Interview

窪田正孝、俳優としての転機をもたらした特別な存在・三池崇史監督と10年ぶりのタッグ「運命としか言いようがない」

窪田正孝、俳優としての転機をもたらした特別な存在・三池崇史監督と10年ぶりのタッグ「運命としか言いようがない」

「東京喰種」シリーズやドラマ『ラジエーションハウス』など話題作への出演が続き、3月からは主演を務めるNHK連続テレビ小説『エール』の放送もスタートする窪田正孝。ヒモにも殺人鬼にもなれる高い演技力を持ち、さらには殺陣(たて)やアクションまでも見事にこなす稀有な役者として、いま映像のつくり手たちが最も信頼を寄せている。

そんな窪田が、映画界の巨匠・三池崇史監督が初めて手がけるオリジナルラブストーリー『初恋』(2月28日公開)に主演する。演じるのは、余命わずかと宣告されたプロボクサー・葛城レオ。新宿歌舞伎町で出会った少女・モニカ(小西桜子)を助けるために悪徳刑事をKOしたことからなぜか追われる身となり、ヤクザ・チャイニーズマフィア・警察組織が入り乱れる争いに巻き込まれていく。カンヌ監督週間、トロント、オースティンファンタなど世界30以上の映画祭から招待され、異例の全米先行公開で世界中の映画ファンを沸かせた本作が、ついに日本でもお披露目される。

窪田と三池監督の本格タッグは『ケータイ捜査官7』以来、10年ぶり。「念願が叶った」という窪田に、三池監督への思いや撮影の裏側、さらに今年の豊富を語ってもらった。

取材・文 / 上條真由美


「最初はこのタイトルでいいのか疑問でした(笑)」。甘酸っぱさとはほど遠い恋の物話。

三池監督との本格タッグは10年ぶりとなりますが、主演として出演のオファーがあったときはどんなお気持ちでしたか?

この作品が決まる前にジェイク・ギレンホール主演の『サウスポー』を観て、「僕もいつか体ひとつで魅せるボクサー役に挑戦したい」と思い、マネージャーに伝えていたんです。それから間もなくして、「ボクサー役の話をいただいたよ」と言われ、それが三池監督からのオファーだったんです。僕にとって特別な存在である三池監督から、出会って10年のタイミングでボクサー役のお話をいただけたことに、勝手に運命を感じました。

三池監督とは普段からやりとりされていたんですか?

いいえ。取材のときなどに僕からラブコールを送っていたのですが、なかなかご本人のお耳には届かずでした(笑)。それほど念願だったので、またご一緒できてうれしい反面、怖さもあったんです。でも、いただいた台本を読んでみたら、すごくおもしろくて! 現実に起こりうるのかっていう部分も含めてエンタテインメントの力を強く感じたので、「どこまでできるかはわからないけど、できる限りやってみよう」と、オファーを受けさせていただきました。

念願の再会を果たした三池監督と撮影現場ではどんなお話をされました?

「10年間どう過ごしていたか」なんて話は照れくさくてできなかったです(笑)。10年前の自分は、"巨匠・三池崇史"というブランドを意識しすぎて、知らぬ間に変なバリアを張ってしまっていたのですが、今回はそれが解けていて、かなりフランクに話すことができました。僕自身もさまざまな現場を経験してきたことで、話せる内容も以前とは変わっていました。作品の製作過程や「なぜ海外の映画祭へ行くことができたのか」など、三池監督のほうからたくさん話してくれたので、「ひとりの対等な人間として話せるようになったんだ」と感じられてうれしかったです。

本作に臨むにあたり、「三池監督に成長した姿を見てほしい」という気持ちもあったのでしょうか?

そういった気持ちはありましたが、「10年前と違う自分を出そう」と思った時点で叶わない気がしたので、ちょっとすましていました(笑)。相手役の(小西)桜子が演技の経験が少なく、10年前の僕と同じ立ち位置だったので、三池監督が彼女に言っていることがオーバーラップして、当時の自分に戻れる感覚があったのがおもしろかったです。あのころは自分のことで精一杯でしたが、今回は距離感をうまくつくり、彼女がどうしたらよく見えるかを考えてリードすることを意識的にやりました。上から目線な発言になってしまうかもしれませんが、そこは三池監督も見ていてくださったようで嬉しかったです。

天涯孤独ながら天性の才能を持つボクサー・葛城レオを演じられましたが、役づくりではどんなことを意識しましたか?

