マンスリーWebマンガ時評  vol. 3

Review

『ヲタ恋』で注目! ウェブ発で共感を集める、オタクライフの楽しさを描いたマンガ作品

『ヲタ恋』で注目! ウェブ発で共感を集める、オタクライフの楽しさを描いたマンガ作品

秘密にしておきたいけれど、誰かと話題も共有したい……そんな複雑なオタク心。多種多様なオタクライフを描いたマンガが、ウェブ発ならではの共感を広げて話題になっています。

明るくオタクライフを満喫する様子が魅力的に映る、3つの作品をご紹介。

文 / 飯田一史


2010年代の「オタクあるある」マンガの金字塔を豪華作家陣が料理するとどうなる!?

©ふじた/一迅社

『ヲタクに恋は難しい コミックアンソロジー』

2014年にpixivで投稿開始、2015年からは一迅社が運営するcomic POOLで連載中のふじた『ヲタクに恋は難しい』。2020年2月7日からは福田雄一監督による実写映画版も公開中だ。コミックス累計発行部数900万部のこの超人気作に、『最遊記』峰倉かずや、『放課後は喫茶店で』あずさきな、『ゆるゆり』なもり等の豪華執筆陣がトリビュート作品を寄せた公式アンソロジーが登場した。

『ヲタ恋』のおもしろさは、寡黙なゲーマー・宏隆、陽キャの隠れオタ・成海をはじめ、それぞれ守備範囲も性格も違うキャラ同士が繰り広げる「オタクあるある」満載の軽妙なかけあい、そしてお互い意外と本心を見せられなかったり、見せてないつもりでもバレていたり、相手には気づかれずにこっそり胸熱になっていたりするという健気でかわいい(?)恋愛模様の描写にある。

本作は公式アンソロジーということで多様な作家陣が『ヲタ恋』キャラたちを描いているが、「たしかに宏隆って、これくらいの文字数使って理屈っぽくゲームうんちくが脳内を駆け巡っていそう」と思わされたり、原作にはないカメラの置き方、構図を用いることで「なるほど、こういう切り取り方をするとこのキャラはこんな風に見えるのか」と気づかされたり、「『ヲタ恋』キャラの男女の性格が逆転していたら?」というネタに笑わされたりする。人気作家、二次創作巧者揃いだけあってさすがの充実度。個人的には、原作と絵柄や作風が違えば違うほど新たな一面を垣間見られた気がしておもしろかったが、一方で「こう描けば社会人オタクあるあるマンガになるよね」という『ヲタ恋』のフォーマットの強さも感じる。

オタクを主人公にした作品といえば、古くはたとえば1991年にガイナックスがつくったOVA『おたくのビデオ』、2000年代にヒットした『げんしけん』など、昔から「好きなものを語る!」「好きなもののために突っ走る!」姿の熱さと極端さを描いて同胞の心を(ときに抉りながらも)つかんできたが、『ヲタ恋』は2010年代中盤以降のオタの生態と理想を表現するスタンダードなスタイルを提示したマンガのひとつなのだと、改めて実感できる一冊だ。

『ヲタクに恋は難しい』バックナンバー(comic POOL)
https://comic.pixiv.net/works/1530

社会人だからこその節度と放縦、社会人になっても新しくできることの尊さ

©町田 粥/KADOKAWA

『マキとマミ~上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話~』(作:町田 粥)

尊敬する上司である女性の主任女性に呼び出されたOLマミ。主任が自分と同じ『どき☆ジェネ』(燃料不足により衰退中の学園乙女ゲーム)のオタクだったなんて――。同じ会社の上司マキと部下マミというふたりを軸に、社会人オタの表向きは微温的だがひそかに熱い日常を描く、「このマンガがすごい!2019」オンナ編8位、「WEBマンガ総選挙2018」7位の人気作。

