マンスリーWebマンガ時評  vol. 6

Review

「転生もの」作品は主人公の「欲求・動機」の違いに注目するとおもしろい! 最新アニメ化3作品を比較

「転生もの」作品は主人公の「欲求・動機」の違いに注目するとおもしろい! 最新アニメ化3作品を比較

今回は、2020年春クールに放映されている「小説家になろう」発のアニメ化作品のマンガ版を3作紹介したい。どれも主人公が現実世界で死んで異世界(ひとつはゲーム)の人物に転生/意識に入り込む、という作品だが、主人公の「欲求・動機」面から見るだけでも相当に違うのだ。

文 / 飯田一史


人が欲しがるものはおおよそ手に入る主人公が真に求めるものとは?

©Hiroki Kusumoto,Y.A/KADOKAWA

『八男って、それはないでしょう!』(キャラクター原案:藤ちょこ/原作:Y.A/漫画:楠本弘樹)

『八男って、それはないでしょう!』は、僻地の領主である貧乏貴族の幼い八男の身体に憑依した25歳の日本人商社マンが、その稀有な魔法の才能と現代世界での知識や人生経験を活かして無能な兄や父を押しのけるようにしてのし上がり、領地を広げて開発し、複数の美少女を妻にめとっていく、という作品だ。
お家騒動ものであり、領地経営ものである。

主人公のヴェンデリンは物語序盤で、個人としては一生かかっても使い切れないくらいの莫大な財産を手に入れる。そして彼は思う。
「一生働かなくても生きていけそうだが、それでは人生もつまらないであろう。 /何しろこの世界には、ゲームも漫画もネットも存在しないので、物凄く退屈してしまうであろう」と。
つまり、彼が異世界での生活に何を求めるかといえば、一種の退屈しのぎなのだ。

ヴェンデリンはその世界でトップクラスの魔法使いから薫陶を受けて能力を伸ばし、しまいにはその師匠まで超え、師匠の弱点だった体力面も存分に鍛えて、異世界で彼を上回る力を持つ存在はほとんどいなくなる。
さらには物語序盤で古代竜を倒して若くして名声を得て以降も数々の困難を乗り越え、偉業を成し遂げる。
領地を豊かにし、広げ、人の上に立つ存在となり、民を救う。
兄弟間での争いや戦争に勝つ。
政略的な結婚も含めてだが美少女、美女を妻として複数迎え、性愛面でも満たされる。

人の欲望には際限がない……とよく言う。
それは一面では正しいが、しかし、食欲にしろ性欲にしろ睡眠欲にしろ承認欲求にしろ、限界はある。
満たされれば、ある一定以上のものはいらなくなる。
「持てる存在」になったとき、人は何を望むのか?
世俗的な欲求が早々に満たされてしまう『八男』は、そういう「動機」の部分から読むとおもしろい……主人公に強い内的動機がなくてもストーリーがつくれる、という意味でも。

コミック版『八男って、それはないでしょう!』試し読み・ご購入はこちら(ComicWalker)
https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_MF00000009010000_68/

「本」が欲しいのに手に入らない! 「下剋上」は権力争いにも発展

©Suzuka/Miya Kazuki

『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』(原作:香月美夜/漫画:鈴華(第一部~第二部)、漫画:波野 涼(第三部)/イラスト原案:椎名 優)

普通の人が欲しがるようなものはだいたい手に入る『八男』の主人公に対して、『本好きの下剋上』の主人公は自分が心底欲しいものがなかなか手に入らない。

『本好きの下剋上』では、現代日本に生きていた本好きの女性が異世界のマインという少女の意識に入ってしまう(もともといたマインは「身喰い」と呼ばれる高熱を引き起こす現象によって命を落とす)。
この作品の主人公は、「本好き」と言っても「活字が読みたい」にとどまらない。彼女は物質・物体としての「本」が好きなのだ。異世界の一般家庭レベルの生活水準では貴重品である本に飢えた彼女は、文字を覚えて読めるようになる。のみならず、異世界で紙をつくり、インクを手に入れ……徐々に本づくりを試みていく。

