おうちでライブ三昧  vol. 2

Review

Nulbarich 生み出される快楽的な音楽。圧巻のさいたまスーパーアリーナ公演を収めた初のライブ映像作品

Nulbarich 生み出される快楽的な音楽。圧巻のさいたまスーパーアリーナ公演を収めた初のライブ映像作品

世界中で“STAY HOME”が共有されるなか、家の中で楽しめるライブ映像作品を紹介する“おうちでライブ三昧”。音楽ライター・森朋之がセレクトした5本を紹介。


Nulbarichの初のライブ映像作品『Nulbarich ONE MAN LIVE -A STORY−』には、2019年12月1日にさいたまスーパーアリーナで行われたワンマンライブの模様が収録されている。約1万5,000人のオーディエンスが足を運んだこの公演でNulbarichは、キャリア全体を網羅したセットリストを披露。2016年から3年間の活動をすべて注ぎ込んだ、圧巻のステージを繰り広げた。

本作を紹介する前に、Nulbarichのこれまでの歩みについて簡単に記しておきたい。

2016年10月にリリースしたアルバム『Guess Who?』で突如としてシーンに登場したNulbarichは、それまでトラックメイカー/ソングライターとして活動していたJQがバンドスタイルとして立ち上げたプロジェクト。90年代以降のヒップホップ、R&Bなどをルーツに持つサウンドメイク、ドラマティックなメロディラインが共存する楽曲によってコアな音楽ファンを中心に大きな注目を集め、2ndアルバム『H.O.T』のタイミングで日本武道館公演を実現させるなど、一気に幅広いポピュラリティを得た。ディープな音楽性と誰もが楽しめる間口の広さを兼ね備えたNulbarichは、00年代後半の音楽シーンを象徴する存在となったのだ。

昨年12月のさいたまスーパーアリーナ公演は、瞬く間にブレイクを果たした彼らにとっても大きな壁だったはず。昨年11月に発表されたミニアルバム『2ND GALAXY』に関するインタビューでJQは「サウンドの壮大さだったり、エッジだったり。今回は、あの場所で音を鳴らして、自分が歌っていることが想像できる曲を作りたかったんです」と語っていたが、それはつまり、“既存の曲だけは何かが足りない”という危機感の表れだったのだろう。しかし彼らは、この高いハードルを完璧なフォームで超えてみせた。そう、Nulbarichは初のアリーナ公演で、これまでのライブのスケール感を大きく凌駕する圧倒的なステージングを見せつけたのだ。

『Nulbarich ONE MAN LIVE -A STORY−』の全編を貫いているのは、Nulbarichが生み出す快楽的な音楽、そして、どこまでも自由に反応し、楽しみまくるオーディエンスの姿だ。

ステージに映し出された“NULBARICH”の文字が消え、波をイメージさせる照明とともにJQとバンドメンバーが登場。シルエットしか映らない状態で「Rock Me Now」「Zero Gravity」という強靭なダンスチューンを繰り出し、会場を埋め尽くした観客が身体を揺らしまくる。宇宙空間を想起させる巨大な空間のなかで、ブラックミュージック、オルタナティブロックなどを融合させたサウンドが響き渡るシーンを観れば、“気持ちよさそう!”という感情が湧き出てくるはずだ。

この日のNulbarichは、ツイン・ドラムを擁する7人編成。豊潤なビートを響かせるドラム、骨太なラインを描き出すベース、鋭利にしてテクニカルなギター、美しいコードワークで楽曲を支える鍵盤が結びつくアンサンブルは、まさに極上だ。「意外と見えておる。楽しめそうな予感がしておる」というJQのコメントからも、内側に秘めた自信が伝わってくる。

バンドの実力を示したのは、「お楽しみタイム」として披露された、メンバー6人のジャム・セッション。JQがMPCでシンセと英語のラップをループさせ、いったんステージから去る。ステージに残ったメンバーは、シンセとラップをもとにしながら自在に音を重ね、その場で楽曲が生み出されていく。JQの説明した通り、このセッションは普段の楽曲制作に近いのだとか。高い技術を持ったミュージシャン同士の血の通ったコミュニケーションによってNulbarichの音楽は支えられている。そのことを生々しく体感できる貴重な場面だ。

オーディエンスの興奮をさらに引き上げたのは、「NEW ERA」だった。アルバム『Guess Who?』に収録されたこの曲は、Nulbarichの知名度を上げた代表曲の一つ。心地よく揺れるビート、洗練されたメロディラインとともに<変わらない笑みで you set me free>という大合唱が起こり、会場に笑顔が広がる。さらに(冒頭のドラムを聴いて)「お、噂のヒップホップドラマー。やってんな!」というJQの嬉しそうな言葉に導かた「Kiss Me」、“いい時も悪いときも、自分のスピードで進んでいこう”とメッセージする名曲「Sweet and Sour」、ギターのイントロが鳴った瞬間に大歓声と拍手が巻き起こった「Kiss You Back」などを披露。音楽を介した純粋なコミュニケーションによって、さいたまスーパーアリーナ全体にナチュラルな一体感が生まれる。こんなに心地いい音楽体験は、なかなか出来るものではない。

ライブ後半も見どころたっぷり。特に印象的だったのは、最新作『2ND GALAXY』の収録曲「Lost Game」「Get Ready」「Twilight」の楽曲。アリーナ公演を見据えて制作され、従来のブラックミュージックに加え、オルタナティブロック、グランジロックの要素を取り入れた楽曲が鳴り響くシーンはまさに圧巻。そう、この記念すべきライブは彼らの集大成であると同時に、“この先のNulbarich”を示す場所でもあったのだと思う。

ライブ中のMCでJQは「みんな、ここまで連れてきてくれて、本当にありがとう。言ってみるもんですよ、夢って。証明してます。夢は語るべきです。だが、まだ終わっちゃいない。僕たちが購入したこの片道切符がどこまでつながっているのか、僕らもわかりませんが、この電車が止まるまで、見てみたいでしょ?」と語った。海外のブラックミュージック、ダンスミュージックを完全に血肉化し、洋楽/邦楽の枠を超えるオリジナリティを掴み取ったNulbarich。本作『ONE MAN LIVE -A STORY−』で示されたバンドとしてのスケール感、音楽的なポテンシャルの高さによって彼らは、さらに大きなフィールドへ向かって進むことになるはず。本作を観れば、誰もがそのことを確信するだろう。

文 / 森朋之

NulbarichのCD作品はこちらへ。

オフィシャルサイト
https://nulbarich.com

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