Interview

「ここに面白いマンガがあるぞ!」と大きな声で伝えたい。「マンガ大賞」発起人・吉田尚記が語る、「面白いマンガ」の条件とは

「ここに面白いマンガがあるぞ!」と大きな声で伝えたい。「マンガ大賞」発起人・吉田尚記が語る、「面白いマンガ」の条件とは

2008年のスタート以来、数多くの作品のヒットの火付け役となり、今年の大賞発表も目前に控える「マンガ大賞」。賞の発起人である人気ラジオアナウンサー・吉田尚記へのインタビュー後編をお届けします。

賞のこれまでの歩みや「マンガとラジオは似ている」という持論などを伺った前編に続き、後編では昨年から今年にかけて社会現象を巻き起こしている「あの作品」についてや、「まだひとりしか知っている人に会ったことのない」というとっておきの作品、学生時代から年間数百冊を読み続ける秘訣(?)まで、マンガ文化への熱い思いを滲ませつつ語っていただきました。

取材・文 / WHAT’s IN? tokyo編集部


インタビュー前編はこちら
「マンガ大賞2020」発表間近! 発起人・吉田尚記に聞く、13年の信頼を支える仕組みとメディア論

「マンガ大賞2020」発表間近! 発起人・吉田尚記に聞く、13年の信頼を支える仕組みとメディア論

2020.03.05

単行本はマンガという旅の「みやげもの」

前編での「マンガとラジオは似ている」というお話から、最近よく見る、マンガ家さん自身がツイッターに作品を丸ごと上げる事例を思い出しました。「〇〇が××する話」のようなタイトルをつけて、何分割かしてツリーにして上げる、みたいな。ああいったものも一対一のコミュニケーションという意味で、理に適っているんだなと。

「とにかく作品を知ってほしい」ってことですよね。ダイレクトにお客さんに届けて、お客さんが反応してくれたらうれしいっていう……それはその通りだと思います。だけどスケール感的に、やっぱりツイッターで読める物語は小さくなっていく。

それは世界観だとか、画面から受ける迫力といったことでしょうか。

そうですね。人間って、スマホと映画館の大スクリーンで同じ風景写真を見たら、映画館で見たほうが絶対感動するじゃないですか。同じことで、見開きの紙っていう形式が持ってるパワーっていうのは、いまだツイッターマンガの形式では破れていないと思うんです。僕も持ち歩きの問題でスマホで読んだりしますけど、可能なら紙か、少なくともタブレットで読みたい。

それに、人間ってフィジカルなものにしか思い入れられないんですよ。マンガが今でも力があるのは、本が紙として出版されているからで。

これは電子書籍のプロに聞いた話なんですけど、紙の本と電子書籍を同時にリリースしたほうが、電子書籍も売れるんですって。別に電子書籍を買う人が紙の本も買うわけじゃないですよ? 紙の本があるものの「ゴースト」として買うって気持ちになると、人間は電子書籍でもちゃんと思い入れてくれる。

なるほど。

あとこれは今日閃いたことなんですが……ちょうど今日は僕『マロニエ王国の七人の騎士』(岩本ナオ著)の最新巻を読んでいたんですけど(単行本をカバンから机に出す)、この作品を読んで「ものすごいトリップ感があるな、旅に行ったな」と感じるのが「マンガを読む」という体験。だとしたら、この本は「みやげもの」なんですよ。

ああ、マンガを読むという「旅」をしてきたことの。

パッと見たときに「あの旅はこうだったな」っていう風に思い出すものがこれ(単行本)で。本棚を見た時の充実感も、その気持ちに近いんじゃないかなと。この作品は電子書籍でも持ってるんですけど、それはスマホの写真のギャラリーに近いなって思うんです。

「読んだことがない」マンガが面白い

マンガ大賞の話に戻りますと、選考を離れれば委員の人たち同士で「あの漫画おもしろかったよねー!」みたいな雑談は普通にされるんですよね。

そうですね。マンガ大賞のもうひとつのコンセプトは、「マンガを肴に酒を飲みたい!」ってぐらいなので。

吉田さんの身の回りの経験談で構わないのですが、「このマンガが面白い」ってなったときに、その作品の何が面白いって話になりがちですか? コマ割りとかセリフとか、いろいろあると思いますが。

人によると思いますけど、僕は「読んだことがない」マンガが好きです。

読んだことがない……?

