サザンオールスターズと昭和・平成・令和元年  vol. 25

Column

「TSUNAMI」には、なぜイントロがないのか、などの考察

「TSUNAMI」には、なぜイントロがないのか、などの考察

2018年にデビュー40周年を迎えたサザンオールスターズのバンド・ヒストリーを、彼らが生み出した数々の作品から改めて見つめていく。音楽評論家・小貫信昭が独自に紐解く、サザンオールスターズの魅力──。


あれは1999年の9月26日。ホントにやるの? 今より雰囲気が殺伐としていた歌舞伎町の雑踏を歩きつつ、そんな気分だった。これから「リキッド・ルーム」という雑居ビルのライブ・ハウスで、サザンオールスターズがサポートなしでメンバーだけでライブをやるという。“ザザンオールズターズ”とかっていう、似た名前の別のバンドじゃないのか? いやいや、流石にそこまでは思わなかったが…。

会場に到着すると、千人の人々ですし詰め状態だ。壁と最後尾のほんの僅かなスペースに上半身から滑り込ませて、後から両脚を踏ん張る場所を確保した。音が鳴り始め、それは紛れもなく、着の身着のままのバンド・サウンドだった。6人それぞれの楽器の音が、混ざり合い過ぎず程よい輪郭を保ち、それでいて彼らの鼓動や呼吸が有機的にウネりつつ、こちらへ届いたのだ。

思えば4か月ほど前に彼らを観たのは東京ドームだった。あの時、エンディングを飾った「イエローマン〜星の王子様〜」と歌舞伎町での出来事は、真逆に思われた。この日は初期の曲も多く選ばれていた。こんなことが起こっていいのだろうかと思ったけど、これは紛れもない現実だった。

後日、桑田はこう語っている(以下の引用は、当時の記事の発言から、若干まとめさせて頂いたものである)。

リキッドルームで「茅ヶ崎に背を向けて」とか古い曲をやって、お客さんも僕らも素直に盛り上がった。
メンバー6人だけでお客さんと向き合えるかどうかはライブの基本なので、(あのステージは)メンバーもわかりやすい。観てるお客さんもわかりやすい。
(両者が)直結してて、そう思うと僕も、勇気が湧いてくる。
(『ワッツイン』2000年2月号P.103より)

実は、“素直に盛り上がった”、“わかりやすい”ということこそが、2000年最初のシングル、あの「TSUNAMI」へと繋がっていく。

さらにこの曲の誕生には、ファンからの1通の手紙も関係している。そこには(「イエローマン〜星の王子様〜」のアバンギャルドとも言える世界観の次のものとして)「2000年の1曲目はオーソドックスな曲がくるような気がする」という予測が書かれていたという。桑田の胸に“素直に”“わかりやすい”という指向も芽生えていたこともあり、より一層、この文面が彼の心に響いたのである。

僕が桑田に「TSUNAMI」の話を訊いたのは、ほぼこの時期だった。話してくれたのは『TSUNAMI CALLING』というサーファーのドキュメンタリー映画のことだった。特に言っていたのは、サーファー達のシンプルな生活スタイルのこと。物質文明に頼らずとも、波を通じて地球のヴァイブスを感じさえすれば、それが大きな生き甲斐に繋がる…。桑田とサーフィンといえば、もちろん2001年7月のソロ・シングル「波乗りジョニー」なのだけど、既に“パドリング”は始まっていたのだろう。

歌舞伎町のライブとサーファーの映画は、いっけん無関係のようだが、シンプル・イズ・ベストということでは共通する。だからこそ「TSUNAMI」は、まどろっこしいイントロなどなく、いきなり♪風に戸惑う”と歌い始められた…、という結論は性急過ぎるだろうが、リッパな門構えなどなくても皆が喜んでくれるものを書く自信というものが、このときの桑田には宿っていたのだ。

この歌を聴くと、なぜ万人がぐっとくるのだろう? “ぐっとくる”という生理現象は、そうとしか言い表せないところもあるが、ここでは音楽的な解析に頼ってみたい。『名曲でわかるコード進行の秘密』(植田彰・著 リットー・ミュ−ジック)を参考に、この楽曲を見ていくことにしよう。

まずこの作品のポイントとして指摘されているのが、歌詞で言えば[人は誰も愛求めて]のところ。この部分、それまで覆っていた程よい緊張感から解放されるが、理由がある。本来Dメジャーのキーであるこの作品が、ここだけFメジャ−に移行しているからだ。頭の中の距離感が変化するというか、[人は誰も]という歌詞も、そうした音楽的な変化に呼応し、胸に染みるものとなっている。才能あるソングライターというのは、サウンドだけじゃなく、言葉との兼ね合いが巧みなのだ。

もちろんこの曲で誰もが一番グッとくると指摘しそうなのは[見つめ合うと素直に]のサビの部分だろう。ここはメロディの動きが一番推進力を生むような音の動きが取られていて、今回参考にさせて頂いた本の著者の植田氏は、「まるでオペラのようなコード進行」と指摘している。

筆者が個人的に好きなのは[怯えてる,Hoo…]の“フゥ〜”の部分だ。この曲はバラードだけど、例えばビートルズの「シー・ラヴズ・ユー」のようなロックンロール的な熱狂も内包しているという事実が、ここで破けて白日の元に晒されるのだ。

文 / 小貫信昭

SINGLE「TSUNAMI」
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