STAGE SIDE STORY〜エンタメライター 片桐ユウのきまぐれ手帖〜  vol. 4

Column

vol.4 出演歴という証明書

vol.4 出演歴という証明書

演劇、舞台をメインに執筆しているライターの片桐ユウが、芝居やエンターテインメント全般に思うことを綴っていくコラム。作品は人に様々な感情をもたらすもの。その理由やルーツを訪ねて飛び回ってみたり、気になった場所を覗き込んでみたり、時には深堀りしてみたら、さらに新しい気づきがあるかもしれない。“エンタメ”とのコミュニケーションで生まれるものを、なるべく優しく大切に。

今号はシリーズで人気を博した作品が、この状況下で公開した配信映像について感じたことを。


「俺達はまだ 発展途上さ」
──「Do Your Best!」ミュージカル『テニスの王子様』

気が付けば6月中旬、下半期の半月が過ぎた。
日常は戻ったのだろうか?

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響は住まいや職業、生活によって様々だと思うが、どんな人にも同じ分だけ時間は過ぎていて、季節は巡っている。都心の天気予報では既に「真夏日」のマークを見かけるようにさえなった。もう“夏”が近い。

この騒動で、“春”という柔らかい季節に彩られるハズだった「卒業式」や「入学式」を実施できなかったところも多いだろう。
こういった催しは思い入れの強さによって受け止め方が違うものなので一概には言えないけれど、中止によって悲しい思いをした人の話を聞くと、その無念さに胸が張り裂けそうになる。

入念な準備期間と一期一会の巡り合わせで形作られる舞台やイベントも、それら催し物の中止と似たショック感があるが、さらに舞台そのものに「卒業」の意味合いが重なっている公演の中止には、途方も無いダメージを受けた人も多いのではないか。

そこで、5月末に予定されていた、ミュージカル『テニスの王子様』コンサート Dream Live 2020の中止と、その後の活動で見えた希望について触れていきたい。

「また会おう」という約束の心強さ

ミュージカル『テニスの王子様』は、「週刊少年ジャンプ」(集英社)で絶大な人気を誇った青春スポーツ漫画を原作としたミュージカル作品。“テニミュ”の通称で親しまれ、通算公演数1,800回、累計動員数290万人を突破している。2.5次元ミュージカルや若手俳優たちの歴史を語る上でも欠かせないコンテンツだ。

初演は2003年。原作の流れを追って公演を重ね、キャストの代替わりや「Dream Live」と名付けられたコンサートを行いつつ、2010年に「1stシーズン」が完結した。その翌年から2014年までは「2ndシーズン」が行われ、2015年から「3rdシーズン」が開幕、全国大会決勝戦の結末を描く「全国大会 青学vs立海 後編」が2020年2月まで上演された。

同ストーリーの中にも各シーズンそれぞれの魅力があるが、公演の流れとして共通しているのは、「Dream Live」をもってシーズンを完結としていることだろう。「1stシーズン」は2010年の「Dream Live 7th」、「2ndシーズン」は「Dream Live 2014」で締め括られている。

キャストたちは公演を通じて深まった仲間たちとの絆と、これまでの公演を駆け抜けてきた自信を溢れさせながら、名曲の数々を華やかなコンサート形式で披露する。そしてファンの涙と声援に見送られて、これまで共に歩んできた“役”から“卒業”するのだ。

当然、「3rdシーズン」も5月末に「Dream Live 2020」が予定されていた。大阪・大阪城ホールと横浜・ぴあアリーナMMの二都市開催。「3rdシーズン」のゴールテープはここで切られるはずだった。

しかし、新型コロナウィルスの感染拡大の状況により全公演中止に。規模の大きさや準備に掛けた時間の長さだけが悲しみを計るものではないが、キャスト・スタッフは勿論、このシーズンを追いかけてきたファンのショックは計り知れない。

だが、“テニミュ”の行動は早かった。
開催日の約ひと月半前に中止を決定。そして5月後半、YouTubeにてミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン 全国大会 青学vs立海 前編、後編を無料LIVE配信することを発表したのだ。

