CALL』が配信上演される前に、作詞・脚本・演出を手がける三浦直之と、木村達成、田村芽実、妃海 風ら出演者のスペシャルインタビューが行われたので少しだけ触れておきたい。

本作の出演に際して木村から「率直に嬉しかったです。演劇をしにくい状況のなかでお芝居を届けられるのは光栄ですし、シアタークリエの復活第1弾の作品に呼んでいただいて誇らしいです」と今の想いが素直に語られた。

また、三浦は今回の企画について「僕の劇団の公演も延期が相次いだなかで、こんなに早く劇場で作品のクリエイションができるのは嬉しいです。今作は無観客で、“拍手”の音が劇場には響かないので、カーテンコールの時間をどうしたらつくることができるのかを考えて、『CALL』というタイトルをつけました」と明かした。

TOHO Musical LAB. CALL WHAT's IN? tokyoレポート

約2週間という短い稽古期間についても、妃海が「今回は、役者だけではなく、スタッフの皆さんとすごいスピード感でお稽古をして、普段よりも集中力が違いました」と感想を述べると、田村が「部活のような楽しさがあった」と続け、「(部活で例えるなら)顧問の先生が脚本・演出家の三浦さんだとしたら、部長は木村さん、妃海さんがみんなのことを盛り上げてくれるような立ち位置でいてくださって、とても楽しい稽古でした」と本番までの様子を伺わせた。

そして最後に木村が「初めての試みでとても緊張していますが、その緊張感を味わいながら、お客様は画面に向かって拍手していただけるとありがたいです」と締め括り、「いよいよミュージカル『CALL』が始まります」と開演の幕が上がった。

ミュージカルが持ちうる祝祭感

ミュージカルは、“私とあなた”、知らない者同士の心の交歓を、歌と芝居を通して生み出す奇跡だ。ただ、その奇跡は淡くて儚い。それでも、一瞬で消え去りそうな奇跡をつなげ続けていくことで、明日への希望を見つけることができる。人間の持つ根源的な悲しさや切なさを肯定しながら、なおも生きる喜びを見つけることに人生の価値がある。それを歌って踊って讃えよう。『CALL』には、ミュージカルが持ちうる祝祭感が漂っていた。

TOHO Musical LAB. CALL WHAT's IN? tokyoレポート

物語は、暗転した世界で鳥のさえずりが鳴り響くところから始まる。
シーナ(森本 華)が劇場の明かりのスイッチを点け、シアタークリエを明転させる。そこに現れたのは森の中の廃墟にある劇場だった。
舞台上にはバンドセットがあり、「テルマ&ルイーズ」がライブをしようとしている。三人姉妹がボーカルで、画面左のスタンドマイクに立つ髪の長い女性が次女のオドリバ(妃海 風)、中央にいる赤い帽子をかぶった女性が三女のミナモ(田村芽実)、右側のボーイッシュなスタイルの女性が長女のシーナ。

彼女たちは「聴衆のいない音楽会」を開き、“静寂”に向けて歌を歌っている。そこにヒダリメ(木村達成)が現れる。彼はその劇場が廃墟になる前からそこにいて、上演されてきた数々の舞台をこの目で目撃してきたのだという。
そして、カーテンコールで観客が奏でる拍手の音の素晴らしさを熱弁する。音楽を聴いて、ステージを観て、拍手をしてくれる聴衆がいるからこそ歌が成立するのだと。
そんな彼の存在が彼女たちの想いを次第に変化させていく──。

やはりミュージカルに欠かせないのは楽曲だろう。夏目知幸の変拍子をスパイスに三浦直之が書き下ろすハッピーな歌詞が乗った楽曲は、7人のバンドが生み出すグルーヴにウキウキ感が自然と湧いてくる。3人のボーカルのハーモニーも絶妙で、時折り混じるラップがアクセントともなって、楽しいポップな一曲に仕上がっている。そんな7月という季節にもぴったりのサマーソング「テルマ&ルイーズ」は、ラップパートのロングトーンのギターにもノックアウトさせられた。

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田村が演じたミナモは、この物語の語り部だ。大切なものが失われてしまった世界の哀愁を、取り戻したい本当の気持ちを、時に切なげに見せていく。木村は台詞の抑揚を抑え気味に、どこか現実味の薄い浮遊感のある存在としてヒダリメを浮き上がらせ、“劇場”という空間そのものが持つ奥行き=包容力をも纏わせていたように思う。そして、「テルマ&ルイーズ」を唯一の観客として見つめる美しいたたずまいと優しい瞳はとても印象的だった。

また、妃海はオドリバの天然でちょっと皮肉の効いた性格を可愛らしく演じ、森本はマイペースでお茶目なシーナをコミカルに体現して涼風を吹かせた。
彼ら4人は、バンドの生演奏と共に、殺伐としていた世界を優しい色に染め上げていく。

