山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 77

Column

文学と音楽 #003 ローリング・サンダーとヴィジョン・クエスト(前編)

文学と音楽 #003 ローリング・サンダーとヴィジョン・クエスト(前編)

先住民と呼ばれる人々の暮らし、生き方には、物質文明とは決定的に異なる掟と叡智があった。
いま地球に起きていることは、それに反したことを人間が行ってきた結果でもある。
ローリング・サンダー。
70年代からボブ・ディランをはじめ多くのアーティストや文化人、若者を惹き付けてやまなかったその名は、半世紀を経てさらなる光とスピリットを放ち続ける。


90年代の初頭、バブルの末期。

待ちあわせ場所で、その本を抱えていたのは音楽ジャーナリストの故・長谷川博一さんだった。ネイティヴ・アメリカンの羽根をモチーフにした装丁に一瞬で目を奪われ、これは今の自分に必要な本だとすぐに理解した。

その本の名は「ローリング・サンダー」。

欲に踊らされたツケを払う日がくることを、多くの日本人はまだ気づいていなかった。僕はバブルに反して貧乏の極みだったけれど、こころまで貧しくなりたくないと願っていた。ただ、ひとえに浮ついた時代のムードに強烈な違和感を感じて、いたたまれなかった。

ネイティヴ・アメリカンのメディスンマン、ローリング・サンダーについて書かれたこの本は、僕にとって偉大なアイ・オープナーだった。

時流に流されることなく、スピリットを磨き、己の役目をまっとうし、高潔に生き抜くための魔法が書かれている。

たしかに僕は野生の呼び声を聞いた。それは自分のこころの底から聞こえてくる。

ローリング・サンダーはメディスンマンであり、チェロキーとショショーニを代表するスポークスマンでもある。彼は何世代にもわたって伝えられてきたネイティヴの叡智を守り、病を癒し、薬草を扱い、雨を降らせ、大地の精霊たちと時空を超えたコミュニケーションをとることができる。

10代の数年間。たったひとりで森で過ごすという過酷な修行を通して、いつしか動物や植物たちと特別な信頼関係を結ぶことができるようになったのだ、と。

この惑星は誰のものでもないこと。人間が一番だというのは思い上がりにすぎないこと。自然と調和しながら感謝を忘れず、謙虚に生きること。自分が嫌だと思うことを他人にしないこと。自分のことの前に誰かを思いやること、エトセトラ、エトセトラ。

ひとことでいうなら愛について書かれた本だった。愛は底なしに注ぐものであって、見返りを期待するものではない。

夢中になって読んだ。渇いたスポンジに染みとおるように、言葉が僕の新しい細胞をつくっていく。そうか、こんな生き方が存在したのか。

同時に我々の文明が”GOD”の名のもとに、ネイティヴな生き方を徹底的に破壊し続けていることに強烈な怒りを覚えた。自分がそこに加担していることにも。

“準備ができたら、やってくるがよい。わしがお前を自然の中に連れていこう。そこでなら、お前は、お前が知る必要のあるすべてのことを、学ぶことができるだろう” ——ローリング・サンダー(1979年)

なんのあてもなかったけれど、何度もネイティヴな人たちに会いにいった。彼らの過ごす大地や居留地で学んだことは計りしれない。

そして、僕はネヴァダへと。ローリング・サンダーその人に会うために。住所は知らなかったけれど、その家はすぐにわかった。ネヴァダ州カーリン。小さな町。彼は一切の殺生をしないので、草がぼうぼうと生い茂っている。世界じゅうから僕のような「人生の迷子」がやってくるからすぐにわかる。ボブ・ディランから山口洋まで(笑)。

ここから先の話は僕のこころに永遠にしまっておく。申し訳ないけれど、ここに書くことはできない。僕にとっては神聖なことだから。お許しを。

やがて、僕はヴィジョン・クエストというネイティヴの少年にとっての割礼のような儀式をすることになる。

砂漠に水だけをもって出かける。そして、自分を媒介として、宇宙と大地を結ぶ場所を探す。自分の中を両者のエネルギーが風のように自在に通り抜ける。誰にだってその場所はある。たどり着けば、そこに呼ばれた理由がわかる。僕の場所は3つ。ネヴァダの砂漠と、アイルランドの大西洋を目前にした断崖と、阿蘇の山中にある。

