Interview

坂口有望 多彩な作家陣と編んだ1枚。ワクワクを形にした自信作『shiny land』について訊く。

坂口有望 多彩な作家陣と編んだ1枚。ワクワクを形にした自信作『shiny land』について訊く。

昨年の春に大学進学を機に上京した、大阪出身のシンガーソングライター・坂口有望(あみ)が2枚目のアルバム『shiny land』をリリースした。中高一貫の女子校を卒業した記念ミニアルバム『放課後ジャーニー』から1年。これまではほぼ全ての編曲を岡部晴彦が手掛けていたが、本作では一新。サウンドプロデューサーとして、BiSHの松隈ケンタや真心ブラザーズの桜井秀俊をはじめ、ゴンドウトモヒコ、徳澤青弦、浅田信一、江口亮、柿澤秀吉などを迎えた、実に多彩なポップスアルバムとなっている。「それぞれが違う輝きを放ってる」と胸を張る彼女に、サウンドプロデューサーたちとのやり取りを中心に話を聞いた。

取材・文 / 永堀アツオ


それぞれの曲が違う輝きを放つっていう意味で、アルバムのタイトルを『shiny land』に

上京後は初のCDになりますが、ご自身としてはどんな作品にしたいと考えてました?

今回はアルバムのために曲を作るっていうよりは、すでにある曲をかき集めた1枚になってるんですけど、いい意味で、コンセプトがないっていうのがコンセプトなんですね。前作『放課後ジャーニー』は高校生活の中で感じたことが中心だったんですけど、今作は歌詞の内容もいろいろやし、アレンジも1曲1曲、違う人にお願いして。それぞれの曲が違う輝きを放つっていう意味で、アルバムのタイトルを『shiny land』にしたし、本当におもちゃ箱のように、いろんなものが次々に出てくる、こんな引き出しもあるんやっていうワクワクを詰め込みたいなっていう思いはありましたね。

いろんな引き出しを開けた結果、彩り豊かなアルバムになったんですね。ちなみに一番古い引き出しは?

「冷たい」ですね。中学3年の時だから、めっちゃ前なんですよ。ずっと天王寺に住んでたので、地元の風景を描いてて。サビの最後に<僕はまるで冷たい>って歌ってるんですけど、“まるで”と“冷たい”の言葉の組み合わせの違和感を天王寺という場所と重ねてて。きれいじゃないというか、崩れかけてる感じを表現したくて書いた曲ですね。終電で帰って、12時半とかの天王寺の景色を見て。日々の生活がしょうもないものというか、ちっぽけなものに感じてて。そういう葛藤や挫折が溢れでてる天王寺の街の人を主人公にしました。

サウンドは逆に人肌の温もりがありますよね。編曲は徳澤青弦さん。ハナレグミやくるり、小林賢太郎など、様々なアーティストのライブのサポートや編曲で知られるチェリストですね。

最初、この世界観を尊重するんやったら、サウンドもダークな感じにいく予定だったんです。でも、言葉もサウンドもダークだと、聴くのに重くなるなと思ったし、めちゃくちゃ美しくて、なんの汚れもないようなサウンドにした方が、この歌詞の世界観が伝わるんじゃないかなと思って、徳澤青弦さんにお願いして。空虚感を意識してもらいつつも、独特の美しいストリングスで仕上げていただいたきました。

唯一、アルバムを意識して書いた曲なので、あえて<光って弾けた>って入れてますね

では、一番新しい引き出しは?

1曲目の「radio」です。この曲はアルバムのタイトルを『shiny land』にしようって決めてから、唯一、アルバムを意識して書いた曲なので、あえて<光って弾けた>って入れてますね。

坂口さんにとってラジオはどんな存在ですか。

私、ラジオが好きなんですよ。今って、自分が好きな曲とか、友達に教えてもらった1曲とかを、すぐに聴けちゃう時代じゃないですか。でも、意図せずに新しい曲に出会える機会はどんどん減ってると思ってて。そんな中でラジオは、いろんな人のリクエストがあったり、ラジオパーソナリティーさんの思い出の曲があったりして。懐かしい曲や新しい曲に出会わせてくれる、今やからこそ大切で新鮮なメディアやなと思ってて。昔はラジオが主流やったから、ラジオの曲はいっぱいあったと思うんですけど、今、サブスク世代の私がラジオのことを歌うと、全く違う曲になるんじゃないかなっていう面白味もありつつ描きましたね。

何かラジオの思い出はありますか?

