Interview

『マンガに、編集って必要ですか?』クスリと笑える会話劇とマンガ作りへの真摯な思いが同居する名作が完結。作者・青木U平にインタビュー!

『マンガに、編集って必要ですか?』クスリと笑える会話劇とマンガ作りへの真摯な思いが同居する名作が完結。作者・青木U平にインタビュー!

『マンガに、編集って必要ですか?』そんな刺激的なタイトルのマンガ作品が完結を迎えました。新潮社のWebサイト「くらげバンチ」で連載されていた本作は2019年5月に1巻が発売され、2020年2月に最終巻となる3巻が発売。作者はドラマ化もされた人気作品『フリンジマン』で知られる青木U平さんです。

このたび作者の青木さんに、担当編集者も交えてインタビューを行う機会が得られました。レビューと合わせて、本作の生まれた経緯やタイトルに込められた思いを紐解いていきます。

文・インタビュー取材 / 兎来栄寿
構成 / WHAT’s IN? tokyo編集部


『マンガに、編集って必要ですか?』とは

近年ではWebサイトやSNSへの投稿からのヒット作も多数生まれ、作者自身で電子出版を行う事例も増えてきています。それに伴ってマンガ編集者の仕事内容や役割も大きく変化。「編集者不要論」もしばしば話題になっています。

そんな中で登場した『マンガに、編集って必要ですか?』は、45歳のマンガ家・佐木小次郎と、新しく彼の担当として就いた24歳の女性編集者・坂本 涼を中心とした物語です。

マンガ家歴はそれなりに長くなってきたものの、今ひとつ売れていない佐木は焦燥感を募らせる日々。しかし、そんな彼の想いを余所にファッション誌出身でマンガ編集部に配属されたばかりの坂本は、打ち合わせ中の雑談が非常に長くマンガに全然関係のなさそうな心理テストをしてくるなど「この新人の子、大丈夫かな……」と心配せずにはいられない態度を取り続けます。序盤はそんなアンバランスな二人によるコメディという様相です。

©青木U平/新潮社

しかし、徐々に坂本が誰よりも真剣に、誰よりも命懸けでマンガに向き合っていたことが判明していきます。そしてそんな坂本にある日大きな事件が起きて、物語は序盤の雰囲気とは打って変わり予想外の方向へと進んでいくことに。

「売れないマンガに価値はないのか」といった重たいテーマについても、さまざまな関係者の視点を交えて語られていきます。佐木と坂本がどこにたどり着くのか。結末はぜひ読んで確かめてほしいのですが、読了時には二人が共通して抱く「面白いマンガを世に届けたい」という願いこそ、何よりも尊いものであると信じられるようになっているはず。

つらい時には思わずマンガの名ゼリフを思い起こして奮起するような、マンガが大好きな人にこそ読んで欲しい物語です。

青木U平インタビュー

©青木U平/新潮社

最初は「気軽なコメディ」だった

今回の作品について、連載開始前のインタビューでは「気軽に読める漫画家と編集の打ち合わせ会話劇コメディ」ということで紹介されていたのですが、しだいに「打ち切り」や「(編集者の)失踪」などの展開も含む、シリアスで切実な内容になっていきました。これは最初から構想していたものだったんでしょうか。

青木U平 正直言うと、全然考えてなかったです(笑)。本当にささいな日常のコメディをやりたいなと思っていたんですよね。二人の人物が会話していて、毎回「ところで話はそれるんですけど……」というセリフでお話が転がっていくような。

企画の初期では小説家と編集者の話だったんですが、「取材しなくていいし、マンガ家のほうがいいんじゃない?」と、そんな軽い感じでマンガ家の話になったところがあって。

なるほど。担当編集者としてはどうでしたか。

太田(担当編集者) 僕としても青木さんの強みは会話劇、キャラクター同士のやり取りの面白みだと思っていて。一方、ウェブ配信を軸にして始めるのが、青木さんとしても僕自身のキャリアとしても初めてだったんですね。

この作品を連載していた「くらげバンチ」では、まずは5回連続で短期集中連載をしてみて、そこでの読者の反響なりPV数なりを勘案しながら連載継続を検討するっていうのがレギュレーションになっていて。読者の反響をダイレクトに受けながら、お話にスピード感をつけていただく流れになった感触があります。

青木 で、最初の5話を連載した時点で「あと数回で終わるかもしれない」ということになって。単行本にもならないかもしれない、だったら思いっきりやろうと吹っ切れて、担当編集者が失踪することにしよう、そこから逆算して打ち切りという展開を入れよう……という風にお話を作っていったんです。

あくまでコメディをやりたいということで企画されたとのことですが、どういった読者を想定していましたか?