演劇やライブの楽しみは日程が発表されてから始まる。その日を指折り待ち遠しく思っていたファンが、中止の決定を受けて抱えてしまった空白を埋めたい、という配慮の結果だろう。
従来のファンのみならず、これまで“テニミュ”に触れたことのある人、興味を持っていた人、なんとなく気が向いた人たちにも、無料配信というツールの手軽さによって輪が広まっていったことも喜ばしい。

さらに無料LIVE配信に合わせ、“テニミュ”キャストによるリモート歌唱映像も公開(※2020年6月30日(火)18:00までミュージカル『テニスの王子様』公式YouTubeチャンネルにて視聴可能)。キャストたちはチームカラーの服を着たり、キャラクターにちなんだアクションを起こしたりと元気いっぱいの姿を見せ、ファンを勇気付けた。

また、それと同時にOBキャストのコメント映像も公開された。「Dream Live」には回替わりでゲストの登場があり、ある種の“同窓会”に立ち会えることも良さのひとつだ。
直接その光景を目にすることは叶わなかったが、シーズンを問わずOBキャストたちが登場して、自身にとっての“テニミュ”を語り、“テニミュ”は繋がっていくのだ、というメッセージをファンへ送り届けた。

“テニミュ”に育まれ、未来をもらい、夢を与えてきたキャストたちの力強いメッセージは、そのまま“エンタメ”にも置き換えられる。

ただ中止の発表で終わらせず、こうして前向きな企画を打ち出す心意気に、長年続くコンテンツの底力を感じる想いだった。

決して喜ばしくはない状況に対して“今だからこそ”という言葉を連呼するのは、無理矢理にも思えて躊躇いを感じるのだが、この期に作品メンバーが“再集結”してファンを笑顔にする企画は、他ジャンルにも登場している。

DVD-BOXの封入特典は中つ国パスポートと住民手帳

『アナと雪の女王』のオラフ役や実写版『美女と野獣』のル・フウ役で知られるジョシュ・ギャッドがYouTubeで始めた「Reunite Apart」。
新型コロナウイルスによって困窮する人々への基金を募るチャリティーを目的としたチャンネルで、その企画の一環として名画のキャスト・スタッフチームのリモート“同窓会”を開催している。

第1回の『グーニーズ』に始まり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『スプラッシュ』と続き、5月末には『ロード・オブ・ザ・リング』のメンバーが再集結した模様が公開された。

『ロード・オブ・ザ・リング』(The Lord of the Rings)といえば、J・R・R・トールキンの小説『指輪物語』を原作として2001年~2003年に渡り三部作で公開された大ヒット映画。最終作の「王の帰還」はアカデミー賞11部門にノミネートされ、その全てで受賞を果たしている。

商業的な成功に加え、CG技術を巧みに取り入れてファンタジーの世界観を完成させた映像も大きな話題となったが、当時ファンの間で人気を集めていたテーマがキャストたちの仲の良さだ。

特に第一部の「旅の仲間」メンバーは、9人のキャストがお揃いのタトゥーを入れるほど。今回Zoomを使用して催された番組上の“同窓会”では、そのキャストやスタッフたちが大集結。今に続く絆を惜しみなく見せてくれた。

ジョシュ・ギャッドによる進行の元、まず『グーニーズ』の再集結にも登場していたサム役のショーン・アスティンが登場。そしてフロド役のイライジャ・ウッド、メリー役のドミニク・モナハン、ピピン役のビリー・ボイドが続けて入場する。
「旅の仲間」のスタートメンバーともいえる“ホビット”族のキャストたちから始まるところがなんとも“粋”だ。

その後、レゴラス役のオーランド・ブルーム、ガンダルフ役のイアン・マッケラン、共同脚本家のフィリッパ・ボウエンと監督のピーター・ジャクソンが登場した。
門外不出とされていた(彼らはむやみにメディアで公開しないことを約束し合っていた)お揃いのタトゥーも解禁。印だけが絆というわけでは無いけれど、彼らが共に過ごす中で芽生えた仲間意識が伺えるようで、ファンには嬉しい瞬間だった。

