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村上春樹の代表作『ねじまき鳥クロニクル』が待望の舞台化。成河×渡辺大和、門脇 麦ら実力派俳優陣とトップクリエイターが独創的な世界に誘う

村上春樹の代表作『ねじまき鳥クロニクル』が待望の舞台化。成河×渡辺大和、門脇 麦ら実力派俳優陣とトップクリエイターが独創的な世界に誘う

作家デビュー40周年を迎えた村上春樹の代表作である長編小説を原作とする舞台『ねじまき鳥クロニクル』が2月11日(火・祝)に東京芸術劇場プレイハウスで東京公演の幕を開けた。国内外のトップクリエイターと日本の演劇界を代表する実力派俳優陣がタッグを組んで挑む摩訶不思議な精神世界……そのゲネプロの模様をお届けする。

取材・文・撮影 / 近藤明子


“村上春樹ワールド”を歪(いびつ)で美しい芸術作品として舞台上に再現

原作は世界各国で翻訳・出版される長編小説『ねじまき鳥クロニクル』であり、難解な作品世界がどのように舞台上で表現されるのか、村上春樹ファンならずとも気になるところ。

ねじまき鳥クロニクル WHAT's IN? tokyo舞台レポート

本作の演出・振付・美術を手がけるのはコンテンポラリー・ダンス演出・振付家ユニットを主催し、日本ではミュージカル『100万回生きたねこ』(2013年、森山未來・満島ひかり出演/2015年、成河・深田恭子出演)や『百鬼オペラ 羅生門』で描いた唯一無二の舞台空間が日本の演劇界に大きなインパクトを与えた、イスラエルの奇才インバル・ピント。

日本からは演劇団体「マームとジプシー」主宰で日本の舞台界に新風を吹かせる藤田貴大がアミール・クリガーと共同創作として脚本・演出を担当し、音楽は『あまちゃん』、『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』でもお馴染の即興演奏家・大友良英が生演奏で公演に参加するなど、国内外のトップクリエイターが集結した。

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主人公の岡田トオル 役を、“演劇モンスター”の異名を持つ成河と、ロックバンド「黒猫チェルシー」のボーカルで俳優としても活躍目覚ましい渡辺大知が演じる。Wキャストではなく、あくまでも“ふたりでひとりの人物”を演じ、渡辺大知が現実世界のトオルを、成河が潜在意識のトオルを演じ、内なる多面性を舞台上で表現している。

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同じ衣裳で入れ代わり立ち代わり板の上に現れる“ふたりのトオル”がまとう異質な空気に違和感を覚えながら、忽然と姿を消した飼い猫、謎の女からの電話、霊媒師姉妹との奇妙な関係、妻の失踪と、立て続けに彼を襲う出来事によって夢とも現実ともつかない世界へ彼と共に迷い込んでいく──。

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圧倒的な歌唱力はもちろん、心の内を独白するシーンでの絡み合うような成河と渡辺のパフォーマンスにも不安感をより掻き立てられる。

そんななか、トオルが飼い猫探しの最中に近所の空き地で出会った風変わりな女子高生・笠原メイ(門脇 麦)だけは、しっかりと現実に足をつけて立っているように感じられた。

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事故によって“死”への興味を示すようになったメイは、トオルを「ねじまき鳥さん」と親しみを込めて呼び、彼の話に耳を傾けながら、時に激しく叱咤する……。友人のように、恋人のように、さらに母のようにトオルの心に寄り添う10代の多感な少女を、門脇 麦がまっすぐに演じていたのが印象的だった。

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ほかにも、トオルの妻の兄・綿谷ノボルを演じる大貫勇輔が、徳永えり演じる加納クレタを凌辱するシーンでは、暴力的な激しいダンスと鼓膜を引っ掻くような生演奏の迫力には恐怖を感じずにはいられなかったし、間宮中尉 役の吹越 満が過去を回想する独白シーンでは15分以上におよぶ長台詞の間、アンサンブルに抱えられ頭から逆さに椅子の上に立てられたままで、声を震わせることなく朗々とセリフを紡ぐ脅威の身体能力に驚かされた。

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ダンサー陣は目まぐるしく衣裳を変え、様々なシーンを舞台上に描き出す。それは何人もの“妻”と“クレタ”であったり、間宮が語る回想シーンに登場する兵隊であったり、オークション会場の参加者やホテルで働くスタッフ、枯れ井戸から現れる“何か”など。無限に湧いて出てくるかのように壁や床から這い出してくる姿は不気味ですらありつつ、それぞれのシーンのトーンを際立たせていた。

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色彩を極力排除した無機質なセット、目まぐるしく稼働する壁、それら美術と、芝居×コンテンポラリーダンス×音楽が融合し、難解な“村上春樹ワールド”を歪(いびつ)で美しい芸術作品として舞台上に再現していた。

