サザンオールスターズと昭和・平成・令和元年  vol. 27

Column

“また逢う日のため”“互い涙みせずに”。そんな歌詞が涙腺を直撃した「I AM YOUR SINGER」

“また逢う日のため”“互い涙みせずに”。そんな歌詞が涙腺を直撃した「I AM YOUR SINGER」

2018年にデビュー40周年を迎えたサザンオールスターズのバンド・ヒストリーを、彼らが生み出した数々の作品から改めて見つめていく。音楽評論家・小貫信昭が独自に紐解く、サザンオールスターズの魅力──。


世の中の「重大発表」には、さほど重大じゃないものも含まれる。そうした場合、聞いた途端、カクッとなる。でも2008年5月にサザンオールスターズが発表したことは、まさに重大だった。30周年を記念し、「I AM YOUR SINGER」のシングルを出し、「真夏の大感謝祭」(同年8月16〜17、23〜24日 日産スタジアム)を行うのは嬉しいニュ−スだったが、続きがあった。“大感謝祭”以降、「無期限活動休止」になるというのだ。無期限…。この言葉はショッキングだった。

ここで少し、ここまでの流れを振り返る。『キラーストリート』リリ−ス後に行われた[Southern All Stars Live Tour 2005 「みんなが好きです!」](2005年10〜12月)は、まさにあの大作を引っ提げたものだった。新作から前半に8曲連続で演奏し、さらに後半、再び新作から6曲連続のセットリストが圧巻だった。

通常、場内の盛り上がりなどを考慮し、新曲をこれだけ続けることは避けるものである。そういえば桑田は、アルバム完成時のインタビューで、こんなことを言っていた。この作品集が完成したことで、「音楽アーティストとしてのサザンが“丸腰”で皆さんの目の前にいられる」(『キラ−ストリ−ト』アルバム封入インタビューより)。新曲を連続させるセットリストこそが、“丸腰”ということだった。

そして、あれよあれよという間に30周年のアニバーサリーが近づく。ならば世間の期待に応えたい。しかしバンドは『キラーストリート』という高い山に登頂した直後であった。翌2006年で主立ったことは、シングル「DIRTY OLD MAN 〜さらば夏よ〜」のリリースであり、そして先程の、30周年を記念した「I AM YOUR SINGER」へと至るのだ。

桑田がビートルズを敬愛することを考慮すると、この新曲タイトルから浮かんだのは、ポ−ル・マッカートニー&ウィングスの『ワイルド・ライフ』に収録された同名曲だ。ただ、あちらは特定の恋人に対する一途な想いを歌っているのに対して、サザンのそれは、つまりここでの“YOUR”は、すべてのファンの人達のことを指しているのが大きな違いであった。

また、この歌は30周年への感謝を歌うだけでなく、節目のメイン・イベント「真夏の大感謝祭」へ向けて作られたものでもあった。もっと言えば、その最終日、8月24日に向けて…。

それがなぜバンド・サウンドではなく、全編コンピューターの“打ち込み”によるサウンドになったのだろう? そこには確かな意図があった。普段、バンドには担当楽器があり、ステージの立ち位置も決まっている。しかしこのアレンジなら楽器を手放し、「持ち場を自由に離れることが出来る」。この作品に関して桑田に話を訊いたのは、確か海の近くのとある場所だったけど、彼はそのような説明をしてくれた。サザン全員がステージ前方へ出ていって、1メートルでも近くから30周年へのお礼の気持ちが伝えたかったのが「I AM YOUR SINGER」だったのである。

その際、ひとつ彼が気にしていたのは、「会場全体が、しんみりし過ぎないか?」ということ。なにしろ全編コンピューターなので、臨機応変に演奏をヒートアップさせて客席を煽ることは不可能だ。おそらく、だからこそ(のちに大評判となった)EXILEばりの“メンバー縦列・クルクル回転踊り”などを取り入れたのだろう。

この曲のパフォーマンスというと、やたらこの部分が話題となるが、サザンはちゃんと、自分たちの憧れの先輩のパフォーマンスも、この曲の振り付けに取り入れていた。それは、腕を前に出しつつ軽くジャンプして体をひねり、手のひらを正面に向けるボディ・アクションだ。こちらは60年代のグループ・サウンズの名バンド、ザ・スパイダースが得意としていたものなのだ。

「真夏の大感謝祭」は、四日間のうち三日間が、音をたてるほどの雨だった。最終日の8月24日もそうだ。日本の音楽シーンに多大な恩恵をもたらした、あのサザンオールスターズの30周年なのだから、この期間くらいは晴れてもよさそうだ。いやでも、この条件こそが、神様がこのバンドに課した31年目へのハードルだったのかもしれない。彼ら5人は一切集中力を切らさずに、届け、届け、届きやがれ〜と渾身の演奏を続けていた。そして客席は、届いてる、届いてる、確かに届いてるぞ〜、と、全身全霊の叫びと拍手で応えていた。

最後に内輪の話を書かせてほしい。8月24日。僕は取材で日産スタジアムに居たのだが、取材なのでマスコミ関係者席だったのである。ここには各メディアの人間が詰めかけていて、新聞社の人などは、慌ただしく出入りしている。でも、この日はなんか、周囲の景色が違っていた。アンコールの最後に演奏されたのは「Ya Ya(あの時代(とき)を忘れない)」だった。もうその頃は、多くのマスコミの人間が膝に涙を落とさんばかりだったのである。関係者席がこんなに泣いていたライブなんて、この日以来、一度も経験していない。

文 / 小貫信昭

SINGLE「I AM YOUR SINGER」
その他のサザンオールスターズの作品はこちら

vol.26
vol.27
vol.28