横川良明の演劇コラム「本日は休演日」  vol. 25

Column

全国決勝まで見届けてやっと気づいた“テニミュ”が楽しい一番の理由

全国決勝まで見届けてやっと気づいた“テニミュ”が楽しい一番の理由
今月の1本:ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン 全国大会 青学(せいがく)vs立海 後編

ライター・横川良明がふれた作品の中から、心に残った1本をチョイス。独断と偏見に基づき、作品の魅力を解説するこのコーナー。今月はミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン 全国大会 青学(せいがく)vs立海 後編をピックアップ。ずっと取材を重ねてきた“テニミュ”への想いを語ります。

※現在も上演中のため物語の核心的な内容についてはふれませんが、一箇所だけ台詞の引用があります。観劇前の方はご注意ください。

文 / 横川良明


“テニミュ”と歩いた2年と9ヶ月と19日

僕が初めてミュージカル『テニスの王子様』に関する記事を書いたのは、2017年3月に配信されたこのインタビューから。以来、公演ごとにキャストにインタビューをし、レポートを書いてきた。

実は、いわゆるジャンプ黄金期世代の僕は、リアルタイムで『テニスの王子様』にはふれていなくて、“テニミュ”をきっかけに原作に入ったクチだ。つまり、最初は「にわか」も「にわか」。キャラクターの名前を覚えるところから始めて、“テニミュ”をはじめとする“テニプリ”という文化を学んでいった。

公演が近づくたびに、予習がてら今回上演される分のコミックスを開いて、まだ真新しいページをドキドキしながら読み進める。あのラリーがこんなふうに舞台では表現されるんだという驚きも、あのキャラのあの台詞がそのまま生身の人間の口から発せられる感動も、“テニミュ”で知った。僕が“テニミュ”を取材した日々は、僕が2.5次元舞台とは何かを学ぶ日々でもあったように思う。

そんななかで迎えたミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン 全国大会 青学(せいがく)vs立海 後編。3rdシーズンにおいて、本公演はこれが最後。目を閉じてもくっきりと浮かび上がる阿久津仁愛(にちか)の越前リョーマが、愛すべき青学(せいがく)の面々が、最大の敵となって立ちはだかる立石俊樹の幸村精市が、どんなラストを迎えるのか。そわそわと胸がざわめくのを感じながら、僕は日本青年館ホールに足を運んだ。

これまでの試合をお守り代わりに、「負けるな」と念じ続けた

まどろっこしい話は全部抜きにして、結論から言うと、めちゃくちゃ泣いた。自分でもなんでこんなに泣いているのか不思議でしょうがないんだけど、涙と鼻水がじゅくじゅくと出て、ようやく引っ込んだと思ったら、また別のシーンで泣いてしまう。途中から、ずっとその繰り返しだった。

筋書きは、原作を読んでいるから全部知っている。結末がどうなるかも頭に入っている。なのに、リョーマが追いつめられるたびに、まるで肺が小さくなったみたいに苦しくなって。幸村の超人的な強さに、僕まで目の前が真っ暗になった。

きっとこれこそが「舞台」の力なんだろう。たとえ何度観ても、なんならその場で暗唱できるぐらい内容を熟知していても、目の前で繰り広げられる感情と感情のぶつかり合いに、心がさらわれてしまう。原作を読んだときに覚えた絶望と希望が瞬間解凍されて、足の裏から頭のてっぺんに向かって一気に震えが駆けのぼる。この感覚は、中毒だ。

初めて観たときはもっと幼かった気がする阿久津仁愛の越前リョーマが、これまで立った舞台の数だけたくましくなって、そこにいる。何度打ちのめされようと、這い上がってくる。その姿は、なんでだろう、めちゃくちゃ苦しそうなのに、苦しければ苦しいほど、彼自身が光源となって眩しい光を放つようだ。

よく2.5次元舞台は「役者の成長が楽しめる」という言われ方をされるけど、その由来は間違いなく“テニミュ”だと思う。演技経験の浅い若手俳優を積極的に起用し、同世代で切磋琢磨しながら、板の上に立ち続ける。そんな桁違いの経験値が、彼らを役者にしていく。

ふらふらの足取りで、それでも立ち上がろうとするリョーマと、いろんな困難を乗り越えて今この板の上に立っている阿久津仁愛が重なり合って、自分がリョーマを応援しているのか、阿久津仁愛を応援しているのか、よくわからなくなる。

できるのは、祈ることだけ。これまで観てきた数々の試合をお守り代わりにぎゅっと握りしめ、負けるなと頭の中で何度も念じた。

ゲームセットの瞬間、たった1試合のはずなのに、何十試合分も観たような爽快感と疲労感で、終わったあとは身体中の毛穴という毛穴から生気が抜け出るみたいだった。すごい、これが“テニミュ”なんだと。3年近く観て、ようやく初めて僕は“テニミュ”のきれはしを掴めた気がした。

リョーマは聞いた、「楽しんでる?」と

“テニミュ”には、もっと強くなりたいというひたむきなエネルギーがある。“テニミュ”には、仲間を信じる絆がある。“テニミュ”には、この瞬間は決してもう二度と帰ってこないんだという青春がある。