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何かひとつのジャンルで語ることのできない、語らせないような強度と美しさのある作品

ゲネプロ後、初日を前にした出演者からコメントが届いた。

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成河(岡田トオル 役)
レシピのないものをレシピのないままに創り続けてきました。本当に全員で創ったと言えるものになっていると思います。
誰のものでもない、でも同時に誰のものでもある、観客の皆さんにとってもそう言えるものになるように願っています。
何かひとつのジャンルで語ることのできない、語らせないような強度と美しさのある作品です。
是非、いろいろな見方で楽しんで頂けると幸いです。

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渡辺大知(岡田トオル 役)
稽古場では、スタッフ・キャスト全員であらゆる角度からアイデアを出しながら、この『ねじまき鳥クロニクル』という作品に向けて色んな実験を繰り返してきました。
ダンスやフィジカルの使い方など、知らないことや慣れないことも多くありましたが、その実験をしている時間が僕はとにかく好きでした。
最初はどんな舞台になるのか、想像もつきませんでしたが、いまようやく初日を迎えようとしています。
一つ一つのシーンが、細部にいたるまで綿密に形づくられています。
それを感じていただけたら嬉しいです。観た方にはぜひ、色んな想像をしてほしいと思っています。
この作品を観て、なにか刺激を受けていただけたら幸いです。

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門脇 麦(笠原メイ 役)
劇場に入って、これまで稽古場でつくってきたものに、美術や照明やすべてが加わって、やっとインバルの脳みその中が分かってきました。
ついに色んなピースがはまったな、という感覚です。
正直、私も客席で観てみたい!
間違いなく楽しんでいただけるので、隅々まで目を凝らしてインバルのエッセンスを心ゆくまで浴びて頂きたいです。
お楽しみに!

舞台『ねじまき鳥クロニクル』は、東京公演が3月1日(日)まで東京芸術劇場プレイハウスにて上演。その後、大阪公演が3月7日(土)~3月8日(日)に梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで、愛知公演が3月14日(土)~3月15日(日)に愛知県芸術劇場 大ホールで、それぞれ上演される。

舞台『ねじまき鳥クロニクル』

東京公演:2020年2月11日(火・祝)~3月1日(日)東京芸術劇場プレイハウス
大阪公演:2020年3月7日(土)~3月8日(日)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
愛知公演:2020年3月14日(土)~3月15日(日)愛知県芸術劇場 大ホール

STORY
岡田トオルは妻のクミコとともに平穏な日々を過ごしていたが、猫の失踪や謎の女からの電話をきっかけに、奇妙な出来事に巻き込まれ、思いもよらない戦いの当事者となっていく──。
トオルは、姿を消した猫を探しにいった近所の空き地で、女子高生の笠原メイと出会う。トオルを“ねじまき鳥さん”と呼ぶ少女と主人公の間には不思議な絆が生まれていく。
そんな最中、トオルの妻のクミコが忽然と姿を消してしまう。クミコの兄・綿谷ノボルから連絡があり、クミコと離婚するよう一方的に告げられる。クミコに戻る意思はないと。
だが自らを“水の霊媒師”と称する加納マルタ、その妹クレタとの出会いによって、クミコ失踪の影にはノボルが関わっているという疑念は確信に変わる。そしてトオルは、もっと大きな何かに巻き込まれていることにも気づきはじめる。
何かに導かれるようにトオルは隣家の枯れた井戸にもぐり、クミコの意識に手をのばそうとする。クミコを取り戻す戦いは、いつしか、時代や場所を超越して、“悪”と対峙してきた“ねじまき鳥”たちの戦いとシンクロする。暴力とエロスの予感が世界をつつみ、探索の年代記が始まる。
“ねじまき鳥”はねじを巻き、世界のゆがみを正すことができるのか? トオルはクミコをとり戻すことができるのか──。

原作:村上春樹
演出・振付・美術:インバル・ピント
脚本・演出:アミール・クリガー
脚本・演出:藤田貴大
音楽:大友良英

出演:
<演じる・歌う・踊る>
岡田トオル 役:成河、渡辺大知
笠原メイ 役:門脇 麦

綿谷ノボル 役:大貫勇輔
加納クレタ/マルタ 役:徳永えり
赤坂シナモン 役:松岡広大
岡田クミコ 役:成田亜佑美
牛河 役:さとうこうじ

間宮中尉 役:吹越 満
赤坂ナツメグ役:銀粉蝶

<特に踊る>
大宮大奨、加賀谷一肇、川合ロン、笹本龍史、東海林靖志、鈴木美奈子、西山友貴、皆川まゆむ(五十音順)

<演奏>
大友良英、イトケン、江川良子

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@nejimakistage)