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「よくぞ全話放送できたなと…」TVアニメ『ドロヘドロ』総括インタビュー 3DCG×作画の融合、混沌から生まれた傑作を振り返る

「よくぞ全話放送できたなと…」TVアニメ『ドロヘドロ』総括インタビュー 3DCG×作画の融合、混沌から生まれた傑作を振り返る

熱狂的ファンを数多く有しながらも、その衝撃的な内容ゆえに「映像化は不可能」と言われ続けてきた『ドロヘドロ』。原作・林田球による18年間の連載完結から約2年を経た本作が、とうとう満を持してのTVアニメ化。2020年1月~3月に全12話が放送され、好評のうちにシリーズを終えた。

「おいでませ、混沌。」のキャッチコピーのもと、監督に林祐一郎、世界観設計・美術監督に木村真二、アニメーション制作はMAPPAという布陣で臨んだTVアニメ『ドロヘドロ』。3DCG×作画のハイブリッドによって描かれた本作は、原作の持つ混沌とした世界観を余すことなく表現し尽くしたうえに、キャラクター個々が躍動している呼吸を感じ取れるようなリアリティを含んでいた。

多くのファンの期待に応える形となったTVアニメシリーズを終え、今回はBlu-ray BOX(上巻・下巻)発売というタイミングで、本作プロデューサーのひとりである東宝の齋藤雅哉氏にインタビュー。Blu-ray BOX 下巻に収録された新作アニメ「魔のおまけ」の話題とともに、作品づくりの裏側を振り返ってもらった。

取材・文 / とみたまい 構成 / 柳 雄大


『ドロヘドロ』のアニメ化はなぜ「今」だったのか

TVアニメ『ドロヘドロ』、全12話の放送を終えた際の率直な感想をお聞かせください。

齋藤プロデューサー まず一番に「安心した」というのが率直な思いですね。『ドロヘドロ』のアニメ化について、僕が最初に企画書を書いたのは4年くらい前でしたが、そこからは色んなハードルがありまして……。企画が成立するまでにも1年ぐらいかかりましたし、企画が通ってからもクリアしないといけないことが多々あったので、それらを振り返りながら「よく無事に放送することができたな」と(笑)。

視聴者からの反響も大きかったアニメ化でしたが、どんなところが支持されたと感じましたか?

齋藤 世界観とキャラクターについて、お客様から感想を多くいただきました。そもそも『ドロヘドロ』のアニメ化を企画するにあたって、最も作品の魅力となるだろうと思っていたのが「唯一無二の世界観」と「キャラクター」でした。原作は2000年から18年間連載されていましたが、『ドロヘドロ』に似た作品って、いまだかつて見たことがないと思うんです。

加えて、個性に溢れたキャラクターたちも『ドロヘドロ』の魅力です。グロテスクな表現やバイオレンスな表現もありますが、キャラクターたちがどこか愛らしく見えてくる。そういった原作の魅力をしっかりとアニメでもお伝えできたのかなと、手応えを感じています。原作の魅力を理解したうえで、アニメに置き換えることができたのではないでしょうか。

もともと、齋藤さんのなかで「『ドロヘドロ』をアニメ化したい」という思いがあったのでしょうか?

齋藤 ありました。もともと、個人的には2000年に『ドロヘドロ』の連載が始まった当初から「面白いなあ」と思って読んでいたんですね。『月刊IKKI』は尖っていてめちゃくちゃ面白い作品がたくさん連載されている素晴らしい漫画雑誌で、当時から大好きだったんですよ。

それからしばらく経って、2012年に前職のレコード会社から東宝に転職しまして、プロデューサーとして作品を企画する立場に就いたことをきっかけに、あらためて『ドロヘドロ』を読み直してみたら、やっぱりめちゃくちゃ面白かった。とはいえ、表現なども含めて繊細な企画になると思ったので、出すタイミングを間違えると一瞬にして会社からNGを食らいそうだなという予感もありました(笑)。

企画を出すタイミングを見計らっていた?