アクシデントに巻き込まれながら変わっていく役なので、その変化を出すために、人間味を感じさせないアウトローな人物を基盤にしました。他人を信用せず、信じているのは自分の拳だけ。狩りのときは牙を出すけど、それ以外はしまっておくライオンに近いイメージです。

濃密な一夜を過ごすことで大きく変わりましたよね。感情を表に出すようになったし、恋も…。

どんどん人間らしくなっていきますよね。手をつないだりキスをしたりといった表現で”恋”を描いていないので、最初は正直、『初恋』のタイトルがふさわしいのか疑問だったんですよ(笑)。でも、甘酸っぱい恋の話とはほど遠い、ヤクザやチャイニーズマフィアが入り乱れて目の前で命を燃やしていくなかで運命の花が咲いたというのが、僕は見せ方としてすごく好きです。現場でヤクザ役の皆さんにお会いしていないので、物語が作品の象徴であるラストシーンにどんなふうにつながっていくのかは想像するしかなかったのですが、とにかく編集がすばらしくて! 気持ちや命までもつないでいただけたように感じて、完成した映像を観たときに、「この作品に携われてよかった」と心から思いました。

ラストシーン、とても素敵でした。ボクサーの肉体づくりについても教えてください。

撮影の1ヶ月くらい前からトレーナーさんについていただいて、縄跳びや打ち込みをしてつくりあげていきました。ボクシングのシーンはケガのリスクを考えて撮影を最後に回したんです。なので、ほかのシーンの撮影中も空いた時間があれば自分でジムを探して基礎体力づくりに励んだりと、たくさんの時間を費やすことができました。

大変だったことはありますか?

試合のシーンとジムでのトレーニングシーンが2日連続だったのはきつかったです。試合はプロの方に相手をしていただいたのですが、皆さん目がマジなんですよ(笑)。三池監督はホンモノが好きなので。朝から夜までぶっ通しで、相手は次々と入れ替わるのに僕だけそのままだったので、体力的にしんどかったです。ただ、それによって汗をかいたり疲れが顔や体に出たりと、リアルさが生まれたのでよかったです。

”世界のミイケ”を目の当たりに。「いつか自分が三池監督を海外の映画祭へ連れて行きたい」

撮影中に「これぞ三池組!」と思う瞬間はありましたか?

カーアクションは1週間、ホームセンターで闘うシーンは3日間かけて撮影をしました。大変でしたが、きちんと安全に配慮した上で、三池監督が信頼を置くスタッフの皆さんがプロフェッショナルに自分たちの役割をまっとうしているからこそ、あれほどハラハラする映像が撮れるのだと痛感しました。あと、やっぱり三池監督は男性の撮り方がかっこいい!

色気も感じられますよね。どちらも好きなシーンだったのですが、撮影は大変だったんですね。

カーアクションは、段取りを決めて流れをつかんだら「やってみましょう」って感じで、車中でのやりとりはぶっつけ本番です。本当に車を走らせて急ブレーキをかけるので思いっきり振り回されるのですが、そんな状態でもトランクにいる三池監督は抱えたモニターを一生懸命に見ていて驚かされました。寒い時期だったので、待機中にみんなで仲良く暖房を囲んだのもいい思い出です。

ヤクザやチャイニーズマフィアと対峙するシーンはシビれました!

芝居ではありますが、死を間近に感じ、「ここで負けたら終わりだ」と思ったら、逆に生きていることを強く実感し、血がたぎりました。権藤(内野聖陽)と対峙したときは、権藤に加え、内野さんの生きてきた歴史や生きざまみたいなものが、スーツの破れた部分からにじみ出ているような錯覚に陥り、「隙があったら食べられてしまうのではないか」という危機感を覚えてゾクゾクしました。あのホームセンターは今も正常に営業している店舗なので、閉店後から朝方まで撮影を行い、開店までに血のりをきれいに拭き取るなど現状復旧をして戻していたんです。大変な部分もありましたが、三池監督が誰よりも現場を楽しんでいる姿が印象的でした。

本作はさまざまな国の映画祭から招待を受けましたが、海外の映画祭に参加してみてどんなことを感じましたか?

どの国でも三池監督への質問が集中し、三池監督に対する海外からの注目度の高さを肌で感じました。また、“世界のミイケ”と言われているのを目の当たりにして、純粋にすごいと思ったし、三池監督が見ているものや相手にしているマーケティングが自分とは全然違うのだということもわかりました。今回のカンヌ監督週間は三池監督の名前で呼んでいただいたわけですが、自分が携わった日本の作品が海を越えた場所の映画祭で観ていただけたことを、とても光栄に思います。字幕で意味が伝わるか不安でしたがちゃんと伝わったようで、終わった後にスタンディングオベーションが起こったときは感動しました。

「第72回カンヌ国際映画祭2019」にて

完全に世界で通用する作品だということですよね。

いろんな映画祭に参加させていただいたことで、喜びだけでなく欲も出てきました。何年先になるかはわかりませんが、今度は僕が三池監督を海外の映画祭へ連れて行きたいです。いまの時代は国内外問わず、インターネットで映像作品を観ることもできますが、映画祭に招待されたり賞を獲得したりがリアルの場で行われることがどれだけ価値のあることなのかを今回の体験で実感したからこそ、この気持ちが生まれました。ハリウッド映画に出たいわけではなく、日本映画のよさをもっと世界にアピールしていきたいと思っていて。自分がおもしろいと思える人たちと作品をつくりあげ、それが世界から認められるというのが理想です。

マカオの映画祭では、観客の方たちと一緒に映画をご覧になったんですよね。思わぬリアクションが起こったシーンはありましたか?

