サザンオールスターズと昭和・平成・令和元年  vol. 22

Column

“他者としての視点”ゆえに浮かぶ、ヨコハマという街のスウィートな全貌

“他者としての視点”ゆえに浮かぶ、ヨコハマという街のスウィートな全貌

2018年にデビュー40周年を迎えたサザンオールスターズのバンド・ヒストリーを、彼らが生み出した数々の作品から改めて見つめていく。音楽評論家・小貫信昭が独自に紐解く、サザンオールスターズの魅力──。


今週は、ずいぶん大仰なタイトルになったが、話は「LOVE AFFAIR〜秘密のデート〜」(98年2月)のことである。1998年のサザンオールスターズは、この曲の大ヒットで幸先の良いスタートを切った。

この歌は、松嶋菜々子が主演したドラマ『スウィートシーズン』の主題歌だった。内容は、徒(ただ)ならぬ会社の上司との恋を描いたものであり、「LOVE AFFAIR〜秘密のデート〜」は、ドラマのテーマに沿って書き下ろされている。なお、舞台は横浜である。

しかし桑田は、横浜という街に、さほど詳しいわけじゃなかった。茅ヶ崎で育ち、高校は北鎌倉、その後、青山学院大学へ進学した彼の、大学以降のホ−ムグラウンドは渋谷〜青山界隈ということになる(あくまで大学の所在地からの推測だが)。

要するに横浜は、桑田の青春期においては“通過駅”だったわけである。なので歌を書くとき、参考文献を必要とした。当時、取材した際の記憶では、それは『るるぶ』横浜版などだったと思う。彼はそうやって、神奈川出身でありつつも、横浜という都市を“再発見”していったのである。

この歌には、名所や人気スポットが登場する。テキパキと紹介していくようにサビの歌詞に並んでいく。聴いていると、旅の準備をしている時のようなワクワクした気分が芽生えもする。つまりそれは、桑田自身がそうやってこの歌詞を書いたためでもある。

細かいことを書くと、アウトドア言葉(“大黒埠頭”などの地名)とインドア言葉(“この首筋”“愛の谷間”などの表現)を大胆に交差させたところが魅力だ。そして、何度か出てくる[〜なくちゃ]というカジュアルな口語表現が、実によいフックとなっている。

ところでここ数年、「LOVE AFFAIR〜秘密のデート〜」は別の意味で脚光を浴びた。ボウリング場にまつわる描写があるからだ。桑田がここ最近、生涯スポーツとしてのボウリングの普及につとめていることもあり、しばしばそれ絡みでこの歌への言及があったりもする。

もし、この歌においてボウリング場でカッコつけているのが桑田本人だとするなら、それは彼が子供の頃に腕を磨いた地元・茅ヶ崎のパシフィック・ホテルのボウリング場ということになる。ただ、それはあくまで、この歌を“自伝的”なものに引き寄せて聴いた場合に限る。ここに登場するのは、横浜市内のとあるボウリング施設と考えるのが妥当だろう。

歌詞のことばかり書いたが、「LOVE AFFAIR〜秘密のデート〜」は、サウンドにおいても耳に至福をもたらす。「あなただけを 〜Summer Heartbreak〜」に続く、フィル・スペクターの“ウォール・オブ・サウンド”へのオマージュとも言える。

ただ、「あなただけを…」のほうが、“音の壁”を感じるということでは、本家のスペクターに近いかもしれない。「LOVE AFFAIR〜秘密のデート〜」に関しては、むしろ空から音が“降り注いでくる”ようなイメージだ。冒頭に歓声のSEが入り、そのことにより我々の脳内に野外ライブでも観ている感覚がセッティングされ、だから“降り注ぐ”のかもしれないが…。

このシングルのすぐあと、サザンオールスターズはデビュー20周年の節目を飾るベスト・アルバム『海のyeah!!』をリリースする。夏には前代未聞の大規模ライブを渚園で成功させ、秋には3,000時間ものレコ−ディングの成果である『さくら』がリリースされることになる(このアルバムのことは次週じっくり掘り下げる)。

さて最後に、桑田が20周年を迎えるにあたり、どんなことを思っていたのかを、当時のインタビューを参考に紹介しておく。そもそも渚園の成果として、彼はこんなことを言っていた。「やる前は、過去と未来が錯綜してた」。でもやってみて、考えは変わる。「過去と未来、どっちが色濃いものかといったら、やはりそれは未来なんだってことが、やってみてわかった」。

渚園は「“仮想解散コンサ−ト”だったかもしれない」とも言っていた。(持ちネタ全部、大棚ざらい、やったので、これからは、次のサザンを作っていかないと」(引用は、『ワッツイン』1998年10月号の筆者のインタビューより)。彼の言葉は、次のアルバム『さくら』へと繋がっていく。そしてそれは、まさに未来へ挑んでいく、勇敢な作品集だった。

文 / 小貫信昭

SINGLE「LOVE AFFAIR~秘密のデート〜」
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