山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 1

Column

再生の歌は鳴りやまない〜佐野元春「君を連れてゆく」〜

再生の歌は鳴りやまない〜佐野元春「君を連れてゆく」〜

HEATWAVE 山口洋がこれまでに出逢ったミュージシャン、ロックンロールの魔法について書き下ろす新連載!


1990年代の初頭。金と欲に踊らされた、バブルな時代の末期。バンドブームのどさくさに紛れて、僕らもアルバム・デビューを果たしたものの、この国に蔓延していた奇妙な空気にどうにもなじめず、時間とお金をやりくりして、僕はひとりで世界を流浪していた。

旅の目的のひとつは、ロックンロールの源流をたどること。どこからあの命の水は流れだしてきたのか?それを知ることができれば、僕は普遍と不変のスピリットを手にいれ、時代を切り裂くことができると思っていた。そうやって、僕はNYを経由し、いくつもの出会いや失敗を繰り返しながら、源流のひとつ、アイルランドにたどり着いた。

はたして、僕はそこでアイリッシュ・ソウルの最高峰、ヴァン・モリソンを生で体験することになるのだれど、そこに彼の盟友であるシンガー、オルガニストのジョージィ・フェイムの姿はなかった。聞けば、彼は今日本に居るのだと。ヴァンのオファーを断ってまで、極東でやるべき音楽なんてあるのだろうか?

帰国して、彼が佐野元春さんのアルバム『The Circle』のレコーディングに参加していたことを知った。そして、かなりのジェラシーとともに聞いた「君を連れてゆく」という曲に、僕は深い感銘を受けた。それはジョージィの乾いたオルガンから始まる曲で、当時僕が書こうとして叶わず、悶々と苦しんでいたテーマ = 人間の再生 = について歌われていたからだ。

1993年リリースの9作目にあたるアルバム『The Circle』。弱さや喪失感を歌う成熟したリリック、ソウル・ミュージックのあたたかさが全体を包み込む全10曲。初期のバンド、ザ・ハートランドとの最後のスタジオ録音盤。トラックダウンはロンドンAIR Studio。2016年3月にリマスター&高品質CDとして再発売されている。

1993年リリースの9作目にあたるアルバム『The Circle』。弱さや喪失感を歌う成熟したリリック、ソウル・ミュージックのあたたかさが全体を包み込む全10曲。初期のバンド、ザ・ハートランドとの最後のスタジオ録音盤。トラックダウンはロンドンAIR Studio。2016年3月にリマスター&高品質CDとして再発売されている。

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ヴァンのアルバムで聞き慣れた、あのジョージィのオルガン。そしてバンドが入ってくる瞬間。単発の飛行機が谷間を抜けたときのように視界が拓け、こう歌われる。

家を失くしてしまった
お金を失くしてしまった
暇を失くしてしまった
少しだけ賢くなった

これ以上、簡潔に人間の本質について描かれた言葉を僕は知らない。

愛をやり直し
仕事もやり直し
君を連れてゆきたい
ついてきてくれるね
お願いさ

この国の言葉で「再生の歌」を聞いた初めての瞬間だった。

©Daisy Music

©Daisy Music

僕は震えた。同時に世界をぐるっと1周する音楽の円環「The Circle」を勝手に受けとった。その風を受けて、僕なりの再生の歌をいくつか書きあげ、佐野さんに手紙を書き、実際にお会いして、プロデュースをお願いした。突飛な行動だと思ったけれど、迷いはまったくなかった。ロックンロールは行動と衝動だから。

ともにスタジオで過ごさせてもらった時間はかけがえのないものだった。作業は連日、深夜に及び、背後でバタバタとスタッフが気絶していくのを感じながら、僕はとても興奮していた。それは「ロックンロールの魔法の掛け方」講座みたいなものだったから。

ひとつだけ。

「プロデュースの本質は何ですか?」との僕の愚問に、「それはエンカレッジ = 励ますことだよ」と明確に応えてくれたこと。それは人生のどんな場面にだって有効な、金太郎飴的な至言として、僕のこころに刻まれている。実際、彼は励ます言葉が尽きても、最後までスタジオで僕を励まし続けてくれた。奮い立たせる力。それも魔法のひとつ。僕も今、スタジオで若い世代にそれを伝える。いつの日か円環になることを願って。

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photo by Hiroshi Y.