「えっ、なんでこんなキャラクター出そうと思ったの!?」「うわっ、読んだことないセリフ回し!」とか、そういう知らなかった感覚に出会えるものですね。これってさっき話した「非マーケティング」ということにも通じるんですよ。『ゴールデンカムイ』が出てきたときなんか、アクションマンガで、北海道のアイヌ民族マンガで、グルメマンガで、謎解きで、みたいなのが全部入ってて……「もうワケわかんなくて最高!」ってなりましたもん。

なるほど。まさにマンガ大賞があったからこそなのかもしれないですが、『ゴールデンカムイ』にはこれとこれとこれの要素があって……という薦め方のパターンは、なんだか定着した感がありますね。

それだって誰かがはじめに大きな声で言わないとダメなんです。「ゴールデンカムイ」って言葉自体に若干のオーラはありますよ。でもそういう本が店頭の棚に挿されてるだけで手に取って読むかっていうと、最近だとシュリンクされてることが多いのもあって、なかなか難しい。

後々作品のタネになる、あるアイデアを作者さんが思いついたとするじゃないですか。映画監督だったらまず人を集めるところから始めなきゃいけないですけど、マンガ家さんだったら「じゃあちょっと描くか」ってひとりで描いて、面白いものになっていたらそれでいいわけです。

でももしそうやって実験に成功しているのに、プロモーションの問題とかで世の中に根付かない、マンガ家さんや編集さんが食っていけないということになったら、それはすごく残念なことですよね。マンガ大賞というメディアは、そういう状況に対して「こんなに面白いマンガがここにあるぞ!」と声を大にして伝えたいんです。

それでいうと、「マンガ家さんと編集さんは投票に参加できない」ってことは言っておかないとですね。たとえば実行委員の中にこの13年の間に書店員から編集者になった方がいるんですが、その方の投票権は編集者になった時点でなくなっています(ちなみにその方は、今も実行委員として事務的なことはやってくれています)。そのぐらい厳密に、選考員の中に「売れたことで得をする」人はいないんです。

『鬼滅の刃』はなぜマンガ大賞を獲れなかった?

マンガ大賞の対象となっているのは、その時点で刊行巻数が8巻以下の作品ということになっていますよね。月刊のほうが刊行ペースが長くなるから、作品によってはかなり前に1巻が出ているものもある。こうして改めてノミネート作品の並びを見て思うのは、マンガの「面白さ」のピークって一体どこにあるんだろうということで。

まず8巻までにしてることに、マンガを制作してる人たちの都合は一切入ってないです。人によって出せるペースも違うし、マンガ大賞を獲るためにマンガを描くなんてことになっても本末転倒ですしね。

じゃあ誰のためかっていうと、ユーザーのためです。商業作品って厳しいですから、9巻以上まで続いてるマンガは絶対面白いって保証があると言えます(「長く続きすぎて面白くなくなったマンガもある」と言う人もいますが)。「面白いのに、ウケなかった」という理由でこの世から忘れられてしまう作品があるとしたら、それは8巻以下の世界だけだと思うので、マンガ大賞では8巻という線を引いてるんです。

「面白さ」のピークはどこかという話だと、昨年大賞を獲った『彼方のアストラ』なんかはわかりやすくて、あれは最終の5巻まで読まないとまったく意味がない作品ですよね。そういう作品なら5巻が面白さのピークということになると思います。

なるほど。その話を聞いて思い浮かべるのがやはり『鬼滅の刃』で。マンガ大賞ではノミネートに入ったことがなかった(「マンガ大賞2017」で一次選考作品には挙がっている)にも関わらず、昨年一気にブレイクした。

世間的に、世の中がガラッと変わるぐらいヒットしましたよね。

個別の作品の話になってしまうんですけど、なんで『鬼滅の刃』はマンガ大賞においてスルーされてきたんだと思います?