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ミュージカルという意匠を借りた、脚本・演出の三浦なりの“演劇愛”が炸裂した作品だったと思う。彼が見つめているのは、劇場に多くの観客が帰ってくる“演劇のこれから”なのだろう。歌を届ける誰か、聴いてくれる相手がいない世界で歌うこととは、どんなに寂しいことか。人前で歌を歌うこともままならない現状において、一瞬で失ってしまった当たり前のことを回復させるのは簡単なことではない。だけれど、たったひとりのためでもいいから、一曲だけでもいいから、歌を、芝居を届けたい。その先に未来はちゃんと続いていると伝えている。どんな形であれ、歌が芝居が舞台と観客を繋ぎ、心が繋がっていくことで、再び劇場は満員になる。そして、劇場はカーテンコール=多くの聴衆の拍手に満ち溢れる。だからこそ、劇場の明かりを灯し続けよう、と。

シアタークリエの舞台機構や座席も使用し、架空の劇場として見立てたダイナミックな演出が見どころだ。さらに、映像の特質を活かし、カメラを主観の視点として使ったり、クローズアップや画面の分割といった手法で、劇場では観ることのできない豊かな構図を作り出していた。物語で時折り訪れる“静寂”という寂しさを蹴り飛ばすほど底抜けに明るい登場人物たちがとても愛らしく感じる、ポップでカラフルな世界がファンタジックに描き出されていた。

TOHO Musical LAB. CALL WHAT's IN? tokyoレポート

“コロナ禍”がもたらしたものは、人と人との断絶や、ひとりぼっちで引きこもることの虚無感や諦念だった。それは今作にも通底している。世界各地で起こった暴力的なムーブメントも、原因は様々あれど、“私とあなた”の繋がりを回復しようとする行為だったのかもしれない。荒涼とした現実に抗うように、ポジティブなヴァイヴに満ちた素晴らしい作品を届けてくれた座組みに感謝したい。

今を生きている人たちが共感できる作品

『Happily Ever After』が配信される前にも、脚本・演出の根本宗子、出演者である生田絵梨花、海宝直人へのスペシャルインタビューが行われた。

生田が本作の出演について「私も出演する舞台が中止になってしまったり、舞台を観に行きたくてもいけない状態が続きました。お客様も残念な気持ちでいらっしゃるところに、今作のような実験的な試みの一員に参加させてもらえるお声がけをいただけて嬉しく思いました」と心持ちを明かした。

根本宗子の作品に参加した感想を、海宝は「根本さんの脚本は、それぞれのキャラクターが言葉にできないような想いをとても繊細に表現されていて、今を生きている人たちが共感できる作品になっていると思います」と述べた。

TOHO Musical LAB. Happily Ever After WHAT's IN? tokyoレポート

生田と海宝をキャスティングした理由を尋ねられた根本は「もともと、おふたりのファンで、いつかご一緒したいと思っていました。1ヵ月で作品を作るというなかなか無茶なオーダーをいただき(笑)、わがままではありましたが、脚本を書き始めた段階でキャストの部分にお二方の名前を書き入れて提出をし、その後オファーをしていただいて快諾していただきました。今作は当て書きのように、おふたりに言って欲しい台詞を書いていたので、それを実際に口にしていただけて、稽古をしていて楽しかったです」と振り返った。

そして最後に海宝から「明日への希望やポジティブな想いを受け取って作品を観終わってくれたら嬉しいです」、生田からの「今作では劇場の息づかいや歌声を生で体感できないぶん、イヤホンをつけて観ていただけると、より身近に舞台の世界に入っていただけると思います。『Happily Ever After』を最後まで楽しんでください」というメッセージで開幕へ。

“祈り”や“願い”が込められた優しい理想郷

タイトルの「Happily Ever After」は外国の童話によく出てくる言葉で、「いつまでも幸せに」や「めでたしめでたし」という“祈り”や“願い”を感じさせる言葉になるだろうか。童話の最後のフレーズに使われるワードのひとつで、物語が終わってしまう寂しさだけでなく、物語のストラグルやいろいろなフィーリングをくぐり抜けたあとの晴れやかな気持ちをも抱かせてくれる。今作はタイトルどおり、見終えたあとの余韻が温かく優しいものだった。

TOHO Musical LAB. Happily Ever After WHAT's IN? tokyoレポート

不安定なピアノの旋律が響き、薄明かりの部屋に、夫婦の激しい口論が聞こえてくる。そこへマリア(生田絵梨花)が現れ、椅子に座って日記を書き始める。どうやら夫婦はマリアの両親のようで、口論の原因はふたりの距離が近づきすぎてしまったせいで、逆に仲が悪くなってしまったのではないかと彼女は分析している(コロナの自粛期間中の我々の風景を彷彿させる)。彼女はいたたまれない思いを抱えながら、夢の世界へと入っていく。

