LIVE SHUTTLE  vol. 395

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ASKA ストリングスとバンドの融合の中で響く破格な歌声。音楽人として、更なる表現の高みを目指す彼の最新形も魅せた一夜。

ASKA ストリングスとバンドの融合の中で響く破格な歌声。音楽人として、更なる表現の高みを目指す彼の最新形も魅せた一夜。

「billboard classics ASKA premium ensemble concert -higher ground-」
2020年2月11日(火・祝) 東京文化会館 大ホール

上野の東京文化会館は、建築家・前川國男のモダニズム建築の傑作といわれる建物である。もちろんこの日のお目当てはASKAの歌だが、建物自体が醸しだす非日常の空気が、すでに序章として開演前の館内を包んでいた。やがて開演。なお、まだ大阪と熊本公演が残っているので、特に注目したポイントや、終演後に心に残った事のみを書かせて頂く。 

ステージに登場したのは15人のストリングス(バイオリン・ビオラ・チェロ)と、前回の「Made in ASKA -40年のありったけ-」でもお馴染みのASKAバンドの面々だ。同じビルボード・クラシックスでも、2018年の”THE PRIDE”の時は、彼とフル・オーケストラの共演の形だったが、今回は違う。よりセルフ・メイドなコンセプトで、ストリングスとバンドが対等な立場で融合し、そのなかでASKAが歌うという構図である。

ツアー・タイトルの“higher ground”は、チャゲアスの『NO DOUBT』収録曲のタイトルでもある。なぜこの言葉を? 彼が音楽人として、更なる表現の高み(=higher ground)を目指そうとしているからだろう。

さらにもうひとつ…。ふと蘇るのが、弦カルテットを従えたチャゲアスの「Concert 2007 alive in live」である。この時は、弦がロック的衝動を担う場面もあり、まさに「higher ground」は成功例だった。

ただ、あの時はアコースティック。今回のバンドはアンプリファイされたものであって、それに見合うストリングスの厚み(人数)も必要だったと思われる。そんな陣容で、更なる音宇宙の創出を目指したのだろう。

オープニングの「僕はMusic」からして、通常とは少し違う聴き心地だった。バンドが地平を切り拓き、ストリングスが重力を操り、両者のバランスがすこぶる良い。イントロが出た瞬間、これはいいライブになるぞと予感させたのだった。

ASKAの声は、艶やかで奥行きがあり力強い。いやこれくらい歌ってくれて、彼は普通だろうが…。しかし、ASKAの普通は世間において“破格”なレベルであることを忘れてはならない。

ライブが進むにつれて、予感は確信に変わる。バンドが目一杯演奏しても、ストリングスが埋没せず、リアルに届く。まるで弓に擦られた弦が煙をあげるがごとく耳に突き刺さる場面もある。

その一方で、もちろんASKAバンドの素晴らしさは言うまでもない。「修羅を行く」での硬質なスネアの響きと、ウネるベースは悶絶モノだった。

ASKAはここ最近でも明らかにベストな状態だ。特に客席にいて全身の毛穴を開かせたのは「しゃぼん」である。彼は痩身のロングトーンで我々を連れ去ったが、さらにその先へと誘った。普通なら、そろそろ声量も尽きる、というところから、“第二の肺活量”のようなものが現れ、さらにもう一声、シャウトのその先の“♪ウォウオ”を届けてくれた。

弾き語りの「帰宅」に至っては、マイクがあまりの声量に“わたしキャパ・オーバーです”と叫んでいるかのようでもあった(これはあくまで言葉のアヤです。コンサート・スタッフのサウンド・チェックに不足があった、という意味ではもちろんありません)。

ライブ・パフォーマンスということで、一番華やかだったのは「HEART」あたりだろうか。歌いだす前に、バンドのリズムを背中に受けつつ、彼はステップを始めていた。その肢体はキレキレの躍動を湛え、しかしこれは、サビの盛り上がりをいち早く頭でシミュレーションし、脳から肉体に信号を送った結果だったろう。マイク・スタンドを縦回転させる場面も、軸がブレず、見事にストロボ高速写真のような残像を我々の瞼に残した。もうこのあたり、さすがのロック・エンターテイナーぶりなのだった。

観客は、ツアーごとに違うセットリストを味わいたいと願う一方で、毎回毎回、必ず見たい“お家芸”があるのも事実だ。今回、そんなものに触れた気がした。もしや次あたりは、あの伝説の“片手倒立からのバク転”が見られるか……いや、ここまで書くと、ちょっとこのレポートも悪ノリし過ぎだろうか。

新曲のなかでは「百花繚乱」という作品に注目した。これはなにやら、「と、いう話さ」とは曲調は違うものの、夢の中の世界が現実に混在していそうな歌詞にも聞こえた。彼はニュー・アルバムのリリースが目前に控えているのであり、会った時に、ぜひそのあたりも伺ってみたいものである。

アンコールの3曲は、このアンコールで文句を言う人はいないだろう、というラインナップであった。それにしても、改めて「BIG TREE」を聴いて、思ったのはこのことだ。大きな木がそびえているというイメ−ジそのものは、特別凝ったものではなく、むしろ表現としては凡庸と言っていい。しかし、歌で、音楽で、それを眼前に浮かび上がらせてみろといわれたら、皆がしり込みするだろう。歌い終わった頃、それはみんなの胸にそびえ立っていたのだった。ASKAだからこそ、可能なことだろう。

最後の方のMCで、「今はやれる時だから、色々たくさんのことをやりたい」と、彼は決意を口にしていた。今は“やれるとき”という言葉が、うわべのものじゃないということを、まさに証明してくれた一夜だった。

見終わって感じた。前回のホール・ツアーはタイトルからして“ありったけ”だったけど、今回も別の意味で“ありったけ”だった。彼がこれまで行ってきたライブ・パフォーマンスにおいて、彫りの深い印象を観客に残した楽曲達が、ふんだんに盛り込まれていた。そしてもちろん、最新形のASKAが新曲のなかに込められていた。「歌になりたい」はスケールの大きな作品だったが、このツアーの本編ラストには、もはやこれはロック・オーケストラによるロック・オペラの一場面なのではと思わせる「We Love Music」が控えていた。

さほど間をあけずに、彼のインタビュ−をお届けできる予定だ。

文 / 小貫信昭

ASKA

1979年CHAGE and ASKAとして「ひとり咲き」でデビュー。「SAY YES」「YAH YAH YAH」「めぐり逢い」など、数々のミリオンヒット曲を世に送り出す。音楽家として楽曲提供も行う傍ら、ソロ活動も並行し、1991年にリリースされた「はじまりはいつも雨」が、ミリオン・セールスを記録。同年のアルバム『SCENEⅡ』がベストセラーとなり、1999年には、ベスト・アルバム『ASKA the BEST』をリリース。また、アジアのミュージシャンとしては初となる「MTV Unplugged」へも出演するなど、国内外からも多くの支持を得る。2017年には、自主レーベル「DADA label」を立ち上げ、アルバム2枚をリリース。また、2019年にはバンドツアー「ASKA CONCERT TOUR 2019 Made in ASKA-40年のありったけ-」を開催し、2019年12月からスタートした、バンドとストリングスとの融合「ASKA premium ensemble concert -higher ground-」も終盤戦。精力的な活動を行う。

オフィシャルサイト
https://www.fellows.tokyo

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