Interview

奥田民生 彼らしい流儀に満ちた新曲『ハクション大魔王2020』のテーマソングに込めた思い

奥田民生 彼らしい流儀に満ちた新曲『ハクション大魔王2020』のテーマソングに込めた思い

奥田民生の新曲は、TVアニメ『ハクション大魔王2020』のテーマソング「サテスハクション」だ。根強いファンを持つ『ハクション大魔王』の50年ぶりの復活を祝うように、「サテスハクション」は奥田の得意なロックンロール・チューン。イントロの歪んだギターが、かつての『ハクション大魔王』のテーマソングを彷彿とさせる。聞けば奥田は子供の頃、『ハクション大魔王』のファンだったという。演奏はすべて奥田自身。おなじみのカンタビレ・スタイルでレコーディングされた。
奥田は近年、YouTubeを駆使して音楽の新しい提供の仕方に挑戦してきた。それは“Stay Home”の時代にとても有効な方法で、どんな状況になっても変わらない奥田の活動ペースを支えている。それどころかカーリングシトーンズのメンバーと始めた“カンタンテレタビレ”は、彼らのライブMCを見ているようで、超楽しい。
そんな奥田にカップリングの「プゥータのテーマ」のことや、最近の過ごし方、ライブに対する思いを聞いてみた。取材はZOOMで行なったのだが、いつもと変わらないユーモアに満ちたインタビューになった。特にラストのメッセージは、実に奥田らしい言葉で結ばれている。楽しんで読んでください!

取材・文 / 平山雄一


元々のオープニング・テーマが秀逸すぎるでしょ。めちゃめちゃいいから、あれを越えられるわけないじゃんと思って

『ハクション大魔王2020』のテーマソングのオファーはいつ頃、来たんですか?

奥田 去年の12月くらいに。「『ハクション大魔王』が新しくなるんですけど、お願いできますか?」って。

ファン・アピールをしてたんですか?

奥田 普通に見てたけど、ファン・アピールしてたわけじゃないよ。だって俺、去年、“ギャートルズ”とコラボTシャツ作ったりしてたんですよ。だから自ら、そんなにいろんなとこに声を掛けるわけないじゃないの。

『ハクション大魔王』を作ってるタツノコプロとは、コラボしたことはあったんですか?

奥田 ないんじゃないですかね。TVアニメで言うと、『おそ松さん』の曲にはちょっと参加したりしたけどね。

自分が見ていたアニメ番組からオファーが来て、どうでした?

奥田 嬉しかったです。でも、元々のオープニング・テーマが秀逸すぎるでしょ。めちゃめちゃいいから、あれを越えられるわけないじゃんと思って。みんなも「あれが聴きたいんじゃないの?」と思ったから、あの曲をカバーするとか(笑)、そういうことも考えたりしてたんですよ。

パロディーが大好きだから、俺はその文化の真っ只中で生きてるから

今回の「サテスハクション」のイントロで鳴ってる歪んだギターの音は、元々のオープニング・テーマに近いよね。

 

奥田 これを作るにあたって、どうしても前の曲のイメージはあるから。だから「元々のにのっとってやってもいいですか? かぶせてきていいっすか?」みたいなね。で、「全然、いいですよ」って言われたから、イントロは同じ感じでいいかなと思って(笑)。

「サテスハクション」っていうタイトルは、前から温めてたの?

奥田 前からあっためてないです(笑)。あれ、レコーディングしてるときは♪サテスハクション♪とは言ってなかったの。

タイトルを決めずにレコーディングに入ったってこと?

奥田 そう。自分はいつも、タイトルが最後だから。タイトルがなくても、「ハクション大魔王2020のテーマ」って言えばすむから、別にたいして考えてなかった。

で、レコーディングに入って。

奥田 最初は♪ハクション♪だけだった。それでレコーディングで、コーラスを歌ってるときに、ふと思いついたんです。

えっ?

奥田 ♪サテスハクション♪ってフレーズを。

♪サテス♪が付いてなかったんだ?!

奥田 そうそうそう。やってるうちにちょっとフレーズが浮かんで、「そうか!」と思って。言ってみりゃもう「サテスハクション」というタイトルにしたほうが、わかりやすくなるでしょ。歪んだギターの音もさ。

ギターの音は、ストーンズの「サティスファクション」っぽいよね。

奥田 たまたまそうなったんです。オリジナルのムードを出したいし。愛を持っているよっていう意味もあって、タイトルを「サテスハクション」にして。

リスペクトを込めたパロディだ!

