Interview

「マンガ大賞2020」発表間近! 発起人・吉田尚記に聞く、13年の信頼を支える仕組みとメディア論

「マンガ大賞2020」発表間近! 発起人・吉田尚記に聞く、13年の信頼を支える仕組みとメディア論

2008年のスタート以来、受賞作の多くが映像化されるなど、今やヒットのお墨付きとして定着した「マンガ大賞」。生粋のマンガ好きである選考員がセレクトした作品群は、「たくさんありすぎて、どのマンガを読んだらいいかわからない!」という一般の読者にとっての、優れたガイドとしても機能してきました。

令和になって初の開催となる「マンガ大賞2020」の発表を目前に控える中、賞の発起人でもある人気ラジオアナウンサー・吉田尚記にインタビュー。13年間変わらずに大切にしてきたポリシーの中から、マンガという表現とラジオというメディアの意外な類似性も紐解かれる、金言盛りだくさんの内容となりました。

取材・文 / WHAT’s IN? tokyo編集部


マンガ大賞、その始まり

今日は10年以上にわたって「マンガ大賞」を運営されている吉田さんから、マンガの面白さを伝えるために大切なことは何か教えていただければと思い、お時間を頂戴しました。

なるほど。マンガ、お好きなんですか。

それが、自分はどちらかというとアニメを追っていた身でして……吉田さんがMCを務められている、毎クールのアニメPVを紹介する番組「つづきみ」(オフィシャルサイト)も、参考にさせていただいています。
それで、あの番組の中で吉田さんがご自身のことを「マンガ勢」っておっしゃられるじゃないですか。この場所(Comic Cafe&Bar しょかん)でも以前、マンバさんというマンガの口コミサイトが主催するイベントを取材したんですが、そういったいわゆる「マンガ読み」のコミュニティって、根強く存在すると思っていて。

ああ……でもそれは、最近になって新しくできてるんだと思います。マンガ読みの間には、基本的にコミュニティがなかったんですよ。

マンガの歴史自体は、手塚治虫の『新宝島』(1947年刊)を起点とすればもう70年になるんですけど、マンガを紹介するメディアっていうのは、僕が学生時代(1980年代)に読んでいた「ぱふ」とか「コミックボックス」っていう雑誌以外には、ほぼなかった。

マンガ大賞を作ったときの問題意識としては、そういうユーザー向けに面白いマンガの紹介をするメディアって今ないな、じゃあ作ろう、と思ったということがありました。

マンガ大賞は2008年から始まっていますが、その頃はインターネット上のマンガコミュニティのようなものもあまり活発ではなかったんでしょうか。

マンガブロガーって人がギリギリいるかなぐらいの感じですね。

最初に声をかけたのはどういった人たちだったんですか? そういったマンガブロガーの人たちだったり。

書店員の人たちですね。僕が今もやらせてもらってる「ミューコミプラス」(オフィシャルサイト)という番組があるんですが、2007年頃から有名なマンガ書店員さんに会いに行く取材をずっとやってたんですね。雑誌やウェブといったメディアはほとんどない一方、彼らの存在はメディアとして機能してましたから。

書店員さんがメディアとして機能していたというのは、たまに「王様のブランチ」に出たりとかそういう……

のもあるし、そもそも書店の棚っていうのがメディアなんですよ。「この本が今面白い」って思うものしか目立つところには並べないわけですね、何百点も出る中から。書店員さんが書店の棚というメディアの編集をやっているという。

その当時でも、講談社漫画賞とか、小学館漫画賞とかって賞はあったんです。でもそれをマンガを買う時の参考にしたことはないなと。こういう出版社の名前が付いた賞って、すでに売れているマンガにあげる賞……論功行賞なんですね。

出版社としては漫画家さんへの感謝の意になってるし、もらった漫画家さんは嬉しいだろうし名誉なことだけど、ユーザー向けじゃないなと。

なるほど。

ユーザー向けのメディアとして機能している賞として、本屋大賞(オフィシャルサイト)っていうのがあって。あちらは小説の中身が評価されて、なおかつちゃんと売れるじゃないですか。

そこでなぜ本屋大賞のマンガ版がないのかと書店員さんたちに聞いたら、運営自体が大変だし、どうやればいいのかもわからないと言うんですね。かと言ってお店やチェーン単位でやろうとしても、その運営者の意図がある感じがしてしまう。

自分はラジオ局の人間なので、ある程度顔が見えている。で、なおかつ特定の作品が売れることに関して、まったく利害関係がない。そういう人間が手間さえ惜しまなければできるんだったらやろうと思って、始まったのがマンガ大賞というわけです。