青木 結果的にマンガ家さんとか編集さんがターゲットになったところはあったんですけど、当初は30~40代の、佐木みたいに一生懸命仕事に向き合ってはいるんだけど、なかなか思い通りにいかない人が読んでどう感じるのかってことを思い浮かべていました。お仕事ものとしてというよりは、軽く読めて「この人、話長ぇな~」って感情に共感してもらえるような、ライトなものをイメージしていましたね。それから、女性が読んでも共感してもらえるようなものにというのも意識しました。

モデルになった人物・エピソードは?

©青木U平/新潮社

描き足りなかったエピソードや、ボツになったエピソードってありますか?

青木 やっぱり自分自身がマンガ家なので、エピソード自体はぼろぼろでてくるんです。たとえば、「マンガ家は編集部であまり打ち合わせをしたくない」と思ってるってこと。もしかすると自分だけかもしれませんが、うっすら知ってる編集さんを見かけたりすると、「この人にはあいさつしたほうがいいのかな?」とか、そういう微妙な駆け引きが生まれる気がするんです。特に無名の頃は、それが気まずくて打ち合わせに集中できない(笑)。

あとは、作家が「自分に突出したものがない」ということにだんだんと気づいてくる、という話は入れたかったですね。自分の経験と照らし合わせても、切実なテーマですから。バケモノみたいな作家がいっぱいいる世界で、主人公の佐木が何を武器にして戦うのか。試行錯誤を繰り返しているうちに、いつの間にか彼も「あんたもバケモノだよ」と言われるくらいになっていた……そんな筋は作りたかったなと。

過去作のあとがきでも、キャラクターは青木さんの分身だという話が書かれていました。今回の佐木小次郎というキャラクターは、どれくらい青木さんご自身だと思いますか?

青木 職業が同じなのでもちろん資料的に使いやすい経験はあるんですけど、なるべく自分自身を投影しないようにしていました。エッセイマンガ的なものが自分の得意分野ではないと、キャリアを重ねる中でわかっていましたし……太田さんは、どれくらい似てると思います?

太田 ルックスに関してはやっぱりマンガなので、見栄えのいいマンガ家と、見栄えのいい編集者で、みたいなところはありました。佐木も、元々は西島秀俊さんがモデルになってましたね(笑)。ただそれを抜きにしても、青木さんがそのままこの人という風に感じる部分はなかったです。青木さんは佐木と違って思ってることをずばずば言える方ですし、お酒を飲んだらちゃんとはしゃげる人でもあるし(笑)。

もうひとりこの作品の核である、編集者の坂本 涼についてはどうでしょう。

青木 彼女にも特定のモデルはいなくて、編集さんにかぎらず、自分が接してきた人たちのパーツを寄せ集めてきた感じです。自分自身と重なる部分もあって、たとえば彼女の「私が世界と繋がれるのは マンガだけだから」ってセリフは、まさに僕が常日頃感じていること。マンガを描くということは、自分の感情のゆれと、読者が何を感じて感情がゆれるのかっていうのを、想像してすり合わせていく作業ですから。

©青木U平/新潮社

ちなみに、2巻の帯に描かれているようなこと(「面白いとか面白くないとか 関係ないんだよ」というセリフ)を言う編集さんって、会われたことがありますか。

青木 それはないですね。このキャラクターにかぎらず、「業界にはこういうやつがいるから描いてやれ!」みたいなのはまったくないです。

ただ別のキャラクターで、なぜか風貌が似てきてしまった人というのはいて……本当にお世話になった編集さんなんですけど、周りから「なんか(似てるキャラクターが)出てるよ」と言われたらしく、気まずくなったということはありました(苦笑)。

「マンガに、編集って必要ですか?」と聞かれたら

©青木U平/新潮社

「マンガに、編集って必要ですか?」という問いについて、青木さんはどう思われますか?

青木 うーん、人によるんじゃないかな。ただ僕の周りの作家さんをシミュレートすると、いらないって断言する人はそんなにいない気がします。それは別に情とかではなくて、「編集者なんていらない」って言っちゃうのは、むしろ合理的でないということなんですけど。

なるほど。青木さんご自身は、どういったところで編集さんの力が必要と感じますか。

青木 自分の作品が面白いものになっているかどうかのすり合わせができる点ですね。新人の頃は編集さんを「壁」だと思ってたんです。面白いものを見せてやろう、笑わせてやろう、感動させてやろうと思ってたんですけど、こうやって何冊か単行本を出して、売れないっていう状況を経験すると、編集さんをすごく喜ばせたとしても売れない、ってケースがめちゃくちゃあるんだなというのを感じることになって。