とにかく滝藤(賢一)さんのシーンがウケてました! 滝藤さん、撮影1時間でレオに病気を宣告するシーンと、あとは留守電の声だけの出演なんですよ。それで全部持っていっちゃうんだから、羨ましかったです(笑)。でも、観てもらったらわかる通り最高なので、何も言えません。

2020年はインプットを増やす年に。時間をつくっていろんな場所へ出かけたい。

劇中で「死ぬ気になりゃ、やれるはず」というセリフが出てきますが、これまで人生をかけるような大きな決断をした経験はありますか?

10代のころは、この仕事をやめようと考えていました。ガソリンスタンドでしかアルバイトをしたことがなかったので、撮影現場で大勢の人がせわしなく動いているのがなぜなのか理解できず、環境にもなじめなくて、「自分には合わない」と思っていたんです。そんなとき、母の後押しもあって最後のつもりで受けたオーディションで、三池監督に出会いました。一緒に仕事をするなかで芝居の魅力を知り、おもしろさにとりつかれ、20歳のときに「役者の仕事で食べていこう」と覚悟を決めました。俳優としての転機をもたらしてくれた三池監督は、僕にとってずっと特別な存在です。

3月からは主演を務める『エール』の放送も始まります。公私ともに順調といえると思いますが、今年はどんな目標を立てていますか?

2020年は行動の年にしようと思い、“何でもやろうキャンペーン”をはじめました。気になる場所へは自分の足で行くとか、人から誘われたときに疲れを理由に断るのはやめようとか。仕事ではアクティブになれるのですが、その反動でオフだと動きたくなくなってしまうので、オンとオフのバランスを整えたいです。また、30代になってからいいペースで仕事をさせていただき、たくさんのアウトプットができました。一方で、インプットが少なかったように感じているので、いろんなことを経験したり学んだりして吸収したいと思っています。

ヘアメイク / 及川美紀(NICOLASHKA)
スタイリスト / 菊池陽之介 

窪田正孝

1988年、神奈川県生まれ。2006年に俳優デビュー。近年の主な出演作に「東京喰種トーキョーグール」シリーズ(17・19)、『犬猿』(18)『銀魂2 掟は破るためにこそある』(18)『Diner ダイナー』(19)、ドラマ『僕たちがやりました』(17/ CX)、『アンナチュラル』(18/TBS)、『ラジエーションハウス〜放射線科の診断レポート〜』(19/EX)などがある。2020年度前期NHK連続テレビ小説『エール』で主演を務める。

オフィシャルサイト
https://www.stardust.co.jp/section3/profile/kubotamasataka.html

フォトギャラリー

映画『初恋』

2月28日(金)全国公開

出演:窪田正孝 大森南朋 染谷将太 小西桜子 ベッキー 三浦貴大 藤岡麻美 顏 正國 段 鈞豪 矢島舞美 出合正幸 村上 淳 滝藤賢一 ベンガル 塩見三省・内野聖陽

監督:三池崇史
脚本:中村 雅
音楽:遠藤浩二
製作:村松秀信 香田哲朗 宮崎伸夫 佐野真之 奥野敏聡 與田尚志 藤本鈴子 安藝貴範 森田 圭 近貞 博
企画・プロデュース:紀伊宗之
プロデューサー:ジェレミー・トーマス 坂美佐子 前田茂司 伊藤秀裕 小杉 宝
共同プロデューサー:飯田雅裕
ラインプロデューサー:今井朝幸 青木智紀
キャスティングプロデューサー:山口正志
撮影:北 信康(J.S.C.)
照明:渡部 嘉
美術:清水 剛
録音:中村 淳
装飾:岩井健志
編集:神谷 朗
VFXスーパーバイザー:太田垣香織
キャラクタースーパーバイザー:前田勇弥
ヘアメイク:石部順子
画コンテ:相馬宏充
スーパーヴァイジングサウンドエディター:勝俣まさとし
スタントコーディネーター:辻井啓伺
カースタント:雨宮正信 野呂真治
俳優担当:平出千尋
助監督:山口将幸
制作担当:鈴木 勇
音楽プロデューサー:杉田寿宏
「初恋」製作委員会:東映Akatsuki 朝日新聞社 アスミック・エースOLM 東映ビデオ VAP グッドスマイルカンパニー KDDI アルケミーブラザース
制作プロダクション:OLM
制作協力:楽映舎
宣伝:ガイエ
配給:東映

【STORY】
喜怒哀楽・すべてが詰まった、人生で最高に濃密な一夜を描く極上のラブストーリー。
最期に出会った、最初の恋

舞台は、新宿歌舞伎町。余命いくばくも無いと知らされたプロボクサーが、逃げる少女を助けるために悪徳刑事をKOしたことから、事態は急転直下。何故か追われる身となり、ヤクザ・チャイニーズマフィア・警察組織が入り乱れ欲望渦巻く“ブツ”を巡った争いに巻き込まれる。
「死んだ気になりゃ、やれるはず」
捨てたはずの命をタテに少女を守ると決めた時、2人の運命が一気に加速する!!

オフィシャルサイト
https://hatsukoi-movie.jp/

©2020「初恋」製作委員会