話を「君を連れてゆく」に戻す。

あのイントロのオルガン。僕にとっては、後に多くのキッズの人生を狂わせた、ディランの “LIKE A ROLLING STONE”のイントロのスネア・ドラム1発に匹敵するもので、それもまた、ロックンロールの魔法そのものだった。僕は佐野さんにそのいきさつを質問してみた。

ジョージィがスタジオに現れたとき、既にベーシック・トラックの録音は終わっていて、彼はイントロより前からテープをかけることを要求し、あのフレーズを弾いたのだと。ワォ!魔法はそうやって後付けで生まれたんだ!

1996年にリリースされた佐野さんのトリビュート盤『BORDER-A Tribute to Motoharu Sano-』で「君を連れてゆく」をカヴァーさせてもらった。初めて聴いたときから、僕の頭の中では「そのように」音が鳴っていて、失礼ながら、まるで自分が書いたのではないか、と勘違いするほど違和感がなかった。きっと、世界を1周する円環の中に、幸運にも脇役として立ち入らせてもらったからかな?

HEATWAVE「君を連れてゆく」をはじめ、ザ・グルーヴァーズ「ニューエイジ」、川村カオリ「悲しきレイディオ」、GREAT3「サンチャイルドは僕の友達」、b-flower「約束の橋」など全10曲を収録。

HEATWAVE「君を連れてゆく」をはじめ、ザ・グルーヴァーズ「ニューエイジ」、川村カオリ「悲しきレイディオ」、GREAT3「サンチャイルドは僕の友達」、b-flower「約束の橋」など全10曲を収録。

あれから20年。僕はずっと「君を連れてゆく」を歌い続けてきた。人は失敗しても、何度でもやり直すことができる。再生はいつだってたいせつなテーマだったし、この曲は色褪せるどころか、永遠の円環を目指しているのだと思える。「君を連れてゆく」は歌っている者も、聞いている者も等しく励ましてくれる。2つの大きな震災の後、歌うべき歌はしばらくこの曲しかなかった。

たぶん、何も間違っていない。

たとえドナルド・トランプが世界を席巻したとしても、再生の歌は鳴りやまないだろう。

深い感謝とともに。

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photo by Hiroshi Y.

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

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1963年福岡県生まれ。1979年に結成したHEATWAVEのフロントマン。
90年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。95年発表の『1995』には佐野元春プロデュースの2曲のほか、阪神・淡路大震災後に書かれた「満月の夕」(中川敬/ソウル・フラワー・ユニオンとの共作)を収録。1998年発表の『月に吠える』にはTHE BOOMの山川浩正、元モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャー、伴慶充が、1999年『日々なる直感』にはアイルランド音楽の重鎮、ドーナル・ラニーが参加。
2003年より渡辺圭一 (Bass)
、細海魚 (Keyboard)
、池畑潤二 (Drums)と新生HEATWAVEの活動を開始。東日本大震災後、福島県相馬市の仲間とともに現地を応援するプロジェクト“MY LIFE IS MY MESSAGE”を立ち上げ、仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らとともに活動している。
2016年4月に発生した熊本地震を受け、9月からFMK エフエム熊本で“MY LIFE IS MY MESSAGE RADIO”をオンエア開始。毎月第4日曜日20時~、DJを務める。

HEATWAVE TOUR 2016-2017
12月7日(水)福岡・DRUM Be-1、
12月8日(木)大阪・梅田Shangri-La、
12月26日(月)東京・duo MUSIC EXCHANGE。
ツアーに合わせてライヴ盤第4弾『OFFICIAL BOOTLEG SERIES #004 151226』も販売開始。

ROCK’N’ROLL ASS HOLEhttp://no-regrets.jp

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