横川良明の演劇コラム「本日は休演日」  vol. 30

Column

松重 豊、鈴木京香、林 遣都らが演じる家族の崩壊と再生

松重 豊、鈴木京香、林 遣都らが演じる家族の崩壊と再生
今月の1本:M&Oplaysプロデュース「家族の基礎~大道寺家の人々〜」

少しずつ再開に向けた動きがありつつも、依然明るい未来が見えにくい演劇界。演劇に携わる人たちを支えていく方法のひとつが、物販の購入です。中でもDVDやBlu-rayは、見逃した1本やもう一度観たい1本を楽しめるという点で一石二鳥。そこで現在、DVD&BRが発売中の中からオススメの1本をご紹介します。

今回取り上げるのは、M&Oplaysプロデュース「家族の基礎~大道寺家の人々〜」。作・演出に倉持 裕。出演者に松重 豊、鈴木京香、夏帆、林 遣都らを迎えて描いた、ある一家の流転の日々。風変わりな一家による家族の崩壊と再生について語ります。

人生も家族も、望み通りになんていきっこない

「毒親」や「ネグレクト」という言葉がある。家族の温もりを知らずに育った子どもは、どのようにして自分の家庭を築いていくのだろうか。映画『家族ゲーム』のように、横一列に並んで食事をとる大道寺家の姿を見ながら、そんな問いが浮かんだ。

家族を捨てた父親と、まるで家に寄りつかない母親。10歳にして両親から見放され、自立の道を歩まざるを得なくなった主人公・大道寺尚親(松重 豊)。孤独な尚親の心の拠り所は、五郎丸(六角精児)率いる大衆劇団「五郎丸一座」。広い自宅を劇場に改装し、「五郎丸一座」に貸すことで、尚親は五郎丸とその一座に疑似家族のような愛着を抱いていた。

やがて時は流れ、弁護士になった尚親は、駆け出しの女優・須真(鈴木京香)と恋におち、一男一女をもうける。長男の益人(林 遣都)は須真の熱心な教育の結果、勉学に秀で、芸術を愛するようになる一方、長女の紅子(夏帆)は兄ほどの愛情に恵まれなかったという劣等感からか口が悪く気性も荒い。そんな4人家族を軸に、個性溢れる周辺の人物をまじえながら、浮き沈みの激しすぎる家族の数十年が、倉持 裕らしいコミカルなやりとりとともに描かれていく。

この作品の面白いところは、まるで望み通りにいかない人生を、戸惑いながらも飄々と生きていく登場人物たちの姿だ。冒頭、益人は尚親に対して「どうしてお父さんは僕の望み通りにしてくれないんだ」と怒る。そして、そんな息子に尚親はけろりとした様子で「たとえ肉親だろうとそうそう自分の望み通りにはいかないさ」と返す。この応酬に、人生と家族がつまっている。

人生も家族も望み通りになんていかない。須真は女優としての成功を夢見ながら、出産と子育てによりスポットライトに立つチャンスから遠ざかり、釈然としないモヤモヤを抱えながら家庭におさまる日々。芸術家志望の益人は商業主義を疎みながらも、アートとしてつくったつもりの亀の甲羅模様の傘が爆発的なヒットを呼び、皮肉にも億万長者に。家賃収入でのんきに生活する地主の両親を嫌って家を飛び出したはずなのに、須真は益人の成功により今度は自分が不労所得で有閑な日々を送ることとなる。はたから見れば幸福かもしれない。だけど、それぞれが「私の望んだ幸福とはこれだったのだろうか……」と居心地の悪い想いにムズムズしている。

そのジレンマのシンボルが、尚親だ。愛情に乏しい生い立ちの尚親は、家族の幸せだけを願っているはずなのに、次から次へと事件に巻き込まれる。かつての心の拠り所だった劇場を復活させ、「俺はこの日のために生きていたような気がするよ」と喜びをかみしめたのも束の間、予想もしなかった展開によって人生最高の日は人生最悪の日へと暗転。礎だった家族さえも散り散りになる。いちばん望んだものは、いちばん手に入らない。それが、人生だ。

それでも生きてさえいれば、時はめぐる。すべてを失って、それでも残ったもの。須真が最後に尚親にくれたあの言葉は、望み通りにいかない人生を生きる尚親がいちばん望んだものだったのかもしれない。このシニカルで、ちょっとふわふわした手ざわりの本作を、最後にいとしく思えるのは、七転び八起きの人生の果てに尚親が辿り着いたいびつな家族の食卓にちゃんと愛と希望が感じられたからだ。

松重 豊の軽さ、鈴木京香の真面目さ、林 遣都のツッコミのうまさが光る

育児放棄から一家離散まで、まるで昼ドラのごとく次々と不幸な出来事に見舞われる尚親とその家族。だけど、一同には不思議なくらい悲壮感はない。それはきっと作・演出の倉持 裕らしいユーモアのおかげだろう。大きな事件が起きたと思いきや、次のシーンではもうあっけらかんとそれを受け入れている。どこか諧謔的ともいえる彼らの人生に対する態度が、奇妙な味わいとなって作品を包み込んでいくのだ。

