山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 78

Column

文学と音楽 #003 ローリング・サンダーとヴィジョン・クエスト(後編)

文学と音楽 #003 ローリング・サンダーとヴィジョン・クエスト(後編)

一生を左右する本との出逢いがあるとすれば、山口にとってそれは「ローリング・サンダー」だった。
故・長谷川博一氏が抱えていた本の表紙に惹かれ、ネイティヴ・アメリカンのスピリットに導かれ、ヴィジョン・クエストに挑戦したその日。
荒寥とした砂漠に「個」を置き、「孤」で夜を明かす体験は、何を見せ、何を決定的に変えたのか。
必見の後編。


広大な砂漠。たった一人でのヴィジョン・クエスト。

覚悟を決めて、初めて夜という一線を超えることができたのは多分4、5回目のことだったと思う。後にも先にも、あれほどの恐怖(Fear)を味わったことはない。

あらゆる種類のFear。そして逡巡する時間だけはたっぷりあった。

Fearは己の無知が作りだしたもので、ある種の自己防衛本能でもある。それを感じることによって、危険を回避することができる。

けれど、自分の成長を止めるのもFear。支配されたなら、偶然を必然に変えることはできなくなる。

ヴィジョン・クエストは厳しい状況に身を置くことによって、Fearと本能的に響きあう方法を教えてくれる。本来、人とFearは友達になることができるし、成長をもっとも促してくれる関係だ。

ただし、この感受性は年齢を重ねると失われていく。僕の感覚でいえば、30代になったらもう遅い。常識と固定概念が邪魔をする。それゆえ、ネイティヴの少年たちはイノセントな12歳でヴィジョン・クエストに立ちむかうのだろう。

砂漠でFearにまみれながら、すべての境は越えるものではなく、ぼかすべきものだ、と感じはじめる。境を作らせるのもFear。ほんとうは不要で、存在しなかったのに。たとえば、国境だってFearでできている。なんのために? そこはみなさんで考えてほしい。

そして。

朝、太陽が昇ってくるのは、あたりまえのことではなかった。今、自分がこうして生きていることも。すべては奇蹟の一瞬の積み重ね。それが身にしみてわかると、LIFEの輝きが違ってくる。

学歴でも、自己憐憫でも、依存心でも、責任転嫁でもない。他人からの評価なんてどうでもいい。自分が授かったいのちという奇蹟を、どれだけ世界のために生かせるか。それが自分の役目なのだと、おぼろげながらに見えてくる。

朝の雫に濡れて。涙が止まらなかった。29歳のあの朝、僕は確かに変わった。エゴの消失。自分なんて、どうでもよくなっていく。

僕よりずっと若い12歳の少年は、Fearによって、たくさんのヴィジョンを見る。村に帰り、そのヴィジョンをメディスンマンに伝える。その時、少年は初めて名前を与えられる。たとえば転がる雷鳴のヴィジョンを見た少年は「ローリング・サンダー」という風に。

少年は生涯を賭けて、宇宙と響きあいながら、そのヴィジョンに向かって歩いてゆく。

役目のない人間なんていない。

ヴィジョン・クエストを通じて、僕は遠くに砲弾の音を、近くに自分の心臓の音を聞いた。ふたつの音はほぼ同じだった。

自分が内包する宇宙と、見上げた空に拡がる宇宙。それもまた同じだった。境をぼかしたなら、始まりも終わりもない。無限だ。

そう気づいた瞬間、Fearは消えてなくなる。そこから先にあるものは歓びと感謝だけ。たぶん、これがブレイク・スルー。反対側に抜けること。

3日間の個人的な儀式を終え、白黒のフィルムを装填したコンタックスで、忘れられない場所をパノラマで撮影した。

のちにダコタ族のアクティヴィスト、トム・ラブランクとアルバム『Eagle Talk』を創った際、インナーにその写真を使わせてもらった。僕らはEagleのように空を舞い、言葉を使わずに通じあった。それもまた、ヴィジョン・クエストのおかげ。

