放送終了でも今から観たい!イッキ見推奨アニメレビュー  vol. 13

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軽い気持ちで見始めたら激ハマり!『推しが武道館いってくれたら死ぬ』アイドルオタじゃなくても大好きになれる説得力とすがすがしさ

軽い気持ちで見始めたら激ハマり!『推しが武道館いってくれたら死ぬ』アイドルオタじゃなくても大好きになれる説得力とすがすがしさ

2020年冬クール、オンエアを終えたTVアニメの中から、アニメライターが「ぜひ観てほしい!」と熱望するオススメ作品をピックアップ。リアルタイムでの放送を見逃した方は、ぜひBlu-ray/DVD、サブスクリプションサービスでその魅力を味わってください。今回取り上げるのは、オタク心の真髄に迫る新基軸のアイドルものコメディ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』!

文 / 阿部美香


思わず“さん”付けになってしまう…えりぴよさん“舞菜推し”のけなげさ

『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(通称、『推し武道』)は、2017年の「このマンガがすごい!2017」オトコ編や第3回「次にくるマンガ大賞」コミックス部門でも注目を集めていた平尾アウリの同名ヒット漫画、待望のアニメ化作品だ。……という情報を筆者は後から知った新参者だったが、アニメが始まって2話、3話と観ていくうちに、「そりゃあ面白いわけだ!」と膝を打った。

「ああ、また女の子アイドルグループ物か。まぁ、ドルオタ視点からのお話というのは新鮮だから、ちょっと観てみるか」なんて、ナメてかかってほんとに申し訳なかった! 本作は純然たるコメディではあるが、全12話を観終えてみれば、人が人をなんの見返りも期待せずに愛し続け、純粋な心で応援する姿がいかに尊いものか! を爽快に味わせてくれる、笑いあり、感動ありのじつに楽しい作品だった。

主人公は、岡山県のローカル地下アイドルグループ「ChamJam」の一番人気のないメンバー・市井舞菜(CV:立花日菜)を“推す”ことに人生を捧げるオタク女子“えりぴよ”(CV:ファイルーズあい)。それまでアイドルに興味がなかったえりぴよは、ある日、偶然観たChamJamの野外ライブで舞菜に一目惚れ。今では、ChamJamの握手会に参加するCDを“積む”(買いまくる)ために、アルバイトを何本も掛け持ちして収入をつぎ込み、オシャレするためのお金がもったいないからと、高校時代の赤ジャージしか着ず、常に舞菜のことしか考えない唯一の舞菜トップオタとして君臨している(舞菜推しのファンが増えないのは、誰もえりぴよさんに対抗する勇気が持てないから……という本末転倒な理由もある)。

だが肝心の、お目当ての舞菜は、引っ込み思案で人見知り。自分だけを推してくれるえりぴよさんの応援に感謝し、えりぴよさんにも好意を寄せているのに、不器用すぎて自分の気持ちを伝えられず、つい“塩対応”になってしまう。しかし、えりぴよさんはそれを、“私なんかに応援されても舞菜は嬉しくないのも当然”と納得し、さらに応援力をアップさせていく。じつにけなげだ。

そんな“両片思い”ともいえるふたりのすれ違う距離は、もっと親しくなれるキッカケを随所に散りばめられながらも、見事なまでに縮まらない。だからなおさら(たとえオタク文化にネガティブなイメージを持っている人でも)、観る人はふたりの進展にやきもきさせられ、無償の愛を注ぎ続けるえりぴよさんに、知らず知らず感情移入してしまう。この構造の既視感は、まさに少女漫画のめちゃ良く出来たピュアラブストーリーじゃありませんか!

表情から振り付けまで。アイドルたちを繊細に表現する “手描きアニメ”

……というところで、もうひとつ気づくのだ。もしも、えりぴよさんの役回りが女性ではなく男性だったら、『推し武道』をここまで爽やかな気持ちで、面白く観ることができただろうか?と。

コメディとはいえ、限りなく恋愛に近い構図が描かれながらも、いわゆる“百合”にも傾くことなく、えりぴよさんの想いを生臭さが一切ない健全なオタク感情として共感できるのは、女性を主人公に設定した原作の目の付けどころの秀逸さだ。舞菜への愛を本人にも押し出し強く公言するくせに、徹底した“推しのアイドルにはけっして迷惑をかけない!”スタンス(まさにドルオタの鑑!)を貫いていることも、この作品の上品さと健全さに磨きをかけている。だから誰が観ても面白い。

それは、丁寧に原作を構成し、柔らかで繊細でキュートな絵柄をアニメーション表現として丁寧に作画していったアニメスタッフの腕も大きい。監督は『N・H・Kにようこそ!』や『ヤマノススメ』で知られる山本裕介。

