発掘!インディーゲーム総研  vol. 2

Review

文字だけでゲームは成立するのか!?『A Dark Room(暗い部屋)』想像を裏切る衝撃体験

文字だけでゲームは成立するのか!?『A Dark Room(暗い部屋)』想像を裏切る衝撃体験

“目が覚めた。頭痛がし、視界はぼやけている。声がした。生き残れ、と。”
文字だけが表示された、シンプルすぎる画面。初めて見た人には、どんなゲームなのか想像もつかないでしょう。今回紹介するNintendo Switch版『A Dark Room(暗い部屋)』はテキストだけで表現され、グラフィックは一切存在しません。映像を作る技術が進化し、実写だと見紛うほどのクオリティを出せるようになった昨今、一切のグラフィックを排した本作の第一印象は特に若いプレイヤーの目には異質で新鮮なものとして映るのではないでしょうか。本作はもともと2013年にウェブブラウザゲームとしてリリースされたもので、同年iOSに移植され、主にアメリカやイギリスで人気を博しました。
古典的テキストゲーム『ゾーク(Zork)』を彷彿とさせる……と公式説明文にあったので、今の時代としてはかなり渋いタイプのテキストアドベンチャーなのだという認識でプレイを始めたのですが、実はこの作品にはアッと驚くような仕掛けがいくつも仕込まれています。次章からはその驚きについて触れていくのですが……実はこの記事を書くにあたり、どこまで内容を紹介していいものか悩みました。個人的には新鮮な感動を100%味わいたいと思うのであれば、ほんの少しでも内容を知るべきではないと思うからです。ですので、本稿は配慮して記述していますが内容のネタバレもあるということをご了承のうえ、読み進めるかどうかを慎重に決めてくださいね。少し内容を確認したいですか? では、まずはトレーラーを見て先に進んでください。

文 / 内藤ハサミ


独りぼっちの暗い部屋から事態は思わぬ方向へ……

暗い部屋で目が覚める主人公。オープニングムービーや設定を説明するナレーションなどの演出は一切なく、唐突にゲームは始まります。ここはどんな世界なのか、主人公は何者なのか、なぜ暗い部屋で目を覚ましたのか……。いっさい説明されません。画面にはただひとつ“火を灯す”というコマンドが表示されているのみです。この時点でのプレイヤーは、ゲームの目的も何ができるのかもまったくわかりません。黒地に数行だけのテキストしか書かれていない画面と最低限の効果音のみというサウンドは心細く、主人公の気持ちとも重なります。

A Dark Room(暗い部屋) WHAT's IN? tokyoレビュー

▲画面左側はテキストログになっています。ゲーム冒頭にできるのは、火を灯すことだけです

ひとりの弱った女性が主人公の居るボロボロの小屋にたどり着くと、物語は動き出します。女性は建築家を名乗り、主人公の手助けができると申し出ます。衰弱した彼女を死なせないようにしないと……。すると、“火を灯す”コマンドは“火を焚く”に変わり、その下に“静かな森”という項目が追加されます。わけのわからないままその項目を選ぶと、“木材を集める”コマンドが選べるようになります。これでひとつ、行えることが増えました。リアルに時間が経過することで焚火はちらつきはじめ、いずれ消えてしまいます。火の大きさは画面の明るさで表され、本稿で掲載している薄く明るいゲーム画面はそのためです。火が消えてしまうとゲーム冒頭と同じく黒地の画面になってしまいます。火が絶えると何かに影響があるのかどうかはわからないものの、なんとなく怖いので火を絶やさぬよう薪をくべ続けていると、焚火の温かさで女性は目を覚まし、「自分は主人公の友人で、建築家だ」と名乗ります。そこからは彼女の助力でより多くの薪を運べる荷車、動物から毛皮などの資材を手に入れるための罠、人が住める簡易な小屋などを作れるようになるのです。

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▲今できることは、焚火に薪をくべること、木材を拾うこと、建築することの3種類です。まずはふたりで助け合わなければ……

