放送終了でも今から観たい!イッキ見推奨アニメレビュー  vol. 14

Review

“ノイタミナ”8年前の名作がいま刺さるのには理由がある! 再放送で注目、アニメ『つり球』が与えてくれる癒しとは?

“ノイタミナ”8年前の名作がいま刺さるのには理由がある! 再放送で注目、アニメ『つり球』が与えてくれる癒しとは?

知らない人と話すのは怖い。失敗して笑われたら恥ずかしい。家族だからこそ言えない本音、ぶつけてしまう苛立ち。そんな青春時代のモヤモヤを抱えた4人の男子高校生たちの成長を、瑞々しく描いた王道青春SFファンタジー。2012年4月にフジテレビ“ノイタミナ”ほかにて放送されていたTVアニメ『つり球』が、8年ぶりに再放送されている。

なぜいま『つり球』? どんな作品だったっけ……? そんな方のために、本作の魅力といまこそ観るべき理由をご紹介。先の見えない不安や寂しさで枯れそうな心には、やさしさと潤いをくれるアニメ『つり球』が必要だ。

文 / 実川瑞穂


“友情と家族”、繊細な青春の2大テーマをふんわりポジティブに描くこだわり

湘南・江の島を舞台に、釣りの醍醐味、オリジナルアニメの醍醐味、そして青春アニメの醍醐味をぎっしり詰めこんだ本作。監督の中村健治氏は放送当時のインタビューで、「観ている人が幸せになれるような作品を作りたかった」と語っていた。その言葉通り、大人でも子どもでも楽しめるハートフルな作品だ。

なかでも、青春真っただ中の不器用な主人公たちを“やさしく見守る存在”として、魅力的な大人が丁寧に描かれているのが、本作の大きなポイント。だからこそ、すっかり大人の筆者が観ても「こんな青春が送りたかった」というノスタルジーで終わるのではなく、「こんな素敵な大人になりたい」と前向きな気持ちになれる。

自分の気持ちを他者にうまく伝えられない主人公・ユキ(CV:逢坂良太)は、唯一の肉親であるフランス人の祖母・ケイト(CV:平野文)だけが味方だった。だがある日、彼が金髪の少年・ハル(CV:入野自由)と出会ったことから物語は大きく動き出す。ハルは、地球の危機を救うために江の島にやってきた、宇宙人だったのだ。

天真爛漫なハルのペースに巻き込まれながら、クラスメイトの釣り少年・夏樹(CV:内山昂輝)や、謎の釣り好きインド人・アキラ(CV:杉田智和)と関わっていくなかで、ユキの日常は少しずつ変わっていく。はじめて誰かと一緒に釣りをしたり、喧嘩をしたり、笑ったり。どれも些細なものだが、友だちがひとりもいなかった主人公には十分大きな変化だ。さらに、そんなユキの変化をちゃんと気づいてくれる、「受け止めてくれる誰か」が描かれているところに、圧倒的な肯定感を感じる。だから『つり球』を観ていると、人にやさしくありたいと思えるのだ。

例えば、『つり球』屈指のエピソードのひとつが描かれる第5話。釣り船の船長・歩(CV:細見大輔)のもとで人生初のバイトを始めたユキは、初日から失敗をして釣り客を怒らせてしまう。テンパったユキはただただ硬直……。すると、駆け付けた船長がカラっとした笑顔で客に謝り、一瞬で場の空気を和ませてくれたのだ。

失敗したユキを叱るどころか、海のような心の大きさで「気にすんな」と肩をたたく歩。あまりの男前さに、こっちまで胸が熱くなる。こんな風に人の気持ちに寄り添える大人になりたいと、心から思った。失敗してもあきらめなかったこと、頑張って乗り越えたこと。それを誰かが知っていてくれる。応援してくれる。これだけで、世界は捨てたもんじゃないとさえ思える。そんな経験を経たユキの大きな変化は、ぜひご自身の目で確かめてほしい。

ノスタルジックな音楽と、江の島の説得力

フジファブリック、さよならポニーテールによるOP&ED主題歌や、栗コーダーカルテットによる劇伴、鮮やかな画面の色彩、美しく描かれた江の島の風景にも心が洗われる。海に囲まれた江の島ののどかな景色は、船長・歩ちゃんのようなかっこいい大人を育むだけの説得力がある。

栗コーダーカルテットが奏でるのびのびとした音色は、懐かしくてあたたかい。「行き詰まった所がほら それが始まりです」というOP曲『徒然モノクローム』の歌詞は、江の島を“物語の始まり”の島に変えた(しかも、サビの歌詞にはとても粋な仕掛けが!)。さよポニがカバーしたスピッツの名曲『空も飛べるはず』含め、すべてが合わさって『つり球』のやさしく爽やかな空気感を生み出しているのだ。彼らが経験する青春は、時に痛いし苦しい。でもそれを包み込んでくれる雰囲気が、音楽や背景美術にもあるのだ。