本作は、最近のアイドルものアニメ作品には珍しく、(ほんの一部を除いて)ChamJamが歌い踊るライブシーンが3DCGやモーションキャプチャーを使わず、手描きで表現されているのも特徴だ。そのぶん、止めたレイアウトで見せる画も多くはあるが、衣装や髪の毛の優雅なヒラヒラ感、キャラクター達の微妙な表情の移り変わりする様子も繊細に描かれるので、“動かない物足りなさ”はさほど感じない。むしろ、「この曲の振り付けは、実際はどんな感じなのかな?」と想像させられる新鮮さがある。そんな余白が、視聴者が架空のアイドルChamJamをもっと観たい、応援したくなるというマジックにも繋がっている。2Dアニメの良さあってこその『推し武道』の面白さだ。

加えて、シリアスに舞菜を想う気持ちと、奇行に走るえりぴよさんのいかにもオタクらしいハイテンションさのはっちゃけたギャップを、いい芝居で魅力度をアップさせている新人声優・ファイルーズあいにも拍手を贈りたい。

思わずグループ全員を“ハコ推し”したくなる説得力。まだまだ続きも観たい!

えりぴよさんの現場仲間が、愛情を持って描かれている点も、作品の上品度を上げている。とくに、自身もアイドル好きだという原作者・平尾アウリが、あるインタビューで「アイドルオタクの考える最高の良オタを描いた」と語っていた、黒縁メガネに小太りな体型と、典型的なオタクビジュアルの“くまさ”(CV:前野智昭)の存在は大きい。

劇中では、えりぴよさんと舞菜の橋渡し的な役割も果たすくまささんは、ChamJamのセンターを張る苦労人・れおのトップオタ。温かく静かに無償の愛を注ぐことで、れおとの信頼関係を構築している。押しの強いえりぴよさんとは対照的な良オタ性とアイドルとの関係性が、えりぴよさんと舞菜のもどかしい信頼関係を、さらに浮き上がらせている。

ファン側の心理だけでなく、アイドル側のファンへの愛情と、個々のメンバーの“アイドルを頑張る”心理とグループの成長が、真っ直ぐに過不足なく描かれているのも『推し武道』の良さだ。はじめは舞菜に注目してしまうが、各メンバーの魅力もちゃんと伝わり、ChamJam全員をハコ推ししたくなる。そんな中で、ちゃんと舞菜がグループ内で一番人気を獲得できていない理由を察せられる描写があるのも、説得力があり、えりぴよさんが舞菜を推す気持ちにより共感できる仕掛けとなっている。

筆者と同じように『推し武道』の原作を知らなかった人の中には、“推し”、“地下アイドル”、“ドルオタが主人公”といった強烈なキーワードにより、本作を敬遠していた人も少なくないはず。地下でも地上でも、現実のアイドルシーンはもっとドロドロしているのかも知れないが、リアルな「ドルオタあるある」を挟みつつ展開する物語は、理想のアイドルとファンの関係性を描くファンタジーとして、観ていてとても心地いい。

12話までのストーリーは、いいところで完結しているが、えりぴよさんが願う舞菜とChamJamの武道館までの道のりは、まだまだ長い。岡山のローカルアイドルから全国区を目指すChamJamの奮闘と、えりぴよさんと舞菜の交流のその先、シーズン2の制作も熱望してます!

TVアニメ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』

FOD独占にて見放題配信中
https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/anime/ser5a87/

【スタッフ】
原作:平尾アウリ(徳間書店 リュウコミックス) 監督:山本裕介 シリーズ構成:赤尾でこ 
キャラクターデザイン:下谷智之/米澤優 CGディレクター:生原雄次 色彩設計:藤木由香里 
美術監督:益田健太 美術設定:藤瀬智康 撮影監督:浅村徹 編集:内田恵
音響監督:明田川仁 音響効果:上野励 音楽:日向萌 アニメーション制作:エイトビット
OPテーマ:ChamJam『Clover wish』
EDテーマ:えりぴよ(CV:ファイルーズあい)『♡桃色片想い♡』

【キャスト】
えりぴよ:ファイルーズあい
市井舞菜:立花日菜 五十嵐れお:本渡 楓 松山空音:長谷川育美 伯方眞妃:榎吉麻弥 水守ゆめ莉:石原夏織 寺本優佳:和多田美咲 横田 文:伊藤麻菜美 くまさ:前野智昭 基:山谷祥生 玲奈:市ノ瀬加那

オフィシャルサイト

©平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会

原作コミック

平尾アウリ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』

『COMICリュウweb』(徳間書店)にて連載中/第1巻~第6巻が現在発売中

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