Interview

あっこゴリラ 自身の経験と葛藤をドキュメンタリーのように綴った『ミラクルミー E.P.』で見せた新境地

あっこゴリラ 自身の経験と葛藤をドキュメンタリーのように綴った『ミラクルミー E.P.』で見せた新境地

その存在と言動が常に注目を浴びるあっこゴリラが、新作『ミラクルミー E.P.』をリリースした。ドラマーとしてメジャーデビューを果たした後、ラッパーに転身し、2018年にメジャーデビュー。自ら生み出した造語を冠したファースト・アルバム『GRRRLISM』は、世の中の固定概念や同調圧力に異を唱え、「自分を肯定して生きる」彼女の熱いメッセージは、多くの共感を呼んだ。配信リリースされた2曲を含む新作は、この1年の間の自身の経験や葛藤を織り交ぜながら、「それでも前を向く」彼女の姿が見えて来る。音楽と独自の活動をとおして、自らをアップデイトしていく、あっこゴリラの現在地とは?

取材・文 / 佐野郷子


昨年の台風19号の経験から生まれた「ミラクルミー」

先ずは、新曲「ミラクルミー」が生まれた背景から教えてもらえますか。

「ミラクルミー」は、去年の台風19号で家が浸水して、わたしのTwitterが炎上しちゃったんですよ。これではいくら発信しても意味ないのかな? と、落ちていた時に自分のために書いたら、すごくいい曲ができ上がったんです。

〈あーもうすべてどうでもいいや〉とか、今までのパワフルなあっこさんのイメージを覆すリリックはそこから生まれたんですか?

去年は、疲れていたというか、けっこう病んじゃってましたね。でも、すごくいい曲ができたから、結果的には「あざーす」なんですけどね。わたし、基本的には性格は明るい方なんですけど、物事をすごく追求して考えてしまうタイプなんですよ。それが「わたしのままで大丈夫だ」と思えたのがヒップホップだったんです。それ以来、確信と使命を勝手に感じて発信していたし、やりたいこと、伝えたいことがめちゃめちゃあるんだけど、そうするとどうしても反対の意見が返ってくる。

それは予想以上のリアクションだったんですか?

そう。喋り方が不快だとか、笑ってるだけで傷つくとか言われちゃって。いちいち気にすることはないのかもしれないんだけど、わたしは気になるし、誰も傷つけたくないし、みんなと仲良くしたいんですよ。だからこそ、伝えることや、人を理解したい気持ちを諦められないんだと思うんです。

「ミラクルミー」は、そういう葛藤や逡巡も入っていますね。

去年は、そのまんまで生きるのは難しいということにぶち当たったけど、そのおかげで、いまは自分に何が出来るか具体的に見えているから、それを見出すための1年だったのかなと思います。最低だったけど、良い年でもあった。

「キツいことはあるけど、前を向きたいよね」というエンパワーメント

様々な意見が生まれたのは、2018年のアルバム『GRRRLISM』の反響がそれだけ大きかったということですよね。

そうですね。共鳴も賛同もディスも反応の熱量が違った。わたしも勇気を出して球を投げたから、それは良かったんですけど、ホントにいろんな反応があって、わたしもアーティストになったんだなと思いましたね。

それは矢面に立つことを実感したということですか?

そう。常に矢面の生き方ってしんどいことも多くて、誤解も生まれることもあるし、この世界でやっていく難しさとか、いろいろ考えちゃうんですよね。わたしは弱いからこそ強くなりたい気持ちがありすぎて、どうしても曲が強い主張や発信になりがちなんですよね。今回はそれがインサイドで描けたかなと思います。

確かにあっこさん自身の内なる声が聞こえてくる内容ですね。

何が正しいとか間違っているとか、知識のマウントとか、それで臆病になってしまうことってあるじゃないですか。でも、「これってこうだよね」だけじゃなくて、「グダグダ考えたり、キツいことはあるけど、前を向きたいよね」というエンパワーメントっていうのもあるんだなと気がついたんです。そういう部分もみんなと分かち合いたいという気持ちなんです。

