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アニメ『攻殻機動隊SAC_2045』12話を完走してわかった、従来にない性質の面白さ。実はシリーズ初心者にこそオススメの理由とは?

アニメ『攻殻機動隊SAC_2045』12話を完走してわかった、従来にない性質の面白さ。実はシリーズ初心者にこそオススメの理由とは?

士郎正宗によるコミック『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』を起源として、アニメ、ハリウッド実写映画なとの“ユニバース”を広げてきた『攻殻機動隊』アニメ最新作、『攻殻機動隊SAC_2045』が、Netflixにて全世界独占配信をスタートした。

本作の舞台は、全ての国家を震撼させる経済災害「全世界同時デフォルト」が発生し、AIの爆発的な進化による、世界的な計画的かつ持続可能な戦争“サスティナブル・ウォー”に突入していた2045年。突如現れた“ポスト・ヒューマン”と呼ばれる驚異的な知能と身体能力を持つ存在に対抗するため、全身義体のサイボーグである草薙素子と解散していた元・公安9課のメンバーが再び集結する――。

『攻殻機動隊S.A.C.』シリーズを手がけた神山健治と、『APPLESEED』シリーズの荒牧伸志が共同監督を務め、田中敦子、大塚明夫、山寺宏一など『攻殻機動隊S.A.C.』シリーズのオリジナルキャストが再集結した『攻殻機動隊SAC_2045』。マニア必見の話題作を観てみたら……意外にも、“『攻殻』って難しそうじゃない?”と今まで二の足を踏んでいたビギナーにこそ薦められる真っ直ぐな作品だった!

文 / 阿部美香


公安9課の面々が満を持して集結する『アベンジャーズ』的なカタルシス

敷居が高いものというのはどのジャンルにもあって、音楽ならジャズやクラシック。小説なら純文学。映画ならミニシアターでやっているアート系などなど。アニメも同じで、なんとなく敷居が高くて手が出ない作品というものはある。そんなアニメのひとつが、『攻殻機動隊』(以下、『攻殻』)の名を持つ作品群ではないか。「海外でも大人気、日本を代表するめちゃめちゃクールで面白い作品だと聞いてはいるし、ぜひ観てはみたいけど……ちょっと敷居が高い」といったイメージ。出てくる用語や扱っているテーマが難しそうとか、さらに同じタイトルを冠したシリーズ作品が多く、どこから見出せばいいのか分からない!と感じる人もいるだろう。

とくに『攻殻』は、1995年に押井守監督の名を世界に知らしめた『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』や『イノセンス』、2002年から3タイトルが制作された『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズ、キャラクターたちの若き日を描いた『攻殻機動隊ARISE』シリーズなど、作品がひしめいている。さらに言えば、それぞれの作品を一貫する世界観、共通のキャラクターやテクノロジーの設定はあるものの、各作品ごとに時代背景やテーマ性、明確な繋がりは薄い。となればなおさら、どこから手を出せばいいのかが悩ましい。

そんな中での、最新作『攻殻機動隊SAC_2045』の登場である。1シーズン全話を視聴しての結論を先に言ってしまうと、本作配信スタート!の今こそが、『攻殻』ビギナーが、電脳の海に飛び込む格好のチャンスだと思う。理由ははっきりしている。『攻殻機動隊SAC_2045』は、ビジュアルも物語の展開も、今までの『攻殻』っぽさからはみ出た新しいモノになっていたからだ。それはつまり……これまでの『攻殻』を観ていなくても、面白さを堪能できることとイコールだ。

あらすじでは、全世界同時デフォルト、サスティナブル・ウォー、ポスト・ヒューマン……と、難しいカタカナ語が飛び交っている。が、ここは“テクノロジーと資本主義が結びついたらAI等のおかげで世界金融が破綻して、結局、一般庶民が一番迷惑をこうむっている”状況や、“経済を回すために、力を持った民間の軍事会社が中心となって、世界のあらゆるところで計画的に戦争を続けている”状況があるんだなぁ、とざっくり押さえておけば大丈夫! あとは実際に本編を観ていけば、アメコミ映画的、SFヒーロー映画的なノリでストレートに楽しめてしまうはず。

とくにそれを感じたのは、(全12話のうち)前半6話。公安9課が離散後、日本に残り、民間警備会社でどんよりしながら働いていたトグサ(CV:山寺宏一)のもとに、元上司・荒巻(CV:阪脩)が組織再興のために、(自らのデータを抹消してアメリカで傭兵部隊として大暴れしていた)少佐(草薙素子)やバトーたち、かつての仲間を探し出せという命を下す。トグサが少佐たちに出会うまでの奮闘ぶりや、最強傭兵部隊として暴れまくっている少佐たちの活躍はぜひ本編で確かめてほしいのだが、戦いのエキスパートである彼らが、満を持して再集結する様は、『アベンジャーズ』や『オーシャンズ11』を思い起こすカタルシスに満ちている。

背景世界としても、前半6話は“サスティナブル・ウォー”により荒廃しきった世界を描き、公安9課が日本に戻る再集結後の7話以降は、世界同時デフォルトの影響下にあり、残虐な殺人を繰り返す日本の“ポストヒューマン”を追う物語へと変容していく。これは、複雑な事件と事件が螺旋のように絡み合い、ダイナミックな公安9課の活躍により、重層的にスケールの大きな物語があぶり出されていく……というような今までの『攻殻』の設計図に比べると、ストーリー展開が把握しやすい。

