山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 82

Column

“世界党”による「個人的な革命」 / 新しい世界のために

“世界党”による「個人的な革命」 / 新しい世界のために

わずか数週間で一変した世界は根源的な問いを私たちに突き付ける。
見えない境界線が引かれた世界で、個と個は、国と国は、人類と自然界は、これからどう関わっていくべきなのか。
経験したことのない状況のなかで、山口洋が見据える音楽、そして世界の未来。


2020年。世界がまさかウイルスの脅威にさらされるとは思っていなかった。国境を軽々と越え、人を媒介として、フェアに人類に襲いかかる。皇太子からバカ殿まで。等しく容赦なく……。

刻々と変わっていく状況。この原稿が掲載される頃、事態がどうなっているのか誰にもわからない。日本は数週間遅れで中国、アメリカ、ヨーロッパを追っているようだが、そのアドヴァンテージを活かしているとはいい難く、先に体験した国のデータがグローバルに活用されているようにも見えない。

見えない境界線のようなものを感じている。なにかが分断されているような。国と国が、スーパーに行けば、人と人とが。それはすべてウイルスに起因するものだろうか?

人類はあまりに無力。ウイルスの前では、家にじっとしている以外、有効な手だても、誰かの役に立つ方法もない。募るのはもどかしさだけ。その分、医療関係者には想像を絶するような負担がかかっていることだろう。

こうなってくると、政治であれ、世界の枠組みであれ、組織であれ、個人であれ、誰であれ。追い込まれることで、本質が露呈してくる。大国の経済力も自慢の軍事力も、ウイルスの前ではほぼ役に立たない。ならば、何をたいせつにすればいいんだろう?

誰かの顔色を伺いながら、怯えて生きるのか。それとも今だからこそ、未来を見すえ、思いやりを持って、気高く生きるのか。

もう誰もオリンピックの話をしない。もう、誰も。

わずか2週間ほど前のこと(3月下旬)。まだ遠方に移動が可能だったころ。雪山で野生のウサギがのびのびと生息しているのを見て、奇妙なショックを受けた。怯えているのは人間だけだったから。彼らはいつだって、生きることに懸命。ただ、それだけ。

テレビ、溢れる情報、インターネット、スマートフォン、SNS、SOS、SNS、SOS。繋がっているなんて、幻想に近い。

ネットじゃウイルスは感染しない。人が動きさえしなければ、拡がらない。でも情報によって、地味にメンタルは蝕まれていく。

じゃ、いったいどうすりゃいいのかって。それは僕にもわからない。けれど、考えたい。模索して、決断して、駒を進めたい。家の中で。これは自分のLIFEだから。命を授かったことは奇蹟だから。

僕らは震災で学んだはずだ。あれはどえらい体験だった。明日があることは普通じゃなかった。

美しかった記憶。自分の前に、誰かを思いやる気持ち。情報に過度に左右されず、自分の頭で考え、判断し、奪いあうのではなく、分かちあうこと。

「元に戻る」ことはないと思う。悲観ではなく。やがて「あんなこともあったね」と思える日が来たとしても。

だから、やがて立ち現れる新しい世界がより良いものになるよう、それを家の中という限定された闇の中で、考えてみたい。

壊れた枠組みを新しく構築していくとき、ほんとうの意味での善きスピリットと連帯していくことはできないだろうか?ほんとうの意味でグローバルになることはできないだろうか、と必死に夢想してみる。

音楽。

敬愛するミュージシャンが僕にこう語る。「墓に刻んで欲しい言葉があるなら、”彼は伝承した” さ」。

今なら僕もわかる。偉大な先達の苦闘のおかげで、自分が存在していることが。CHABOさんの至言をお借りするなら、”何を手渡され、何を手渡すのか”。僕らはもはや握手もできないけれど、手渡し、手渡されて生き継いできたはずなのだ。

The Waterboysを脱退したカール・ウォリンガーが新たに”World Party”として、1986年に発表したアルバム『Private Revolution』。

訳すると、”世界党”による「個人的な革命」。

そのとき、目の前の霧が一瞬で晴れたことを、34年も経つのにはっきりと覚えている。未だに僕はそのヴィジョンに撃ちぬかれたままで、それは自分の行動原理でもある。

“世界党”による「個人的な革命」。

そのアルバムに、ディランの「All Really Want To Do」のカヴァーが収録されている。カールの家でレコーディングされたその曲は、今聴くと稚拙な部分もあるが、外出もままならない状況と重ねあわせて聴いてみると、荒波の海原に向かっていくようなアレンジがあいまって、ひときわこころに響いてくる。

ほんとうのともだちになるために、僕らは果たして荒波を越えていけるだろうか?