プロとしてマンガ家をやるということは、編集さんの先にあるもっと大きい「読者」っていう人たちを楽しませて、本を買ってもらって、自分の宝物にしてもらわなくちゃいけないということ。そこで編集さんは「壁」じゃなくて、面白いマンガをどうやって売るのかっていうのを一緒に考えてくれるパートナーなんだなというのを実感したんです。

インタビューはLINEのビデオ通話機能を使って行われました。

もしどうしても相性が合わない編集さんと組むことになったとしたらどうでしょう。

青木 僕の考えですけど、合う合わないっていう振り幅が狭くなっちゃうと、どんどんやれることが少なくなってしまう。よっぽど合わなかったらその雑誌自体をあきらめるって選択肢もありますけど、「そこそこ合わない」くらいだったらこっちが主導権を握って面白いものを描いてしまえば御すことができる。その自信がなければやめればいいし、御せるように頑張るっていうのが僕の答えです。

電子出版も盛んになってきて、編集者の力を借りずにマンガ家として生計を立てている例も増えてきているなと感じます。そういう動きに対してはどう思われますか。

青木 そういう人たちでもやっぱり奥さんや友達、身近な誰かには見てもらった上で発表してると思うんですよ。その中で編集さんというのは最大公約数の読者とは何かを知っているわけで、そういう人に見てもらうのはすごく理屈に合ってると僕は思います。

それに「週刊少年ジャンプ」や「週刊少年マガジン」で連載している人と比べて電子出版の人が同じ部数稼げるかというと、そういうことはまだないですよね。そんな人が出てきたら初めて脅威を感じるのかなと思ってます。

あとはそうやって全部ひとりでやることによってマーケティング的なことを勉強しなくちゃいけなくなるくらいだったら、面白いものを描くほうに頭を使いたいなというのも正直なところですね。マンガ家はマンガのスペシャリストであってほしい……って、マンガ家が言うと言い訳に聞こえちゃうかもしれないですけど、そういう世界であってほしいというのは願望としてあります。

あとは最近だと、SNSでのいわゆる「バズ」が重要ってことになりがちで、10巻くらいでじわじわ魅力がわかってくるタイプの作品が埋もれやすくなっているのは、いちマンガファンとして歯がゆく思っているところです。

青木 でもマンガ家としては、「最初の数ページで読者を掴まなきゃいけない」といったいわゆるセオリーとされていることは、昔も今も変わらずに腕の見せ所だと思いますよ。2ページマンガじゃないとそもそも読まれないなんて世界になってくると、話は変わってきますけどね。

本作を描き終えて

改めて、本作を描き終えた手ごたえや反響をどのように捉えられていますか。

青木 正直言うと、もうちょっと売れてほしかったなというのはあります(苦笑)。でもやっぱり作家さんや編集さん、クリエイティブな仕事をされている方々が読んでくれて、お言葉をくれるっていうのはすごい光栄だなと思っていて。けっこう生意気なことを言っているタイトルなので、お叱りを受けることもあるだろうなと思ってたんですけど、押しなべて好意的な反応をいただいていて。このマンガを描いたことによって元気が出たし、自分のマンガ家としてのこれからに向けてエネルギーがもらえたなと思います。

次回以降、描きたいと思われている作品を教えてください。

青木 ひとつは4月1日発売の「月刊ヒーローズ」から、会社ものショートコメディの連載を始めます。それこそ疲れたサラリーマンが頭を空っぽにして読めるようなものを想定していて。雑誌の予告には『おっかない上司(仮題)』っていう仮タイトルで出ているんですけど、本当はタイトルも決まっていて、でも言うとネタバレになっちゃうから言えないんです。

あとはストーリーマンガですね。僕と同世代、40代の人っていうのは、どうしてもお金儲けが上手い=正しいっていうことになりがちな気がして。佐木じゃないですけど、不器用に生きてる人が幸せになりにくいし、ナメられる世界だなって思うんです。最近だと『ジョーカー』や『パラサイト』などの映画作品にも似たテーマが描かれているなと感じるんですが、それって言い換えると、感受性のようなものが尊重されていない風潮があるということだと思うんです。そこに一石を投じられるような作品を描きたいなと思ってますね。

どちらの作品も楽しみです! ありがとうございました。

青木U平(あおきゆーへい)

東京都出身。連載デビュー作『フリンジマン』が2017年テレビ東京にて実写ドラマ化。ほか著作に『酩酊!怪獣酒場』シリーズ、『妹はメシマズ』、『服なんて、どうでもいいと思ってた。』など。

マンガ『マンガに、編集って必要ですか?』

『マンガに、編集って必要ですか? 1巻』
https://www.shinchosha.co.jp/book/772179/

『マンガに、編集って必要ですか? 2巻』
https://www.shinchosha.co.jp/book/772218/

『マンガに、編集って必要ですか? 3巻』
https://www.shinchosha.co.jp/book/772257/