うーん……それは選考員におっさん・おばさんが多いからというのもあると思う。そんなにメンバーを入れ替えないで13年経ってるので、選考員もまんま13年分年を取ってるんですよ。『鬼滅』が(選考対象だった8巻以下の時点で)ノミネート作品に残らなかったのは、その時点では僕たち世代にもわかる魅力を発揮できていなかったということなのかもしれない。

逆に『あした死ぬには、』とかはおっさん・おばさんが読むと「ああわかるな」っていうマンガだったりするんだけど、10代の子が読んで面白いかと言うと難しいかもしれない。これは僕らも具体的にどうにかしなきゃなと思いつつ、しかし賞のクオリティ自体は絶対に下げたくないしなっていうジレンマがあって。

たとえば僕は「好き」という気持ちを第一にマンガを読んでるんです。「自分はマンガ大賞の実行委員だから、マンガに詳しくなければならない」と思って読んだら、賞の純粋性が失われる。流行ってる作品も気にはするし、もともと門戸は閉ざしてないから読んでみるけど、「勉強で読まなきゃ」はやっちゃいけないと決めているんですね。

だから『鬼滅』のことは、僕ら実行委員会にとってのアンラッキー。「だって『鬼滅』入ってないじゃん!」って理由で、賞に説得力を感じない人が出てくるかもしれない。ただ、『鬼滅』はほっといたって世の中に気づかれたんだし、「気づいてほしい」作品に授賞する賞としてはそれでいいんじゃない、と思います。もちろん『鬼滅』をつまらない作品とは思ってないですけどね。

吉田さんお薦めの作品は?

ちなみに、今回吉田さんが投票されたものの、ノミネートには残らなかった作品って教えてもらっても大丈夫ですか?

それは構わないですよ! だからと言って来年以降、それに投票しろってわけじゃないですからね。

では、それをぜひ。

僕はさっきも言ったように「読んだことがない」マンガが好きで。今回めちゃくちゃ推したかったのは、『赤狩り THE RED RAT IN HOLLYWOOD』『可愛そうにね、元気くん』『裸一貫! つづ井さん』『青野くんに触りたいから死にたい』です! 一次投票で5つ選んだうち、ノミネート作品に残ったのは『ブルーピリオド』だけなんです。他のノミネート作品も読んではいたけど、「(この作品なら)みんな入れるだろうな」って気持ちが働いて避けたところもあり……そうしたら、『赤狩り』なんてほんとに自分の一票しか入ってなかったんですよね。

僕もその作品はまったく知らなかったです。どういったところに「読んだことがない」という感覚があったんですか?

すごいですよ。アメリカの、1950年代に映画界を襲ったレッドパージ(共産主義者を公職や企業から追放する運動)の波が題材なんだけど、その波によって『ローマの休日』にはこういう主張が込められて撮られてる……みたいな話を、山本おさむ先生っていう大ベテランのマンガ家さんがゴリゴリに調べて、めちゃくちゃ重厚なドラマで描いてる作品で……

と、こんな早口で語ってしまうくらい面白い作品があったら、読んでほしいって思うじゃないですか? そういう作品が集まってるのがこの一次選考作品のリストなんです。

「マンガ大賞2020」一次選考作品リスト。オフィシャルサイトには、各作品の選考員による推薦コメントが掲載されている。

投票する際に「必ずお薦めする文章を書いてくれ」って言ってるのも、そのほうがなぜその作品を薦めたいと思ったのか、熱が伝わりやすいっていう理由からなんですよ。

吉田さんによる『赤狩り THE RED RAT IN HOLLYWOOD』の推薦コメントはこちら

なるほど。その上でちょっと不思議だなと思うのが、「このマンガがすごい!」とかと上位のラインナップはけっこう似てくるなというところで。

(「このマンガがすごい!2020」オトコ編1位の)『SPY×FAMILY』とか、入ってますよね。まず、面白いものは問答無用で面白いからってのはひとつ。

あと、マンガってどんなにヒットしてたって――『SPY×FAMILY』だって――たぶんまだ全国民の1%も知らないですよ。マンガを好きな人からするとすでにすごい影響力があるように思いますけど、世の中の人の多くは全然知らない。だから「まだ推さなきゃ!」という気持ちにもなる。

