佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 128

Column

どんとがこの世からあの世に飛び立ってから20年、『どんと~魂の成人式』に参加した

どんとがこの世からあの世に飛び立ってから20年、『どんと~魂の成人式』に参加した

どんとに初めて会ったのは1993年のことで、場所はアメリカ南部の田舎町、ルイジアナ州ボガルサの雑木林のなかにあるスタジオに続く、なだらかな野っ原だった。

ニューオーリンズから70マイルほど北側に位置するボガルサには、「スタジオインザカントリー」という名のスタジオがあり、かつては伝説のミーターズやネヴィル・ブラザーズ、スティービー・ワンダー、ウィリー・ネルソンなどが使っていたところだ。

ぼくはそこでザ・プライベーツのレコーディングに立ち会っていた。

当時は20代なかばだったどんとだが、まだ2歳か3歳だった長男のラキタを肩に乗せて、ゆっくりと野っ原を歩いてこちらにやって来た。

そこで「遠いところまでようこそ」とあいさつしたのが、初対面だったと思う。

もちろん夫人の小嶋さちほさんも一緒だったが、とにかくどんととラキタ父子の印象が、ぼくの記憶に鮮やかに残ったのである。

それにしても日本からやってきたヒッピー風の親子連れが目に入って、次第に近づいてきたその日の光景は、どういうわけか最初から現実離れしていたように思えてならない。

それから2~3日は同じモーテルに泊まって一緒に過ごしたような気もするのだが、すべてが幻覚のように消えてしまって、もう何ひとつ思い出せないでいる。

Studio in the Country

次に再会したのは沖縄だった。
それまで湘南に住んでいたどんとが、家族ごと移り住んだのは1995年の夏のことである。

その時は自宅録音でつくったばかりのソロアルバム『ごまの世界』が納品されたばかりだったので、手書きの歌詞カードのコピーとともに、サイン付きで手渡された。
何から何までが自作だと説明してくれるどんとの話を聞きながら、ぼくはCDに書いてある文字情報を見ていた。

そして「きのうまでは男風呂今日からは女風呂」というタイトルから、しばらく目が離せなくなって歌詞に照らし合わせた。

今でもよく覚えているのは、「ああ、どんとはいよいよ誰も知らない世界に足を踏み出したんだな」と思ったことである。

ローザ・ルクセンブルグもボ・ガンボスも聴いたことはあったし、派手なプロモーション・ビデオも観ていた。

それ以外にもいろいろな情報を知っていたが、ぼくにとってのどんとは「ボガルサ」と「オキナワ」で会った、宇宙人のような存在だった。

あれから25年になった。そう、25年にもなった。

どんとがハワイで亡くなってから20年になるのを記念して、今でもどんとへの思いを抱いている人たちが、各地から集まった手づくりのライブ・イベントに参加してきた。

今もパートナーであり続ける小嶋さちほさんから、こんなメッセージを受けとったからだ。

今年どんとも魂となって20年、懐かしい下北沢のQueで、子供達世代のバンドに、どんとの魂のバトンを渡します。
お忙しいと思いますが、タイミングが合えばぜひ来てくださいませ。

満員で入れないことは承知の上で、仕事が終わって9時前ぐらいに駆けつけたら、最後の1時間とアンコールに立ち会うことができた。

今回のイベントは「追悼」というような雰囲気はなく、どんとを慕う人たちによる20周年を記念した祝祭空間で、最後まであたたかな空気に包まれていたように思った。

ローザ・ルクセンブルグとボ・ガンボス、どんとが活動してきた伝説のバンドのメンバーたちが、全面的に協力してくれているからこそ、生きている歌と音楽で成り立つイベントだった。

どんとと一緒に並んで身体を揺らしながら、昔からのバンド仲間たちや、息子たちのライブを楽しんでいるような気持ちにもなった。

「オキナワ」から25年、幸せをおすそ分けしていただいたので、雨が降り続く帰り道でも、心はいつになく楽しかった。

だからどんとの歌った「波」を口ずさみながら、ゆっくりと歩いて家に帰った。

波に抱かれて 島の唄を唄へば
ホロホロ涙が こぼれおちる
ここはお国か 波の音もなくて
叫んでみたけど 届かぬ想い
お~い お~い お~い お~い 波 
お~い お~い お~い お~い また
お~い お~い お~い お~い 波
答えておくれ

撮影 / 三浦麻旅子

「どんと20周年祭ー2020 魂の成人式ー」

日時:2020年1月28日(火)
会場:下北沢CLUB Que
出演:Dr.kyOn、岡地曙裕、永井利充、玉城宏志、踊ってばかりの国、ナツノムジナ、gateballers、Peace-K(パーカッション)、ラキタ、小嶋さちほ、町田康

ナツノムジナ、gateballersは次男の奈良が参加してるバンドです。
踊ってばかりの国は、BO GUMBOSやローザが好きで、さちほさんが大好きなバンドです。
どんとは、町田さんや清志郎さん(特にシングルマン)が大好きでした。

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
久世光彦のエッセイを舞台化した「マイ・ラスト・ソング」では、構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長。現在は顧問。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」~天才たちはいかにして出会ったのか』(文藝春秋)、『ウェルカム!ビートルズ』(リットーミュージック)

ウェルカム!ビートルズ 1966年の武道館公演を実現させたビジネスマンたち

著者:佐藤剛
ボイジャー

ビートルズ来日をめぐる人間ドラマを丹念に描く感動のノンフィクション。

1966年のビートルズ来日公演、それは今になってみれば、奇跡的といえるものだった。いったい誰が、どのようにしてビートルズを日本に呼ぶ計画を立てて、それを極秘裏に進めて成功に導いたのだろうか? これは日本の経済復興の象徴だったリーディング・カンパニーの東芝電気と、その小さな子会社として生まれた東芝レコードにまつわる、歌と音楽とビジネスをめぐる物語である。

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