奥田 そうそう。パロディーが大好きだから、俺はその文化の真っ只中で生きてるから。ビートルズだって、そういうことやってきてたわけじゃないですか。

ビートルズも昔の曲を元にして、うまいことパロってるよね。

奥田 そういうのがちゃんと文化としてあるんだっていうのを、このご時世だから怒られるからやめるっていうのも、あまりにも悲しいじゃないですか。でもやっぱり、著作権だとかは気にしなきゃいけないけどね(笑)。

作った曲の“ここの部分”を使うんじゃなくて、そのシーンを1曲で完結させる。昔はそういう音楽がたくさんあって、すごかったですよ

「サテスハクション」は、番組のオープニングの1分半ちょうどになってる。

奥田 最初のオファーで、「1分30秒でピタっと終わってくれ」っていうのがあったんで。曲もまだ作ってない段階でね。だからそれはもう、ちゃんと考えて完結しました。

聴いていて、「ホントにこれしかないの??」っていう。

奥田 そうなの。だから配信でダウンロードした人は、ちょっと怒るかも(笑)。

(笑)「これっぽっち?」っていう。

奥田 そのまんまなんだもん。でも、これはこれでいいのよ。よく『昭和のCM大全集』とかっていうCDがあるじゃん。ああいうの、大好きで。

基本、15秒か30秒だよね。

奥田 小林亜星さんの作った曲とかいっぱいあるじゃん。ああいうのの仲間入りしたいという気持ちもあって(笑)。

亜星さんはCM作曲家の大御所で、“短い名曲”をたくさん作ってる。今回の曲を書き下ろすにあたって。あの精神をちゃんと受け継ぎたいと。

奥田 心意気的にはそういうつもりでいる。作った曲の“ここの部分”を使うんじゃなくて、そのシーンを1曲で完結させる。昔はそういう音楽がたくさんあって、すごかったですよ。

いさぎよい作曲だよね。

奥田 そうそう。そんな流れです。

そうやってできた「サテスハクション」は、音楽好きには楽しい話題を提供するんじゃないでしょうか。

奥田 ありがとうございます。そんなに気にしないでできたんでよかったですよ。そんな労力使ってない。

労力を使ったから、いい音楽できるわけじゃないからね。いかに楽しくやるかだから。

奥田 それだとちょうどいいところだと思いますよ。俺も、そんなに俺を出してないよ(笑)。

おならで出てくるプゥータっていうのを登場させただけでも、昔の『ハクション大魔王』を受け継いでるんじゃないですか(笑)

『ハクション大魔王2020』から登場した新キャラクター“プゥータ”のテーマソングは?

奥田 あれは番組で使うわけじゃなく、配信するにあたり、カップリング用に作った。いくらなんでも1分半の「サテスハクション」1個だけじゃ、怒る人がいるんじゃないかって(笑)。

歌詞はワンパターンで♪プゥップゥー♪でずっと行ってしまうという。

奥田 あれはもう、なんならインストと思ってください(笑)。

オリジナルの『ハクション大魔王』のファンとしては、新キャラ“プゥータ”の投入についてはどう思います?

奥田 “プゥータ”の投入で、大魔王があんま出てこないわけじゃないですか。それはちょっと寂しくはあるけどね。でもまあ、声優さんも変わってるし、新しくなってるんで、新しい『ハクション大魔王』として見ればいいと思います。

そういう意味でいうと、昔の『ハクション大魔王』のどこが好きだったんですか?

奥田 なんかさ、さわやかじゃなかったじゃない(笑)。子供向けだけど、子供子供してないのがよかった。『タイムボカン』とか『いなかっぺ大将』も、子供向けでありながら、何気に毒がある。

タツノコプロって、そういうところが特色だよね。

奥田 でも、このご時世に合わせてあるんで、今回は毒が少ない。でもおならで出てくるプゥータっていうのを登場させただけでも、昔の『ハクション大魔王』を受け継いでるんじゃないですか(笑)。

ちなみに奥田さんのレーベル“ラーメンカレーミュージックレコード”のキャラクターは、ハクション大魔王っぽい。

奥田 ヘロさん! なんか、かぶってるよね、そうやって思うと。

(笑)自分ではあんまり意識してなかったの?

奥田 意識はしてない。大魔王だと思ってこれを作ったわけじゃないよ。でも確かにリリックビデオ見たら、ヘロさんが大魔王っぽくなってたりするんだけど。

ライブっていつできるんだと思います? 世の中的にはいちばん後回しになってるよね

「サテスハクション」は、ライブでやるときも1分半で終わるの?

奥田 それはまだ何にも考えてないですけど、ライブでは延ばしてもいいですよ。延々長いとかでも全然平気。でも今はライブができないからさ。

秋にはライブをやれるかな?

奥田 ホント、ライブっていつできるんだと思います? 世の中的にはいちばん後回しになってるよね。

ただライブ以外だと、奥田さんの活動のペースはあんまり変わっていない。“カンタンバーチャビレ”とか“在宅ロックンロール”とか、動画を使っていろんな音楽を発表してる。

奥田 そうですね。

いろんな活動形態を持ってたからこそ、他のミュージシャンよりも早く、この状況に対応できたんじゃないんですか?

