Interview

『AKIRA』4Kでようやく真価を現す物凄さ、リマスター技術者に聞く「やっとフィルム本来のポテンシャルを全て表現できる」

『AKIRA』4Kでようやく真価を現す物凄さ、リマスター技術者に聞く「やっとフィルム本来のポテンシャルを全て表現できる」

強調しすぎず、それでも鮮明に印象に残る“『AKIRA』の赤”を徹底追求

デジタルリマスターのさまざまな処理の中でも、特に分かりやすいものの1つが「色」の補正だ。DVD時代のデジタルリマスターで特に目立ったのが、テレビの性能向上に合わせて、色味をより派手にコッテリとさせたもの。ただし、これは制作者が本来意図していた色味からかけ離れてしまうという問題もある。事実、あるデジタルリマスター作品では、オリジナル版の担当アニメーターが派手すぎる色味に苦言を呈するということもあった。今塚氏は、そうしたデジタルリマスターもひとつの方針と理解を示しつつ、4Kリマスター版『AKIRA』でその方針を採らなかった理由を次のように説明する。

「今回の4Kリマスターのお話をいただいた時、改めて全体を通して作品を見直し、赤がとても印象的な作品だと感じました。金田のバイクの赤、ジャケットの赤……、要所要所で赤がとても効果的に使われているのです。しかし、その赤は一様ではありません。

バイクの赤も光が当たったところの明るい赤と影の部分の赤では全く違っていますし、時間帯によって朱色っぽく見えたり、濁っていたりもします。それを上手に表現する方法はないかをまず制作サイドと話し合い、結論として、最新センサーで取り込んだ豊富な色域を持った映像を、全体のバランスを整えていく中で自然に現れる赤が『AKIRA』の赤なのだという結論に達しました。

もちろんある程度の強弱は付けていますが、不自然に強調するということはやっていません。むしろ、シリアスな雰囲気を演出し、湿った空気感を作りたかったので、全体的にも色は落ち着かせています」(今塚氏)

その上で4Kリマスター版『AKIRA』では、カットごとの色味の均一化にも多くの手間をかけている。セルアニメでは、1つの画を複数枚のセルを重ねて表現するのだが、この枚数が増えると、セルの透過率の関係からどうしても色味や明るさが変わってしまう。結果、同じシーンでもセルをたくさん重ね合わせているカットとそうでないカットでは見た目が大きく変わってしまうのだ。特に『AKIRA』では重ねているセルの枚数が異様なまでに多く、その差が大きく現れる。

「実は、今回一番苦しめられたのがここです。『AKIRA』はほぼ全シーンで、カットによって色味や明るさが違うということが起こっていて、それを補正していかなければなりませんでした。あるシーンが20カットあったら、まずはそれを通して確認し、均等に見えるように調整していくという作業をしています。

例えば中盤の金田とケイが牢獄に閉じ込められるシーンなどは大変でしたね。光の当たっている場所と影になっている場所の明暗差がカットによって違っていて、揃えるのにとても苦労させられました。これは、単に色や明るさを揃えるという単純な話ではなく、全体を見つつ、シーンの時間軸や意味を考える必要があります。このシーンでは実写作品を想像し、現実だったらこうだろう、と考えながら手を加えていきました。

他にも夕景のシーンでカットが切りかわると急に夕景感がなくなるところがあり、そこもシーン全体で夕景感が出るようにしました。こうした補正によって作品がだいぶ見やすくなったのではないかと考えています」(今塚氏)

HDRのエキスパートがこだわり抜いた光の表現にも注目

もう1つ、4Kリマスター版ならではの新要素となっているのが「HDR(ハイダイナミックレンジ)」だ。これは映像の輝度情報を大きく拡張するデジタル映像の新規格。これまでのテレビでは再現不能だった、目を細めるようなまばゆい輝きなどを、表現者の意に沿うかたちで表現できるようにするものだ(再生にはHDRに対応したテレビが必要)。実は今塚氏は、まだ業界がHDRについて準備が進んでいなかったころから率先してHDRを研究、プレゼンしてきたHDRのエキスパート。アニメーションのHDRがどうあるべきか、多くの作品に携わる中で見極めてきたという。

「HDR対応というと、つい明るく輝かせたくなるのですが、やりすぎると光ばかりが目立ってしまい、映像に没頭できなくなってしまいます。もちろん、冒頭の金田のバイクのヘッドライトや前輪がスパークするところ、その後の夜の街並みの街灯などはここぞとばかりにHDR感を出していますが、全体的には光として感じてほしい部分を無理なく伸ばすという方針でやっています。

技術的に言うと、照明など、透過光で表現されている部分などはよく伸びますね。逆に、落下してくるガラスの破片の反射光など、画として(インクで白く)描かれている光についてはあえて強調したりしていません。このあたりは長年の経験値でやっています。どのくらいの明るさが見やすいのか、インパクトがあるのか、知見に基づいて1カットずつ調整していきました」(今塚氏)

