映画『前田建設ファンタジー営業部』特集  vol. 2

Interview

これは野心的コメディ映画か?『マジンガーZ』の実写化なのか? “さまざまな文脈の交差点” 脚本・上田誠が語る『前田建設ファンタジー営業部』

これは野心的コメディ映画か?『マジンガーZ』の実写化なのか? “さまざまな文脈の交差点” 脚本・上田誠が語る『前田建設ファンタジー営業部』

アニメ、マンガ、ゲームといった空想の世界に存在する特徴ある建造物を、実在のゼネコン・前田建設工業が本当に受注。それをもし実際に建設するとしたらどうなるかを、それに使用する技術の解説や、工期、工費などを本物と同じようにWebコンテンツとして公開。反響の大きさから書籍化もされるなど話題を呼んだ『前田建設ファンタジー営業部』が、まさかの映画化! 2020年1月31日(金)より公開をスタートさせた。

「マジンガーZの地下格納庫兼プール」の建設に奮闘する社員たちを描く、超個性派コメディ映画となった本作の脚本を担当したのは上田誠。京都を代表する劇団「ヨーロッパ企画」主宰であり、ドラマ好きにとってはTVドラマ『ユキポンのお仕事』や『ドラゴン青年団』、『世にも奇妙な物語』シリーズ。映画ファンには、ヨーロッパ企画の演目を映画化した本広克行監督作品『サマータイムマシン・ブルース』や『曲がれスプーン』。アニメファンには『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ乙女』、『ペンギン・ハイウェイ』といった作品の脚本家としておなじみの劇作家だ。

この映画のベースとなった舞台作品から、『前田建設ファンタジー営業部』に関わってきた上田誠に、映画化への経緯を含めて、作品の見どころや意外性あるキャストについて話を聞いた。

取材・文 / 阿部美香 構成 / 柳 雄大


実は「本当に映画化できるのかな?」と半信半疑だった

今回の映画『前田建設ファンタジー営業部』は、そもそも2013年にヨーロッパ企画が舞台化を手がけられていた作品がベースになっているそうですね?

上田誠 じつはそうなんです。ヨーロッパ企画の舞台は、ふだんは自分達の企画・主催なんですが、『前田建設ファンタジー営業部』は珍しく外部からの委託作品で。

もともとは、モーションキャプチャー技術を応用したリアルタイムのCG再生システム「DL-EDGE」を活用した芝居ができないか? というお話をいただき、同時期に『前田建設ファンタジー営業部』を題材にした演劇はどうですか? というお話があって、空想科学通信装置を「DL-EDGE」を使ってやってみた、実験的な舞台でした。それを今回の映画のプロデューサーの佐治幸宏さんがご覧になっていて、ぜひ映画化したいとお声がけいただいたのが、映画の脚本を書くようになったきっかけですね。

映画化の構想がスタートしたのは、6年以上前になるんですね。当時は、映画化と聞いてどう思われました?

上田 正直、実現は難しいんじゃないかと思いましたね。舞台化の前から、僕も書籍で原作の面白さは知っていましたが、内容はややマニアックですし(笑)。ありがたいことに、僕にも「映画の脚本を書かないか?」というお話はいろいろいただくんですけど、あの舞台は僕の好きな“演劇×面白い技術”ありきでできたものという要素が大きいので、映像化はどうだろうと。

生の舞台でやるには珍しい技術や、突拍子もない発想で大道具・小道具を使い、意外な展開のSF的ドタバタコメディが繰り広げられる……というのが、ヨーロッパ企画の舞台の魅力ですからね。

上田 だからなんでしょうけど、そもそも僕にやってくる脚本家としてのお話は、野心的で変わったものが多いんですよ(笑)。なので、プロットやシナリオを提出したものの、野心的すぎてやっぱりダメでしたとなることも多々あるんですね、映画って。そういう時って、めちゃめちゃ落ち込むんですよ。『前田建設ファンタジー営業部』も、映画の企画としては相当特殊で……(苦笑)。「本当に映画にできるのかな?」と半信半疑だったので、公開されて本当に嬉しいです。

上田誠

(いい意味で)馬鹿馬鹿しい会話劇を「超熱いヒーロー物的なテンション感」に!

では話は少し遡ります。もともと、原作の書籍およびWebコンテンツの『前田建設ファンタジー営業部』は、マジンガーZの地下格納庫兼プールをもし本当に作るなら? をもとに、必要な技術や工法を紹介し、建設予算や工期を公開する内容。それが舞台と映画では、Webコンテンツ制作に当たる前田建設広報部社員そのものにスポットを当てる物語になりました。どのような発想があったのですか?