負の感情も落とし込みながら、シンガロングできるような曲に持ってゆくのも新機軸ですね。

「ミラクルミー」は、ホントは自分にとって大事すぎて、リリースしたくないくらいなんですよ。でも、アーティストとファンの音楽で共鳴しあった関係性って、心と心で繋がっているから、ある意味、家族や友だちや恋人の領域を超えていると思うんです。この曲は自分のための曲だけど、もし、誰かが自分の曲だと感じてくれたら、めっちゃうれしいかもしれない。

そういう風に聴き手のことを意識しているのも変化の表れですね。

アーティストになっちゃったんですよ。それがイヤというわけじゃないんですけど、もうその前の自分には戻れないんだなと。バイバイ、昔の自分、みたいな。わたしはアーティストになりたかったわけじゃなくて、真実を知りたくて音楽を掘り始めたらこうなっただけですよ。モグラですね。あっこモグラに改名しようかな(笑)。

わたしにとってのヒップホップは、マイナスをプラスにさせてくれるもの。

去年の4月には「やっちーまいな」を配信リリースしていますが、その頃の心境は?

その頃、体の調子を崩したのかな。加工アプリを使っても写真盛れないんだけど、どういうこと? みたいなリリックにも書きましたけど。ラッパーとして長く続けていくにはこのままではダメだと気がついて、生活習慣を変えたのもこの時期で、体と心は繋がっているからしょうがないんですよね。

〈わたしがわたしをアゲくんだ〉という気になっていたんですね。

でも、この歌詞ってアルアルじゃないですか? 人に認めてもらえないと自分を認めるのはなかなか難しいけど、良いか悪いか決めるのは自分だよね、と。こういうラフでちょっと肩の力が抜けてる感じは、曲づくりにおいてすごく大切にしているところなんですよ。ラップがヤバイのができたんで、レコーディングではテンション上がった記憶があります。

「超普通」も面白いですね。「超」が付くことで、じゃあ「普通」って何? と問われている。

いまは、「普通」が多様化している時代じゃないですか。だから、すべてが「普通」であって、生きづらさはまだあるにせよ、「正解」は増えていることを言いたかった。そういう価値観を分かち合っていきながら、うちらは前に進んでいこうと。それを時代感とサウンド面も意識しながらつくった曲です。

あっこさん自身、〈肩書きラッパー/ドラマー どうでもいいじゃん〉とも言ってますね。

そうそう。じつは今日も職質に遭ったんですけど、MA-1に迷彩のパンツにラッパーじゃ、アウトだよね、なんて思ったんだけど(笑)、肩書きで人を決めつけるのってホントにどうでもいい。でも、そんなネガティブな要素も日々のスパイスにしていこうと。

〈ネガは極上スパイス うまく調理して食う〉と、ポジティブに転換して、ユーモラスに聴かせるところはあっこさんらしい。

わたしにとってのヒップホップは、ネガをポジに、マイナスをプラスにさせてくれるものなんですよ。でも、あんまりシリアスになりすぎると自分が苦しくなっちゃいから、そのバランスがけっこう難しいんですよね。ラップを始めて5年になるんですけど、バカでふざけてる部分と真面目な部分を「やっちーまいな」や「超普通」はいい感じで表現できるようになったかなと思います。

〈とりまサウナきめてやる〉の「とりま」って?

「とりま」は、「とりあえず、まぁ」ですけど、もう死語なのかな? でも、90年代ヴァイブス大事にしたいんですよ。カルチャーやファッションも音楽も90年代のものが好きで、最近は今のカルチャーとミクスチャーされているものが増えてきて、超シンパシーを感じているんです。今回のジャケや中身もそうですね。

あっこさんが、今、90年代に感じる魅力とは?

うまく言語化できないけど、「物」の価値観がいま、ハモっているのかな? カセットやアナログが見直されているのもそうだと思うし、だから今回はCDも「物」としての可愛いさにこだわったんですよ。

価値基準はうちらがつくる、選ぶ。「MAKE it new world」

「超自由 feat. 大門弥生」の大門弥生さんは、あっこさんの自主企画イベント『GOOD VIBRATIONS Vol.2』にも出演していましたね。

大門とは彼女の曲に誘われて共演しているし(「NO BRA! Feat.あっこゴリラ」)、わたしとは見た目もアプローチも違うけれど、言っていることは共通していると思うんです。フェミニズムうんぬんではなくて、自分が自分でいることがいちばん大事だから。『GOOD VIBRATIONS』は、音楽性やファッションやリリックの落としどころは違っても、そういう多様性を拡大するパーティにしていきたいんです。

