モリコメンド 一本釣り  vol. 158

Column

くっつくパピー 絶望、諦念、どこかにあるはずの希望を爆発的なロックンロールに乗せる3人

くっつくパピー 絶望、諦念、どこかにあるはずの希望を爆発的なロックンロールに乗せる3人

モウリユウスケ(Vo&G)、マツシママサキ(Ba&Cho)、シマダメグ(Ds&Cho)による3ピース・ロックンロール・バンド、くっつくパピー。福岡在住、平均年齢21歳のこのバンドのキャッチコピーは、「負け犬なりに元気にしますワン(犬)」なのだという。バンドのキャリアや音楽性を説明する前に、まずは“ロックンロールと負け犬”について記してみたいと思う。

ロックンロールと犬(dog)はなぜだか良く似合う。たとえばザ・ストゥージズの名曲「I wanna be your dog」(1969年)。いまから50年以上前、パンクという言葉がなかった時代に、パンクとしか言いようがないロックンロールを体現していたのが、イギー・ポップが率いるザ・ストゥージズ。そのままズバリ、“お前の犬になりたい”と歌うこの曲は、愛と憎しみ、怒りと希望が絡み合い、生身のまま転がり続けるようなロックンロールだ。

犬(dog)という言葉は出てこないが、Beckの最初のヒット曲「Loser」の有名なサビの一節“I’m a loser baby, so why don’t you kill me?”は“俺は負け犬、なんで殺さないんだ?”と訳されることが多い。ブルースとヒップホップが混ざったサウンドだが、私としてはこの曲も“負け犬のためのロックンロールである”と言いたい。この曲がリリースされたのは93年だが、私がはじめて「Loser」を聴いたときに“おわ、自分のことじゃん”という感覚は30年近く経った現在も強く残っている。

ちなみにこの曲はASIAN KUNG-FU GENERATIONが2012年にカバーして、当時の日記で後藤正文氏は「2012年の日本でどのように「負け犬=Loser」なのかということを、書きました」と記している。負け犬という言葉をもっともリアルに(そして、感覚的に)捉え、それをロックンロールに昇華できるバンド。その一番手として、私はくっつくパピーを紹介したいのである。

クッピーラムネが好きで、クッピーというバンドを組もうとしたが、その名前で検索するとラムネの画像ばかり出てくるので(当たり前)、略してクッピーとなるような名前を考え、“くっつくパピー”になったという素敵なエピソードを持つこのバンドの軸になっているのは、感情をダイレクトにぶつかる、驚くほど生々しいロックンロール。その根底にあるのは、現代の社会における“負け犬”——格差が広がり続けるこの社会において、勝ち続けることはほぼ不可能だと思う——の心情を鋭く描き、解放してくれるような歌の力だ。

“僕らは小さな仔犬だ”と叫ぶ「くっつくパピーのテーマ」ではじまる1stフルアルバム『犬の王様』は、くっつくパピーの最初の集大成であり、3人がやろうとしていることが臨場感、ライブ感に溢れたサウンドとともに刻み込まれている。「トラッシュ」は、どうしようもない生活に追い込まれた男子の“チェーンソーを振り回してすべて八つ裂きにするんだ”という歪んだ願望と、“ボクらは2人きりになりたい”という切なる思いが炸裂するナンバー。じつは多くの人が抱えていながら、誰にも言うことができない(または正体を隠してSNSで発信するような)鬱屈とした感情を解き放つこの曲を聴くと、まるで映画『ジョーカー』を観終わったときと同じように、怖さと爽快さが同時に押し寄せてくる。

未来に対する希望的なビジョンを持てないまま、“今日という日を楽しんで生きればいい”とリスナーに語り掛ける「今日のこと」も心に残る。先のことがまったく見えず、将来に対して前向きな思いを描けないのは、若者もオジサンも同じ。その現状をまったく誤魔化すことなく受け止め、“希望を持ってがんばろう”ではなく、“とりあず毎日楽しむしかないんじゃない?”と歌う「今日のこと」は、くっつくパピーの根本的なメッセージ性とつながっていると思う。それはつまり、きれいごと言ったってしょうがないという身も蓋もない事実だ。

アルバムのリリースに先がけてMVが公開された「ちゅー!」は、“ちゅーばっかしたい!!”と連呼するアッパーチューン。“商店街でベロチューがしたい!!”など本能丸出しの願いをそのままぶつける歌詞は、恋愛にまつわる(めんどくさい)機微みたいなものをブッチギリ、リスナーに楽しくも切ない思いを抱かせてくれる。ライブ演奏を中心にしたMVの映像も、このバンドの魅力をストレートに伝えていて秀逸だ。

優れたロックンロール・バンドに不可欠のポップなメロディラインも、くっつくパピーの大きな武器。RCサクセション、THE ピーズ、毛皮のマリーズ、Droog、OKAMOTO’Sなどからの影響を感じさせながら、20年代における絶望、諦念、どこかにあるはずの希望を爆発的なロックンロールに乗せる3人の音楽はここから、10代〜20代のリスナーを中心に強い支持を獲得するはずだ。

文 / 森朋之

オフィシャルTwitter
https://twitter.com/kuppy_band

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