上田 舞台を作ったときにまず、映画でおぎやはぎの小木(博明)さんが演じられたアサガワのモデルになった、前田建設工業の岩坂(照之)さんという方とお会いして、お話しさせてもらったんです。

そうしたら、Webサイトを立ち上げるまでの会社の中の紆余曲折、裏話がめちゃめちゃ面白かった。原作の突拍子のない内容はもちろんですけど、それにサイトを作る人々の奮闘を掛け算したら、より面白いんじゃないかと思ったんですね。建設会社というお堅いゼネコンの中で、“とんでも”をやろうとした人たちの情熱があって、実際にサイトもたくさんのアクセスを稼いだということが、まずすごい。そのすべてをドラマにしようと思いました。

映画となると、コンセプトも舞台とは違うものになったと思います。そのあたりはどう詰めていかれましたか?

上田 そうですね。舞台版は女性を主人公にしていたんですが、映画は若い男性=高杉(真宙)さんが演じられたドイくんと小木さん演じるアサガワさんのバディを主軸にしようとなりました。そしてもっともっと、熱に浮かされるような場面、熱量の高い突き抜けた馬鹿馬鹿しさがある場面を増やしましょう、というところから、打ち合わせが始まりましたね。

たしかに拝見すると、ドラマの『下町ロケット』がごとく、『前田建設ファンタジー営業部』の皆さんが、社内の白い目にも負けず、何度も壁にぶつかりながら、熱い情熱でそれを打破していく痛快なお話になっていますね。

上田 はい。基本的にこのお話は、ムチャなコンテンツ制作を会社に認めさせ、マジンガーZの格納庫を真剣に作ろうとする、いい意味で馬鹿馬鹿しい会話劇。でも、会話劇の手法もナチュラルがいいのか、芝居がかったほうがいいのか、いろいろ考えられるんですよ。そこで英(勉)監督から、「超熱いヒーロー物的なテンション感にしましょう!」というアイデアがありまして。ケレン味のある作品がお得意な英監督の方向性に、僕のシナリオものっかっていきました。

映画化に際して、難しかった点はどこでしたか?

上田 実際の建設現場を、どのくらいロケできるのかが、脚本を書く段階では分からないのが大変でした。「トンネルに行く」と僕が書いたところで、実際に行けなければ別の場面を考えなければならない。なので、その確認を先に取ってもらうという、脚本家としてのわがままを聞いていただきましたね。

僕は、映画というのは、一番大事なのはやはり“画(え)の力”だと思うんです。その意味でも、この映画は前田建設さん全面協力のもと、ダムの裏側やトンネルの掘削現場などの迫力のある画をたくさん実現できた。役者さんが実際にそれを目にした時の、まるで『タモリ倶楽部』のようなナチュラルなリアクションも相まって、クライマックスも含めて、とても値打ちのある画がたくさん実現できました。それも英さんというワンシーン、ワンカットに“諦めなさ”を詰め込む、熱量の高い監督のおかげだと思います。

演劇、アニメ、建築……さまざまな文脈の交差点にあるような作品に

本作は登場人物の個性もバラバラで、バラエティに富んだキャスティングも魅力です。キャラクターを作られた張本人である上田さんは、どう感じられましたか?

上田 変化球のようで、とても巧みなキャスティングですよね。この映画は、いろんな文脈の交差点上にある作品だと思うんですね。お客さんにしたって、建築マニアの人も観に来るだろうし、『マジンガーZ』ファンやアニメファンも、ビジネスマンも、建設現場の人たちも、お笑い好きの方も来るかもしれない。ヨーロッパ企画の舞台から始まったと聞けば、演劇ファンもいらっしゃるかも。そういう、いろんな“文脈”の方に入り口を作りつつ、納得してもらえるキャスティングというのは、じつに難しいと思うんですね。

たしかに、そう考えると難しいですね。

上田 ベッショ役の上地雄輔さんも、こういうサブカル色の強い映画に出演されるのはとても意外ですが、建設現場で今働く方々は、まさに『ROOKIES』や『クローズ ZERO』にグッときてた世代なんですよ。上地さんを慕って、この映画を観たいと思う方も多くいらっしゃると思うんです。高杉さんや、ヤマダ役の劇団EXILEの町田(啓太)さんのように、人気も実力もある若い男性俳優さんも、意外でありながらハマっている。演劇畑でいうと、六角精児さんやうちの劇団の本多力がいますしね。エモト役の岸井さんは、『愛がなんだ』を筆頭にコアで質の高い作品に出られている、シネフィル好みな女優さんです。

