おうちでライブ三昧  vol. 11

Review

Suchmos 横浜スタジアムでのライブを収録。この日、間違いなく一つの高みに達した彼らの軌跡を生々しく刻み込んだ映像作品。

Suchmos 横浜スタジアムでのライブを収録。この日、間違いなく一つの高みに達した彼らの軌跡を生々しく刻み込んだ映像作品。

2019年9月8日に横浜スタジアムで行われたSuchmos史上最大規模の単独公演「”Suchmos THE LIVE” YOKOHAMA STADIUM」。その模様を収めたライブ映像作品『Suchmos THE LIVE YOKOHAMA STADIUM 2019.09.08』(Blu-ray/DVD)がリリースされた。

横浜はSuchmosの地元であり、結成当初からメンバーは横浜スタジアムでのワンマンライブを目標に掲げていた。地元のライブハウスから、ハマスタへーーそんな壮大な夢を叶えたこの日のライブには、全国から約3万人のオーディエンスが集結。メンバー6人は、R&B、ロック、ソウル、ヒップホップ、アシッドジャズなどを血肉化した音楽性、スタジアムを掌握し、揺らしまくるパフォーマンスを堂々と体現してみせた。筆者も実際にこのライブを目撃したが、会場を包み込んだ強烈な熱気と心地よい風、そして、文字通りスタジアム・サイズのバンドになったSuchmosのステージングは、いまも強く心に刻まれている。

台風の15号の接近により、開催が危ぶまれた本公演。当日も時折強い雨が降っていたが、開演前には雨も止み、少しずつ晴れ間も差し込む天候に。ライブ中にも雨が降り出す時間帯もあったが、セットリストを変えることなく、2時間半のステージを繰り広げた。

「Suchmos」のバンドロゴがステージの大型ビジョンに映し出され、続いてメンバーがステージに登場。肩慣らし的なジャム・セッション、「よく来たね!」というYONCE(Vo)の第一声から、「YMM」「WIPER」を続け、濃密にしてしなやかなバンドグルーヴによって観客の身体を揺らす。HSU(Ba)の強靭なスラップベース、TAIKING(G)のギラッと光るギターフレーズ、KCEE(DJ / G)の切れ味鋭いスクラッチ、黒人音楽のエッセンスを感じさせるプレイ、楽曲全体を支えるOK(Dr)のドラミング。ルーツミュージックへのリスペクトと、それを唯一無二のバンドサウンドへと昇華させるセンスと技術は、この日、間違いなく一つの高みに達していた。トレードマークのadidasのジャージとデニム、短髪にして精悍さを増したYONCEの「パンパンじゃん! すでにめちゃくちゃ楽しいです」という言葉からも、バンドのコンディションの良さが伝わってきた。

YONCEが花道に進み、会場全体に自然な一体感を生み出した「Alright」(アウトロではメンバーが笑顔で視線を交わす場面も)、ディープなベースラインと端正なビート、YONCE&TAIKINGのギターが絡み合う「DUMBO」(<アマチュアもプロも変わんないね>と歌うYONCEの挑発的な表情も印象的)などの初期の楽曲に続いたのは、「STAY TUNE」。言うまでもなく、Suchmosの存在を世に知らしめる大きなきっかけとなったヒットナンバーだ。

「STAY TUNE」がリリースされた2016年前後は、この国の音楽シーンが大きく変化した時期。cero、D.A.N、Nulbarich、WONKなどが次々と登場し、現在進行形のブラックミュージック、ジャズなどを取り入れたアーティスト/バンドが大きな流れを生み出したのだ。その起点となったのが「STAY TUNE」であることはまちがいない。ハマスタのライブでも大きなリアクションを巻き起こしたこの曲は、10年代を象徴する楽曲と言っていいだろう。

少しずつ夜の空気が濃くなる時間帯に演奏された「In The Zoo」も印象的だ。この楽曲が収められたアルバム『THE ANYMAL』(2019年)は、60年代〜70年代のサイケデリックロックやブルースの色を前面に押し出した、彼らにとって分岐点となった作品。「In The Zoo」の<夢も希望も無いのかい?救ってよロックミュージック>というフレーズを響かせるYONCEの表情からは、2018年から2019年におけるSuchmosの状況——難航する制作、HSUの体調不良によるツアーのキャンセル——が伝わってくるようだ。

しかし、6人にはその状態をしっかりと乗り越え、大きな目標だった横浜スタジアムの舞台へとたどり着いた。「In The Zoo」もスタジアム・サイズのロックナンバーへと昇華され、続く新曲「藍情」でもサイケデリックなコーラスワークで観客を魅了。壁を乗り越え、さらなるスケールアップを果たしたSuchmosは、ハマスタでその雄姿を堂々と見せつけたのだ。

