佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 126

Column

「第1回が相対性理論だったときには驚きました…」という発言からはじまったCDショップ大賞の話

「第1回が相対性理論だったときには驚きました…」という発言からはじまったCDショップ大賞の話

1月20日だから、つい昨日のことなのだが、新聞記者のTさんと初めてお目にかかったときの話から始めたい。

仕事にまつわる打ち合わせがひととおり終わったところで、1978年生まれだったTさんが、子どものころに影響を受けた音楽は何か、という話になった。

その場でいくつかの話が出たなかで、まだ言葉も満足に話せない2、3歳のときに聴いた音楽が、じつはその人の音楽の根っこになるという話を、ぼくが自分の体験とともに教えたところ、そこから話題が大滝詠一さんのことになった。
春日八郎の「お富さん」をいつも唄っていたという、岩手県の釜石あたりに住んでいた、少年時代について話していたら、Tさんが盛岡の支局にいたことがわかって、こんどはぼくが暮らしていた八幡町の遊郭界隈に話が飛んだ。

そうこうしているうちにTさんが、ナイアガラー(※)と呼べる人だということもわかった。
※熱心な大滝詠一ファンのこと

だが、ふと話題がおさまったときに、ぼくの名刺をみていたTさんが、こうつぶやいたひとことも、かなり印象的だった。

「第1回が相対性理論だったときには驚きました…。CDショップ大賞の選択は、エッジが効いていましたよね」

そういうことを覚えてくれている音楽ファンに出会うと、ちょっと気持ちがほっこりする。
あれからもう12年になるのか、という個人的な感慨がわいてきた。

そういえばandymoriのアルバムが好きになったのも、CDショップ大賞がきっかけだったことを思い出した。

さて、今年に入ってすぐの1月8日、「第12回CDショップ大賞2020」の入賞作品が発表になった。

これは昨年1年間で発売された邦楽の新譜を対象として、全国各地域495名のCDショップ店員の方々が投票に参加し、投票上位の15作品が入賞作品に選出された結果である。

ここから神アルバムと呼べる大賞の<赤>と、新人の素晴らしい作品に贈られる大賞の<青>が決まる。
ぼくがこのコラムで以前に取り上げたアーティストの中では、「DYGL」と「サカナクション」が選ばれていた。

「第12回CDショップ大賞2020入賞作品」(アーティスト名五十音順)

あいみょん 『瞬間的シックスセンス』
THE YELLOW MONKEY 『9999』
小沢健二 『So kakkoii 宇宙』
Official髭男dism 『Traveler』
カネコアヤノ 『燦々』
King Gnu 『Sympa』
サカナクション 『834.194』
椎名林檎 『三毒史』
スピッツ 『見っけ』
sumika 『Chime』
Tempalay 『21世紀より愛をこめて』
DYGL 『Songs of Innocence&Experience』
長谷川白紙 『エアにに』
パソコン音楽クラブ 『Night Flow』
BiSH 『CARROTS and STiCKS』
計15作品

入賞作品が発表されるやtwitter上で、様々な反応が上がってきた。

twitterより
「カネコアヤノさん、長谷川白紙さん、DYGL、Tempalay、パソコン音楽クラブが入るとかほんま凄い。選ばれたことがきっかけで知らない人も知れたらいいよなぁ。」(ぐりーんたろちゃん)

「受賞した作品はどれも素晴らしいアルバムだけれども、既に売れてるアーティストさんが多く入賞してたのはとても残念です。
私にとって #CDショップ大賞 は音楽の奥深さや多様性を教えてくれた、思い入れのある賞でした。」(ひよこの子)

それに対してCDショップ大賞事務局は、こんな返信を出したらしい。

「ずっとCDショップ大賞を注目してくださってありがとうございます。昨年から<大賞作品>に#神アルバムと呼べる<赤>と、新人の素晴らしい作品<青>を選ばせていただくことにしました。それによってメジャー作品がより多いかもしれません。
入賞に入らなかったCDショップ店員さんが投票された作品がもっともっと沢山あります。それを今全部ご紹介できず残念です。ひよこの子さんはいろんな音楽を沢山聴いていらっしゃるのですね。沢山の素晴らしい音楽に触れられて素敵だなぁと思います。そんな素敵な体験を出来る方が一人でも多くと思います。どうぞこれからも応援お願いいたします」

Twitter上で散見されたのは、選考方法が変更したことを知らない人からの反応だったのだろう。
それでもすぐに反応があるのは、なかなかいいことだと思った。

うっかりするとこの世の中にCDがあることさえも、忘れられてしまう可能性だってあるのだ。
当然のように入賞作品の中には、まだぼくが聴いたことのないアーティストもいた。

昨年にメジャーデビューしてあっという間にブレイクした、「Official髭男dism」と「King Gnu」も入っていた。

どちらも気になっていたバンドで知人からの情報は聞いていたが、大晦日のNHK紅白歌合戦で、全出演者のなかで最も好印象だったのはその2アーティストだった。

大賞作品の発表と、いつも注目している地方賞などの発表は、3月9日(月)もしくは3月12日(木)に、東京の下北沢にある「北沢タウンホール」で行われるという。

また、今年からは「Music Springs」と冠して、CDショップ大賞の他に、トークイベント、音楽映画上映、ワークショップ、クリエイターズマーケット、スタンプラリーなどが行われるそうだ。
春の音楽の恒例イベントとして、下北沢に定着していくことを期待したい。

なお興味がある方は、こちらのサイトを参考にしてください。

CDショップ大賞ホームページ(全日本CDショップ店員組合)
http://www.cdshop-kumiai.jp/

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
久世光彦のエッセイを舞台化した「マイ・ラスト・ソング」では、構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長。現在は顧問。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」~天才たちはいかにして出会ったのか』(文藝春秋)、『ウェルカム!ビートルズ』(リットーミュージック)

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