“テニミュ”はどんなことがあっても最後は底抜けに楽しい。終演後は弾けるような笑顔で帰ることができる極上のエンタテインメントだ。その理由を僕は勝手に俳優たちから自然発生的に放たれる若さと眩しさのせいだと決め込んでいたけど、実はそれだけじゃなかった。

最後に越前南次郎(森山栄治)が語っていたあの言葉。絶体絶命の危機に瀕したリョーマが見つけたシンプルな答え。テニスって楽しいじゃん。勝つことよりも何よりも、まずは楽しむこと。大人になればなるほど忘れてしまうこの単純明快で、だからこそ最強のスピリットが根底に息づいているから、こんなにも“テニミュ”は楽しいんだろう。

今日学校で嫌なことがあった。友達との関係がうまくいかない。仕事でミスをした。上司をぶっ飛ばしたい。僕たちの日常はそんなことの連続で、目を輝かせて夢を語れるほど人生は甘くない。

でも、ここに来ればいつだって僕たちは天衣無縫になれる。ただ一生懸命応援すること。ただ好きという気持ちに胸をときめかせること。笑うこと。泣くこと。夢中になること。生きること。その全部を楽しみたい。時には苦しいことも、辛いことも、全部。コートの上に立ってラケットを振る彼らみたいに、全力で楽しもう。

そんな気持ちを教えてくれるから、“テニミュ”はいつだって楽しかったんだと思う。そのことに気づいて、僕は涙が止まらなかったんだと思う。

すべての道は“テニミュ”に通ず

“テニミュ”と言えば、2.5次元舞台のパイオニア。もう「古典」と呼んでも良い作品で、逆に言うと“テニミュ”はまだ観たことないけど、2.5次元舞台は好きというファン層も珍しくないほど、この数年の間に2.5次元舞台はマーケットが広がった。

でもやっぱり思う、“テニミュ”こそがすべての始まりなんだろうなと。そして、すべての2.5次元舞台は“テニミュ”へ通じているんだとも。

だから、これからどうなっていくのかは僕もまったく知らないのだけれど、“テニミュ”だけはこれからもずっと続いていってほしいなと思う。まだまだ「にわか」な僕だけど、何十年か経って、「あら。あなたは27代目越前リョーマから入ったの。そう、僕が最初に観たのは9代目越前リョーマでね……」とマウントにならないよう細心の注意を払いながら、古参も新参も自分たちの大好きな“テニミュ”を語り合う。そういう未来を体験してみたい。それができるのが“テニミュ”なんだと、晴れやかな彼らの笑顔を客席で見上げながら、そっと噛みしめた。

ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン 全国大会 青学(せいがく)vs立海 後編

東京公演:2019年12月19日(木)~ 12月24日(火)日本青年館ホール
大阪公演:2019年12月28日(土)~ 2020年1月12日(日)大阪メルパルクホール
宮城公演:2020年1月17日(金)~ 1月19日(日)多賀城市民会館 大ホール
愛知公演:2020年1月24日(金)~ 1月26日(日)アイプラザ豊橋
福岡公演:2020年1月31日(金)~ 2月2日(日)アルモニーサンク北九州ソレイユホール
東京凱旋公演:2020年2月6日(木)~ 2月16日(日)TOKYO DOME CITY HALL

<ライブビューイング>2020年2月16日(日)17:30〜開催
詳細はこちら

原作:許斐 剛『テニスの王子様』(集英社 ジャンプ コミックス刊)

出演:
〈青学(せいがく)〉
越前リョーマ 役:阿久津仁愛(にちか)
手塚国光 役:青木 瞭
大石秀一郎 役:江副貴紀
不二周助 役:皆木一舞(いぶ)
菊丸英二 役:田口 司
乾 貞治 役:竹ノ内大輔
河村 隆 役:岩田知樹
桃城 武 役:大久保 樹
海堂 薫 役:中島拓人
堀尾聡史 役:琉翔
加藤勝郎 役:中三川歳輝
水野カツオ 役:奥田夢叶

〈立海〉
幸村精市 役:立石俊樹
真田弦一郎 役:田鶴翔吾
柳 蓮二 役:井澤巧麻
仁王雅治 役:後藤 大
柳生比呂士 役:大隅勇太
丸井ブン太 役:大薮 丘(たか)
ジャッカル桑原 役:川﨑優作
切原赤也 役:前田隆太朗

〈ライバルズ〉
不動峰・伊武深司 役:健人
聖ルドルフ・不二裕太 役:大原海輝
山吹・亜久津 仁 役:川上将大
氷帝・跡部景吾 役:三浦宏規
氷帝・日吉 若 役:内海啓貴
比嘉・田仁志 慧 役:高田 誠 ※田仁志 慧の「慧」は旧字体

〈四天宝寺〉
白石蔵ノ介 役:増子敦貴
遠山金太郎 役:平松來馬

<特別出演>
越前南次郎 役:森山栄治/上島雪夫

オフィシャルサイト
テニミュ・モバイル

©許斐 剛/集英社・NAS・新テニスの王子様プロジェクト
©許斐 剛/集英社・テニミュ製作委員会

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