今、知っておくべき注目声優を解説します!  vol. 4

Column

『FF7リメイク』クラウドの声はなぜ人々を魅了する? 声優「櫻井孝宏」たった一言のセリフにも宿る表現力

『FF7リメイク』クラウドの声はなぜ人々を魅了する? 声優「櫻井孝宏」たった一言のセリフにも宿る表現力

この人の声を知っておけばアニメがもっと楽しくなる(はず)! 今、旬を迎えている声優の魅力をクローズアップする連載コラム。今回は、ついに発売された超大作RPG『FINAL FANTASY VII REMAKE』で主人公クラウド・ストライフ役をつとめている櫻井孝宏さんの声を徹底分析。アニメにおける代表作の数々とともに魅力を解き明かします。


「だが断る」レベルの短いセリフにこそ魅力は宿る

以前、ある大人気声優にインタビューした時のことだ。ふと思い立って、ふだんなら聞きにくい素朴な疑問をぶつけてみた。「これはいい声だ!と思う男性声優は誰ですか?」 普通なら、こういった大上段に構えた質問には、かつて憧れていたレジェンドの名前を挙げる人が多いものだし、聞いたこちらも、きっとそういう人の名が出てくるのだろうと予想していたら……意外にもその彼は、ニコッと微笑みながら、自分と同年齢の人の名をこう告げた。「櫻井孝宏くん。彼の声はほんと、ずるいんだよね」

同業者をして「ずるい」と言わしめる櫻井孝宏の声。まず思い付くのは、しっとりとほのかな湿り気を帯びた柔らかでまろやかな声質だろう。ナチュラルな音域は低音寄りだが、誰もが思うストレートな“ザ・低音”というわけではなく、低音域の中でも、(とくに少年役を演じるときに特徴的な)柔らかな中音域へと手が届く豊かな膨らみと幅のある音域が、さらに彼の声の心地よさを増している。

さらに言うなら、息づかいの巧みさも彼の声の心地よさの一端を担っている。とくにセリフの文章の最後、語尾の部分が“ふっ”と抜ける感覚は、彼の声本来の優しさ、柔らかさを強調するだけでなく、巧みな演技としても様々な感情の揺れ動きを表現する。

それが証拠に、櫻井の芝居の奥深さは、「そうだな」「ああ……」「ありがとう」「いいよ」などの、ごくごく短いセリフで本領を発揮する。短いセリフにこそ、さりげなくキャラクターの心情が凝縮されるものだが、そこをさりげなく表現する櫻井の実力にも、ぜひ注目してほしい(アニメ『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』岸辺露伴の名台詞「だが断る」にも、そんな櫻井の端整な表現が凝縮されていた!)。

その声質の良さを例えるなら……“熟した桃”か?

もうひとつ、音として櫻井の魅力を増幅させている大事な要素だと思うのが、彼の声に含まれている“湿り気”だ。いわゆる“いい声”には、乾燥していない“艶”のある・なしもポイント。

その艶の度合いが櫻井の場合は、けっして直線的な光を放つ水気の多い“つやつや”や“つるつる”ではなく、ほんのりと湿り気をまとったマイルドな“すべすべ”に近い。けっして表面が露わになってはいないず、ごく薄く柔らかなヴェールを纏ったような絶妙な“すべすべ感”。櫻井の声はよく“癒しボイス”と言われているが、彼の癒し要素は肌に直接触らない、生肌に触れるか触れないかの薄さのヴェールがあることで成立しているような気がする。

果物に例えるなら、熟した桃だ。桃の果皮は繊細で傷つきやすいがゆえに、それを守るために表面はびっしりと柔らかい産毛に覆われている。そんな産毛があるからこそ、我々は美味しい桃を食べさせてもらえている。美味しい桃ほど産毛はしっとりとした水気を感じるように寝ていて、手に取った感触もすべすべと滑らかなのだそうだ。そんなところも櫻井の声の魅力に通じている。

しかし桃の産毛もときには、チクリと肌を刺し、痛みを残す。櫻井の声には、どこか“痛み”を感じさせる影もまとわりついている。薄いヴェールの向こうには、闇めいたものが潜んでいるようだ。