演じる俳優たちもそんな倉持の戯曲の良さを心得たように、力みない演技で観客を笑わせる。その筆頭が、主人公である尚親 役の松重 豊だ。尚親の人生は、波乱万丈。だけど、観ているこちらにはそれが悲劇ではなく喜劇に映るのは、松重のとぼけた空気の賜物。クラウド名刺管理サービス「Sansan」のCMで見せるような滑稽さで、さじ加減を間違えたらヘビーになりかねない尚親の人生に軽さをもたらしている。

鈴木京香もまた軽やかだ。連続テレビ小説『君の名は』でヒロインを演じて以降、正統派女優の道を歩んできた鈴木だが、ラブストーリーや大作ドラマだけでなく、こうしたコメディでも輝くのは、これまでのバイオグラフィーが証明済み。清楚な鈴木京香がこんなにもコメディが似合うのは、おそらくその真面目さと上品さがいいおかしみを生むからだろう。コメディだからといって、あえて三の線に走るわけではなく、しごく真面目に役を奮闘する。それが、曲者揃いの喜劇役者の中で逆に得がたい持ち味となって、観客を楽しませてくれるのだ。

松重と鈴木のやりとりで言えば、序盤のレストランのシーンは秀逸。切れ目のない会話の気持ち良さ。須真の演技を称える語彙が「声が通っていた」しかない会話の面白さ。尚親の人の良さと、須真の可憐さがよく出ていて、ロマンティックでありながらクスクスと笑える印象的な場面となっている。

そして、そんなふたりの間から生まれた益人 役の林 遣都と紅子 役の夏帆もよくそれぞれのキャラクターをつかんでいる。林 遣都は、ここ数年の十八番というべき、プライドの高いヘタレ役。林のコメディ演技で光るのは、ツッコミのうまさだ。間髪入れずに鋭くツッコむ。その間のとり方と緩急のつけ方は、林 遣都の武器のひとつ。また、甲羅傘のヒット以降、アーティストとして自信を持ちながらも紅子にはコテンパンにやられる小物感と、由弦(黒川芽以)を前にするとデレデレしてしまう童貞感も、林らしい。特に眠ってしまった由弦とふたりきりになってドギマギするシーンは、可愛らしさとおバカさが溢れていて、最高にキュートだ(このあと、とんでもない悲劇が起きるのだけれど)。

夏帆も四方八方に喧嘩を売るような毒舌娘をパワフルに演じている。林と夏帆が演じる兄妹は、この家族の物語のもうひとつの軸。顔を合わせればギャーギャーといがみ合う益人と紅子。この兄妹がどういった雪解けを迎えるか。若手ふたりの幾度に渡る激しい言い争いと、お互いの存在を認め合えたあとの柔らかい表情にも注目してほしい。

良質なストレートプレイをつくり続けるM&Oplays

本作をプロデュースするM&Oplaysは、年2〜4本のペースで公演を打ち続ける舞台製作会社。近年は倉持 裕をはじめ、岩松 了、根本宗子など力のある作家とタッグを組んで、良質な作品を世に送り出している。

特筆すべきは、見やすさだろう。M&Oplaysでは『二度目の夏』(19年/作・演出:岩松 了)の東出昌大&仲野太賀、『ロミオとジュリエット』(18年/演出:宮藤官九郎)の森川 葵、『流山ブルーバード』(17-18年/作・演出:赤堀雅秋)の賀来賢人のように、映像作品で知名度を広げる若い俳優たちを積極的にキャスティングしている。

これまで演劇に馴染みのない観客が初めて劇場に足を運ぶ動機の多くが、好きな俳優の演技を生で観たいから。ただ舞台には、古典劇や翻訳劇などビギナーにとってはやや理解するのが難しい作品も多く、「好きな俳優を観られたのはうれしいけど、お話はよくわからなかった」と挫折してしまう人も少なくない。

そんな中、M&Oplaysの作品は演劇に馴染みのない観客も、日々劇場に足繁く通う観客も、どちらも取り込む懐の広さが特徴のひとつ。M&Oplaysがプロデュースなら安心していろんな人にお勧めできる信頼感がある。現在は、本作のほか、M&Oplaysの代表作である『鎌塚氏』シリーズ(作・演出:倉持 裕)などがDVD化されている。すっかり劇場の空気が恋しくなった人は、ぜひ支援がてらM&Oplaysの作品を手に取ってみてほしい。きっと映像でも損なわれることのない観劇体験ができるはずだ。

M&Oplaysプロデュース「家族の基礎~大道寺家の人々」

東京公演:2016年9月6日(火)〜9月28日(水)Bunkamuraシアターコクーン
愛知公演:2016年10月1日(土)〜10月2日(日)刈谷市総合文化センター 大ホール
大阪公演:2016年10月8日(土)〜10月10日(月・祝)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
静岡公演:2016年10月16日(日)浜北文化センター 大ホール

作・演出:倉持 裕

出演:
松重 豊 鈴木京香
夏帆 林 遣都 堀井新太 黒川芽以 山本圭祐 坪倉由幸 眞島秀和 六角精児
長田奈麻 児玉貴志 粕谷吉洋 水間ロン 山口航太 近藤フク

主催・製作:M&Oplays

DVD
M&Oplaysプロデュース「家族の基礎~大道寺家の人々」

価格:¥4,000(税込)
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M&Oplaysプロデュース「家族の基礎~大道寺家の人々」オフィシャルサイト
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