今、知っておくべき注目声優を解説します!  vol. 2

Column

魅惑的な“低音イケボ”ひとつの理想形! 声優「前野智昭」にみる真面目さ、男らしさと確かな演技力

魅惑的な“低音イケボ”ひとつの理想形! 声優「前野智昭」にみる真面目さ、男らしさと確かな演技力

この人の声を知っておけばアニメがもっと楽しくなる(はず)! 今、旬を迎えている声優の魅力をクローズアップする連載コラム。今回は、『空挺ドラゴンズ』ミカ役での主演ほかで大活躍中の前野智昭さんの魅力に迫ります。


“理想の男性像”─最高のハマり役を射止めた『図書館戦争』

声優の一番の魅力といえばやはり、その人しか持っていない個性的な声質だ。とくに女性アニメファン、声優ファンにとって、低音イケボ(イケメンボイス)は、その声を聴くだけでも魅惑的な気持ちになれ、イケボ=イケメンキャラクターをしっかりと想像させる魅力がある。だが(声という音の特性を言語化するのはとても難しいのだが)、一口に低音イケボといっても、いろいろなタイプがある。

クールさを感じさせる雑味がなく堅い芯を持った直線的に響いてくる低音、柔らかな音質のツヤのあるソフトでムーディーな低音、ダミ声とも呼べる荒々しい低音、重厚感のある美しいバリトンボイスの低音……などなど特徴はさまざまだ。もちろん(低音に限ったことではないが)声質の違いによる特徴は、演じるキャラクターの傾向にも反映され、個性的なキャラクターメイクにも大きく影響することは、実感として分かってもらえるだろう。

今回紹介する前野智昭も、そんな魅惑的な低音ボイスが魅力の声優だ。彼の声質の最大の特長は、強いクセがなくストレートな響きに、優しさと包容力が加わった“気品”と“骨のある大人の落ち着き”が感じられることだ。その“大人の落ち着き”が表現する雰囲気も、けっして重厚すぎる年輩キャラクターではなく、20代~30代の思慮深い青年役にとてもマッチしている。

そんな前野智昭が声優ファンの注目を一気に集めたのも、その“品”と“骨のある大人”を両立した堂上篤役を演じたアニメ『図書館戦争』(2008年放送)だ。ドジな主人公・笠原郁に恋心を抱きながらも厳しく指導にあたり、身を挺して大事な部下を守り切る、不器用な男らしさと優しさを併せ持った堂上篤役は、女性にとっても男性にとっても理想の男性像だ。

それまで、海外ドラマや洋画などの吹き替えでキャリアを積んできた前野が、初めてアニメ作品のオーディションを受けて獲得した大役でもあった『図書館戦争』は、アニメファンにはほぼ無名だった前野智昭の名を世間に知らしめた作品でもあり、今も彼のハマリ役として名前が挙がる代表作といえる。

「気品」と「男らしさ」が共存する声質

そんな堂上篤役もそうだが、いざというときにヒーロー然としたカッコ良さを炸裂させる男気あふれる人物は、前野智昭の低音イケボの魅力を最大限に引き出すジャンルのひとつだろう。自分が築いたもののすべてを、ヒロイン・ヨナを守るために捨て去った『暁のヨナ』のハク。弟子格の芦屋にはふだんは不機嫌で口も態度も悪い妖怪祓いの店主だが、妖怪たちには温かな視線を向ける『不機嫌なモノノケ庵』の安倍晴齋。面倒見がよく冷静で真面目に仕事に取り組み、腕っぷし強く異物を排除する『はたらく細胞』の白血球(好中球)などが、それに当たる。

その落ち着いた声質から、人の上に立つ役柄を演じる機会も多い。『弱虫ペダル』で主人公チームの最大ライバル“ハコガク(箱根学園)”の絶対的エースでキャプテンの福富寿一の頼りがいのある男らしさにグッときた人も多いはずだ。

今も多数出演中の彼のキャリアの原点である外画の吹き替えで培った、ナチュラルな演技力の確かさも前野の魅力だ。だからこそ、二面性のあるキャラクターでの芝居も光る。女性ファンから圧倒的な人気を誇る彼の当たり役のひとつに『うたの☆プリンスさまっ♪』シリーズのカミュ役があるが、異国出身のカミュは代々、女王に仕えて来た伯爵家の出身。気品にあふれた優雅な立ち振る舞いでアイドルとして人々を魅了するが、内面はとても尊大。柔らかな口調から一変し、上から目線で傲慢に「愚民ども!」と言い放つカミュのギャップが『うた☆プリ』ファンの心を強く掴んで離さないのは、前野の声に気品と男らしさの両方が凛と存在しているからこそだろう。

『空挺ドラゴンズ』を経て、さらなる飛躍に期待!

そんな演技力の確かさと声の個性とが相まって、近年の彼がアニメで演じる役柄は、より幅が広がっているように思える。なかでも『重神機パンドーラ』(2018年)のレオン・ラウ役と、現在放映中の『空挺ドラゴンズ』ミカ役は、声優・前野智昭の新しい魅力の扉を開いた感がある。

今まで彼が演じてきたキャラクターは、主人公たちを陰日向になって助ける重要な脇役が多かったが、この2作はとても個性的な主人公役。レオン・ラウは研究に没頭するあまり生活能力に乏しく、ふだんはじつに“もっさり”した男だ。レオンと同居するしっかり者の少女クロエ・ラウ(CV:東山奈央)とのやり取りも見どころ。ここでの前野は頼りないレオンを、ソフィスティケイトされた人間味あふれる芝居で魅了する。

『空挺ドラゴンズ』のミカも、“飄々とした”“もっさり”感漂う人間味に満ちたキャラクターだ。捕龍船クィン・ザザ号に乗り込む手練れの龍捕りであるミカは、ふだんはだらしない不真面目な風情だが、大好物の龍を見つけるといきなりスイッチが入り、龍を狩ることに執着する。その豹変ぶりや二面性はとても振り幅が大きいのだが、単にエキセントリックな人物に見えないのは、前野のクールさと温かみの両方がバランス良く配合され、根本の部分で真面目さを感じさせる声質と、コミカルな芝居とシリアスな芝居をナチュラルに繋げる演技力があってこそではなかろうか。ちなみにこの『空挺ドラゴンズ』には、前野以外にも井上和彦、関智一、櫻井孝宏といった、飄々としたコメディと重厚なシリアスをシームレスに演じ分ける、実力派キャストが集結している。彼らの質の高い演技合戦も、この作品の見どころのひとつだろう。

キャリアを重ね、硬軟併せ持つ大人な役柄と幅広い演技で、より魅力的なキャラクター像を着々と積み上げている前野智昭。今までは、特に女性向け作品で人気を博してきたが、今後は『重神機パンドーラ』や『空挺ドラゴンズ』のように、男性にもその声の魅力が伝わる代表作がますます増えてくれることに期待したい。

文 / 阿部美香

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