小学生のときに聴いてた曲がラジオで流れたときに、小さい頃のことを思い出したりしましたね。あと、今、大阪で月一レギュラーラジオをやってて。「この曲を久しぶりに聞きたいです」っていうリクエストのお手紙をもらったりするんですね。その人はきっと、自分が聞きたいだけじゃなくて、その曲を聴いてた同世代の人にも思い出して欲しいのかもしれないし、新しい世代に教えたいのかもしれないし、その街で自分と一緒の気持ちを共有したいのかもしれない。そういう思いってすごく素敵やなと思ったんです。今はリクエストしなくても自分で聴けちゃう時代やからこそ、ラジオでリクエストしてきはる人って、すごく、あったかい行動やなと思って。それで、私がハッとさせられたっていうのがありますね。

曲って、その時の気持ちに寄り添うものだから、聴かなくなることが、巣立ってくれるような気持ちなんですね

<いつか私の歌を/聴かなくなる日が来ると思うの>という歌い出しにハッとしたんですが、ミュージシャンとしてはどんな心境なんですか。

私はポジティブなことに捉えてて。曲って、その時の気持ちに寄り添うものだから、聴かなくなることが、巣立ってくれるような気持ちなんですね。先生が生徒に怒らんで良くなる、みたいな(笑)。それでも、またどっかで、自分の曲が響く日がきたら嬉しいなと思って。<遠い街で褪せることなく/また光ってほしいな>という一番最後の歌詞にその気持ちを込めましたね。

そして、編曲はBiSHなどで知られる松隈ケンタさんです。

マネージャーさんが昔からの知り合いだったんですよ。絶対に無理だと思いながらお願いしてみたら、1週間以内に会ってくれて、その1週間後にはデモを3パターンも送ってくれて。全部、好みで、3パターンともボーナストラックとして入れたいくらい素敵なアレンジだったんですけど、一番歌詞と声が引き立つアレンジを選びました。

実験と検証の賜物になったんじゃないかなってと思います

これまでにない激しいドラムのバンドサウンドの中で歌ってみてどう感じました?

刺激的でしたね。レコーディングでも、松隈さんのアドバイスがすごく独特で。「ちょっとアホっぽく歌ってみて」とか、「ちょっとアゴをしゃくらせて歌ってみて」とか(笑)。少しでも可能性があることを実験的に試してくれはったので、顎をしゃくらすだけでこんな声がでるんやとか、いろんな発見がありましたね。実験と検証の賜物になったんじゃないかなってと思います。

このまま、新たな組み合わせとなった編曲家さんたちについて聴かせてください。TVアニメ『ランウェイで笑って』のOPテーマに起用された「LION」は数多くのアニソンを手掛けている江口亮さんです。

江口さんはこれまでにたくさんアニソンの名曲を生み出してきてはるので、「アニメとどれだけリンクして、どれだけいい化学反応を生み出せるかが重要だ」っていうことを言ってはったんですね。だから、この曲は私がTVアニメ『ランウェイで笑って』の主人公、千雪ちゃんになったつもりで書いたんですよ。

千雪ちゃんが乗り移ってるような気持ちで歌ってて

低身長ながらモデルを目指す千雪と、夢に向かって突き進むという部分では重なるところもありますよね。

そうなんです。なんで、私として歌ってるんですけど、千雪ちゃんが乗り移ってるような気持ちで歌ってて。江口さんのディレクションも、経験があるからこそ、すごい的確なんですね。今回はあんまり何回も録らずに、2〜3回でいいものを選ぶっていうやり方をしてて。アニメだと1番しか流れないので、アニメの絵もある中で、速いテンポ曲だけど、どこまで言葉を人に届けられるかっていうところを大事にしました。特に1番は歌詞がはっきり聞こえるのが大事だったので、初めて聴いた人でも言葉が伝わるようにはっきり歌うようにしましたね。

続く「WALK」は群馬発のロックバンド、秀吉の柿澤秀吉さんです。でも、これがバンドサウンドではなくて。

私が東京に出てきて、新宿を歩いているときに思い浮かんだ景色を描いた曲なんですね。なので、新宿の歌舞伎町のネオンの感じやったり、景色で伝えてアレンジをお願いして。ちょっと浮遊感もありつつ、独特な雰囲気を忠実にサウンドで再現してもらいました。もし、歌詞がなかったとしても、夜の都会の景色が伝わるんじゃないかなっていうくらい、サウンドにこだわってます。

誰かを求めて歩いているように見えるのは東京にしかない雰囲気だと思うんですね

新宿を歩きながら、どんなことを思いました?