彼女が眠りにつき、夢の中で歌を歌っていると、いつの間にか現れた「男」(海宝直人)と歌声が重なりデュエットとなる。夢の中に現れたその男は、マリアと同じように現実を嫌い、夢を好んでいる。そして、他人と関わることを恐れながら、自分を愛してくれる誰かを切実に求めている。
マリアはそんな男に自分を重ねながら、どこか惹かれながら、近づきすぎることを恐れ彼を避けようとするも、理解し合いたい気持ちが抑えられない。
ふたりの心と心が通じ合う奇跡の瞬間は訪れるのか。

TOHO Musical LAB. Happily Ever After WHAT's IN? tokyoレポート

劇中歌「Around The World」での生田と海宝のデュエットは筆舌にしがたかった。清 竜人の書き下ろした、リズミカルでバウンシーなピアノの旋律がゴスペルのような多幸感をもたらし、心を踊らせる。生田の表情豊かで楽曲に厚みを持たせるソプラノや、海宝の高く朗々とした歌声、中域から低域も支えるデュエットでの技量は見事としか言いようがない。たった1台のピアノでここまで聞き応えのある歌声を奏でられるふたりの実力は圧巻だ。

生田は淀みない台詞と歌との境もスムーズで、わずかな稽古期間だったにも関わらず、海宝と共にしっかりしたミュージカルとして成立させていて感動的であった。少女の心の機微を細やかな表情で見せていく堂々とした演技も素晴らしく、あどけなさの残る少女の気持ちの揺らぎまでもが手に取るようにわかった。キャリアを重ね、成長著しい生田絵梨花という女優の輝きも眩しいばかりに感じられた。

海宝は、人付き合いが苦手で、夢見ることに憧れる、ちょっとおどおどした男の子が心を開いていく様を、ありありと感じられるような繊細な芝居を見せてくれた。男の心もとなくもあるまっすぐさを透明感を持って演じている姿は美しかった。
子供と大人の間のフラジャイルな世界、やがて大人になっていく予感。今作のサブテーマであるだろう子供の成長主題をふたりともとても体現していたと思う。

また、マリアの行動にアクションを起こすrikoのダンスは、おそらくマリアの心象風景であり、物語全体に情感を持たす役割を全うしていた。マリアの夢、悲しさや怒りや喜び、現実や未来や過去、理想でもあり、彼女のすべてを表現する精霊として存在して見えた。rikoの腕や足をゆったりとたゆたいさせながら、キレのあるダンスは見応えがあった。

TOHO Musical LAB. Happily Ever After WHAT's IN? tokyoレポート

根本はふたりの男女とダンサー、1台のピアノで紡ぐミニマムなミュージカルを、“夢”という非現実で巨大な世界を巧みに利用することで、グランドミュージカルに引けを取らないビビッドな舞台に仕立てていた。映像と舞台の中間ということを意識し、キッチュなセットやカメラのスイッチングを素早く使って観客の目線を決して画面からそらさない。さらに“ソーシャルディスタンス”を物語の中に自然と溶け込ませ、マリアと男を隔てる距離を、初々しい恋人たちの愛くるしい距離感として象徴的に見せている。とても大胆な演出でいて繊細に、暴力と混沌に満ちた現実世界への“祈り”や“願い”を込めた優しい理想郷を屹立させていた。

「めでたしめでたし」を意味するタイトルのような安寧な世界は、現実には訪れないかもしれない。だが、そんな世界を生き抜くために他者を思いやる想像力の必要性を問われている。“アフターコロナ”の世界で作品を作るには、以前よりもハードワークが必要になってしまった。でも、作家のトマス・ピンチョン曰くの「Keep cool but care」の精神で乗り越えられる。クールに、それでいて気遣いを忘れずに。ヤケにならず、我慢強く、他人に優しく。そんなメッセージが込められている気がする。

本公演『CALL』と『Happily Ever After』は、7月13日(月)までアーカイブ配信されるので、見逃してしまった場合にはぜひ観劇して欲しい。

TOHO MUSICAL LAB.

2020年7月11日(土)19:00〜 生配信実施

<アーカイブ配信>
2020年7月11日(土)19:00〜7月13日(月)23:59まで
※視聴券購入は2020年7月13日(月)21:00まで

『CALL』
作詞・脚本・演出:三浦直之(ロロ)
作曲:夏目知幸
出演:木村達成、田村芽実、妃海 風、森本 華(ロロ)

『Happily Ever After』
脚本・演出:根本宗子
作詞・作曲/音楽監督:清 竜人
出演:生田絵梨花、海宝直人、riko

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@tohomusicallab)