逆説的に、ほぼ寄り道なしに一本道で進んでいく『攻殻機動隊SAC_2045』のストーリーは、現在のシーズン1に限っていえば“あっさり”度が高い(ウンチクを語らいながら楽しむワインやウィスキーと、爽快な喉ごしが味わいの大部分を占めるビールくらいの違いはある)。その点で、従来の『攻殻』ファンにとって物足りなく感じられる部分があるかもしれないが、エンタメ色が強く「素直にワクワクできる」点で『攻殻』ビギナー向きだと筆者は好意的に解釈している。

フル3DCG、新キャラクター、そこに賛否があろうとも「続きを早く!」と思わせるストーリーの強さ

『攻殻機動隊SAC_2045』ではビジュアル面でも、『攻殻』初のフル3DCGアニメという新しい表現に堂々とチャレンジした。とくにアメリカを舞台に、少佐率いる傭兵部隊がバリバリにド派手なバトルを繰り広げる前半のエピソードでは、武器、兵器や車などのオブジェクトが3DCG化されたことでのカッコいいメカアクション、キャラクターアクションの迫力が、素直に楽しめる。個人的には第1話冒頭、少佐たちの部隊がタチコマを乗せ、荒れ果てたアメリカの市街地を抜けて砂漠地帯へとジープとごついトラックを走らせ、チンピラ暴徒とヒャッハー!するチェイスバトルは、フル3DCGならではの見ごたえを感じたポイントだ。

3DCGのキャラクター造形に関しては、従来の2Dで描かれてきた『攻殻』を知っている目からは厳しい見方にならざるを得ない面もある。つるっとしたモデリングのルックは、“人形”感が強めに出ており、『攻殻』キャラとしては正直かなり若々しくも見えた。とくに、動きの少ない会話ドラマパートでは、『攻殻』の芝居を知り尽くしたキャストによる重厚感ある演技が展開されるため、画と演技のギャップに戸惑うことも。ただしその上で、観る者の集中力はどんどんストーリーへと移っていくので、見た目の違和感が初めはあっても次第に薄れていくということもお伝えしておきたい。

キャラクターといえば、7話以降に登場する新生・公安9課の新メンバー・江崎プリン(CV:藩めぐみ)にも驚いた。ピンク髪のメガネっ娘なルックスも弾けた性格も、動いている時の女の子っぽい仕草(モーションキャプチャを使っているので、妙に生々しい!)も、すべてがアニメキャラクターらしさに満ちている。これまでの『攻殻』キャラにはないテイストは、意地悪に言えば軽くて浮いているし、逆に良い意味では新鮮。そこにも『攻殻機動隊SAC_2045』ならではの感覚があり、彼女が今後また違う存在感を見せてくれるかもしれない、とも密かに期待している。

逆に、3DCGになったことでメカメカしいかわいさを増したのが、『攻殻』のマスコット的存在──AIにより自ら考え行動する、多脚思考戦車「タチコマ」だ。(声優は玉川砂記子ただひとりだが!)何機ものタチコマが、ワイワイ・キャイキャイ賑やかに話している様子や、バトルでいい活躍を見せて自慢げに手(?)を挙げて喜ぶ様子は、本当にキュート! 従来の『攻殻』ファンも十分納得の、特別な存在感をタチコマに感じてもらえることだろう。

このように、ところどころ気になるポイントはありつつも、『攻殻機動隊SAC_2045』では総じてストーリーのワクワク度が高く、“世界に引き込む吸引力”の強さをまずは素直に喜びたい。配信スタート後のファンの評価としても、「いろいろ言いたいことはあるけど……やっぱり面白い!」が多くを占めているようで、筆者もこれに同意見だ。さらに言うと、第12話までを見終わっても、物語の真相はまだ闇の中。筆者も、「え、ここで終わり? 続きを早く!」とリアルに声をあげてしまったほどだ。

ここからが本番だ、といわんばかりの『攻殻機動隊SAC_2045』シーズン1・全12話。マニアと同じスタートラインに立てるという意味で、『攻殻』ビギナーに今観てほしいシリーズにもなった。あとは次なるシーズン開始までに『攻殻機動隊S.A.C.』シリーズを復習してもらえたら、さらに楽しみは深まるだろう。

Netflixオリジナルアニメシリーズ『攻殻機動隊SAC_2045』

Netflixにて全世界独占配信中(中国本土を除く)

【メインキャスト】
草薙素子:田中敦子
荒巻大輔:阪 脩
バトー:大塚明夫
トグサ:山寺宏一
イシカワ:仲野 裕
サイトー:大川 透
パズ:小野塚貴志
ボーマ:山口太郎
タチコマ:玉川砂記子
江崎プリン:潘めぐみ
スタンダード:津田健次郎
ジョン・スミス:曽世海司
久利須・大友・帝都:喜山茂雄
シマムラタカシ:林原めぐみ

【メインスタッフ】
原作:士郎正宗「攻殻機動隊」(講談社 KCデラックス刊)
監督:神山健治 × 荒牧伸志
シリーズ構成:神山健治
キャラクターデザイン:イリヤ・クブシノブ
音楽:戸田信子 × 陣内一真
オープニングテーマ:「Fly with me」millennium parade × ghost in the shell: SAC_2045
エンディングテーマ:「sustain++;」Mili
音楽制作:フライングドッグ
制作:Production I.G × SOLA DIGITAL ARTS
製作:攻殻機動隊2045製作委員会

©士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

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