小屋を作ると、主人公たちのように寄る辺ない人々が集まってきます。彼らと小さなコミュニティを作り、住人に木材採集者、狩人、革職人などの役割を振り分けて村を運営していきます。なるほど、これは村を大きくして、安定したコミュニティを作るゲームなのかもしれない……と、このときは思っていました。こういう形式のゲームはプレイしたことがあります。印象的なのは2013年ごろに日本でも流行した『クッキークリッカー』などでしょう。クッキーをひたすら焼き、集めたクッキーでさらに多くのクッキーを焼けるような設備を作り、そしてまたクッキーを大量に焼く……。主にインターネット上で話題になったゲームです。本作では時間経過で集まるのはクッキーではなく、さまざまな資材と人間なのでしょう。

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▲当然ながら村の映像はなく、村のコマンドで人口を確認でき、何人をどの仕事に従事させるかを決められるのみ

夢中で木材を運び込んだり、罠にかかった獲物を捕らえたりしていくと人も集まり村も大きくなってきました。ときどき村にはアクシデントも起こります。泥棒が入って資材が少しなくなってしまったり、訪れた謎の人物から「資材を投資すれば倍にして返す」という胡散臭い話を持ちかけられたり。不慮の事故で人口が減ってしまうこともあります。そんな日々の暮らしをなんとか乗り切っていくうちに、テキストだけで表される2色の画面にも慣れ、主人公が作る村の情景は小説を読んでいるときのように頭のなかでイメージできるようになりました。筆者が思うこの村は、豊かな土地ではありません。人々が寄り添いながら粗末な小屋を並べ、せわしなく暮らしながらもどこかゆったりとした時間が流れる場所。なかなか充実している生活です。村づくりの楽しさに没頭し楽しい妄想を続けていた筆者でしたが、村に交易所を作ったとき思ってもみなかった一文が目に飛び込んできました。

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▲交易所の交換品にあったコンパスが、今まで考えたこともなかった“外の世界の存在”を示唆します。外の世界と言っても、いったいどうやってアクセスするのでしょうか。ここまで手探りでプレイを進めてきましたが、見当もつきません

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▲何かに導かれるようにコンパスを手に入れた主人公に建築家の女性はいい顔をしません

暗い部屋で最初に出会った建築家の女性は、村が大きくなるほどに不安や怒りを露わにします。彼女が不安視する外の世界とはいったい? すると、コンパスに示された“埃っぽい道”のコマンドが追加されていることに気づきました。好奇心を抑えられずに選択すると……。

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▲いきなり出てきた、文字と記号で表現されたマップ画面。もしかして、このなかを自由に動き回れるということ?

テキストアドベンチャーを遊んでいたはずだったのに、表示されているのは1980年代の元祖コンピュータRPG『ローグ』を彷彿とさせるマップです。ひし形に打たれた記号に、点在する数個のアルファベット。いったいこれはどういうこと?

さらに驚きの展開が待っていた!

ここから先は後半の展開に触れていくので、くれぐれもプレイまえの閲覧には注意してください。
“埃っぽい道”の初期マップは自分の周囲の数マスのみ開放されていて(上のスクリーンショットでは、ランダムで発生するイベントで一部のマップが見えている状態です)、踏破した部分がマップにどんどん書き込まれ、活動範囲を広げていけるという仕様です。さっきまで村の運営をしていたので、いきなりの展開に頭がついていきません。よくわからないままにマップを歩きまわっていたら、なぜか死んで村に戻されてしまいました。よくよく画面上部を見てみると、“水”と“食料”という表示が……。なるほど、歩くごとに水や食料を消費するのですね。保存肉というアイテムが食料になるので、絶やさないよう持ち歩く必要があります。探索や村の工房で手に入る武器防具も敵と戦うために必要です。死ぬと防具以外の持ち物はすべて無くなってしまうので、今後は気をつけて探索を進める必要があるでしょう。

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▲洞窟に入ると戦闘が始まりました。自分のキャラクターは“@”、トカゲは“L”(おそらくLizardの頭文字)で表示されます。非常にシブい!

