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『キングダム』アニメ3期放送間近! 原作屈指の人気エピソード「合従軍編」には『キングダム』の『キングダム』たる所以が詰まっている

『キングダム』アニメ3期放送間近! 原作屈指の人気エピソード「合従軍編」には『キングダム』の『キングダム』たる所以が詰まっている

2020年4月より、7つの国に分かれる古代中国を舞台にした大ヒットマンガ、『キングダム』のアニメ3期の放送がスタートします。今回のアニメ化はこれまで以上に重大な意味を持っています。何しろ既刊50冊を超える『キングダム』の中でも、原作ファンが愛してやまない屈指の好エピソード、「合従軍編」がついに映像化されるのです!

「合従軍編」とは、中華を分断する7国の中でも最も強大な国のひとつである秦(主人公たちの国)を滅ぼすべく、他の6国が同盟を組み、秦に同時に攻め込んでくる長編エピソードです。天下の大将軍を目指して出世の途をひた走る主人公・も、当然秦の一将として、この未曾有の大戦に身を投じることになります。

この「合従軍編」は、なぜ屈指の人気を誇るエピソードなのでしょうか? 他の6国が同盟を組んで同時に攻め込んでくる、というだけでも大いに盛り上がりそうな感じがしますが、もう少しこの『キングダム』という作品の内側をのぞき込んでみると、より明確に、この「合従軍編」の魅力がわかってきます。
さらにアニメを楽しむためにも、この「合従軍編」の魅力を深く掘り下げていきましょう。

文 / いさお


「仲間の戦死」エピソードに見る『キングダム』のコア

なぜこの「合従軍編」は屈指の人気を誇るエピソードなのか。この問いにとりあえず答えるのは簡単です。それは、「『合従軍編』は『キングダム』という作品のコアとなる部分が一番炸裂しているエピソードであるから」です。
では、その「『キングダム』という作品のコア」とはいったい何なのでしょうか? これを考えるために振り返ってみたいのが、アニメ1期、2期でも描かれた「仲間の戦死」をめぐるエピソードです。

大きな戦いが起こると、信の大切な仲間が命を落とすという場面がしばしばあります。趙との戦いで、龐煖の夜襲から命を捨てて信を離脱させた尾到のエピソードなどは、中でも非常に胸を打つものでした。
他の作品なら、これまでの戦略をかなぐり捨てて、仲間の命を奪った敵を探してその敵に復讐する、というアツい発想の主人公も見られることでしょう。しかし、そんな発想は信の頭には浮かびません。戦争をしているのだから、人は死ぬ。あくまで、昨日までと同じ戦略、戦い方で、淡々と戦いに身を投じていくのです。

では、「仲間の戦死」が「復讐」につながらないとしたら、いったい何につながるのか? それは、本作を代表する英雄、王騎の最期の戦いを見れば明らかでしょう。彼は、最愛の人を殺めた龐煖と相対し、致命傷を負ったにもかかわらず、龐煖を圧倒する力を発揮します。
なぜ彼は、そんな力を発揮できたのか。それはひとえに、彼の背中に最愛の人の犠牲が……いや、これまで彼に仕え、そして命を落としてきた者たち全ての犠牲が、のしかかっていたからです。王騎は言います。

将軍とは
百将や千人将らと同じく役職・階級の名称にすぎません

しかし
そこにたどりつける人間はほんの一握り

数多の死地を越え
数多の功を挙げた者だけが達せる場所です

結果
将軍が手にするのは千万の人間の命を束ね戦う責任と
絶大な栄誉

故にその存在は重く
故にまばゆい程に 光輝く

――『キングダム』16巻より

つまり「仲間の戦死」は、他でもなく「将軍としての力」となって蓄積されるのです。仲間の命を、死を背負っているからこそ、将軍は重責を負い、とてつもなく大きい存在になれる。「仲間の戦死」は、戦場における強さへと昇華されるのです。
憎しみとか辛さといった感情ではなく、あくまで「戦争における力」を通して、「仲間の戦死」の重さを描く。それが『キングダム』の「仲間の戦死」に対する誠意なのです。

