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今こそ「アイドルとは何か」を問う! 超王道スポ根アイドルマンガ『AKB49~恋愛禁止条例~』レビュー

今こそ「アイドルとは何か」を問う! 超王道スポ根アイドルマンガ『AKB49~恋愛禁止条例~』レビュー

秋元康がプロデュースするデジタル声優アイドルプロジェクト「22/7」。2017年にプロジェクトが始まって以来、待望となるアニメが2020年1月より放送中です。滝川みうを主人公に、8人の少女がアイドルユニットとして活躍するようになるまでの物語が描かれます。

そこでキャラクター・ネーム原案としてクレジットされているのが、現在「週刊少年マガジン」で『彼女、お借りします』を連載している、マンガ家の宮島礼吏です。

ネームとは、セリフとラフに描かれた構図で構成された、マンガの設計図と言えるもの。今回のアニメ化においては、なんと1,000ページにも及ぶネームが描き下ろされたといいます。

そんな宮島礼吏のアイドル作品の原点とも言えるのが、連載当時(2010年~2016年)のAKB48を題材にした『AKB49〜恋愛禁止条例〜』。前田敦子、大島優子といったリアルメンバーとオリジナルのキャラクターが交差し、互いに影響を与え合いながらアイドル道を突き進みます。

©元麻布ファクトリー・宮島礼吏/講談社

主人公は男子高校生の浦山 実(1巻表紙左)。想いを寄せていた同級生の吉永寛子がAKB48のオーディションを受けると知り、彼女をサポートするため「浦川みのり」として女装しオーディションを受けることに。結果は……まさかの合格! 女装した男子高校生が第12期の研究生となってしまいます。

「男子高校生が女装してアイドルとして活動する」と聞くと奇をてらった作品に思うかもしれませんが、本作は超本格的なスポ根アイドルマンガ。「努力」「友情」「勝利」がステージ上で燃え上がり、見る者に感動をもたらす王道の名作なのです。

アイドルとは「全力でやること」

「アイドルとは何か」については、「研究生編」から明確に描かれています。
グループに入ったばかりでダンスが未熟な12期生は、初めはレッスンについていくことができません。そこでみのりは「100点のダンスはできなくても 100%のダンスをしよう!」と述べます。全力で踊れば想いは伝わるはず、と。

ダンスだけでなく歌も同じ。作中で高橋みなみ(リアルメンバーですね)は以下のようにアドバイスします。

ヘタでもいい!
伝えたい想いが伝われば歌詞を間違えてもいい!
心を込めて大切な気持ちを全力で伝えればいいんだよ!
(1巻4話)

大事なのは上手さや歌詞ではない。込められている想いを伝えることだという。
アイドルにとって一番大事なことは、一生懸命に取り組んでいる姿を見せることだというのです。

もちろん、完璧なパフォーマンスを届けることがプロなんだ、という考え方もあると思います。
しかし、宮島礼吏によるステージ裏/表の表情の描き分けも相まって、みのりたちが全力で踊り歌うライブシーンでは、誰もが否応なく心を動かされてしまうはずです。

パフォーマンス中に足を骨折するというアクシデントが起きても、お客さんの前では最後まで笑顔でい続けたみのり。初ステージで見事に「アイドル」をやりきってみせたのでした。

ファンがいるからアイドルがいる

初ステージの最後のMCでみのりが言った「足が折れても心は折れないっスから!」という言葉。これが後に彼女(彼)にとって一番のファンとなる人物を惹き付けることになります。それが、みのり=実の通う高校の教師・奥平先生です。
彼は気弱な性格から生徒にもナメられ、教師を辞めようと思っていた矢先に偶然AKB48劇場の前を通りかかり、そこでのみのりの初ステージを見て一気にファンになったのでした。

本作は、ファンにもスポットを当てていくことで「アイドルとは何か」をよりくっきりと浮かび上がらせていきます。
全力で応援するファンがいてくれるから、全力でアイドルになれる。みのりは奥平先生の応援に心を打たれて、アイドルとしての目覚めを以下の心情で綴ります。

アイドルがいるからファンがいる
ファンがいるからアイドルがいる
そんな当たり前のことに
今頃 気づくなんて俺は
アイドルとして何も分かっちゃいなかった
(3巻23話)

