発掘!インディーゲーム総研  vol. 8

Review

あなたの驚きは希望に変わる『アンリアルライフ』記憶を辿った少女の旅で知る衝撃の真実

あなたの驚きは希望に変わる『アンリアルライフ』記憶を辿った少女の旅で知る衝撃の真実

一度見たら忘れられなくなる、透明感のあるビジュアル。空や水の深い青色など美しいピクセルアートが印象的なアドベンチャーゲーム『アンリアルライフ』は、インディーゲーム製作者たちが発足させたインディーゲームレーベル“ヨカゼ”の初リリースタイトルとなります。個人ゲーム開発者であり、ピクセルアーティストでもある“hako生活”氏がグラフィック、シナリオ、プログラミング、サウンドなどのほとんどをクリエイトし、約4年をかけて完成させたそうですから驚きです。
実は、今までにもTwitterでhako生活氏(hako 生活 @clrfnd)の作品をいくつか見たことがありました。淡々とした風景描写のなかに豊かな情緒を感じさせる作風は、まさにこの『アンリアルライフ』の世界とも繋がる美学を感じさせます。まずはトレイラー映像を見てから、本作の幻想世界へ足を踏み入れてみましょう。

文 / 内藤ハサミ


キオクを辿り、幻想的な夜の街へ

夜の道路に倒れていた白衣の少女、ハル。彼女は記憶喪失で、自分のこともなぜここに倒れていたのかも覚えていません。ただひとつ、ハルのわずかな記憶のなかにいる“先生”のことを除いては。ハルは自分を知っているはずの“先生”を見つけるため、目を覚ました道路に建っている不思議な信号機“自称・高性能AI信号機195”と一緒に旅へ出かける……というのが、物語の始まりです。夜の町に建つ無機質の最たるものともいえる信号機がしゃべるというのは非常に面白く、興味をそそります。しかもこの195は好奇心旺盛で、少しそそっかしい性格。旅を進めていくにつれてどんどん親近感が湧き、好きになってしまう相棒です。

アンリアルライフ WHAT's IN? tokyoレビュー

▲なにも覚えていないハル。夜の静けさが不安を増幅させます

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▲195は信号機なので、もちろん歩いて旅をすることはできません。元の場所に建ったままハルの脳に直接干渉し、ハルの視界を共有して同じ景色を見るのです

ハルには触ったものの“キオク”を読みとる力があり、このサイコメトリー能力を使って数々の謎や仕掛けを解いていきます。たとえばフェンスの近くにあった青いクツに触れると、それが持つ過去のキオクが映し出されます。映っているのは、おそらくハルの探している“先生”の姿です。クツのキオクにある風景だけが再生されている状態で、なぜ“先生”が以前にここへ来たのかという理由まではわかりません。ほかにもたくさんのキオクを読み取り、そこから得た謎解きのピースを組み合わせてハルは徐々に真実へ近づいていくのです。

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▲夜の町にぽつんと青いクツ。パンプスでしょうか。謎の女性の“先生”が佇んでいます。この時点で詳細はわからないものの、不穏さを感じずにはいられません

画面内のものにインタラクトして情報を得ながらストーリーを進めていくという本作のシステムは、アドベンチャーゲームとしては非常にスタンダードなスタイルです。記憶喪失のハルができることは、サイコメトリーの能力を使うことだけという、本作の物語にもマッチしています。キオクを見る能力は、ゲーム中いくつか登場するギミックの解除にも役立ちます。いずれも操作はキーとなるオブジェクトに触れること、持っているアイテムを使うことだけです。謎解きの難度はそこまで高くはありません。もし迷ったときは、メニューから選べる“わたしの考え”にヒントが隠れていることが多いので参考にできます。この“わたしの考え”は、プレイを進めて新たな経験をするごとに増えていきます。この機能のほか会話ログや今までに触ったもののキオクについても195が保存してくれていて、同じくメニューから閲覧可能です。記憶喪失が影響しているのかハルは記憶を保持することが難しいため、こうして195がサポートしてくれているのです。このように物語の設定とシステムがうまくリンクしているのでより主人公に近いスタンスでゲームを体験でき、「いかにもゲーム的な操作だ」と我に返ることはありませんでした。きっとゲームへの没入感にはかなりこだわって作られているのだと感じます。

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▲メニュー画面を開き各項目を選択するとき、ハルを写すカメラアングルがぐるぐる回転します。素敵な演出なのでぜひ注目してほしいです

フォントがスムーズとドットの2種類から選べたり、視覚サポートも設定できたり、コントローラーでも画面タッチでも操作可能だったりとプレイ環境面でも細やかな配慮が行き届いています。筆者はスッキリしたスムーズのフォントを選びましたが、ドットのフォントもピクセルアートの世界にハマって素敵です。貫かれたわかりやすさと美意識は、上のスクリーンショットのようなメニュー画面の構図や所持アイテム画面にも表れています。そう、本作のアイテム画面はちょっとスゴイんです。手に入れたアイテムはハルの持っている革のカバンに収まり、中身がそのまま表示されます。ひと目で何が入っているかが一目瞭然。どんなものが入っているかわかりやすいということは、そのアイテムの形状や用途から得られる謎解きの直感も引き出しやすいということ。これもわかりやすさと美しさがマッチしたシステムではないでしょうか。