「面倒くさいところは全部俺がやる!」みたいな気概で。

実際めちゃくちゃ面倒くさかったですよ(笑)。まず「マンガ大賞って、なんだよそれ?」って話になるから、選考員は全員実名を原則としました。はじめの数年は、大賞受賞作の出版社まで行ってこの賞とは何かの説明をしてますし。

なおかつ、1年目は授賞式の最後にその年の収支報告を全部出したんですよ。儲けるためにやってるんじゃないですよと。

「手弁当で集まってこのお祭りを支えています」とオフィシャルサイトにもありました。

実行委員はもうみんな儲かることは諦めてますね、やってて楽しいからそれでいいじゃんって(笑)。大人がこれだけ時間を使ってやってるんだから、選考員にも何か還元しなきゃいけないんじゃないかとも考えたんですけど、そうすると公正さが失われてしまいますし。

「マンガ大賞を獲ると売れる」信頼を支える仕組み

大賞が毎回どのように決まるのか、仕組みを教えていただけますか。

本屋大賞のシステムをそのまま使ってるんです。選考員が常に100人くらいいるんですが、ひとりにつき5作品選んでもらって、その中で得票数の多かった10作品をノミネートとする。その10作品は選考員全員が読んで、その上でもう一回投票するというもので。

ちなみに本屋大賞を立ち上げた本の雑誌社の杉江由次さんという方に仁義を切りに行って、ちゃんと許可も得ているんですよ。

なるほど。マンガ大賞を始めて13年、何か潮目が変わったなと感じた瞬間はありましたか?

はじめの年から手ごたえがあったんです。第1回の大賞は石塚真一先生の『岳』だったんですけど、(第1回を開催した)2008年って、『岳』がちょうど小学館漫画賞を逃したタイミングだったんです(翌2009年に受賞)。

それでマンガ大賞の受賞を伝えたら、『岳』サイドの方々……石塚先生その他が、なんだかわからない賞のはずなのに、みんなすごい喜んでくれて。また、「NEWS ZERO」とかが取り上げてくれたり、僕も社内的にすごい頑張ってマンガ大賞の「オールナイトニッポン」の枠を取って、石塚先生にしゃべってもらったりして。

あとは当時の選考員のほとんど……三分の二くらいは書店員さんだったんで、店頭展開を自主的にしてくれた。そうしたら『岳』がめちゃめちゃ売れたんです。

「マンガ大賞2008」授賞式での石塚真一さん(写真提供:マンガ大賞実行委員会)

その後もドラマがあって。第3回(マンガ大賞2010)の大賞は『テルマエ・ロマエ』だったんですけど、この作品って当時、ほとんど世の中に知られてなかったんです。選考員すらほとんどが知らなかった。でもノミネートには残ったので、改めて読んだらみんなが「何これ、すげー面白い!」となって、一気に大賞を獲っちゃったんです。

そうしたら50万部を超えるまで一気にジャンプアップした。このあたりで「あ、マンガ大賞を獲ると売れるんだ」みたいなストーリーになって、そこからはもう、マンガ大賞とは何ぞやというところでそんなに苦労せずに済むようになりました。

初期は選考員のほとんどが書店員さんだっということですが、どのようにしてメンバーを集めていったのでしょうか。

クオリティを保つために、基本的に顔見知りで固めています。本当にマンガ好きかどうかって、お互いに話をするとその瞬間にわかりますから。

具体的にどういった感覚なのかお聞きしたいです。

「一番好きなマンガは何ですか?」って聞いたときに挙げた最近のタイトルで、相場観としてわかるんですよね。「ああ、マンガ好きだったら今はそれですよね」という感じで。

一方で、本当にゴリゴリにマンガ好きな人ほど「今こそ『金色のガッシュ』ですよ!」みたいなことを言ったりする。そういう場合でも理由を聞くと、「なるほど、そういう風にマンガ好きなんですね」みたいなのがわかったりしますよね。選考員になってもらってるのは、そういう話をお互いにしている100人なんです。

あとは友達じゃないと、「ノミネート作品は全部自腹で読んでね」みたいなことが言えない、というのもありますね(笑)。

たしかに(笑)。ちなみに「当時は」という言い方が気になったんですが、今は書店員さんの率は減ってるんですか。

まず、普通にライフステージ的にみんな転職するっていうのが理由としてあり。もうひとつは夢のない話ですけど、本当に書店の数って減っているし、書店に来る人の数も減っている。事実僕も部屋が破綻してしまうので、買うもののほとんどは電子になってしまいましたし……。

まあそういった理由で、書店員さんの率は減ってます。でもマンガの売り上げ自体は伸びてるんですよね。

マンガはマーケティングで作られていないエンターテインメントだ!