もともと寛子を応援するためにオーディションを受けたつもりが合格してしまったみのり=実。流されるままアイドルを続けていましたが、厳しいレッスンやファンの想いを通じて、アイドル「浦川みのり」が誕生するのです。

感謝の気持ちが重なり合って聞こえてくる

「アイドルである」とはファンに全力の姿を見せ、想いを伝えるということ。ファンがいるからこそ、アイドルでいられるということ。後ろから支えてくれるスタッフがいること。一緒に進む仲間がいること……さまざまな経験を経て、みのりは以下のように結論します。

いろんな人が私を
アイドルにしてくれたんです!
(5巻36話)

今の自分がアイドルに見えるなら、それは自分だけの力ではない。みのりはファンに、スタッフに、仲間たちに感謝の気持ちを伝えるのでした。

アイドル「幸せにしてくれてありがとう」
ファン「幸せにしてくれてありがとう」

マンガという、実際には歌や音楽が流れることのないメディアだからこそ、そんな声が重なり合って聞こえてくる。これが『AKB49』で描かれるライブシーンのドラマなのです。理想的なアイドルとファンの関係性が、そこには描かれています。

しかし、『AKB49』の最大のキモは、そうしたみのりの成長を通して表現されるアイドル道を表面的に感じさせるほど、壮大で哲学的な「アイドル」観が示されていることにこそあります。

いつまでも生まれ変わり続ける存在

みのりに背中を押されつつも成長してきた寛子。彼女が晴れて人気メンバーの仲間入りを果たしたこともあり、みのりはAKB48を卒業することを決めます。
正体を最後まで隠し通すことができるのか……その顛末はぜひ実際に読んで確かめてほしいのですが、大事なことはもっと別にあります。

考えてみれば、そもそも「浦川みのり」なんて人間は最初から存在しないのです。しかし、メンバーの中にもファンの中にもみのりは「生き続けていく」。それを示す印象的なシーンで本作は締め括られます。

みのりが卒業した後のコンサートで、寛子はみのりの変装をしてステージに上がるのです。
もちろん、それを変装だと誰もがわかっているのですが、高橋みなみは「なんだかまた(みのりに)会えたみたいで……」と漏らします。
寛子に対するファンの声援の中には、「みのりーー!!」という声も混じっていました。

©元麻布ファクトリー・宮島礼吏/講談社

アイドル(idol)の語源には、神の存在をかたどった偶像、崇拝の対象である神聖な器という意味があります。
一個人としてのアイドルは、いつかその役目を終える日が来ます。それはグループからの卒業というケースもあるし、もしかしたらスキャンダルによるものかもしれません。

しかし、全力で応援するファンや支えるスタッフ、それに応えようとするアイドルがいれば、「アイドル(偶像)」は何度でも誕生する。
アイドル同士の関係にも言えます。
みのり=実がもともと「吉永寛子」を応援するファンであったように、寛子もいつしか「浦川みのり」のファンになっていました。

「浦川みのり」というアイドルが「吉永寛子」というアイドルの中に生き続ける。そして彼女(たち)を応援するファンがいる……。
器としての「アイドル(偶像)」は、生まれ変わって受け継がれていくものだと言えるのです。

『AKB49』には「アイドルとは何か」が全て描かれている

あらためて、アイドルとは何か。

ミクロな視点で見れば、歌やダンスに全力で取り組むことであり、ファンはその姿に勇気づけられる。ファンが応援してくれるからこそステージ上のアイドルは存在でき、より高みに登ることができる。両者の与え合う関係がそこにはあります。
そしてマクロな視点で見れば、「アイドル(偶像)」は崇拝を集める神聖な器であり、それはたとえ代替わりしようとも変わることはない。

宮島礼吏は、『AKB49』があったからこそ「22/7」プロジェクトへの参加オファーがあったことを自身のTwitterで明かしています(※)。「浦川みのり」も「吉永寛子」も、アニメ『22/7』の中に生まれ変わって存在しているのだと言えるでしょう。

神聖な器としての「アイドル」は、いつまでも不滅なのです。

2019年9月21日のツイートより。

文 / 山田

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『AKB49~恋愛禁止条例~』既刊・関連作品一覧(講談社コミックプラス)
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※現在は電子書籍版のみの流通。