砂漠に3日間滞在する。

書けばこれだけのことだけれど、陽が沈んでから感じる恐怖は筆舌に尽くし難い。ネイティヴの12歳の少年は極限の精神状態の中、ヴィジョンを見る。村に帰って、メディスンマンにそのヴィジョンを伝える。そこで初めて少年に名前が与えられる。転がる雷鳴のヴィジョンを見たものが「ローリング・サンダー」というように。

僕の体験。

ガラガラ蛇やコヨーテ。あたり50キロくらいにはたぶん人もいないだろう。昼は灼熱、夜は0度近くまで下がる。まるで宇宙の中にたったひとりで置き去りにされたような気持ちになる。山の向こうに太陽が沈んでいくと、見たこともないような満天の星空になる。

怖い。

自分が過去にやらかした悪事の数々が頭をよぎる。いまさら懺悔しても遅い。泣いても喚いても、たったひとり。車の鍵をなくしたなら、かなりの確率で死ぬだろう。

そのとき僕はすでに20代の後半だったが、何度チャレンジしても、一度も夜を越すことができず、一旦日本に逃げ帰った。

(後編に続く)


ダグ ボイド
『ローリング・サンダー―メディスン・パワーの探究』

アメリカ・インディアンのメディスンマンであり、チェロキー族およびショショーニ族を代表するスポークスマンとしても広く知られる“ローリング・サンダー”。60年代に彼のもとを訪れたダグ・ボイドが、彼の教えや行動を書き記した書。何世代にもわたって守護してきた秘密の知恵……病気の癒し方、薬草の扱い方、雨を降らせる方法、悪魔祓い、時空を超えたコミュニケーションなどが、ドキュメンタリー・フィルムのように綴られる。現代社会に生きる人間が忘れている大切なものを思い出させる必読の書として長く読み継がれている。北山耕平、谷山大樹訳。1991年発行/604ページ 平河出版社


著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。90年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』に収録された「満月の夕」は阪神・淡路大震災後に作られた楽曲で、25年を経て現在も多くのミュージシャン、幅広い世代に歌い継がれている。“ミュージシャンズ・ミュージシャン”としてその名を挙げるアーティストも多く、近年は野外フェスやR&Rイベントへの出演も多い。バンド結成40周年となる2019年は、40thツアーとして全国6ヵ所を廻り、スタジオ・アルバムとしては2年ぶりとなる新作『Blink』をリリース(オフィシャルサイト、レコード店、大手通販サイト、配信などにて販売中)。古市コータロー(コレクターズ)とのユニット“50/50”のfirst tour 2020『俺たちの場所』に加え、2月16日青森県弘前市 Robbin’s Nest(ロビンズネスト)からは山口洋(HEATWAVE)solo tour『Blink 40』をスタートさせる。また、3月17日には金富隆氏(TBSプロデューサー)とともに、故・長谷川博一氏の遺志を勝手に受け継ぐイベント「ミスター・アウトサイド」#001を上野・池之端にある「古書ほうろう」にて開催する(SOLD OUT)。

オフィシャルサイト
http://no-regrets.jp/index.html

ライブ情報

50/50 (山口洋&古市コータロー) first tour 2020『俺たちの場所』

2月14日(金)  仙台 CLUB JUNK BOX ※SOLD OUT
2月19日(水)  いわき club SONIC iwaki
3月5日(木)  吉祥寺 STAR PINE’S CAFÉ ※SOLD OUT

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山口洋 (HEATWAVE) solo tour『Blink 40』

2月16日(日) 青森県弘前市 Robbin’s Nest (ロビンズネスト)
2月24日(月・祝) 千葉県千葉市 Live House ANGA (アンガ)
2月27日(木) 静岡県静岡市 LIVE HOUSE UHU(ウーフー)
2月29日(土) 岡山県岡山市 BLUE BLUES (ブルーブルース)
3月3日(火) 愛知県名古屋市 TOKUZO
3月14日(土) 茨城県水戸市 Jazz Bar Bluemoods (ブルームーズ)
3月26日(木) 京都府京都市 coffee house 拾得 (Jittoku)
3月28日(土) 高知県高知市 シャララ
3月30日(月) 香川県高松市 Music&Live RUFFHOUSE (ラフハウス)
4月1日(水) 大阪府大阪市 南堀江 knave(ネイブ)
4月3日(金) 愛知県豊橋市 HOUSE of CRAZY (ハウスオブクレイジー)
4月8日(水) 神奈川県横浜市 THUMBS UP (サムズアップ)

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「ミスター・アウトサイド」#001(イベント)

3月17日(火) 古書ほうろう ※SOLD OUT
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