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ハーレムラブコメはミステリ化する? 『五等分の花嫁』がラブコメというジャンルにもたらしたインパクトとは

ハーレムラブコメはミステリ化する? 『五等分の花嫁』がラブコメというジャンルにもたらしたインパクトとは

80年代に起こったブーム以来、ラブコメは少年誌における定番ジャンルであり続けている。4月17日に最終14巻が発売される『五等分の花嫁』は、その進化の先端といえる作品のひとつだ。
ハーレムラブコメの進化のなかで、『五等分の花嫁』は「ラブコメ」というジャンルを「ミステリ」に着地させている。

文 / 小林 聖


ハーレムラブコメの持つジレンマ

ラブコメのトレンドはいろいろあるが、現在ひときわ大きな潮流になっているのが「ハーレム系」だ。主人公に対して好意を寄せるヒロインが複数登場するという形は、現在の少年誌ラブコメにおける基本フォーマットといってもいい。

主人公に対して好意を寄せるヒロインが複数登場するという形は、ラブコメに幅を与えてくれる。単純に「いろんな女の子のかわいさを楽しめる」ということもあるし、1対1のラブコメよりも複雑な人間関係を生み出せる。それだけドラマもつくりやすくなるというわけだ。

一般的にこのハーレム系ラブコメの祖といわれるのが98年に「週刊少年マガジン」で連載スタートした『ラブひな』。それ以前も複数ヒロインが登場するラブコメは挙げられるが、いわゆる「ギャルゲー(ギャルゲーム/男性向け恋愛シミュレーションゲーム)」的な展開を明確に意図してスタートしてヒットし、その後のハーレム系のフォーマットを固めたという点で、『ラブひな』の存在は大きい。

だが、ギャルゲーの流れを汲んで確立されたハーレムという形式は、スタートから矛盾もはらんでいた。

複数のエンディングを選ぶことができるゲームと違って、マンガのような物語は基本的にひとつのエンディングしか選ぶことができない。いろいろなヒロインがいて、それぞれにファンがいようとも、基本的に誰かひとりが「正ヒロイン(トゥルーエンド)」となることをほぼ宿命付けられている。

もちろん、複数のヒロインと同時に結ばれる「ハーレムエンド」という選択肢もあるにはあるが、二股三股という状況を「幸せな結末」として描くのは、やはりかなり難しいだろう。特定のヒロインに強く惹かれている読者からすれば、「ヒロインが(二股三股するような)いい加減な男といっしょになる」というのは耐えがたいものがある。
『ラブひな』も、この正ヒロイン自体はかなりオーソドックスに設定しており、初期の段階から誰が正ヒロインなのかはおおよそ見当が付く形になっている。

しかし、正ヒロインとの物語に一直線に向かうのであればハーレム型である意味がない。正ヒロインとその他のヒロインの差が露骨に明確であれば、それはもはや複数ヒロインものではなく「本命と当て馬」の物語になる。最終的なヒロインもそれ以外も、ある種平等に、可能性があるかのように描かれて、初めてハーレム系は成立する。
不誠実であってはならないが、いろいろなヒロインとの疑似恋愛は楽しみたいという欲張りなラブコメが、ハーレムラブコメなのだ。

そして、それゆえにハーレムは「結末」ではなく「状態」でもある。正ヒロインが確定した時点、つまり誰かを選んだ時点でハーレムはハーレムでなくなるからだ。
ハーレムラブコメがハーレムを維持するためには、結論を避けなければならない。しかしかといって、最後に選ばれるヒロインに正当性がなければ読者は納得しない。

ハーレムラブコメはどう着地させるかに繊細なバランス感覚を求められるのだ。

徹底的なフラット化でミステリ化した「運命」

『五等分の花嫁』はそうしたハーレム系のトレンドのなかに登場した作品だ。本作は2017年に『ラブひな』と同じ「週刊少年マガジン」で連載をスタート。個性豊かな五つ子ヒロインと、その家庭教師をすることになった風太郎の恋模様を描いて人気を集め、13巻までで累計1,000万部を超えるヒット作となった。その背景にはもちろんキャラクターの魅力や、ヒロインたちの成長といったストーリーの面白さがある。