それをいえば、熱血上司役を小木さんが演じられるという情報が出て、本当に驚きました。

上田 そうそう、小木さんはパルプンテ(=何を引き起こすかわからない魔法のこと)ですよね!(笑) 映画俳優という部分は未知数ですが、めちゃくちゃ面白いことは明白。この映画は、熱血青春映画でありながらも、コメディなので、小木さんの存在によって、現場はだいぶ笑いのほうに引っ張られていたと思いますね。また小木さん自身の“業界”っぽさというのも、僕は大好きで。途中途中で小木さんがのぞかせる、アブない感じや業界人っぽい絶妙に調子いい雰囲気は、僕のセリフではなくアドリブで演じていただいた場面もあります。そこも面白いですね。

『マジンガーZ』の永井豪先生も、意外な場面で登場されていますし、この映画は、全員が最大限にご自分の力を発揮できるキャスティング。そこが絶妙だし、相乗効果がすごいです。なので僕も、キャスティングが決まってから、「この方なら、こういう感じがいいな」という当て書きをし直しました。

例えばどういった?

上田 とくに上手くいったなと思ったのは、ドイくんにマジンガーZを説明する場面で、アニメではなく「『スパロボ』(スーパーロボット大戦)で知っている」と言わせたことですね。主役は余計な色がついていないほうがいいんですが、高杉さんは『四畳半神話体系』などもご覧になっていて、アニメも好きと噂に聞いたので、ドイくんをゲーム好きという設定にしたんです。

マジンガーZを「アニメで知っている」では普通すぎてつまらないし、「知らないっす」ではそっけない。「親父が観てました」では、その後の広がりを作れない。なので「自分が大好きなゲームで知ってる」となると、その後でドイくんが徐々にマジンガーZにのめり込んでいく動機としても、いい温度感だなと思いました。

「働くのってホントは楽しい!」というテーマに共感してもらいたい

先ほど、多彩な層にアピールできるキャスティングの映画だとおっしゃいましたが、ファンタジー営業部の仕事にまったくやる気のないエモトさんが、掘削にしか興味のない土質担当のヤマダさんに恋をして、仕事を頑張り出す姿は、女性がキュンするところだなと思いました。

上田 そうですか!? だとしたら嬉しいですね。ただ、脚本家としては悩ましかったんです、エモトさんの設定は。もっと仕事ができる女性として書くほうが、時代の気分にあっているのかな、とも思いました。だけどこれは舞台がゼネコン。リアルな話、男性主導の現場ですし、女性には興味のない仕事もいっぱいあると思うんです。いい加減な動機の社員だっている。けどそういうふうにエモトさんを描くと、お客さんから、愛されない女性に見えてしまう可能性がある。でも、エモトさんはヘボいほうがいい。そこをどうするかは、シナリオの勝負どころでした。

でも、ヘボいエモトさんは自分に素直で、とても魅力的。かわいいです。

上田 普通なら「もっとちゃんと働けよ!」と思われてしまうのに、嫌な女性に見えないのは、岸井さんの力ですね。あの二人の恋愛要素は、今思えば前田建設さんもよくOKを出したなと思うんですけど……エモトさんとヤマダさんが仲を深める転機になるのは、サービス残業でお互いが会社に残っていたからなんですよ。サービス残業で出会う恋なんて、ブラック企業みたいで今の御時世、ヤバいじゃないですか。「前田建設という名前を出しながら、そんなんやってもいいんかな?」と後から気づいてドキッとしましたが、舞台は2003年という設定ですし……許していただこうと(笑)。

言われてみれば!(笑)

上田 でも、この脚本で僕は、「情熱を持って、一生懸命働くことって面白いんだよ」ということも伝えたかったんですね、誤解を恐れずに言うと。僕は働き者の男性も女性も好き。「サービス残業なんて。なんでしなきゃいけないんですか」と言いながら、熱意が溢れてやってしまう感覚って、好きなんですよ。そういう先輩たちと接することで、主人公のドイくんが「そうなんですよね! 働くってほんとは楽しいことなんですよね!」と共感していくお話として、僕はこのシナリオを書きました。実際に、前田建設の皆さんは『前田建設ファンタジー営業部』を頑張って実現したわけで。今の世代のサラリーマンの方が映画をご覧になって、「やっぱりそうだよね」と思ってくれたらすごくいいなと思います。

映画『前田建設ファンタジー営業部』

公開中

<キャスト・スタッフ>
出演:高杉真宙 上地雄輔 岸井ゆきの 本多力 / 町田啓太 六角精児 / 小木博明(おぎやはぎ)
監督:英勉
脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)
原作:前田建設工業株式会社 『前田建設ファンタジー営業部1 「マジンガーZ」地下格納庫編』(幻冬舎文庫) 永井豪『マジンガーZ』
主題歌:氣志團「今日から俺たちは!!」(影別苦須 虎津苦須)
配給:バンダイナムコアーツ 東京テアトル

©前田建設/Team F ©ダイナミック企画・東映アニメーション

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