なお、HDRという技術は「明るさ」を強調するための技術であると誤解されがちでもある。確かに技術的にはそうした側面もあるのだが、それによって表現されるのはまばゆい「輝き」だけではない。

「輝度が上がるということは、そこに色の情報も付いてくるということ。それによって、画にリアル感、立体感が出てくるんです。HDRのエリアまでいかないところでも、(これまでの明るさの上限を100として)60を80にもっていくだけでメリハリがつくようになります。具体的には冒頭のジュークボックスのシーン、あのCDが回るところもかなりしっかり調整を入れていて、アクリルのカバーに光を感じるようにしてリアリティを高めています。

こうしたこだわり、工夫はそれこそ無数に盛り込んでいて、1カットずつ解説を入れられるくらい(笑)。これはぜひ、HDR対応の4Kテレビで見ていただきたいですね」(今塚氏)

32年を経て実現した新時代の『AKIRA』体験

アニメ史上に燦然と輝く金字塔的作品を、最新技術を駆使して現代の映像として甦らせた4Kリマスター版『AKIRA』。もちろん大友克洋監督の監修の元で仕上げられており、今塚氏曰く「HDR効果含め喜んでいただいた」そうだ。

なお、ここで強調しておきたいのが、この映像が、32年前に劇場公開された状態を“再現”したものではないこと。なぜなら、かつて劇場で上映されたフィルムはマスターポジフィルムを全国の映画館に配布するために複製(デュープ)した、画質的にはかなり劣化したものだからだ。その点、4Kリマスター版『AKIRA』の映像はこれまで一般観客が目にしたことのないマスターポジフィルムを元にしたもの。つまり本作は、当時の感動を超える、これまでにない『AKIRA』体験を与えてくれるものということになる。アニメファンを自認するならば、これは観ておかねばならないだろう。間違いなく必見の1枚だ。。

32年前、映画館で『AKIRA』を見たという人も、これまで一度も『AKIRA』を見たことがないという若いアニメファンも、ぜひ、この体験を味わってほしい。最高の感動を満喫するためにはHDR対応4Kテレビに加え、UHD BD対応のプレイヤーも必要になるが、間違いなくその価値はある!

「AKIRA 4Kリマスターセット」発売記念特番『AKIRA SOUND MAKING 2019』

4Kリマスターに迫ったドキュメント映像が期間限定で無料配信スタート!

AKIRAの音楽監督、山城祥二本人が“AKIRA 4Kリマスター”の音について語るインタビュー映像のほか、金田役の岩田光央、鉄雄役の佐々木望、ケイ役の小山茉美、甲斐役の草尾毅ら出演した豪華キャストに加え、音響監督の明田川進が32年前の収録について振り返る座談会など、スタッフとキャストが『AKIRA』について語った貴重映像。

配信URLhttps://youtu.be/c5R8MRmWOrw
配信期間(予定):2020年4月3日(金)正午~4月24日(金)
出演者:岩田光央(金田役)、佐々木望(鉄雄役)、小山茉美(ケイ役)、草尾毅(甲斐役)、明田川進(音響監督)、山城祥二(音楽監督)、他

『AKIRA』

【STAFF】
原作・監督:大友克洋(講談社・ヤングマガジン連載)/製作:アキラ製作委員会/脚本:大友克洋・橋本以蔵/作曲・指揮:山城祥二/キャラクターデザイン:大友克洋/作画監督:なかむらたかし/作画監督補:森本晃司/美術:水谷利春/音楽:芸能山城組(ビクター) /音響:明田川進/録音:瀬川徹夫/撮影:三澤勝治/編集:瀬山武司/アニメーション制作:東京ムービー新社(現:トムスエンタテインメント) 他

【CAST】
金田:岩田光央/鉄雄:佐々木望/ケイ:小山茉美/大佐:石田太郎/竜:玄田哲章/甲斐:草尾毅/ドクター:鈴木瑞穂/タカシ(26号):中村龍彦/キヨコ(25号):伊藤福恵/マサル(27号):神藤一弘 他

【STORY】
1988年7月、関東地区に新型爆弾が使用され、第三次世界大戦が勃発した。
31年後― 2019年東京湾上に構築されたメガロポリス、ネオ東京は翌年にオリンピック開催を控え、かつての繁栄を取り戻しつつあった。
健康優良不良少年グループのリーダー・金田は、荒廃したこの都市でバイクを駆り、暴走と抗争を繰り返していた。
ある夜、仲間の鉄雄は暴走中、奇怪な実験体の少年と遭遇し、転倒負傷。呆然とする金田たちの前で、彼らは軍の研究所へと連れ去られてしまう。
鉄雄救出のために研究所へ潜入を試みる金田。だが、彼はそこで、過度の人体実験により新たな「力」に覚醒した、狂気の鉄雄を見る。
一方、研究所内の特殊ベビールームでは、実験体の少女が、「最高機密=アキラ」の目覚めを予言。
鉄雄は自らの力の謎に近づくべく、地下深く眠る「アキラ」への接近を開始した―

©1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

『AKIRA』4Kリマスター オフィシャルサイト

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