「超自由」では、〈あーまたやっちゃった〉と失敗を笑い飛ばす明るさが痛快ですね。

そうなんですよ。実はこのEPのテーマ「ミラクルミー」と同じことを言ってるのにアッパーなんですよ。「ミスっちゃったけど気にしねー、そこで立ち向かうのがうちら」というのを、喋り口調とフロウが違うと、こんなに違って聴こえるという。

大門さんパートの〈我等生涯 どちらのジャンルにも属さない〉も力強い。

大門とは、レゲエとヒップホップの違いもあるけど、お互いに趣味趣向があまりにも違うんで、リスペクトしているし、大好きだけど、絶対に影響されないとお互いに分かっているんですよ。それが分かるまで2年くらいかかりましたけどね。

その違いを認め合うことは重要ですね。

そうそう。超重要ですね。

「メキメキワー feat. Malawi kids」は、アフリカのマラウイの子供たちの合唱をフィーチャーしています。これは現地で録音したんですか?

去年、プライベートにマラウイに一人で旅行に行った時に録音したんです。3年前にルワンダに行った時にも子供たちと歌って、それが最高だったんですよ。iPhoneにマイクを付けて録音したんですけど、子供たちの声には鳥肌が立ちましたね。

ルワンダでは「Back to the Jungle」のMVを撮影していましたね。

わたし、初めての海外がルワンダだったんですけど、あの時のスパーク具合が忘れられなくて、またアフリカに行きたいと思っていたんですよ。マラウイに行ったら、生きているだけで素晴らしいという真実にタッチできて、大きなものを得られたし、自分がやりたいことがより明確になりました。そのひとつが、自主企画のパーティで、長いスパンで本気でやっていこうという気持ちになれたんです。

〈生きてるだけで so rich〉というリリックが生まれたのも、マラウイに行ったからですか?

水道も電気もないマラウイは、うちらが生きている世界とは価値観がまったく違うんですよ。そこで本当の豊かさって何だろうと考えたし、小さいことでグダグダ悩んでいたのが吹き飛んで、「生きてるだけでカッケー!」とスパークしたんですよ。でも、生きていて悩んだりするのも決して悪いことばかりではなくて、悩みつつ、前に進むというのがいちばんのテーマですね。

それが「メキメキワー」=「MAKE it new world」というメッセージに。

そう。価値基準はうちらがつくる、選ぶということ。たぶん、『ミラクルミー E.P.』は、この1年の自分のドキュメンタリーでもあるから、「ここが大事な転機だった」と言えるようなE.P.になったと思います。

その他のあっこゴリラの作品はこちらへ。

ライブ情報

ミラクルミーONE MAN TOUR
3月20日(金)名古屋・今池HUCK FINN
3月21日(土)大阪・心斎橋CONPASS
3月27日(金)東京・渋谷WWW

あっこゴリラミラクルミーONE MAN TOUR “AFTER PARTY”
3月29(日)東京・EBISU Batica

あっこゴリラ

ドラマーとしてメジャーデビューを果たした後、ラッパーとして活動をスタート。
2017年には、日本初の女性のみのMCバトル「CINDERELLA MCBATTLE」で優勝。さまざまなアーティストとのコラボレーションを行い、向井太一とコラボした「ゲリラ」がSpotifyのCMに起用され、80万回再生を突破。2018年に「余裕」でメジャーデビューを飾り、1stフルアルバム『GRRRLISM』をリリース。
女性の無駄毛をテーマにした「エビバディBO」、年齢をテーマにした「グランマ」などメッセージ性の高い楽曲で注目を集める。ルワンダの旅の模様を収めた「Back to the Jungle」、永原真夏と共にベトナムで撮影された「ウルトラジェンダー」、台湾で撮影を敢行した「余裕」など海外で制作したMVも話題に。2019年からはJ-WAVE「SONAR MUSIC」でメインナビゲーターを務め、多様性をテーマにしたパーティー『GOOD VIBRATIONS』を主宰。性別・国籍・年齢・業界の壁を超えた表現活動を続けている。

オフィシャルサイト
http://akkogorilla.yellow-artists.jp/