東京は夢を追う人が一番集まっている場所でもあるし、故郷から離れてる人が一番多いから、どっかで故郷に帰りたいとか、人に会いたいとか、そんなことを思いながら歩いているように見えてしまって。誰かを求めて歩いているように見えるのは東京にしかない雰囲気だと思うんですね。

偶然、友達に会うかもしれないって想像できるのは、東京ならではですよね。

そうですね。私も普段から大阪が愛しくなったりとか、もしかしたら、次の道で誰かに会えたりしやんかな? とか思うことがあって。ほぼゼロには近いんですけど、東京だから期待しちゃうっていうのもあって。東京に来てへんかったら書かれへんかったやろうなっていう曲ですね。

そのあとの「星と屑」は関西弁で始まりますね。

高校1年生くらいに描いた曲なんですけど、一番最初の<あぁ、何やってんやろ>が言葉とメロディが一緒に降ってきたんですね。自分の本心って関西弁で出てくるんやなって驚きました(笑)。歌詞になるときに標準語に直した方がいいのかって相談したんですけど、私が関西人っていうプロフィールもあるので、素直で、作った感がなくていいねってなって、ここはこのまま関西弁で行こうってなりました。

編曲はMETAFIVEのメンバーで、YMOのサポートでも知られるゴンドウトモヒコさん。

このアルバムの中で一番ロマンチックな曲なんですけど、きれいなものを見たときに、どこか自分が惨めに感じるっていう、切実なことも歌っていて。ロマンチックなだけじゃない、陰と陽の陰の部分も描きたかったんですね。夜空はきれいだけど、部屋で背中を丸めて縮こまってる自分がいるっていう景色がまずあったので、ゴンドウさんに星の写真を見せて、コード感も浮遊感を意識したものにしてもらいました。

「冷たい」「WALK」「星と屑」とナイトミュージックが3曲続いた後に、SMILEの浅田信一さん編曲の「夜明けのビート」で夜が明けます。

この曲は青春の真っ只中にいるときに描いたんですけど、「放課後ジャーニー」のときはまだ完成してなくて。このアルバムにちょっと学生の時の引き出しを入れたいと思ったので、ザ・青春なサウンドでお願いしました。

今、学生している子に聴いてもらって、ワクワクして、走り出したくなってもらえたらいいなと思いますね

タイトルはフジファブリックの曲名から?

そこからではなくて。歌詞の中にある「バイマイサイド」も誰の曲でもないんですね。ただ、自分が授業のある平日でも夜中まで音楽を聴いたりしてたので、夜明けのビートっていう言葉がいいなと思って。私は女子校に通ってたんですけど、きっともう、女子だけの環境に行くことってなくなってしまうんですよね。特殊すぎる環境の中で6年間過ごせたんやなと思ったら……もう女子校時代には戻れないんですけど、高校生だった頃はずっと続いていくような感じがしていたんですよね。「ああ、もう終わるしな」って思わないところが学生らしくていいなと思ったし、怖いもの知らずな感じを込めたくて。まさに今、学生している子に聴いてもらって、ワクワクして、走り出したくなってもらえたらいいなと思いますね。

そして、ライブでもおなじみの「東京」は真心ブラザーズの桜井秀俊さんにお願いしてます。

ずっと弾き語りでやってたので、私が荒々しくギターを弾きながら歌うっていうイメージが定着してて。バンドにしたときに、誰がこの曲を別の形で輝かせてくれるんだろうって考えたときに、桜井さんが思いうかんで。もともと、真心ブラザーズっぽいフォークの要素がたっぷり詰まってる曲だし、弾き語りをそのままバンドアレンジすると、弾き語りにバンドを追加する感じになっちゃうと思ったんですけど、桜井さんはバンドサウンドの中に私の声がピンと立ってるっていうアレンジに仕上げていただいたので。本当にちょうどよく生まれ変わってくれたなと思います。

