山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 80

Column

Irish Heartbeat / 源流を訪ねて(前編)

Irish Heartbeat / 源流を訪ねて(前編)

子どもから大人へ。思春期の葛藤は、野生から人間社会への適応を求められるところから始まるのかもしれない。
抑圧と制御の泥沼で溺れそうな子どもを救い出してくれたもの。思えば、それがR&Rだった。
連載開始から3年3ヵ月。
自由を、音楽を制限する空気が覆うなかで、R&Rを生んだ者たちの魂の潮流を遡る。


僕に多大な影響を与えてくれた国、アイルランドのことを記しておきたい。自分のために。続いてくれるかもしれない人たちのために。

若い頃から彼の国の音楽に惹かれていた。理由は不明。どうしようもなく琴線に訴えかけてくる。こころの深いところがキュンと掴まれる感じとでも言えばいいのだろうか。切なくて、儚くて、人間臭くて、ときに愉しすぎて、それでいて大地に根ざす音楽。

決定的だったのは、88年にヴァン・モリソンがチーフタンズと創った名盤『Irish Heartbeat』。このアルバムには音楽の神様が棲んでいる。ロックの衝動とは違って、自分の根源的な部分を揺さぶられる。確かな音楽の奇蹟。僕が目指していたもの。23歳くらいだったか、と。

バブル期の日本になじめず、20代の終わりにNYで居候を繰り返すようになって。深くともだちになるのは、なぜかアイリッシュかプエルトリカン。そして彼らにこう言われるのだった。

「お前は中身がアイリッシュだから、今すぐ飛んだ方がいい。行き先はダブリンじゃなくて、シャノンな!」

ロックンロールの源流を辿る旅。僕を衝き動かした音楽はアイルランドとアフリカからアメリカにやってきた。片や圧政と飢饉によって、もう片方は奴隷として。

悲しい歴史の上に発明されたロックンロール。それを現代に奏でて生きていくのなら、どうしても源流を体験したかった。

どうやって金を工面したのか、もう思い出せないけれど、とにかくNYからシャノン行きの飛行機に飛び乗る。

コンプライアンスなんてなかった時代。アイルランド色(緑)の飛行機、エア・リンガスには初めて里帰りするアイリッシュ系アメリカ人がたくさん乗っていた。スチュワードが後部座席で乗客と酒盛りをする。タバコで空気は真っ白。大声で歌い、笑う。そして、シャノンに着陸した瞬間、湧きあがる大歓声。彼らにとっては、二代に渡っての初めての里帰りなのかもしれない。

小さなシャノン空港の税関で、ギターを抱えている僕に職員がこう言った。

「それはライフルか?」

「ち、違います」

「わかってるよ、ギターだろ。今日、近くのミルトン・マルベイって小さな町で世界じゅうからミュージシャンが集まってるから行くといいよ!」

たくさんの国を旅してきたけれど、税関職員にこんなことを言われたのは初めて。「ダブリンじゃなくて、シャノンな!」。こういう意味だったのか。(笑)。

海沿いの小さな町で行われていたのは、ウイリー・クランシー・サマースクール。世界じゅうから彼の国の伝統音楽を学びにやってくる一大イベント。町じゅうに溢れるミュージシャン。あちこちでセッションが行われていて、ミュージシャンには宿の割引もある。

こりゃ、天国だ。初日にしてノックアウト。

大西洋沿いに北上していく。夏は白夜のように太陽がいつまでも沈まない。そして、北部のドニゴール州、とある町にたどり着いたとき。夜の11時くらいか。まだ薄明るい。その角を曲がったら、何かがあると。

いつもの直感が僕にこうささやいた。

「源流だ」

人口1000人あまりの小さな村。やがて僕の第二の故郷となるその町は間違いなくロックンロールの源流だった。

(続く)


ヴァン・モリソン&ザ・チーフタンズ『アイリッシュ・ハートビート』
Van Morrison & The Chieftains / IRISH HEARTBEAT

アイリッシュ・ミュージックの重鎮であり良心であるヴァン・モリソンとザ・チーフタンズが共演した歴史的名盤(1988年発表)。世界のあらゆる音楽を吸収しながらケルト音楽を自在に発展させていくザ・チーフタンズと、現代ソウルの歌い手としても世界最高峰のヴァン・モリソンが、アイルランド島からアメリカ大陸に渡り、そしてまた島に戻るアイリッシュの魂と音楽の旅をこの一枚に閉じ込めた。ケルト音楽の潮流と、アフリカ大陸を起源に米国でR&B、ソウル、ファンク、ジャズ……と多様に変化したブラック・ミュージックが出会い、新たな音楽に昇華していく過程が追体験できる。


著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。90年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』に収録された「満月の夕」は阪神・淡路大震災後に作られた楽曲で、四半世紀を経た現在もなお、多くのミュージシャン、幅広い世代に歌い継がれている。“ミュージシャンズ・ミュージシャン”としてその名を挙げるアーティストも多く、近年は野外フェスやR&Rイベントへの出演も多い。バンド結成40周年となった昨年は、40thツアーとして全国を廻り、スタジオ・アルバムとしては2年ぶりとなる新作『Blink』をリリース(オフィシャルサイト、レコード店、大手通販サイト、配信等で販売中)。現在、山口洋 (HEATWAVE) solo tour『Blink 40』で全国を廻っている。最終日は4月8日横浜THUMBS UP (サムズアップ)。6月にはバンドでニュー・アルバムの曲を中心に演奏するHEATWAVE TOUR 2020“Blink”の開催も決定した。2011年東日本大震災直後に始めたプロジェクト“MY LIFE IS MY MESSAGE”も継続しており、今年は“Brother&Sister”として仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳、おおはた雄一とステージに立つ。

オフィシャルサイト
http://no-regrets.jp/index.html

ライブ情報

山口洋 (HEATWAVE) solo tour『Blink 40』

3月26日(木) 京都府京都市 coffee house 拾得 (Jittoku)
3月28日(土) 高知県高知市 シャララ →公演延期
3月30日(月) 香川県高松市 Music&Live RUFFHOUSE (ラフハウス) →公演延期
4月1日(水) 大阪府大阪市 南堀江 knave(ネイブ)
4月3日(金) 愛知県豊橋市 HOUSE of CRAZY (ハウスオブクレイジー)
4月8日(水) 神奈川県横浜市 THUMBS UP (サムズアップ)
*高知市と高松市の2会場は新型コロナウィルス感染症の影響で公演を延期することが決まりました。
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※3月12日に予定されていたイベント“ASYLUM2020 in Fukushima”は新型コロナウィルス感染症の影響で中止になりました。

「ミスター・アウトサイド」#001(イベント)

5月19日(火)古書ほうろう ※SOLD OUT
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HEATWAVE TOUR 2020 “Blink”

6月4日(木) 東京 duo MUSIC EXCHANGE
6月6日(土) 仙台 CLUB JUNK BOX
6月17日(水) 京都 磔磔
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MY LIFE IS MY MESSAGE 2020|Brother&Sister

6月12日(金) 山口洋(HEATWAVE)×矢井田瞳@横浜THUMBS UP(サムズアップ)
6月13日(土) 山口洋(HEATWAVE)×おおはた雄一×仲井戸”CHABO”麗市@横浜THUMBS UP(サムズアップ)
詳細はこちら

HEATWAVE OFFICIAL SHOP

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