その上で、本作は物語の構造自体もギミックが効いている。

ちょうど最近「ヒロインがたくさん出てくるラブコメはほぼ競馬」というフレーズが話題になった。ハーレム系ラブコメは誰が選ばれるかをハッキリさせてしまったら終わりを迎える。だから、読者からすれば「誰が選ばれるか」を予想したり、好きなヒロインを応援する気持ちになる。

『五等分の花嫁』は、そんなハーレム系ラブコメを先鋭化させた作品だ。作品のつくりとしてはもはや「ミステリ」といっていい。

本作はきわめて王道的な着地点であることが連載当初から予告されていた。第1話は結婚式の当日に風太郎と思われる新郎がヒロインと出会った日のことを夢で見るというシーンから始まる。連載中盤でも改めて結婚の場面が描かれる。つまり「最後は運命の1人を選ぶ」という物語であることを、明確に意識させ続けてきたのだ。

その一方で、この作品は5人のヒロインをとにかく“等分”に描こうとしてきた。「五つ子」という設定自体もそうだが、各ヒロインのエピソードのバランスも等分が意識されている。

5人のヒロインを等分で描きつつ、「運命のヒロインはたったひとり」と常に読者に意識させる形で物語は進んできた。最終巻直前のクライマックスのサブタイトルを見ても「最後の祭りが一花の場合」「~二乃の場合」といった具合に、5人のヒロインそれぞれの物語を、フラットになるように見せている。クライマックス直前でも風太郎が誰を選ぶのかはわからない状態なのだ。

読者はそこで、5人それぞれとの関係や、過去のエピソードの積み重ね、風太郎の言葉などから、最後のヒロインを探る。そこにはキャラクター愛はもちろんだが、さまざまな深読みや予想が生まれる。それは「早く付き合っちゃえよ!」と思いながら読む古典的ラブコメとはまったく別のドラマといっていい。
最終巻収録分の展開も独特だ。多くのラブコメは障害を乗り越えるところにドラマがある。いがみ合ったり、引き裂かれたり、すれ違ったりしながら、最後はそれを乗り越えて、一種の必然として結ばれる。

ところが、『五等分の花嫁』は風太郎がヒロインを選ぶ場面が先で、「なぜその子を選んだか」がその後のエピソードで描かれていく。さらに、選ばれたヒロインも姉妹たちとの決着という形で、自分の思いの強さを言葉にしていく。

それはあたかもかつての「週刊少年マガジン」の看板作品『金田一少年の事件簿』のごとく、「犯人はお前だ!」という宣言から種明かしをしていくミステリのようだ。『金田一』でも、犯人が動機を語る回想パートが最も面白いと語るファンは少なくない。
どの程度伏線とその回収という形の説得力があったかはともかく、物語モデルとしてはラブコメというよりミステリの定石を踏襲しているといえるだろう。

容姿が同じ五つ子から、たったひとりのヒロイン、いわば犯人を見つけ出す。
『五等分の花嫁』は、ラブコメであり、とびきりロマンチックな五つ子ミステリであることで、クライマックスまで読者を惹きつけたのだ。

マンガ『五等分の花嫁』

五等分の花嫁(14)
著者:春場ねぎ
定価:本体450円(税別)
ISBN:978-4-06-518687-9
ご購入・試し読みはこちら(講談社)
https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000337853

五等分の花嫁(14)特装版
著者:春場ねぎ
定価:本体850円(税別)
ISBN:978-4-06-519722-6
※作者がこれまでに描き下ろした書店特典イラスト全65枚を完全網羅した『小冊子』が付属。
ご購入・試し読みはこちら(講談社)
https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000342034