夢を追いに東京に来た人と、お互いに高め合っていけるんじゃないかなっていう、ちょっとした仲間意識があって

ご自身にとって「東京」とはどんな街になってますか。

東京って、本当に一番夢を追う人が多い場所だと思うんですね。その分、夢に破れる人も一番多い街やし。勇気とワクワク、葛藤も一番溢れている街やから、すごい魅力的やなぁと思っていて。私もほんの1年前に来た人間なんですけど、夢を追いに東京に来た人と、お互いに高め合っていけるんじゃないかなっていう、ちょっとした仲間意識があって。そういう環境があるのは東京やなと思ったし、「自分が頑張りたい」だけじゃなくて、「私も頑張るからあんたも頑張れよ」っていう気持ちで歌ってます。

<あの町には戻らない気持ちで>と歌ってますが、離れた故郷については。

大阪は、自分が育った街なんですけど、応援してくれてる場所っていうイメージが強くて。大阪と東京を行き来するたびに、毎回、頑張らなって思いますね。東京も、夢追い人が集まってる刺激的な場所やけど、大阪でいい顔をしたいからまた頑張れる、みたいところもある。そういう意味では、大阪も刺激をくれる場所ですね。大阪っていう街も好きなんですけど、昔から応援してくれてた人がいる街っていう感じで思ってますね。

そして、最後に「素晴らしい日」が収録されてますが、編曲の副田整歩さんというのは?

去年の夏に配信した片思いソング「ワンピース」でフルートを吹いてくれはった方です。チームみんなで良すぎるってなって、今回、「素晴らしい日」の編曲をお願いしました。本当に引き出しがバラバラなので、いろんな方向に飛び交っているのを、最後、まとめられる曲は壮大じゃないとあかんなと思って。歌詞の内容も壮大だし、サウンドも、今までの9曲をちゃんと締めくくってくれるようなファンファーレを意識して、最後、楽しく派手に締め括れてたらなって。

自分が幸せじゃない時でも、幸せだっていう歌を歌っているだけで幸せな気持ちにさせてくれて

行進しながら合唱したくなるような祝祭感があります。

ライブの一番最後に皆で歌えるような曲があればいいなと思って作ったんですね。歌って本当不思議なんですよ。自分が幸せじゃない時でも、幸せだっていう歌を歌っているだけで幸せな気持ちにさせてくれて。そんな歌の素晴らしい力を借りて描いた曲なので、ライブでみんなで歌ってハッピーになれたらいいなと思いますね。

3月からは全国ツアーが始まります。

今回のアルバムは挑戦が多かったので、1曲1曲、試行錯誤した形をバンドで改めて再現しつつ、会場も今までで一番大きいところでやらせてもらうので、サウンドだけじゃなく、ステージングも大胆に見せられたらいいなと思ってます。あとは、初めてアニメのEDテーマを歌わせてもらったので、私の音楽に初めて触れる人もたくさんいると思うんですね。だから、このタイミングで改めて、坂口の音楽はいいなって感じてもらえるライブにしたいと思いますね。

上京して初めて出すアルバムで、東京で歌うからこそ意味がある歌もあるので、気合が入ってます

ファイナルは東京・恵比寿LIQUID ROOMですね。

お客さんとして2〜3回、観に行かせてもらって。憧れのハコでもあるので、そこでライブができるだけでウキウキなんですけど、ファイナルやし、「東京」っていう曲もあるし。上京して初めて出すアルバムで、東京で歌うからこそ意味がある歌もあるので、気合が入ってますし。絶対に忘れられへん1日になるやろうなって思ってます。

その他の坂口有望の作品はこちらへ。

ライブ情報

バンド編成で全国ツアー開催
坂口有望 Tour 2020 「shiny land」

3月14日(土) 広島CAVE-BE
3月15日(日) 福岡DRUM Be-1
3月20日(金) 心斎橋BIGCAT
3月21日(土) 名古屋THE BOTTOM LINE
3月27日(金) 仙台MACANA
3月29日(日) 札幌cube garden
4月3日(金) 恵比寿LIQUIDROOM

坂口有望

2001年2月20日生まれ。大阪の下町、天王寺出身。
2017年7月26日、シングル「好-じょし-」でメジャーデビュー。
2018年3月21日、1stフルアルバム『blue signs』リリース。
2020年大学進学と同時に上京し、大学に通いながら音楽活動中。現在大学1年生。温かくも切ない歌声と、等身大の世界観の中から鋭く切り取られ描かれる歌詞。詩とロックとポテトを愛する、大っきな可能性を秘めながらも、ちょっと小っちゃな19才。

オフィシャルサイト
https://www.sakaguchiami.com