そうなんですよね。電子書籍の売り上げが伸びて、マンガを読む人自体は増えている。一方で「メディア」としての書店の数は減っている……となったときに、「面白さ」の広がり方だったり、あるいはマンガの「面白さ」の基準自体が変わってきたりというのが、この13年の間にあったと思いますか。

基本的には変わってないと思うんです。そのためにはラジオとマンガは似ている、って話をしなきゃいけないですね。

吉田尚記さん

ラジオとマンガは似ている、ですか。

僕がラジオ屋として思うラジオというメディアのいいところって、「全部自分でできる」ところなんです。

メディアの仕事の基本って、「調べて・まとめて・伝える」ことで。テレビとかだと、リサーチャーがいて、編集する人がいて、キャスターがいて……という形で、「調べる」「まとめる」「伝える」人が全部別になっている。

でもラジオのアナウンサーって、自分で取材して、編集素材を自分で作って、しゃべるのも自分でやるみたいな仕事なんです。それと似たところがマンガにもあると思っていて。

何を伝えたいかという核がはっきりしていれば、最小単位で世に問うことができる。

そう。それってつまり、マンガがマーケティングで作られてないエンターテインメントってことなんですよね。

たとえば『ブラック・ジャック』は、手塚治虫が阪大の医学部(旧・大阪帝国大学附属医学専門部)を出てて医学に詳しかったから、「医療はドラマになるはずだ」と確信をもって描いたものなわけで。そんなことは作品が出る前の時点では誰も思ってなかったはずなんですけど、読んでみたらみんなが「おもしれー!」ってなったわけじゃないですか。

マンガって、相談したら「それ面白いの?」って言われちゃいそうなものを、ギリギリ編集者の人だけ突破して、もし作ることができれば、広く世に問うことができるんです。そんなメディアって他にない。

一方で今って映画とかドラマとか、特に実写の作品がほとんどマンガ原作になってません?

言われてみれば、そうですね。

そうなっちゃってる理由は、「(その原作が)売れている」ということでマーケティングの第一段階をクリアしてるからですよ。「売れてるから何らかの力があるはずだ」っていうのを、リスクヘッジとして多くの映像作品制作者が使ってると言ってもいい。

ラジオ屋としてあえて悪口を言わせてもらうなら、「もっとリスク取らなくていいんですか?」って思いますね(笑)。人に責任を押し付けてませんかって。

「マンガ読み」とそうでない人の差って?

「マンガ大賞2020」二次ノミネート作品は12作品。オフィシャルサイトで確認できる。

今回のマンガ大賞の話にも移っていきたいと思います。こうやってリストを見てみると、なんとなく共通点みたいなのがあるんじゃないかと思ったり。たとえば家族がテーマの作品が……

あ、僕その視点、基本ナシって思ってるんで。

(あっ!)はい。

マンガ大賞をメディアで取り上げてもらうときに、「今年はどういう作品が多いか、実行委員だったらわかりますよね」みたいによく言われるんですけど、それって一番つまらない。

さっきも言ったように、僕らがメディアとして目指してるのは、「非マーケティング」なんです。何が面白いかということを、舞台設定とか道具立てだけで語ることは特に意味がない。それは強く言いたい。

確かに、こういう質問こそがマーケティング的でした。

1位を決める必要も、本質的にはないと思ってます。10作品のノミネートには意味があると思うんですよ、実際に読んでみたら確実に「面白い!」ってなるものが毎年ちゃんと上がってきてる自信があるので。

でも今年でいうと『チェンソーマン』『あした死ぬには、』なんて、あまりにも作品性として比べるのに意味がないんですよね。

一見まったく関係のなさそうな作品が、絶対に面白いというお墨付きは得た上で同じノミネート作品として並んでいる。

「マンガ読み」とそうでない人の差って、ほっといてもそういう作品を両方読むかどうかの差かもしれないですね。

マンガを読み慣れていない自分からすると、ジャンル関係なく「マンガである」ということだけでたくさんの作品を読めることが不思議なんですよ。そもそもマンガというものがけっこう読みにくいものだなと思っていて……パッてページを開いたときに、そもそもどういう順番で読んだらいいかわからない、ということもあって。

それは外国の人もそうだし、最近の若い人もそうですよね。10代の子とか、マンガよりも先にスマホなので。スマホならいくらでもスクロールできるのに、なんでわざわざコマを割るのかがわからない、ということになる。

ちょっと意地悪な質問になっちゃうかもしれないんですけど、この「マンガ大賞」ではマンガを読むことに慣れた、いわゆるマンガ読みが面白いと思うものが集まってくることによって、そういうスマホ世代にとってはある種時代遅れなものが並んでいくってことになりやしないかと。