僕のヴィジョン。それも秘密にさせてほしい。人に伝えることではない。一生、そこに向かって歩いていくことだから。

一冊の本が人生を大きく変えることがある。僕の場合「ローリング・サンダー」がそうだった。あの本を読んでヴィジョン・クエストをしたからこそ、僕はなんとか時代と折り合いをつけ、歪んだ社会の中で、正気を保つことができたのだと思う。

この本を日本語で紹介してくれた北山耕平さんにこころから感謝を。カルロス・カスタネダの「ドン・ファン」シリーズと並んで、ほんとうの意味で僕の人生の教科書だった。

オリジナル版を読み、いち早くローリング・サンダーに会いに行ったのは、ディランやグレイトフル・デッドの面々。ディランは1975年に彼の名前を冠したツアー、「ローリング・サンダー・レヴュー」を開催。その模様はサム・シェパードによって「ローリング・サンダー航海日誌」として書き残されている。この数奇なツアーに関しても機会が許せば、記してみたい。

僕がどうしてもこの原稿を書きたかったのは、人生や日々に迷っている人にこの本が届いて欲しかったから。

どんな時代であろうと、人として気高く生きることは可能だとその本は教えてくれる。

あなたのこころの底にある「野生の呼び声」をあなたが聞いてあげて欲しい。

感謝を込めて、今を生きる。


ダグ ボイド
『ローリング・サンダー―メディスン・パワーの探究』

アメリカ・インディアンのメディスンマンであり、チェロキー族およびショショーニ族を代表するスポークスマンとしても広く知られる“ローリング・サンダー”。60年代に彼のもとを訪れたダグ・ボイドが、彼の教えや行動を書き記した書。何世代にもわたって守護してきた秘密の知恵……病気の癒し方、薬草の扱い方、雨を降らせる方法、悪魔祓い、時空を超えたコミュニケーションなどが、ドキュメンタリー・フィルムのように綴られる。現代社会に生きる人間が忘れている大切なものを思い出させる必読の書として長く読み継がれている。北山耕平、谷山大樹訳。1991年発行/604ページ 平河出版社

ボブ・ディラン
『ローリング・サンダー・レヴュー:1975年の記録』

SICP-6101 ¥16,500(税込) ソニー・ミュージックより発売中

1975年、アメリカ建国200年の祝賀ムードが漂う中、アメリカ再発見と巨大化するロックビジネスの軌道修正を目指し、スタートしたボブ・ディランの“ローリング・サンダー・レヴュー”ツアー。ジョーン・バエズ、ロジャー・マッギン、アレン・ギンズバーグ、ミック・ロンソンらが参加し、旅芸人の一座風にアメリカ東部とカナダの小さな会場を中心に回った第1期のツアーには、『血の轍』や『欲望』等の傑作を発表し、制作におけるピークを極めていた30代半ばのディランの、自由で即興性、創造性、自信に溢れたパフォーマンスが記録されている。最近新たに見つかったニューヨークのS.I.R.スタジオと、マサチューセッツ州ファルマスにあるシークレスト・モーテルで行われたツアー開始前のリハーサルを収めた3枚、正式録音した5公演をまとめた10枚、そしてレアな音源1枚を加えた全14枚組の限定BOXセット(全148曲中100曲以上は未発表音源)。ツアー写真とウェズリー・ステイス(小説家/ミュージシャン)のエッセイを掲載したブックレット(52ページ)付き。2019年リリース

サム・シェパード
『ローリング・サンダー航海日誌―ディランが街にやってきた』

劇作家で俳優のサム・シェパードが“ローリング・サンダー・レヴュー”の記録映画『レナルド&クララ』の脚本を頼まれたことから、ツアーに同行した際の記録。短いエピソードの連続から成るが、強い主観が入り混じる描写は、短編小説のようですらある。諏訪優、菅野彰子訳/河出文庫/1993年発行