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▲アイテムを得ると、どんどんこのカバンに入ります。キーリングがついていて、使いやすそう……

なによりカバンにきっちりと収められた旅の荷物って、とてもワクワクしませんか? 筆者が幼いころ小さいリュックサックにお菓子や虫眼鏡を詰め込んで、近所の探検に出かけたときの高揚感を思い出しました。カバンだけにとどまらず、本作のグラフィックはこんなふうに練られた工夫がなされており見どころがいっぱいです。ぜひ、隅々までゆっくり味わい尽くしたいですね。

真実を求めた先にあるものは……

“先生”を探して夜の町を歩くハル。直接の手掛かりは見当たらないものの、意味ありげなカラスを追いかけたり、謎の扉を開いたりするうちに旅の宿“くじら”にたどり着きます。“先生”の手掛かりが少しずつ集まっていくなか、断片的に思い出される記憶……ハルの頭のなかにたびたび去来する夢とも現実ともつかぬ映像は、あまり幸せそうなものとは言えません。

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▲ドキッとする場面。喋っているのは“先生”でしょうか。それとも……

徐々に思い出す辛い記憶に苦しみ、何度も頭を抱えて座り込みながらもハルは195と協力して真実を求めて進みます。そんなハルには、何人もの協力者たちが現れるのです。マリモのシェフやネズミのメカニック、その他多くの“アンリアル”な住人たち。彼らはこの世界での異質な存在であるハルを受け入れ、力を貸してくれます。

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▲マリモのマリーさん。旅の宿“くじら”のカフェでシェフをしています。マリモがシェフ……

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▲どういう方法かは謎ですが、こんな美味しそうな料理を作ってくれます

登場キャラクターたちは皆それぞれ個性的で、とてもチャーミングです。彼らとの触れ合いもまた、本作における大きな楽しみでしょう。本作はあまり迷わずに謎解きをこなせれば数時間でクリア可能ですが、急いで攻略を目指すよりも彼らのセリフをじっくり味わいながらいろいろと見て回るほうが、遊びかたとして充実するのではないでしょうか。一度訪れたところも物語が進んでから再訪してみると、そこにいるキャラクターのセリフが変わって興味深い話が聞けたりもしますしね。攻略済みエリアを歩き回っていたら、無理をしてハルを助けてくれたキャラクターを見ることができました。ずっとその後が気になっていたので、現在の姿を確認して感激したこともありました。美しいグラフィックを再びじっくりと楽しむのもいいし、気の向くままの放浪もおすすめです。

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▲謎の巨大な設備に大きいタンクを背負ったカメが。シュールです

個人的趣味もあり、本作の隠れた見どころとして“鉄道の描写”が素晴らしいことを挙げます。実際には存在しないデザインですが、なにげなく描かれたディテールがリアリティを感じさせ、その車体が置かれている環境が不思議な世界の実感を増幅させるという大事な役割を果たしています。おそらく作者のhako生活氏は電車が……というか、電車のある景色が好きなのではないでしょうか。勝手な想像ですが、愛を感じるグラフィックです。

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▲これは水面に浮かぶ電車。やわらかな逆光で際立つシルエットの美しさに、思わずため息が……

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▲暖色の照明が可愛らしいレトロな内部と、窓から見えるサイバーな景色の対比がちょっと怖い

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▲こちらは最も現代的なデザインの車体。アルミ合金と思われる車体の冷たさを月明かりが照らします。なんという趣深さ!

鉄道のSSばかり3枚も貼ってしまいましたが、どれもこれも素敵で全部見てほしかったんです……。光と影に生まれるドラマの巧みな演出は、hako生活氏の得意とするところかと思います。プレイの際には、ぜひ注目してみてください。

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▲世界一魅力的な信号機。ハルはずっと195と支えあって旅をしてきました

数々の協力者を得て、終わりに近づくハルの旅。“先生”には会えたのか? ハルがときどき見る記憶の断片の真実とは? そして、この世界はいったい……? 終盤に物語の展開は加速し、プレイヤーが真実を知るときには大きな驚きを伴うことでしょう。エンディングは4種類あり、すべてを知ることができるのはひとつだけ。初めは気弱で195に守られてばかりだったハルは、“先生”と自分のことを知るうちに成長していき、やがて未来に向けた大きな決断をします。ハルと195が旅した結末は切なくも優しさがあり、しっかりとした希望を感じられるものでした。ぜひ実際のプレイで見届け、ハルの旅の行方を確認してみてくださいね。
モノが持つキオクを読み取りながら、自身のキオクと“先生”を探す旅。ふんわりと幻想的な世界設定ながらも、本作が持つテーマは現実に生きる者たちへの愛に溢れたものでした。月の明るい夜にNintendo Switch™を持って窓辺に座り、じっくりと取り組みたい一作です。

フォトギャラリー

■タイトル:アンリアルライフ
■発売元:room6
■対応ハード:Nintendo Switch™
■ジャンル:アドベンチャー
■対象年齢:12歳以上
■発売日:発売中(2020年5月14日)
■価格:ダウンロード版 2,400円(税込)


『アンリアルライフ』オフィシャルサイト

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