そんな闇の櫻井孝宏ボイスを堪能させてくれるのは、もちろん闇を抱えた陰のあるキャラクターだ。孤児院育ちで育ての親を殺した犯人として追われていた島村ジョーを演じた『サイボーグ009 THE CYBORG SOLDIER』(2001~2002年)は、櫻井の出世作のひとつ。主人公ルルーシュの親友として何度も友を救いつつも、思想の違いと真面目さ、純粋さゆえの狂気が入り混じる複雑な枢木スザク役で、ファンに強烈な印象を残した『コードギアス 反逆のルルーシュ』。圧倒的な知性とカリスマ性、己の真理を純粋に執行するがゆえのクールな残虐性をいかんなく発揮したシリーズ最高の敵役・槙島聖護を演じた『PSYCHO-PASS サイコパス』など、挙げだしたらキリがない。

最新の作品では、世界的な傑作RPG、待望のリメイク版として話題を呼んでいる『FINAL FANTASY VII REMAKE』、そして『FFVII』のその後を描いたCGムービー作品『FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN』(2005年)におけるクラウド・ストライフ役も、陰のある櫻井孝宏キャラクターの代表格といえるだろう。

“声優界一のレシーバー”たる所以

同時に、陰のあるクールなキャラクターが、ふと弱みを見せたときの消え入るような弱々しさと、そこから開き直ったときの感情の爆発的な表現も絶品。そのあたりは、櫻井の演技の幅の広さと懐の深さの魅力といえる。MCとしてどんなシチュエーションにも対応し、ユーモアと鋭いコメント力で場を盛り上げていく“声優界一のレシーバー”と言われる理由も、櫻井本人が持つ視野の広い演技力と懐の深さを物語っている。

いっぽうでチクリと肌を刺してくる桃も、熟し、皮を剥けばその実は温かく芳醇な甘さをたたえている。優しく明るさを感じる甘さの多いボイスも、櫻井孝宏の魅力だ。

とくに少年~若い青年役では、その本領を発揮。多くの女性ファンを獲得した『今日からマ王!』の渋谷有利、『純情ロマンチカ』の高橋美咲などの女性向け作品(アニメではないが、多数のBLドラマCDでも櫻井の甘いボイスは堪能できる)はもちろん、甘い声のイケメンキャラクターも挙げればキリがないが、『怪 〜ayakashi〜 「化猫」』の男〈薬売り〉や『K』の草薙出雲のクールさと熱さが融合した甘い声に魅了された人も多いだろう。コミカルな表情と多面的な芝居が楽しい『ダイヤのA』の御幸一也がふと見せるイケメンボイスは、意外性のある甘さも心地よい。また、あまり代表作として語られることは少ないが、まろやかで優しく、品のある声を味わうなら、『ミッフィーのぼうけん』シリーズのナレーションも見逃せない。

飄々と淡々と実績を作っていく“ずるい”声

そして、櫻井孝宏ボイスの魅力をたっぷり味わえる役どころがもうひとつ。それは、何を考えているかよく分からない飄々としたキャラクターだ。コミカルな要素を楽しむならば、『有頂天家族』の下鴨矢三郎や、一世を風靡した『おそ松さん』のおそ松、『しろくまカフェの』のしろくまくん、『宇宙戦艦ティラミス』のイスズ・イチノセ役などでの、飄々としながらもくだけたユーモアを振りまく演技は見どころ。

陰を感じさせ、感情が読めない飄々としたミステリアスさを楽しむなら、『化物語』の忍野メメも必見。櫻井孝宏にしか演じられないキャラクターといえるだろう。実際、櫻井本人にかつてインタビューをしたときも、「飄々とした役をやることが多く、実生活でもボーッとしていることが多いので、“櫻井は何を考えているかよく分からない”とよく言われる」と笑っていた。本人の資質と演技力が相まってのハマリ役ジャンルと言えるのかも。

1996年の声優デビューから四半世紀を経て、テレビシリーズ毎クール、出演作が途絶えることがない大活躍を見せている櫻井孝宏。声優界一のレシーバーは、演技の巧みさと優れたバランス能力を武器に、少しもその実力をひけらかすことなく、飄々と淡々と役者としての素晴らしいキャリアを積み上げている。今回挙げたタイトルは、そのごく一部。魅力的な“ずるい”声を、ぜひ様々な作品で味わって欲しい。

文 / 阿部美香

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