変わり続けること、旅を続けることへの意思を綴った「OVERSTAND」でゆったりと演奏した後のMCでは、「やるやる言っていた横浜スタジアムがついに……本当にやってます、今。どうよ?!」(YONCE)というコメントを皮切りに、リラックスしたトークを展開。「信じてたよ、来てくれることを。マジでうれしいです」(TAIHEI)、「本当にありがとう。周波数を合わせてくれたってことでいいかな?」(TAIKING)と感謝の気持ちを口にし、OKがメンバーを紹介(本当に愛に溢れたメンバー紹介なので、本作でじっくりチェックしてほしい)。

さらにHSUは「本当にこの6人で、不思議な、おかしな人生を歩んでます。こんなところに立ってるなんて信じられない。でも俺たち6人とみなさんは変わらなくて。Suchmosの音楽で集まってくれた人がこれだけ目の前にいて、本当に幸せです」とコメント。KCEEは「夢って叶えられないから夢って言うんだなと思ってたけど、今、この瞬間なんだなと思ってます」と語った。そしてYONCEは「この6人で初めてステージに立ったときから、気持ちは変わってない。立つたびに新しい気持ちに出会うし、いろんなものを見つけていく旅をこれからもしていきたいなと思います」と語ると、大きな拍手が巻き起こった。

「しゃべりすぎ!」と照れたように笑ったYONCEは、「MINT」をコール。“歩き疲れてもまだまだ行こう!”というシャウト、<周波数を合わせて 調子はどうだい?兄弟、徘徊しないかい?>という大合唱が生み出す感動は、このライブの大きな見どころの一つだ。

さらに煙草への愛着を“キース・リチャーズはスタジアムの通路で吸ってた”というフェイクで表わした「TOBACCO」、サーチライトのなかで<根拠が無い 具体性が無い 尊厳が無い>というラインを描いた「BODY」、雷をモチーフにした映像とともに披露された「Hit Me, Thunder」、地元・横浜のラブホテルの名前を取り込んだ歌詞とオレンジの照明、エンディングにおけるドラマティックなギターソロが溶け合う「Pacific Blues」などを演奏。様々な音楽ジャンルを肉体的に昇華したバンドサウンド、真摯で生々しいメッセージによって感動の度合いをさらに高めていく。

“もっと高いところに行こう”とリスナーを鼓舞するような「A.G.I.T.」から、ライブは後半のクライマックスへ。刺激的なブレイクビーツ、ソウルフル&ファンキーなアンサンブルを融合させたダンストラック「808」、スムーズなグルーヴと官能的なボーカル/コーラス響き、エンディングに向かって高揚感を挙げていく「GAGA」、そして本編ラストは「VOLT-AGE」。リリース直後に賛否両論を巻き起こしたこの曲を記念すべきハマスタのライブの最後に置いた彼ら。壮大なスケールで観客を熱狂の渦へと巻きこんでいくシーンは、自らの意思を貫きながら上昇を続けてきたSuchmosの正義を証明していたと思う。<Show must be going on>というフレーズも強く心に残る。

観客がスマートフォンのライトを照らすなか、アンコール。いつものようにリヴァプールFCのユニフォームを着たYONCEをはじめ、メンバー6人が再びステージに登場。「これからもよろしく。本当にありがとう。悠々自適にいこう」(YONCE)という言葉から「Life Easy」へ。<誰のためでもなく 自分のために生きよう>というラインは、Suchmosのスタンスそのものだ。

既存の音楽のフォーマットやマーケティングに関係なく、心から欲する音楽だけを追求しながら、横浜スタジアムの単独公演という舞台に上り詰めたSuchmos。この映像作品には、そんな彼らの軌跡が生々しく刻み込まれている。先がまったく見えない状況に置かれ、不安な感情に侵されがちな現在において、本作から伝わってくる彼らの生き様、そして、心と身体を豊かにしてくれる音楽は(特に“自分らしく生きたい”と願っている人たちにとって)大きなヒントになるはずだ。

『Suchmos THE LIVE YOKOHAMA STADIUM 2019.09.08』の完全生産限定となるデラックスエディションはLPサイズのジャケット。フォトグラファーの岡田貴之が撮影・監修を手掛けたライブフォトブック、映像作家・山田健人が監督するバンド結成からこれまでの彼らの軌跡を収めたドキュメンタリーフィルムが収録されるので、こちらもチェックしてほしい。

文 / 森朋之

Suchmos

2013年1月結成。ROCK、JAZZ、HIP HOPなどブラックミュージックにインスパイアされたSuchmos。メンバー全員神奈川育ち。Vo.YONCEは湘南・茅ヶ崎生まれ、レペゼン茅ヶ崎。都内ライブハウス、神奈川・湘南のイベントを中心に活動。バンド名の由来は、スキャットのパイオニア、ルイ・アームストロングの愛称サッチモからパイオニアとなるべく引用。普段からバイブスを共有していた、YONCE(Vo)、HSU(Ba)、OK(Dr)、TAIKING(Gt)、KCEE(Dj)、TAIHEI(Key)の6人グループ。

オフィシャルサイト
https://www.suchmos.com

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