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今こそ読みたい、「生きるエネルギーをもらえる」マンガ4作品

今こそ読みたい、「生きるエネルギーをもらえる」マンガ4作品

新生活シーズンに、外出が難しい状況も重なった今年の春。不安な日常にこそ、生きるエネルギーを与えてくれる物語を! ということで、マンガソムリエ・兎来栄寿に原稿を依頼した。完結済の名作から刊行中の作品まで、ジャンルもさまざまな4作品。無料で読める作品もあるので、ぜひ参考にしてみてほしい。

文 / 兎来栄寿


至上の愛と祝福の物語

©田中ユタカ

『ミミア姫』(作:田中ユタカ)

人生で数多くの物語に触れてきましたが、これほどまでに世界と人間への深い深い愛情と祝福によって綴られた物語を私は知りません。『ミミア姫』はあらゆる悲しみや不幸を受け止め、その上で人間とその生、人から人へと受け継がれ紡がれる歴史と世界すべてを肯定していく究極の人間讃歌です。

「雲の国」と呼ばれる平和で美しい天国のような世界が『ミミア姫』の舞台です。そこに住む「羽根を持つ者たち」は他人の心がテレパシーのように解り、未来を視ることができ、また治癒の力を持っています。しかし、そんな世界で羽根も能力も持たない「神さまの子」である少女・ミミアが誕生するところから物語は始まります。

生命が新しく生まれ、育まれる時。それはかくも喜びに包まれ、かくも困難で、かくも尊いものかと思わされます。私は冒頭から涙を禁じえませんでした。優しく美しい世界の中で、一人の少女の成長をゆっくりと見守る時間は、自分が親になったらこういう気持ちになるのかなと想像させられます。
蝶よ花よとかわいがっていたミミアが突然「死にたい……」と深く意味も知らずに呟いた後の、胸をかき乱されるようなくだりはとりわけ印象的です。

序盤はユートピアの中で繰り広げられる絵本の世界のようなファンタジーですが、物語は徐々に思いも寄らない展開をしていきます。

人間は、今自分がこうして存在しているということがどれほど天文学的な確率の上に成り立っている奇跡であるかということを忘れてしまいがちです。そして、往々にして自分の生き苦しさだけを判断基準にしてしまいます。
しかし、そんな時にこの作品を読むと、自他を問わない命の大切さ・素晴らしさを再認識します。そして理不尽な世界で人間として生きるための強靭で前向きなエネルギーをもらえます。

「我々は子を愛し親を愛し友を愛することができる 大切に想うことができる」
「我々ひとりひとりが人の歴史が決して恐怖や憎しみだけでなかったことの証明なのである」

最終局面に訪れる究極の肯定の力強さは、ぜひ味わってみてほしいです。

試し読み・閲覧はこちら(マンガ図書館Z) 
https://www.mangaz.com/series/detail/137741

※「マンガ図書館Z」は、マンガ家・権利者の方々の許諾、ご好意によって、全巻、いつでも無料で読める電子書籍サイトです。

画面から鳴り響く爆音に殺され生まれ変わる

©Yuko Osada/SQUARE ENIX ©Kazuya Machida/SQUARE ENIX

『SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん』(作:長田悠幸×町田一八)

優れた音楽マンガは、マンガという媒体でありながらページを開いた時に音が聞こえてきます。『SHIORI EXPERIENCE』は正にそんな作品のひとつです。
しかし、この作品の場合はただ音が聞こえてくるだけでありません。音に撃たれ、音に呑まれ、音に貫かれ、音に焦がされ、骨の髄まで燃やし尽くされる極めて稀有な物語体験です。

「27歳で死んだ伝説的なアーティスト、ジミ・ヘンドリックスに憑依された主人公の女教師が、27歳までに音楽で伝説を残さないと死んでしまうという状況に陥り、教え子たちとともにバンドを組んでいく」というあらすじだけを聞くと、イロモノに感じてしまうことは否めません。しかし、あらすじからは想像もできない大きな感動が待ち受けています。

本作では音楽が生きることそのものに直結する人間が多数登場します。しかし、さまざまな制約や難局がそれぞれの人生に存在し、すんなりとはその道を歩めません。だからこそ、障害となるものをがむしゃらになって乗り越え、血の滲むような練習とステージに立つための日常の努力の果てに、すべての感情、すべての人生を音に変えていく様に、魂の咆哮を叩きつけるような演奏に、居ても立ってもいられない気分にさせられます。

その演奏シーンも、巻を追うごとにどんどん凄まじいものになっていきます。それはあたかもマンガ表現のひとつの極致に達しようとするかのように。縦横無尽に無窮自在に、独特で極上のパッションとエモーションを炸裂させていきます。限られた時間の中、死に物狂いで全力で駆け抜ける人間の素晴らしさは、ジャンルを越えてあらゆる人に響く感動を与えてくれます。

節目ごとに面白さが爆発的に高まる作品なので可能なら全巻一気に読んでみて欲しいですが、それが叶わなければ10巻、それも難しければ6巻、最低でも3巻までは一気に読んでみてほしいです。正に「SHIORI EXPERIENCE」と呼ぶ他ない、唯一無二の興奮と感動があなたを待っています。

