サザンオールスターズと昭和・平成・令和元年  vol. 24

Column

イエローマンとは桑田の“化身”なのだろうか

イエローマンとは桑田の“化身”なのだろうか

2018年にデビュー40周年を迎えたサザンオールスターズのバンド・ヒストリーを、彼らが生み出した数々の作品から改めて見つめていく。音楽評論家・小貫信昭が独自に紐解く、サザンオールスターズの魅力──。


さて今回は、サザンオールスターズのシングルの歴史のなかでも“問題作”として名高い「イエローマン〜星の王子様〜」(1999年3月)である。さっきから何度も何度も聴いているのだが、この曲の場合、普段とはちょっと、違う気分になる。

でもこの曲は、ライブの印象が強いかもしれない。まだ記憶に新しい「サザンオールスターズ LIVE TOUR 2019『“キミは見てくれが悪いんだから、アホ丸出しでマイクを握ってろ!!”だと!? ふざけるな!!』」でも、重要な1曲としてセットリストの後半に置かれていた。

ライブが念頭にありつつ制作されたものである。全国ツアー『Se O no Luja na Quites〜素敵な春の逢瀬〜』(1999年3月〜5月)を控え、新作の『さくら』に加えて、さらにステージを盛り上げようと準備されたのがこの作品であった。

当時、桑田から聞いた話で覚えているのは、ドーム公演のこと。彼は5万人の観客たちと有機的な一体感を醸し出せるような、まさに、会場全体がひとつの生き物のようにウネるような光景を思い描きつつ「イエローマン〜星の王子様〜」を制作したと話してくれた。

でも、僕はここでひとつの疑問を投げかけておこう。アリーナやドームを目指して制作されたのに、なぜ冒頭の歌詞が[People People under the sky]なのか? もしや途中まで、野外イベントが計画されていたのかも…、なんていう想像をするのも、ちょっと楽しいものである。

話を戻す。この曲がライブ向きであるなら、どのあたりだろう? まずテンポの感じで言うならば、これはテクノに分類されるものだろう。ただ、ワン・コーラス目は比較的揃った四つ打ちのアクセントが、ツー・コーラス目では変化していて、さらにリズムとは関係ないが、オーロラのように垂れ下がるテルミンのような音響も効いている。

聴いていると、どんどん気分が変化していく楽曲である。出だしはディストーションのギターであり、そのあと、非常に薄くだが、フォービートっぽい演奏も微かに耳を通りすぎていく。

そして先程紹介した“♪ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜”の出だしは読経のように這いつくばった感じ。しかし一転、“♪トゥルルルルルル〜”のところでは魔法使いの少女に秘密の言葉を投げかけられたように謎めく。ここでいったん突き放され、自然と我々は内なるエネルギーを溜め込むこととなる。それが一気に、サビで吐き出される。

サビの“♪イェロマァ〜〜ン!!”のとこは、戦隊モノのように気高い感じ。そうやって駆け上がって、でもそのあとの“♪はげ〜しくて”では、思いっきりチャーミングにメロディアスな様相となる。そう、聴いてる側の気分がどんどん変化していく。

さらに“♪僕はイカス”で終止はするものの、それは敢えて、含みを持たせた不完全な終わり方となっているのだ。

ところで桑田の歌声だが、いつもと違う。違うというか、ピッチがあえて加工されている部分がある。最後の最後に「泣かないよ、僕」という独白が入っているのだが、ここも明らかにそうだ。なぜこんなことになっているのだろう。

この曲に関しては別人扱い希望(または匿名希望)だったからではなかろうか。そもそもタイトルも“イエローマン”だし、ジャケットを見れば、カラフルなドットの衣装でギターを弾いている人物が居て、おそらくこれこそが“彼”、なのだろう。

桑田の変身願望が“イエローマン”を生み出したと考えるのは順当なところだが、なぜ必要だったのだろうか? ここでいったん、それまでの実績も名誉も置いといて、サザンオールスターズを“初期化”することを目指したからではなかろうか。

思えば95年の「マンピーのG★SPOT」にも言えたことだ。あの時は音楽性もそうだが、ステージでの桑田によるヅラ・パフォーマンスを生み、そのヅラこそが、桑田が変身するための必須アイテムとなっていった。今回はそうした物理的なことではなく、“イエローマン”という心のなかの“化身”を思い描くことで、来るべきブランニューな自分たちに届こうとしたのである。

『Se O no Luja na Quites 〜素敵な春の逢瀬〜』を東京ドームで観た時のことは忘れない(1999年5月27日)。ステージは、最後の最後、この曲とともにすべての価値観をカオスの海に溶かし終え、やがて天井から大きな幕が舞い降り、終演したのだった。

文 / 小貫信昭

SINGLE「イエローマン~星の王子様~」
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