第一部は本と家族と友人たちとの話でほとんどが進む。
神殿図書館を発見した主人公が神殿長に直談判したあとの第二部では、ある職業に(本を読みたいがために)就き、いったん本づくりが後景に退く。
ただまた「本をつくりたい」と言い出してからはもとの路線に戻り、本の原価計算まで行い、図書館を荒らす人間が現れると怒りまくって「血祭りにあげる」と宣言、日本十進分類法(「小説」だったら「913.6」というあれ)にもとづき散らかされた図書館を整理することに大興奮、という「司書あるある」「図書委員あるある」話に突入していく。

「本は一点ものの芸術品」と思っている神官長と、現代日本という「本が大量生産できる時代」からやってきた主人公との書物観の違いは、出版文化論/出版産業論的におもしろい。
中世末期から始まった宗教改革は、グーテンベルクの印刷技術による聖書の出版形態の変化に後押しされたものだったと言われている。
本の力、情報伝播力は権力構造を変える……第二部後半からはそうした側面が描かれ、主人公はもともと本を読み、作りたかっただけなのに、権力闘争に巻き込まれていく。

かつて本は、そこに記された情報も、物体としても貴重で、危険だった。
本作は、本が権力と結びついていたことを、本や情報があふれかえる今、思い返させてくれる作品だ。

TOブックス『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~」特設サイトはこちら
http://www.tobooks.jp/booklove/

「死にたくない!」と思ってする行動が世界に愛をもたらす

©ひだかなみ・山口悟/一迅社 2020

『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』(キャラクター原案・コミック:ひだかなみ/原作:山口 悟)

『はめふら』こと『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』はいわゆる「悪役令嬢もの」の著名作品のひとつ。
乙女ゲームの中でヒロインをいじめ、だいたい最後は悲劇的な結末を迎える悪役令嬢キャラに転生してしまう、というのが「なろう」の女性向けで一大潮流となった「悪役令嬢もの」である。
この作品の主人公の動機は単純明快。「死にたくない!」だ。

『はめふら』では、主人公の女子高生が、プレイしていた乙女ゲームの悪役令嬢カタリナに転生してしまっていた――ことに、8歳の時に前世の記憶を取り戻して気付く。
ゲームではプレイヤーキャラであるマリアにいじわるをするカタリナは、さまざまなエンディングのほとんどで破滅を迎える。それを避けるために、主人公はマリアに対して徹底的に好意的に振る舞う。のみならず、ゲームでは攻略対象である(マリアとくっつく可能性がある)男性キャラクターに対しても、またそれ以外のあらゆる人たちに対しても、自分の死亡フラグを立てないために友愛的に振る舞い、奔走する。

悪役令嬢ものには、韓流・華流ドラマの「後宮もの」的な女性同士のギスギスしたマウンティング合戦、貴族間の権謀術数渦巻く勢力争いを描いていく作品もあるが、『はめふら』にはそういう昼ドラ的、ないしは後宮ドラマ的な陰湿さは薄い。
時にコミカル、時にサスペンスフル(ゲームでは起こらなかった事件が起こり、その謎を追う)、そして時にハートフルだ。

「死にたくない」という利己的な動機から始まっていたはずが、死亡フラグを立てないよう各キャラに対して相手のことを思って振る舞い続けた結果、皆にとって非常に居心地のよい空間ができあがっていく。
ここが『はめふら』のおもしろいところだ。

コミック版『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』試し読み・ご購入はこちら(ゼロサムオンライン)
https://online.ichijinsha.co.jp/zerosum/comic/hametu


原作のなろう版や書籍版、マンガ版ではアニメ放映部分よりはるかに先まで読むことができる。アニメの放送が待ちきれなければ、本やウェブをぜひ覗いてみてほしい。
また、外に自由に出られないことで、いろいろな欲求が抑圧されている今こそ、キャラクターたちの「欲求・動機」に注目して読むことで、自分は何をいちばん求めているのだろう? と見つめ直すのもいいかもしれない。

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