こちらは恋愛要素はなく、むしろ「推しがいると結婚したい気が失せる」という話に担当ジャンルが違うオタクみんなで「うんうん」と頷く風景が和やかに(?)描かれる。

第3巻ではマミより年長のマキが、マミに誘われて初めて同人活動に挑戦する様子が描かれる。マキは十代の頃、アニメ好きの生徒会長から同人活動に誘われ、心が動いたものの、クラスメイトなど周囲の趣味に対する理解のなさから、やってみたかったのに断ってしまったことを思い出す。

好きなものに関して「本当はこういうことをやってみたかった」という記憶はいくつになってもずっと引きずる。だからこそそれができると心底嬉しい。

マキは三十路を過ぎて同人誌即売会にブースを出し、自分がつくった二次創作の本を販売する。即売会が始まるときの拍手の音を聴いて彼女は思わず涙するが、その感慨を想像すると読んでいるこちらも泣けてくる。

『マキとマキ』はオタクあるあるマンガとして「良い年の男性(妻子なし)が幼児番組にハマってしまった場合のオタ仲間づくりの困難と悲哀」をはじめ、笑いと共感を与えてくれる。そしてそれだけでなく、好きなものを追求できたときの夢中になる時間のすばらしさ、仲間とものづくりをするときの大変さと達成感を思い出させてくれる。いくつになっても新たにそういうことを始めていい、何歳になろうがその幸福を味わえるのだと教えてくれる。これみよがしな展開の起伏の激しさなどはないのだが、気づけば感動している自分がいる――そんな作品だ。

『マキとマミ~上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話~』バックナンバー(ジーンピクシブ)
https://comic.pixiv.net/works/3579

「好きをとことん追求する!」ことのピュアな美しさと楽しさ

©佐々木陽子/フレックスコミックス

『タイムスリップオタガール』(作:佐々木陽子)

2016年よりウェブコミック配信サイト・COMICポラリスで連載中、「このマンガがすごい!2018」オンナ編5位の話題作。

全力でオタクを生きるアラサー女子・城之内はとこは、コミュケ(原文ママ)の帰り道に電車に轢かれて中2だった1996年へタイムスリップ。意識は30歳のまま身体が中2に戻り、人生をやり直すことに。一度目の中学生活は暗黒時代だったはとこだが、「ってことはあのときリアルタイムでは買えなかった同人誌が買えるじゃん!」「懐かしい!」「死んじゃったおばあちゃんが生きてる!」「今から始めればマンガ家だってなれるんじゃん!?」と大興奮。

30年間の人生経験を活かせばなんでもできる! ……わけでもなく、いっしょに同人誌を作ることになった同じ中学の友だち同士の揉め事の仲介を試みるも「三十路のくせに一方的に語って泣いただけじゃん、自分」と落ち込み、でも一歩引いて「この状況で誰も傷つけない方法は?」ととっさに判断して機転を利かせてうまくいくこともありと、感情の波が乱高下するハイテンション作品。

1996年に中2だったはとこと筆者は完全に同い年。もっとも、はとこは女、私は男なので「ああ、学校の片隅で、即売会会場で、アニメ誌なんかで見かけてはいたけど女性向けのほうはこんな感じだったのか」と思うことのほうが多いのだが……時折作中に登場する、自分も直撃していたザ・90年代といった感じの風景やアイテム、当時の人気作品の描写に遭遇するといろいろ記憶(黒歴史とも言う)がよみがえってきて憤死しかける。

といっても昔を知る世代でなければおもしろくないかというと、そんなことはまったくない。

意識は30歳だが、はとこのやっていることは「マンガ家になれちゃうかもしれないなら、出版社に投稿しちゃう!?」と即行動・即実践して夢に向かって突き進み、仲間を集めてトラブルを乗り越えながらも好きを追求するという少年マンガ的なピュアさに貫かれている。度が超えすぎたり愛を注ぐ対象が時々周囲に理解されないことがあるだけで、オタクの行動原理は「好きをとことん追求する!」という子どもっぽくもシンプルなことにある。その姿勢の美しさに楽しくなってしまう一作だ。

『タイムスリップオタガール』バックナンバー(COMICポラリス)
https://comic-polaris.jp/otagirl/

vol.2
vol.3
vol.4