うーん……でも、フィルターバブルって言葉があるじゃないですか。

レコメンデーションエンジンが発達したことにより、興味関心外の情報に触れにくくなってしまう現象ですよね。

そう。まさにフィルターバブルを破るためにマンガ大賞はあるし、そもそもフィルターバブル的なものに引っかからないのがマンガ文化だったと思うんですよ。

古い例えになりますけど、『ドラゴンボール』が読みたくて「週刊少年ジャンプ」を買ったけど、『聖闘士星矢』を面白く感じたって人がいたとする。それって意図しないところで面白いものに出会ってるということですよね。

マンガ大賞のシステムにもそれは取り入れられていて。選考員はノミネートされた作品はとりあえず絶対読まなきゃいけないから、「(読む前は)よくわかんないと思ってたけど、読んでみたらすげー面白いじゃん!」みたいなことが選考の過程である。

人気投票にはなっていないというのがマンガ大賞の一番重要なところで、だから議論もまったくしない。

あれに投票したとか、あれ面白かったよねみたいな話も……

感想は打ち上げでだけ言い合います。投票前に議論は一切しないですね。

それにもともとマンガというものと読者の関係ってそういう風に、一対一にできてるんで。そういう意味でもとってもラジオっぽいんです。

「普通の人」が「メディア」としての意識を持つために

アニメとの違いで考えるとわかりやすいかもしれませんね。たとえば今『映像研には手を出すな!』(「マンガ大賞2018」にノミネートもされた)がアニメ化されて毎週話題になってますけど、その話題のなり方って、みんなで観てる感じ……劇場で楽しんでいる感じに近い。

一方、マンガの場合は作品と読者の間に、一対一の関係がある。ラジオも一対一のメディアなわけですけど、一対一で話が面白くない人のラジオって絶対聞きたくないでしょ?

たしかに、そうですね。

というのと同じで、一対一で向き合ってその時どういう感情が生まれたか? ということにしか、マンガもラジオも意味がない。「他の人が何と言おうとも、俺は好き」ってことじゃないとしょうがないんです。

しかしそうやって「好き」が100個分集まっただけだと、賞として成立させるのが大変そうです。

だからこそマンガ大賞のコンセプトは常に「友達に薦めたい」なんですよ。「私の好きなマンガ」ではなく。

そこをもう少し詳しく聞かせていただきたいです。

まさに「メディアって何のためにあるのか」にも関わってくる話で。自分の好きな記事だけ集めたら、それはスクラップブックですよね。

ツイッターとかでも一緒で。ツイッターをメディアだって意識してる人って、たとえば吉田豪さんみたいに、「新しいことがあったら全部リツイートする!」って姿勢で使ってる人ですよ。でもそこには必ず編集って視点があって、普通の人にそれはない。

基本的には普通の人である選考員の人たちが作品を選ぶときに、「自分は好きだけど、友達に薦めたいかというと別」みたいな視点が生まれてくれればいいと思って、「友達に薦めたい」ってコンセプトを設けてるわけです。

ノミネートされた10作品は選考員で改めて全部読むって話は先ほどもしましたけど、その過程で「自分は純粋で趣味で読んでいて、だからこそ5作品からは外した」という作品が入ってくるかもしれない。でもそういう作品も、この場では「友達に薦めたい」って基準で改めて選んでくださいって言ってるわけです。

「友達に薦めたい」って基準で最終的に選ばれたものを世に問うことが、世の人たちにとって価値があるはずだと思ってるんですね。

(後編につづく)

インタビュー後編はこちら
「ここに面白いマンガがあるぞ!」と大きな声で伝えたい。「マンガ大賞」発起人・吉田尚記が語る、「面白いマンガ」の条件とは

「ここに面白いマンガがあるぞ!」と大きな声で伝えたい。「マンガ大賞」発起人・吉田尚記が語る、「面白いマンガ」の条件とは

2020.03.13

マンガ大賞2020

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@mangataisho

吉田尚記(よしだ・ひさのり)

1975年東京都生まれ。ニッポン放送アナウンサー。『ミューコミプラス』(月~木曜日24時より放送中)のパーソナリティとして「第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞」を受賞。「マンガ大賞」発起人および選考委員。著書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)が累計13万部(電子書籍を含む)を超えるベストセラーとなり、近著に『没頭力 「なんかつまらない」を解決する技術』(太田出版)がある。マンガ、アニメ、アイドル、落語、デジタルガジェットなど、多彩なジャンルに精通しており、年間100本におよぶアニメやアイドル、ゲームなどのイベントの司会を務めている。

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