信を初めとする本作で登場する武将たちの価値観も、これに対応したものと言えるでしょう。

※筆者作成

『キングダム』という作品はその物語の中で、特に武将たちにめったに「善悪」の議論をさせません。戦争は悪だとか、こういう戦い方は人道に反するとか、そういう議論がなされることはたまにあれ、決してその議論が物語の中心に据えられることはないのです。

それこそ主人公の信が、そういう話をほとんどしません(民衆から略奪する味方兵士に激高するエピソードはありましたが)。彼がなぜ戦うのかというと、それは「平和を実現したいから」とかいった善性にあふれた理由ではなく、何よりも「天下の大将軍になりたいから」なのです。

『キングダム』の屋台骨を支える3つの魅力

こうした『キングダム』のエピソードやキャラ設定から言えることは何か。それは、『キングダム』が純粋に「武将の力のぶつかり合い」を描くことに特化している、ということです。
味方の戦死が辛いなら、それを戦いで晴らせばいい。犠牲を背負って戦い続けるからこそ、強くなれるのだから。どちらが善であるとか、そういうことはどうでもいい。勝てば正義なのだから。
憎しみとか、善悪とか、そういう感情的・哲学的な要素を全て削って、純粋な力のぶつかり合いに物語を先鋭化させているのです。

この結果何が起こるか。語弊を恐れず言うならば、「誰が主人公でもいい」舞台が整います。というのも、物語を純粋な「武将としての力」のぶつかり合いに特化させると、キャラを測るバロメーターが、「武将としての力」しかなくなるのです。ゲームで例えるなら、本来「パワー」とか「知力」とか「性格」とか、キャラの能力を定義するバロメーターが複数あるのに、それが「パワー」しかないイメージです。

感情や人間ドラマに重きを置く作品なら、昔愛する人を殺されたとか、故郷を戦いで失ったとか、そういう劇的な過去を持つ将軍(本作で言えば、呉慶や万極など)を主人公にすればよいでしょう。しかし、「力」のみに物語の主眼を置くと、「これくらいの強さの武将が主人公として適切である」という論理的な正解がありません。最強の武将を主人公にしてもいいし、最弱の男を主人公にしてもそれはそれで面白いでしょう。本作では、たまたま、信が主人公になったのです。

この「主人公性の否定」とも言える効果から、『キングダム』は、本作の屋台骨を支える3つの魅力を獲得しています。

魅力その①は、主人公より強い、より英雄らしいキャラを、惜しみなく出せることです。信が主人公であることに物語上の必然性がない分、信が主人公であるという事実に忖度することなく、主人公より遥かに強く、英雄らしい魅力的なキャラをたくさん登場させることができます。

魅力その②は、物語の世界を、主人公を起点にして広げる必要がないということです。『ドラゴンボール』では、悟空がピッコロを倒して、フリーザを倒して、ブウを倒して……と順番に敵を倒すことで、悟空を起点にして徐々に世界が広がっていきました。『ワンピース』でも、ルフィがグランドラインで順番に島をまわることで、その先々で新たな敵が順番に出てきました。この2つのレジェンド作品ではともに、主人公を起点にしてマップが広がり、主人公の視野に入ることで新キャラが登場し、主人公の成長に合わせて敵キャラの強さはインフレしていきます。

しかし『キングダム』は違います。「主人公性の否定」の効果として、斉・楚・秦・燕・韓・魏・趙の7国があり、それぞれにとても強い武将がいるということが、信の視野がそこまで届かないうちから、全部読者に開示されているのです。世界の全容を、広さを、読者は初めから認識できるようになっている。それが、ワクワク感につながるのです!

魅力その③は、魅力その①、②のおかげで、主人公の立身出世の凄さが、読者にダイレクトに伝わることです。「本能型の極み」たる麃公の戦いぶりを、大戦争の行方を手に取るように操る李牧の恐ろしさを、彼らにとても手が届かないうちから見せつけられているからこそ、読者は信が将軍に近づくことの価値を、より理解することができる。そして何より、「伝説の大将軍」たる王騎の強さ、偉大さがわかる。だからこそ、王騎が信に見せてくれた「大将軍の見る景色」に、わたしたちは強く心を揺さぶられるのです!

「合従軍」編はこう見るべし!