戦闘はリアルタイム制です。行動にはリキャストタイムがあり、一定時間経たないと同じ行動はできません。敵は一定の間隔でどんどん攻撃してくるので、もたもたしていればすぐに殺されます。素早く戦闘の流れを読み、行動を組み立てなければなりません。だんだんと進めかたがわかってきましたが、未だにこのゲームの目的は不明です。何を成せばクリアとなるのでしょうか。ゲームを始めてから今までの流れをよく思い出してみます。暗い部屋で目が覚めたとき、「生き残れ」と聞こえた声の主は誰? 彼女は初めて出会ったとき「主人公の友達だ」と言いましたが、初対面のはずなのになぜそんなことを? それに、なぜ外の世界へ出ていこうとする主人公にいい顔をしないのでしょう。この世界は何かおかしいのです。探索を進めるほど心はざわつきます。

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▲探索を進めていくと、日本刀やライフルなどが手に入ります。他にはカービン銃やバッテリーなども。てっきり機械文明のないファンタジーの世界だと思っていたけれど、違うみたいですね

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▲そして冒険の末に主人公は見つけてしまいました、放浪者の宇宙船を……。えっ、宇宙船!?

埋まっていた宇宙船を発見した主人公。いきなり高度なテクノロジーが出てくるなんて唐突に思えますが、今までそういった文明のない時代だと勝手に思い込んでいただけで、実際は機械文明が滅び荒廃している世界という設定なのかもしれません。叙述トリック的な演出が見事です。ただ、実際はまだまだわからないことだらけ。滅びた文明の時代という認識も合っているかわかりません。それに宇宙船を発見したときの主人公は、「見知ったあの曲線」と表現します。主人公は宇宙船を以前から知っていた……?

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▲宇宙に旅立とうとする頃、彼女の心はすっかり離れていました。後戻りできなくなったと後悔してももう遅いのです

主人公は宇宙を目指し、エンディングを迎えます。暗い部屋で火を灯し自給自足の生活を送っていた世界に、壮大なSFストーリーが存在していたとは想像もしませんでした。最後にどうなったかは伏せますが、その衝撃に筆者はエンディングを見たあと寝ようと思っていたことも忘れ、すぐ2周目のプレイに取り掛かりました。2周目は、ところどころ初回プレイとは違う展開になってきます。今度は注意深くテキストの内容を考えながらプレイし、クリア。1周目ではわからないことがだいぶ見えてきましたが、まだまだ消化不良な点は残ります。そして迎えた3周目。おそらく主人公と女性は、同じ時間を繰り返しながら良い結末に向かおうとしています。だとすれば、最初と2周目のプレイはバッドエンドと言えるでしょう。もしかしたらゲーム中での選択を大胆に変えれば、結末は変わるのでしょうか? それとも……。現在もそんな試行錯誤を重ねながら周回を続けていますが、まだこの作品の真実にはたどり着いていないと感じています。エンディングまでの到達時間は短く、筆者の場合は1周目10時間弱、2周目からは3時間から5時間程度でした。この物語の真実をひとつでも多く知るべく、今後もプレイを続けていきたいと思います。

シンプルなテキストだけで表された『A Dark Room(暗い部屋)』。この簡素な画面からは想像もできないほどの大冒険をし、ドラマティックなストーリーを体験することができました。最初から最後まで手探りで進めることも新鮮ですし、2周目以降でプレイに慣れてから村の運営や冒険の采配を振るのはまた違った面白さです。考察しがいのあるストーリーは誰かと語り合いたくなります。 Nintendo Switchへの登場で真実を追うプレイヤーがさらに増え、活発に意見が交わされることを期待しています。

フォトギャラリー

■タイトル:A Dark Room(暗い部屋)
■発売元:CIRCLE Entertainment
■対応ハード:Nintendo Switch™
■ジャンル:RPG/アドベンチャー
■対象年齢:全年齢
■発売日:発売中(2020年5月7日)
■価格:ダウンロード版 700円(税込)


『A Dark Room(暗い部屋)』オフィシャルサイト

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