そしてプロモーションの問題というのはやっぱり常につきまとう。「このマンガがすごい!」とかを獲ると、店頭の目立つところに並ぶので、どうしても手に取るチャンスが多い。

選考員にとっても、それは例外じゃないということですか。

そうですね。『SPY×FAMILY』を悪く言うわけじゃないですけど、ある人にとって『SPY×FAMILY』よりもっと深く刺さる作品ってたぶんこの世にあるんですよ。だけどそれに出会えてるか出会えてないか、っていうのは必ずある。そしてマンガ大賞では、その出会いを助けたいと思ってるわけです。なるべく公正な形でね。

おわりに

最後に吉田さん個人の話として、お忙しいでしょうに、なんで一年に数百冊ものマンガを読めるのか? ということをお聞きしたくて。

なんでかって言われてもな……(笑)。もともと中学生とか高校生のときから今でもずっと、暇があったら神保町に行って、マンガを買って喫茶店で読んで帰ってくるっていう習慣は変わってなくて。

スキマ時間に読みやすいとか、そういうマンガならではのメディア的な特性もあるんでしょうか。いまだと電子書籍もありますし。

電子書籍にはすごくお世話になってますね。10代の頃と比べて忙しくはなったけど、そのおかげで読む量自体は変わってないところがあります。

マンガって、ほんとに2、3分でもその世界に旅した感覚が味わえるものだと思っていて。まとまった時間ができたら読むって人が多いのかもしれないですけど、僕は「やることが今ない、よしじゃあ読もう!」っていう感じだから(笑)。結果的にたくさん読んでるんじゃないかな。

過去のインタビュー記事(「電子書籍ランキング.com」2016年の記事)に、吉田さんの自宅の書棚の写真が写っていたんですけど……まあすごいなと。

20年かかってああなってますからね。もうどこに何の本があるか探せない! 「絶対持ってるけど……」と思いながらKindleで買ってますもん。さっきも言ったように「みやげもの」なんで、なかなか手放せないんですけどね。

とはいえ保管しておくだけではもったいないので、実は蔵書を使って民泊をやろうかと画策してるんですよ。マンガが読める民泊。土地や建物を持ってる方がいたら、ぜひご連絡ください!(笑)

吉田尚記 WHAT's IN? tokyoインタビュー

インタビュー場所となった「Comic Cafe&Bar しょかん」は様々なコミックの1巻だけを集めたお店。スポーツマンガコーナーに展示されていた『アオアシ』(小林有吾著)を、「今、一番面白いサッカーマンガですよ!」と熱く紹介してくれました。(既刊19巻なので「マンガ大賞2020」では選考対象外です)

マンガ大賞2020

オフィシャルサイト
https://www.mangataisho.com/

オフィシャルTwitter
@mangataisho

吉田尚記(よしだ・ひさのり)

1975年東京都生まれ。ニッポン放送アナウンサー。『ミューコミプラス』(月~木曜日24時より放送中)のパーソナリティとして「第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞」を受賞。「マンガ大賞」発起人および選考委員。著書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)が累計13万部(電子書籍を含む)を超えるベストセラーとなり、近著に『没頭力 「なんかつまらない」を解決する技術』(太田出版)がある。マンガ、アニメ、アイドル、落語、デジタルガジェットなど、多彩なジャンルに精通しており、年間100本におよぶアニメやアイドル、ゲームなどのイベントの司会を務めている。

Comic Cafe&Bar しょかん(取材場所提供)

【住所】
〒171-0021
東京都豊島区西池袋5-1-7 ​佐久間ビル2F

【営業時間】
月曜~金曜
13:00 or 16:00~23:00
土曜
13:00~23:00
日曜・祝日
13:00~18:00

オフィシャルサイト
https://www.shokan.co.jp/