また、この作品をきっかけに世界が熱狂した往年のアーティストの楽曲に触れてみると、人生を彩り支えてくれる音楽とも出逢えるかもしれません。

試し読み・購入はこちら(スクウェア・エニックス)
https://magazine.jp.square-enix.com/biggangan/introduction/shioriexperience/

この人生で、どうか素敵なおみやげを

©永野のりこ/復刊ドットコム

『電波オデッセイ』(作:永野のりこ)

主人公の中学二年生の少女・原はネグレクトを受け、この世での居場所を失っていました。学校にも行かず引き篭もる彼女の下に、オデッセイと名乗る男が現れます。そして、彼はこう言います。「君は地球への観光に来ている旅行者なんだ」「地球への観光はとてもラッキー。だから帰る前に後悔のないようここをよく観ておくといい」と。さらに、「地球への旅行者は物を持って帰ることはできないけれど、人の心1コ分に入るだけの“いいもの”、“素敵なもの”、つまりは楽しい思い出や幸せの記憶をおみやげとして持ち帰れるのだ」と。

野球のダルビッシュ 有投手も「40歳で無職になった自分が神様に一度きりのチャンスを与えられ、20歳の時に戻ることができた」という設定で、一日一日を大事に練習に励んでいたといいます。こうしたマインドセットを持ち自己を一度俯瞰して見てみるのはとても意義深いことで、今日からでも応用できるかもしれません。

本作では、主人公以外にもそれぞれに心の傷を抱える少年少女が登場します。体が弱く、幼い頃に死に瀕したこともあり留年していることを内緒にしながら学校に通う野川。太っていることをからかわれ「トン子」と仇名されて拒食症になり、太っている親にも憎しみを覚え、不登校になってしまったトモ子。思春期の彼らが持つそれぞれの傷。原を始めとする周囲の人間との交流の中でその痛みが和らぎ癒され、再起していく様子が極めて丁寧に、繊細で叙情的な言葉選びで描かれていきます。

平常時はハイテンションコメディの様相ですが、根底にはとても切実な人間の弱さや痛み、その克服への眼差しがあり幾度も大きな感動を与えられます。この世界が生きづらい、居場所がないと感じている方にこそ届いて欲しい物語です。願わくば、この作品を読んだあなたがどうかよき旅(オデッセイ)を送り、何かひとつでも素敵な「おみやげ」を持って行けますように。

「あなたが持っているここにいるためのチケットは、あなたが自ら手放さない限り誰にも奪われることはない」と、『電波オデッセイ』は優しく語りかけてくれます。

試し読み・購入はこちら(復刊ドットコム)
https://www.fukkan.com/fk/CartSearchDetail?i_no=68319204

宇宙を目指す少年少女の切なる軌跡

©柳沼行/KADOKAWA

『ふたつのスピカ』(作:柳沼 行)

『ふたつのスピカ』は、宇宙飛行士を目指す少年少女が集う「東京宇宙学校」に入学した少女・アスミと、その仲間たちを群像劇的に描いた物語です。

『宇宙兄弟』や『度胸星』など「宇宙開発マンガにハズレなし」というくらい名作が多いジャンルですが、それには大きな要因がふたつあると考えています。

まず、宇宙飛行士になるための訓練が特殊で面白いこと。宇宙は人類の憧れでありながらも、あらゆる危険が襲いかかる過酷な環境です。想像もしない事態にも冷静に対処できるよう、地上でもあらゆる困難を想定してさまざまな訓練や試験が行われます。
本作でも、「事前告知なしのサバイバル訓練」「気密室で7日以内にチームでドミノを組み立てる(減圧のペナルティあり)」「いかなる手段を用いてもいいので牢屋から脱出する」など、純粋にどう対処して乗り越えていくのだろうとワクワクするシチュエーションが頻出します。

そして、宇宙飛行士はチームプレイであるため、必ず仲間との密な交流があること。上記のような過酷な訓練を共に乗り越えた仲間との間には、深い信頼と友情、時に愛情が生まれます。『ふたつのスピカ』はとりわけこの人間ドラマの部分が非常に上質で味わい深い作品です。

アスミたちは夢を仲間たちと追うという眩い青春を過ごす一方、その裏には多くの困難や悲哀もあります。それらは誰しもが人生で向き合わねばならない時があるもので、その悲しみに、またそれを乗り越えようと必死にもがく姿に、深い共感と涙が止まらなくなります。

「時には傷ついたり何かを失ったりしながらも懸命になって そういうたくさんの想いを経た人でなければ見えないものも必ずあると思うよ」
「どんな星にだって終わりがある でもそれは悲しいことばかりじゃないんだよ 次に生まれてくる新しい星のための終わりでもあるんだよ」
といった沁みる名ゼリフが数多く登場し、今苦境に立たされている人にもエールと勇気を与えてくれます。

子供から大人まで誰もが楽しめて泣ける、そして涙の後に自分の人生をより良く生きて行こうと思える傑作です。

試し読み・購入はこちら(KADOKAWA)
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