“釣り”アニメなのに、観る人を選ばない理由

大手釣り具メーカーSHIMANOがクレジットされていたり、実在するロッドやリール(釣り具)が登場したりと、釣りファンも楽しめる細かい描写が散りばめられているのは、さすが釣りアニメ。逆に釣り経験のない筆者は専門用語がまったくわからずに観たが、なんの問題もなかった。なぜなら、釣りはあくまでも手段であって、目的は4人の高校生たちの成長や友情を描くことだから。

興味も知識もなかった主人公のユキが、釣りを通して人間関係を築いていく。感情をうまく表に出せなかったユキが、釣りを通して「悔しい」「うれしい」「楽しい」「大好き」と次第に表情豊かになっていく。その過程が、とてもまぶしいのだ。それに、釣り大会で2年連続優勝する腕前の夏樹が丁寧に教えてくれるので、観ているうちにきっと釣りが好きになる。そんな風に、視聴者がいつの間にかユキの気持ちとシンクロしていくのもおもしろい。

釣り経験ゼロだったユキが、宇宙人のハルと力を合わせて、地球を危機から救うための釣りをする。物語後半は、このちょっと不思議なSF要素とともに怒涛の熱血釣りバトルへと展開していく。ゆる~い日常系からの熱血、という急展開に視聴者がついていけるのも、前半の丁寧な心理描写があってこそ。本作の名セリフ「エノ! シマ! ドーン!」が、3話では主人公と視聴者の心をひとつにし、後半では4人の高校生たちの心をひとつにするという演出もうれしい。

ほかにも、ユキが積み重ねてきた釣り経験とたくさんの伏線が、後半で一気に物語を熱くする。そこで得られるカタルシスは、まさにオリジナルアニメの醍醐味だ。「最後まで観てよかった!」と、気持ちよく終われるアニメに出会えたときの喜びを、ぜひ『つり球』で感じてほしい。

「笑顔で、胸張って」。2020年に『つり球』を観る意味

「笑顔で、胸張って」とは、ユキの祖母・ケイトの言葉だ。朝学校に行くとき、つらくて悲しいとき、どんなときもケイトはこの言葉でユキやハルにやさしい魔法をかける。船長・歩のように、高校生たちの成長を見守る大人たちのなかでも、特に印象的な存在がケイトだ。

演じているのは、『うる星やつら』のラムちゃんでおなじみのレジェンド声優・平野文。歌うように軽やかな声と重みのある説得力が、ふんわりとした物語に深みを生んでいる。自分はどうするべきなのか悩むユキやハルに、考えるヒントをくれるケイトの言葉は、どれも前向きだ。その言葉で、彼らが自分の心のなかにあるモヤモヤの正体に気づくように、視聴者もハッとすることがある。

大人になると、こんな風に心に寄り添ってくれる存在は貴重になるため、何度観返しても筆者はケイトの言葉に目頭が熱くなってしまう。特に、先の見えない不安に包まれた2020年のいま観ると、その効果はより大きいように思う。2012年の初回放送時は、震災の翌年だった。

傷を癒そう、前を向こうと世の中が頑張っていたときに放送された作品が、コロナ禍のいま再び地上波で放送されること。それは偶然だが、いま観るからこそ響くものが、本作にはきっとあると思う。青春アニメの醍醐味である“少年たちの成長”を描きながら、一方で大人の視聴者の心も癒してくれるアニメ『つり球』。不安なとき、ひとりぼっちのとき、やさしさを忘れそうになったとき。ぜひ、アニメのなかの江の島へ行ってみては? そして、新型コロナウイルスが終息した際は、ぜひ本物の江の島を訪れてみてほしい。きっとそこからが、私たちの始まりなのだと思う。

TVアニメ『つり球』

フジテレビ“ノイタミナ”他にて再放送中

各配信サイトにて見放題配信中
・FOD(FODプレミアム)
・dアニメストア
・U-NEXT
・アニメ放題
・Amazon Prime Video

【スタッフ】
監督:中村健治
シリーズ構成:大野敏哉
キャラクターデザイン:宇木敦哉
アニメーションキャラクターデザイン:高橋裕一
音楽:栗コーダーカルテット
制作:A-1 Pictures
製作:tsuritama partners

【キャスト】
真田ユキ:逢坂良太
ハル:入野自由
宇佐美夏樹:内山昂輝
アキラ・アガルカール・山田:杉田智和
ココ:加藤英美里
海咲:冨永みーな
さくら:小倉 唯
えり香:山本希望
ケイト:平野 文

オフィシャルサイト

『つり球』Blu-ray Disc BOX

発売中

【価格】 24,000円+税
【収録話数】 全12話(本編ディスク3枚)
【品番】 ANZX 13321~13323
【特典】高橋裕一 描き下ろしジャケット、大野敏哉 書き下ろし短編小説、スペシャルブックレット、オーディオコメンタリー 特典映像:ノンクレジットオープニング&エンディング、予告編ムービー
※オーディオコメンタリー&特典映像は、Blu-ray&DVDシリーズに収録されたものと同内容となります。

『つり球』Blu-ray Disc BOX 特設ページ

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