齋藤 そうですね。企画を通すロジックを見計らっていたなかで、「ここだ!」と思うタイミングが2016年ぐらいに訪れました。というのも、国内のパッケージ市場だけを見込むのではなく、海外での収入という視点も重要になってきた時期だったんです。その点、『ドロヘドロ』は海外人気が非常に高い作品でもあるというのはわかっていたので……まさに、原作の「唯一無二の世界観」と「キャラクターの魅力」をしっかりとアニメで表現できれば、海外でもウケる作品になるんじゃないかと思いました。

あとはもちろん、MAPPAさんに企画にのっていただけたことも非常に大きかったので、「これはもう、是が非でも通そう!」と思いましたね。クリエイティブの保証ができたので、自信を持って世に送り出せる体制になりました。

“3DCG&作画のハイブリッド”が果たした効果

監督に林祐一郎さんを抜擢された経緯について教えてください。

齋藤 最初にMAPPAの大塚(学)社長に「『ドロヘドロ』のアニメ化をやりたいんです」とお話ししたところ、「じつは僕も、以前から『ドロヘドロ』をやりたいと思っていたんですよ。ぜひやらせてください!」と、その日のうちに決まったんですね。その際に、「『ドロヘドロ』をやるとしたら、林祐一郎監督を推したいと思っている」と大塚社長から提案いただきました。

監督として作品をご一緒したことはなかったけれど、林さんのお仕事ぶりは存じていたんです。僕は以前『PSYCHO-PASS サイコパス』のプロデューサーもやらせていただいていたのですが、劇場版『PSYCHO-PASS サイコパス』のコンテを林さんが担当されていて……そのときの経験から、「『ドロヘドロ』に合うだろうな」と思っていました。

「『ドロヘドロ』に合うだろうな」と思った理由は?

齋藤 劇場版『PSYCHO-PASS サイコパス』もそうですが、外画的な見せ方をしていたり、レイアウトも含めとてもスタイリッシュでカッコいい画作りをされるので、『ドロヘドロ』に合うだろうなと。かつ、キャラクターに寄り添った表現もできる方ですし、劇場版『GARO DIVINE FLAME』ではCGを使った表現をされていて、とてもカッコよく見えたんです。そういった意味でも『ドロヘドロ』に向いているなと思いました。

3DCGキャラクターベースのアニメーションとなった本作ですが、3DCGと作画がシームレスに繋がっているため、3DCGっぽさを感じさせない仕上がりになっていて驚きました。なぜこういった作りになったのでしょうか?

齋藤 林田球先生が大事にされている“情報量と線の密度”を表現するには、2Dでは難しいだろうという判断からです。衣装も細かいですし、カイマンの顔のウロコも線が多く「再現する難易度が非常に高いですね」とMAPPAさんとも話していたなかで……画面設計を担当された淡輪(雄介)さんから「3Dでやるのはどうだろう?」と提案があったんです。そこから3DCG&作画のハイブリッドという方向に進んでいきました。

キャラクターの顔のアップは手描きで線を増やして、2Dのルックに近い感じで作っていたので、僕も「これは2Dかな? 3Dかな?」とわからなくなるときがあるぐらいでしたね(笑)。初めに「3DCGでキャラクターを作ります」と聞いたら林田先生も混乱してしまうかもと思ったので、最初は先生に内緒で準備を進めていて(笑)、できたものでプレゼンしました。「素晴らしい出来です」と太鼓判をいただけたので、ホッとしましたね。

3DCG×作画という作りにすることで、特に効果的と感じた点は?

齋藤 あくまで僕個人の理解になりますが……キャラクターの情報量を落とさずに、高いクオリティのままキープできたと思っています。『ドロヘドロ』は18年間連載されていたので、やっぱり初期と後期では絵柄やキャラクターの体型が違ったりしているんですね。なので、林田先生に「アニメ化する際に、どこに合わせていけばいいでしょうか?」とお伺いしたところ、「後半のほうを参考にしてください」とのことだったので……そうなると、結構がっちりとした体型になるんです。

そうして体型が決まって画を作っていくうえで、CGだと作画の揺れもなく、ある程度固定することができるので、そこに世界観設計・美術監督を担当されている木村真二さんの背景が活きてくる。

たしかに、背景描写も本当に緻密でした。

齋藤 そうなんです。高い密度ですし、色も非常にビビッドで、サイケデリックに近いような世界観でしたよね。そういった意味ではとても混沌とした世界観になっていますが、キャラクターのつくりとしてはCGでフォーマット化されている。情報量は高いけれど、見やすいキャラクターになっていると思うので、背景とキャラクターを同じ画面に入れた際のバランスが絶妙だったなあと思います。3DCGキャラクターベースのアニメーションにしたことで、良い意味でキャラクターの「エグみ」がなくなったのではないでしょうか。

背景のような密度でキャラクターが描かれていたら、情報量が多すぎたかもしれませんね。

齋藤 そうですね。ただ、キャラクター自体の情報量は落としていないんです。そもそも、キャラクターのルックが見たこともないデザインなので、それだけでも存在感がありありですから(笑)。それをすべて手描きにして彩色まですると、ともすると混沌が過ぎた感じになると思うんです(笑)。そこを3DCGで整えることで、今まで見たことがないような画面ながらも、決して見にくくないものに仕上がったんじゃないかなと思います。

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