蛇足だけれど、このヴァージョンにインスピレーションをもらって、僕は1994年に”新しい朝”という歌を書いた。ディラン発、世界党経由、熱波行き。伝承され、伝承した。

きっとカールはこう言うと思う。「僕は伝承したかったんだ」って。34年の時を超えて、ここにはサヴァイヴするための智慧と叡智とウィットが溢れていると感じている。

感謝を込めて、今を生き延びよう。


All I really Want to do / Bob Dylan 意訳 : 山口洋

I ain’t lookin’ to compete with you 君と張りあってみたり
Beat or cheat or mistreat you 殴ったり、騙したり、虐待したいんじゃなくて
Simplify you, classify you 簡略化したり、分類したり
Deny, defy or crucify you 否定したり、反抗したり、はりつけにしたいじゃなくて

All I really want to do ほんとうにやりたいことは
Is, baby, be friends with you 君と友だちになりたいだけなんだ

No, and I ain’t lookin’ to fight with you 君と争ってみたり
Frighten you or tighten you 怖がらせたり、しめつけたり
Drag you down or drain you down 引きずりおろしたり
Chain you down or bring you down 鎖でつないだり、倒したいんじゃなくて

All I really want to do ほんとうにやりたいことは
Is, baby, be friends with you 君と友だちになりたいだけなんだ

I ain’t lookin’ to block you up 君をブロックしたり
Shock or knock or lock you up ショックを与えて、動けなくしたり
Analyze you, categorize you 分析したり、分類したり
Finalize you or advertise you 完成させたり、宣伝したいんじゃない 

All I really want to do ほんとうにやりたいことは
Is, baby, be friends with you 君と友だちになりたいだけなんだ

I don’t want to straight-face you 君の前で真面目くさったり
Race or chase you, track or trace you 競ったり、追跡したり、探したり、突き止めたり
Or disgrace you or displace you 恥をかかせたり、追いだしたり
Or define you or confine you 定義したり、型にはめたいわけじゃないんだ

All I really want to do ほんとうにやりたいことは
Is, baby, be friends with you 君と友だちになりたいだけなんだ

I don’t want to meet your kin 君の親戚には会いたくない
Make you spin or do you in 君を振り回したり、疲れさせたり
Or select you or dissect you 選んだり、解剖したり
Or inspect you or reject you 検閲したり、拒否したいわけじゃないんだ

All I really want to do ほんとうにやりたいことは
Is, baby, be friends with you 君と友だちになりたいだけなんだ

I don’t want to fake you out 君を騙したりしたくないんだ
Take or shake or forsake you out 連れ出したり、揺さぶったり、見すてたり
I ain’t lookin’ for you to feel like me おなじように感じて欲しくないし
See like me or be like me おなじようになって欲しくないんだ

All I really want to do ほんとうにやりたいことは
Is, baby, be friends with you 君と友だちになりたいだけなんだ

ワールド・パーティー『Private Revolution』

元ザ・ウォーターボーイズのマルチ・ミュージシャン、カール・ウォリンガーによるソロ・プロジェクトのデビュー作。R&Rの先達への敬意と情熱、洗練とポップの粋を万華鏡のように輝かせながら、よく手入れされた庭のように清新な風と牧歌的な安らぎを運ぶ。傑出した才能と世界を見つめる目が詩とサウンドに凝縮された名盤。9曲目「All I Really Want To Do」はディランのカヴァー。シネイド・オコナーも参加。1986年発表。


著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。90年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』に収録された「満月の夕」は阪神・淡路大震災後に作られた楽曲で、四半世紀を経た現在もなお、多くのミュージシャン、幅広い世代に歌い継がれている。“ミュージシャンズ・ミュージシャン”としてその名を挙げるアーティストも多く、近年は野外フェスやR&Rイベントへの出演も多い。バンド結成40周年となった昨年は、40thツアーとして全国を廻り、スタジオ・アルバムとしては2年ぶりとなる新作『Blink』をリリース(オフィシャルサイト、レコード店、大手通販サイト、配信等で販売中)。山口洋 (HEATWAVE) solo tour『Blink 40』後半を中止せざるを得なかった状況を受け、4月12日には自身初となるインスタライヴを決行。全国のリスナーが視聴し、エールをおくった。6月にはバンドでニュー・アルバムの曲を中心に演奏するHEATWAVE TOUR 2020“Blink”、2011年東日本大震災直後に始めたプロジェクト“MY LIFE IS MY MESSAGE”(今年は“Brother&Sister”として仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳、おおはた雄一とステージに立つ)を予定している。なお、延期となった高知市、高松市公演を含め今後のライヴ開催については、逐次オフィシャルサイトを参照のこと。

オフィシャルサイト
http://no-regrets.jp/index.html

ライブ情報

「ミスター・アウトサイド」#001(イベント)

5月19日(火)古書ほうろう ※SOLD OUT
詳細はこちら

HEATWAVE TOUR 2020 “Blink”

6月4日(木)東京 duo MUSIC EXCHANGE
6月6日(土)仙台 CLUB JUNK BOX
6月17日(水)京都 磔磔
詳細はこちら

MY LIFE IS MY MESSAGE 2020|Brother&Sister

6月12日(金)山口洋(HEATWAVE)×矢井田瞳@横浜THUMBS UP(サムズアップ)※SOLD OUT
6月13日(土)山口洋(HEATWAVE)×おおはた雄一×仲井戸”CHABO”麗市@横浜THUMBS UP ※SOLD OUT
詳細はこちら

HEATWAVE OFFICIAL SHOP

vol.81
vol.82
vol.83