奥田 タイミング的にはその前からやってたからできてるし、そこはよかったですけどね。

まさかこういう状況のためにやってたわけじゃないだろうけど、不思議なめぐり合わせというかね。

奥田 確かにね。

“カンタンテレタビレ”は、カーリングシトーンズのメンバーとやっている。メンバーはそれに刺激されて、自分も「カンタビレやってみようかな」とかって感じにはなってるの?

奥田 みんなはみんなで弾き語りとか、それぞれやってはいますよね。トータス(松本)もやってたし。

そんな中で、奥田さんは全然変わらないペースでやれてる。

奥田 できてはいますね。まあ、そういうタイミングだったっちゅうか。

そして今、「自分にとってライブとはなんだろう」って思うことはありますか?

奥田 やっぱりライブの体力みたいなのは、今、絶対ないわと思います。

落ちちゃってるってこと?

奥田 落ちてる、落ちてる。だから歌とか下手になってる気がする。

(笑)

奥田 なんか、パッとやろうと思ってできるような年じゃないんだな(笑)。そういうのって、ずっとやってた“慣れ”みたいなものがでかいので。

ツアーがあれば、毎日、90分から120分は思いっきり歌ってるわけだもんね。

奥田 そうですね。まあ、ユニコーンは楽だけど。そういう慣れっていうのが無くなってはいるのかなとは思う。

最後にやったライブって、いつ?

奥田 2月の地球三兄弟だと思います。大阪でやったきりです。東京もやろうとしたけどできなかった。

再開後、最初のライブのイメージはありますか?

奥田 全然ないです。もうなんか別に何も考えず、普通にするのがいいよね、きっと。

今年はフェスもないし、この夏はどんなふうに過ごすんですか?

奥田 まあ、なんか今やってることを、いろいろネタが尽きないようにしていくんですけど。

(笑)

相変わらず家にいなきゃいけない人が多いと思うんですけど、これを機に「楽器に触る」ということをやってみたら?

テレワークばっかりで、曲の作り方は変わりそうですか?

奥田 曲は作ってないですね(笑)。この状態のままアルバム作るって、なくはないよなって思いながら、いつもそういうことを気にして作ってきてるわけでもないし。そこはそんなに気にしないでいいけどね。でもこのままで何年もっていうわけにはいかないだろうから、また変わるだろうね。

最後に、この時期にこの記事を読んでる人に、何かメッセージがあれば。

奥田 相変わらず家にいなきゃいけない人が多いと思うんですけど、これを機に「楽器に触る」ということをやってみたら? ぜひこの暇に任せて楽器を演奏する喜びを知って欲しいなと思うんですよ。

「みんなも楽器、弾いてみたら? 楽しいよ」っていう。

奥田 そうそう。YouTubeで自分がやってるのを見せるってのもあるけど、こんな感じでやってみたら面白いよっていうのを言いたいよね。

それはいいかもしれない(笑)。

奥田 いいと思うんですよ。逆に言うとこのタイミングが、いいタイミング。

(笑)

奥田 「あのときコロナ、大変だったけど、おかげで楽器弾けるようになっちゃった」とか、いいじゃないですか。

いいですね!! ありがとうございました。

奥田 ありがとうございました。

その他の奥田民生の作品はこちらへ。

奥田民生

1965年広島生まれ。1987年に、ユニコーンでメジャーデビュー。
1994年にシングル『愛のために』でソロ活動を本格的にスタート。『イージュー★ライダー』『さすらい』などヒットを飛ばし、井上陽水とのコラボレーションや、プロデューサーとしてもPUFFY、木村カエラを手掛けるなど、その才能をいかんなく発揮。
バンドスタイルの「MTR&Y」、弾き語りスタイルの「ひとり股旅」、ひとりレコーディングライヴ「ひとりカンタビレ」、宅録スタイルのDIYアナログレコーディングプロジェクト「カンタンカンタビレ」など活動形態は様々。
世界的なミュージシャンであるスティーヴ・ジョーダンらとの「The Verbs」、近年は岸田繁(くるり)、伊藤大地と結成したスリーピースバンド「サンフジンズ」としても活動している、斉藤和義・トータス松本ら同世代ミュージシャンと結成したカーリングシトーンズの一員としても活躍している。
2015年にレーベル「ラーメンカレーミュージックレコード」を立ち上げ、昨年ソロ活動25周年を迎えた。
現在はテレワークでゲストと繋がりトークや演奏を繰り広げる『カンタンテレタビレ』やバーチャル背景で演奏する『カンタンバーチャビレ』などをYouTubeに次々と公開している。

オフィシャルサイト
https://okudatamio.jp