続々と参加メンバーは増えていく。次に登場したのはアラゴルン役のヴィゴ・モーテンセン、ゴラム役のアンディ・サーキス。そしてギムリ役のジョン・リス=デイヴィス、ボロミア役のショーン・ビーンも集合。皆すっかりリラックスした様子で、思い出話に花を咲かせる様子が映し出される。
ヴィゴ・モーテンセンが他キャラクターの台詞を物真似したり、オーランド・ブルームや“ホビット”の年下組メンバーが、少年に戻ったかのようにいたずらっぽい笑顔を浮かべるところも見どころだ。

エオメル役のカール・アーバンにエオウィン役のミランダ・オットー、アルウェン役のリヴ・タイラー、音楽のハワード・ショアも参加。後半はサプライズゲストでニュージーランド出身の映画監督、タイカ・ワイティティが登場してトリビアクイズを出題した。

「ポーン」という入場音と共に次々とメンバーが現れ、その相手に向かって先に登場していたメンバーが手を振って驚きと喜びの表情で迎え入れる模様が最高だ。とにかく“再会”が嬉しくてたまらないといった感情が画面から溢れ出てくる。

ジョン・リス=デイヴィスが兜を被って登場したことを始め、イライジャ・ウッドらも小道具を持ち出してみせたりと、画面は終始にぎやか。中盤からは、それぞれが名台詞を披露して番組を盛り上げた。
いわゆる“本番”ではないところで感動されても困る、と怒られるかもしれないが、台詞ひとつで聞いている者の心を掴んでしまう俳優たちの力にも圧倒された。

新型コロナウイルスで亡くなった方言コーチの英国俳優のアンドリュー・ジャック、2015年に亡くなったサルマン役のクリストファー・リーの話、ビルボ・バギンズ役のイアン・ホルムからのメッセージ、そしてピピン役のビリー・ボイドが第三部の劇中歌「The Edge of Night」をアカペラで披露するなど、番組は後半まで盛りだくさん。

本編やメイキング映像も入れ込まれるため、映画を見たことのある人はもちろん、映画未見の人も興味を惹かれるであろう内容に仕上がっている。
配信も終了かと思われた間際、セオデン王役のバーナード・ヒルがチラリと登場するなど、最後までサービス精神に満ちた番組だった。

……と、ここまで熱く細かく(しかも日本語字幕のない配信番組について)語るのは、個人的な思い出による。私は『ロード・オブ・ザ・リング』の大ファンだ。

ただハマったキッカケは、第三部の劇場公開を目前にしてTV放送された第一部を見てからという出遅れスタートだったために、買い損ねた映画雑誌を求めて神保町の古書店を覗き回ったり、スクリーンで見損ねた「旅の仲間」を劇場で味わうために地方のシアターに小旅行するといった、ささやかな思い出に留まる。

しかし、この配信を見ていて、当時のアルバイト代をはたいて買い揃えたDVD-BOX(各4枚組のスペシャル・エクステンデッド・エディション、及び三部作がセットとなったコレクターズ・エディション=トリロジーBOXセット)の特典映像にあった、鎖帷子を製作するスタッフが、鎖の輪をひとつひとつ丁寧に繋いでいた場面を鮮明に思い出した。

「作品の裏側には、こんなにも手間と労力と情熱が込められているのか!」と衝撃と感動を覚えたことが、“エンタメ”の裏方仕事を志すキッカケのひとつになったことも思い出す。

こうして懐かしい記憶が甦ることで、いかに自分が様々な作品によって支えられてきたか、自分自身が形作られてきたのかをあらためて感じた。やはり“エンタメ”は人間に、世界に必要だという想いも新たにする。

“今だからこそ”とはあまり言いたくないが、この機会に立ち上がった企画によって得られるものは確かにあった。

文 / 片桐ユウ

vol.3
vol.4
vol.5