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「これが僕たちの描きたい舞台」。北村 諒が“一人芝居”で俳優の本質を射抜く。演劇配信プロジェクト「ひとりしばい」第3弾

「これが僕たちの描きたい舞台」。北村 諒が“一人芝居”で俳優の本質を射抜く。演劇配信プロジェクト「ひとりしばい」第3弾

「ひとりしばい」第3弾には、北村 諒が出演。作・演出は西田大輔が担当している。
最大限「NO!!3密」を意識したうえで「キャスト・スタッフらに活動の場を作りたい!」「舞台に立つキャストの姿をお客様に観てもらいたい!」との想いから講談社とOffice ENDLESSが共同プロジェクトとして立ち上げた本作は、キャスト1名と演出家のタッグによる完全オリジナルストーリーの“一人芝居”で魅せる演劇。
池袋の新LIVEエンターテインメント複合施設ビル「Mixalive TOKYO」(ミクサライブ東京)の「Hall Mixa」からライブ配信される形で、第1弾の荒牧慶彦 出演「断 -Dan-」(作・演出:岡本貴也)、第2弾の小澤 廉 出演「好きな場所」(作・演出:川本 成)に続き、北村が全身全霊を打ち込んだ第3弾「ひとりしばい vol.3 北村 諒」が上演された。
その模様をレポートする。

取材・文 / 竹下力


“嘘”を超えた場所にある“真実”を見せてくれた

演劇とは“嘘”をつくものなのだろうか? なぜなら、舞台で起こっていることと、観客席での出来事は違うからだ。時間、空間、言葉、世界さえ異なる。そこには歴然とした“壁”がある。もし、俳優と観客の間に“壁”がなかったとしたら、演劇は成立しないのではないのか? そんな問いかけが今作にはある。その“壁”とは“嘘”にほかならないと伝えている。演劇とは“優しい嘘”に満ちたエンターテインメントだ。“嘘”だからこそ、それを楽しみ、現実に戻ることができる。“嘘”を超えた“真実”を見つけることも、笑うことも涙することも、明日への生きる糧にすることもできる。“嘘”が舞台の楽しみを無限大にする──。

「vol.3」で主人公を演じる北村 諒は、舞台・テレビ『弱虫ペダル』(東堂尽八 役)、舞台「おそ松さん on STAGE 」(一松 役)、舞台『刀剣乱舞』(薬研藤四郎 役)など人気シリーズに出演するほか、映画やドラマなどの映像作品への出演やアニメ等で声優を務めるなど、若手注目株の俳優だ。

そんな彼と今回タッグを組む西田大輔は、1996年に劇団「AND ENDLESS」を結成、以降のすべての作品の作・演出を手がけ、2015年には新たな創造の場を求め、「DisGOONie」を設立。そこで代表を務めながら舞台作品の創作・製作・興行を行なっている。脚本家、劇作家、演出家、俳優、映画監督と多岐にわたって活躍する演劇界のヒットメーカーである。

歓声が鳴り響き、劇場の座席に座るひとりの男(北村 諒)にスポットライトが当たる。彼はひとり語りを始め、「舞台と観客の間には“壁”があるのではないか?」と我々に問いかける。彼は「舞台とは? 演劇とは?」と禅問答を繰り返し、自らが演じることによって答えを見つけようとしているようだ。

そして彼は自らを「シャドウストライカー」、「セカンドトップ」、「ラインブレイカー」と名乗りながら、自分は「嘘をつく人間」だと舌を出してみせ、ステージ上に立ち、「ようこそ一人芝居に!」と深々とお辞儀をして開演の挨拶をする。まさに演劇についての演劇(メタシアター)であり、北村と西田の思い描く世界を表現した舞台の始まりである。

物語は、世界恐慌の影響を受けた1930年代のドイツを起点とし、総統・アドルフ・ヒトラー下のナチズムへの傾倒、第二次世界大戦、東と西の分断という歴史が、彼の生い立ちと共に時代を経て語られていく。幼少期に出会った「セカンドトップ」、大人になって巡り逢った「ラインブレイカー」、「シャボウスキー」という屋根裏部屋にいる友達が彼に寄り添うことで、ストーリーに厚みを持たせている。

特に足元に向けられたカメラ越しに「シャボウスキー」を呼ぶ姿は、まるで鏡に映る己の鏡像のようにも見える瞬間があった。そして、その友達の存在が、この物語の根幹と繋がっている。これは最後までこの物語を見て、皆さん腑に落ちて欲しい。

今作のタイトルは「ひとりシャドウストライカー、またはセカンドトップ、または、ラインブレイカー」。すべての役をひとりで演じる“一人芝居”という意味が存分に伝わってくる。シャドウストライカー、セカンドトップ、ラインブレイカーという単語は、すべてが物語の中心となるドイツの国技と称されるサッカー用語であり、メタファーと思しき記号的な人物たちを、北村は次々に演じ分けながら、寓話性の高い話を展開していく。