トム・ラブランク、山口洋、細海魚
『イーグル・トーク』

平和とインディアンのスピリチュアル・メッセージを伝えるために世界中で活動を行うネイティヴ・アメリカンのアクティヴィスト/詩人、トム・ラブランクの祈りのようなポエトリー・リーディングを、HEATWAVE山口洋のギターと細海魚のキーボードが詩情豊かに彩る。リスペクト・レコード/2002年リリース


著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。90年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。“ミュージシャンズ・ミュージシャン”としてその名を挙げるアーティストも多く、近年は野外フェスやR&Rイベントへの出演も多い。1995年発表のアルバム『1995』に収録された「満月の夕」は阪神・淡路大震災後に作られた楽曲で、25年を経て現在も多くのミュージシャン、幅広い世代に歌い継がれている。バンド結成40周年の年となった昨年は、40thツアーとして全国を廻り、スタジオ・アルバムとしては2年ぶりとなる新作『Blink』をリリース(オフィシャルサイト、レコード店、大手通販サイト、配信などにて販売中)。今年は古市コータロー(コレクターズ)とのユニット“50/50”のfirst tour 2020『俺たちの場所』で始まり、各地でソールドアウトが続出した(3月5日追加公演@吉祥寺を残すのみ)。2月16日青森県弘前市 Robbin’s Nest (ロビンズネスト)から始まった山口洋 (HEATWAVE) solo tour『Blink 40』は4月8日横浜まで全国12ヵ所を廻る。3月12日には遠藤ミチロウのトリビュート・ライヴに出演。6月には、2011年東日本大震災直後に始めたプロジェクト“MY LIFE IS MY MESSAGE”を開催することが決定した。“Brother&Sister”として、仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳、おおはた雄一とステージに立つ。

オフィシャルサイト
http://no-regrets.jp/index.html

ライブ情報

50/50 (山口洋&古市コータロー) first tour 2020『俺たちの場所』

3月5日(木)  吉祥寺 STAR PINE’S CAFÉ ※SOLD OUT
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山口洋 (HEATWAVE) solo tour『Blink 40』

2月16日(日) 青森県弘前市 Robbin’s Nest (ロビンズネスト)
2月24日(月・休) 千葉県千葉市 Live House ANGA (アンガ)
2月27日(木) 静岡県静岡市 LIVE HOUSE UHU(ウーフー)
2月29日(土) 岡山県岡山市 BLUE BLUES (ブルーブルース)
3月3日(火) 愛知県名古屋市 TOKUZO
3月14日(土) 茨城県水戸市 Jazz Bar Bluemoods (ブルームーズ)
3月26日(木) 京都府京都市 coffee house 拾得 (Jittoku)
3月28日(土) 高知県高知市 シャララ
3月30日(月) 香川県高松市 Music&Live RUFFHOUSE (ラフハウス)
4月1日(水) 大阪府大阪市 南堀江 knave(ネイブ)
4月3日(金) 愛知県豊橋市 HOUSE of CRAZY (ハウスオブクレイジー)
4月8日(水) 神奈川県横浜市 THUMBS UP (サムズアップ)
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ASYLUM2020 in Fukushima presents
「Road to ヤポネシアン盆踊りンピック2020!!! 遠藤ミチロウ Tribute Live in Fukushima」(イベント)

3月12日(木)club SONIC iwaki
出演:タテタカコ・TOUCH-HIM (山本久土+中村達也)・山口 洋・うつみようこ・永山愛樹
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「ミスター・アウトサイド」#001(イベント)

3月17日(火)古書ほうろう ※SOLD OUT
詳細はこちら

MY LIFE IS MY MESSAGE 2020|Brother&Sister

6月12日(金) 山口洋(HEATWAVE)×矢井田瞳@横浜THUMBS UP(サムズアップ)
6月13日(土) 山口洋(HEATWAVE)×おおはた雄一×仲井戸”CHABO”麗市@横浜THUMBS UP(サムズアップ)
詳細はこちら

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