なぜ「合従軍編」は、原作ファンに対し屈指の人気を誇るエピソードなのか。この問いに対して私は冒頭で、「『合従軍編』は、『キングダム』という作品のコアとなる部分が一番炸裂しているエピソードであるから」と答えました。これはつまり、上記で述べた『キングダム』の3つの魅力が、「合従軍編」でこれでもかというほど発揮されているということです。

※筆者作成

中でも発揮されているのは、魅力その②……「世界の全容を、読者は初めから認識できるようになっている」という点でしょう。このポイントがあるからこそ、「秦以外の6国が同盟を組んで、一斉に秦に攻め込んでくる」なんてトンデモ展開(史実とはいえ)が許されてしまうのです。『ドラゴンボール』でいうなら、ベジータとフリーザとセルとブウが同時に地球に攻めてくるみたいな感じです。いや順番を守れよと、それはさすがに地球滅んじゃうからダメでしょうと、普通はそうなるんですけど、『キングダム』は魅力その②のおかげで、こんな最高の盛り上げ方と言ってもいい展開を、可能にしてしまっているのです。

また、秦以外の6国が同時に攻め込んでくるので、これまでとは比べ物にもならないほど多くの武将が、敵味方双方で登場します。「主人公より強いキャラを惜しみなく出せる」という、魅力その①がいかんなく発揮されるわけです。その上、その武将らは全員非常にキャラが立っている。これほど多くの武将を一切魅力を損なうことなく描けるのは、作者である原 泰久の手腕としか言いようがないでしょう。

そして、魅力その③です。このように多くの武将たち、そしてあまりに広く過酷な世界を見せつけられる中で、我らが信はどのような活躍を見せてくれるのでしょうか。ぜひ、この合従軍侵攻の衝撃と、信を囲う武将たちの戦いを、逃すことなく目にしてください。そうすることで、信がこれから成し遂げることの凄さを、十二分に感じ取ることができるのですから。

これら3つの魅力に注目して「合従軍編」を見ると、より深く、このエピソードを味わうことができるはずです。アニメ3期、必見です!!

TVアニメ『キングダム』

2020年4月5日(日)24:15~NHK総合にて放送開始!
※放送は変更になる場合あり。

【STORY】
紀元前、中国西方の秦国(しんこく)に、今は亡き親友と夢見た「天下の大将軍」を目指す若き千人将・信(しん)がいた。

かつて王都で起きたクーデターに巻き込まれ、現在の秦王・嬴政(しんおう・えいせい)と運命的に出会った信は、自身の夢をかなえ、嬴政が目指す「中華統一」をともに成し遂げるため戦場に身を置くことになる。戦地で散った師・王騎(おうき)の死を乗り越え、蒙恬(もうてん)や王賁(おうほん)ら同世代の隊長たちと切磋琢磨しながら、着実に夢への階段を上ってゆく信。一方、嬴政もまた、壮大な目標に向け、相国・呂不韋(りょふい)から国の実権を奪い返すべく宮廷内での勢力拡大に力を注ぐ。

そんな中、軍事最重要拠点のひとつ山陽(さんよう)の攻略に成功した秦国は、これにより中華統一へ一歩近づくこととなった。だが、七国の勢力図を塗り替えかねないこの一手に危機感を抱く趙国(ちょうこく)の天才軍師・李牧(りぼく)は、楚国(そこく)の宰相・春申君(しゅんしんくん)を総大将に、楚、趙、魏(ぎ)、燕(えん)、韓(かん)、斉(せい)の六国による合従軍を興し秦国への侵攻を開始する!

未曾有の危機に、秦国は持てるすべての武力を結集して、合従軍を迎え撃つ!!

【STAFF】
原作・監修:原 泰久(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
監督:今泉賢一
シリーズ構成:高木 登
キャラクターデザイン:阿部 恒
音楽:澤野弘之/KOHTA YAMAMOTO
アニメーション制作:スタジオ サインポスト

【CAST】
信:森田成一
嬴政:福山 潤
河了貂:釘宮理恵
李牧:森川智之
春申君:内田夕夜
汗明:田中美央
媧燐:田中敦子

©原泰久/集英社・キングダム製作委員会

アニメ『キングダム』オフィシャルサイト
https://kingdom-anime.com
アニメ『キングダム』オフィシャルTwitter
@kingdom_animepr

原作コミック『キングダム』(集英社コミック公式 S-MANGA)
https://www.s-manga.net/search/search.html?seriesid=48232&order=1