北村 諒は、激動の時代を、フラットに、時にコミカルに語っていく。感情の抑制がとれて、芝居から誠実さが伝わる見事な演技だった。激情的になる場面もあるけれど、あくまで飄々と、歴史の流れを紐解きながら、今作のテーマである演劇の本質にまで辿り着こうと、異なる性格の人物を緻密に演じていく。

劇中で「僕は嘘をつく」と何度も言うが、そこには俳優としての本質が垣間見えた気がした。俳優とは“嘘”をつくことで初めて“真実”を語ることができる。不条理に捉えられそうな存在、それが俳優の本分であり、舞台に通底していることを北村や西田は知っているのだろう。

演じる彼の憂いを帯びた肉体と、端正な顔がライティングによって際立つ。台詞も淀みなく、淡々と歴史を語る語り部のようでありながらも、哀しさや、優しさといった感情を肉体に纏っているところが彼の才能だと思う。

演出の西田大輔は、国と国、民族と民族の分断にドイツのベルリンの壁を象徴として扱うが、壁の存在に決して“YES”“NO”とは言わずに、あくまで観客が答えを導き出すよう演出をしている。そこから、現代の世界の分断や日本社会の様々なシチュエーションにも敷衍(ふえん)させ、観客がこの舞台を観て抱いたどんな答えも許される仕掛けを施している。答えは観客の数だけある。

もちろん、ドイツの悲劇には目をつぶることはできないけれど、それを歴史という観点から捉え、お互い認め合い、肯定していこうという、前向きで力強い意思を感じることができた。そうして、西田自身もベルリンの壁を“演劇”に見立てながら、彼なりの答えを探っていくのだろう。

彼の特徴的なダイナミックな手腕はあえて抑え、配信ということを意識し、色とりどりのスポットライトを使って、ホリゾントをカラフルに染めたり、影絵で魅せるシンプルでスタティックな演出。風船やお手玉や傘など、印象的な小道具と、カメラのスイッチングを巧みに操った抽象的で叙情の溢れる演出も素晴らしく、美しい作品だった。

北村は終演後の挨拶で「このお芝居を通して、お客様それぞれに違う解釈をしていただけたら幸いです」と語っていた。これだけの素晴らしい舞台で、観客も自らの答えを心に秘めたはず。北村も西田も、“演劇”に対して何かしらの答えを見つけたのではないか。

今作を通して北村 諒は、俳優として新たに成長し、観客に見たことのない景色、“嘘”を超えた場所にある“真実”を見せてくれた。北村の真実味に満ちた芝居と美しい西田の演出が魅せたハーモニーがこの舞台を美しく彩ったといえる。彼らのこれからがますます楽しみでならない。今シリーズの中で最も演劇色の強い舞台で、優秀の美を飾るにふさわしい傑作だった。

作品の中で全部を語れた

「ひとりしばい vol.3 北村 諒」が配信されたのち、北村 諒と西田大輔が、楽屋裏で観客に向けて簡単なトークをしたので少しだけ触れておきたい。

北村が楽屋に帰ってくるや、開口一番、西田は「特に言うことはありません! 素晴らしかったです。今作や彼が僕の意思を代弁してくれたような気がしました」とねぎらうと、北村は「西田さんやほかの役者の想いを背負って演じることができました」と率直な気持ちを述べた。

最後に北村は「作品の中で全部を語れたと思います。“一人芝居”という貴重な経験と、西田さんの脚本・演出という贅沢な機会をいただいて感謝しています。これからも、どこかで皆様と出会えるように頑張りたいと思います」と締め括った。

本公演「ひとりしばい vol.3 北村 諒」は、7月5日(日)〜7月12日(日)までアーカイブ配信されるので、見逃してしまった場合にはぜひ観劇して欲しい。

舞台「ひとりしばい」

「ひとりしばい vol.1 荒牧慶彦」

2020年6月27日(土)17:00〜 生配信実施
<アーカイブ配信>2020年6月29日(月)12:00〜7月6日(月)23:59
演出:岡本貴也
出演:荒牧慶彦

「ひとりしばい vol.2 小澤 廉」

2020年6月28日(日)17:00〜 生配信実施
<アーカイブ配信>2020年6月29日(月)12:00〜7月6日(月)23:59
演出:川本 成
出演:小澤 廉

「ひとりしばい vol.3 北村 諒」

2020年7月4日(土)17:00〜 生配信実施
<アーカイブ配信>2020年7月5日(日)12:00〜7月12日(日)23:59
演出:西田大輔
出演:北村 諒

企画・制作:講談社/Office ENDLESS
主催:舞台「ひとりしばい」製作委員会

公演オフィシャルサイト
公演オフィシャルTwitter(@hitoshiba2020)

©舞台「ひとりしばい」製作委員会