マンスリーWebマンガ時評  vol. 2

Review

「あるある」という共感から、経歴不明の鬼才まで。SNSバズから単行本化したマンガ3選

「あるある」という共感から、経歴不明の鬼才まで。SNSバズから単行本化したマンガ3選

映像化作品も相次ぐ、ウェブ発マンガの世界を探訪していく本連載。
今回はTwitterやInstagramなど、SNSのバズから単行本化した3作品をご紹介します。

文 / 飯田一史


笑って読むうち「美容師さん大変な仕事をありがとう……!」と思わされるインスタマンガ

©TAKUO/小学館

『美容師あるある物語』(作:TAKUO / 小学館)

Instagramでバズった現役美容師・TAKUOによる“美容師あるある”1コママンガを、「五十音順」「美容師心の声あるある」「お客様あるある」「細かすぎる美容師あるある」「アシスタントあるある」「美容師恋愛あるある」とカテゴリ別に分けて収録。

ふだん客として利用している側からすると、「パーカーやタートルネック着て来店されて困る」、男性客から「僕って将来ハゲますか?」と訊かれる、「もみあげが長すぎてどこまで切ったらいいかわからない男性客」、「また来ます」と言って来た試しがない客の存在などの「あー、ありそう」というものや、美容師が「難しいですね」と言うときは本気で止めているとか、「オレンジの光のせいですね」と言うときは“やっちまった”とき、など知っておいた方がいいことが頻出しておもしろい。

ほかにも客側からはなかなか見えない美容師側の「意外とまじめな人が多い」「手荒れしてない人は神に見える」「チクチクすると思ったら乳首にメンズの毛が刺さってた」「毛くずで豪快にすべる」「ニンニクの味は忘れた」(接客業だから)といったあるある、そして美容師という仕事の過酷さや縦社会っぷりが印象的だ。
「食事する時間がない」「シャンプーやマッサージ中に爆睡」(ずっと立ち仕事だから疲れている)といった肉体的なキツさに加え、「先輩が帰るまで帰れないという暗黙のルール」「メモを取らないと怒る先輩がいる」「理不尽な怒られ方をする」など先輩に対する恐怖心の描写(精神的なキツさ)がけっこう出てきて「え? そうだったの!」と驚かされる。

本書で特徴的なのは、笑えはするけれどもポジティブなネタが少ないこと。喜怒哀楽で言うと、著者が喜や楽の感情を喚起されたエピソードがあまり出てこない。
著者はあとがきで「美容師のグチではないです(笑)」「とにかく最高なんだ! 美容師って!」と書いているが、若干心配になり、読後にはもっと美容師・理容師にやさしく接しようという気になること間違いなしだ。

『美容師あるある物語』試し読み(小学館)
https://www.shogakukan.co.jp/books/09388742

TAKUO Instagram
@takuo_illustrator

すぐれた“あるある”は、過ぎ去りし日々の記憶と感情を呼び起こす

©にごたろ/KADOKAWA

『拾い猫のモチャ』(作:にごたろ / KADOKAWA)

猫の飼育頭数は2018年時点で約965万頭(全国犬猫飼育実態調査)。ペットのなかでは犬を抜いて最多だ。
しかも犬の場合は犬種ごとに好みが分かれがちな一方、猫は猫種や毛柄にこだわらない「猫好き」が多い。

だから「犬マンガ」よりも「猫マンガ」が数多く成立する。
とくに感情が拡散されやすいSNS上では、ハッピーな気持ち、ほっこりした気分にさせてくれる猫のかわいさはシェアされやすく、SNS発の猫マンガは一大人気ジャンルとなっている。
といっても、エッセイマンガもあればフィクションもあり、擬人化度合いや絵のデフォルメ具合も違えば、4コマなのか1コマ(インスタマンガ)なのかなどは作品によって千差万別。

Twitter発のこの作品は、著者の猫飼育体験を元にしたフィクション。猫の絵はリアル寄りでしゃべらず、4コマスタイルが基本だ(巻頭と巻末のみコマ割りされたマンガ)。
本作では、モチャとミルクという拾い猫と拾った家族との触れ合いが描かれる。

家に来たばかりの子猫のミルクが人間に対して敵意を示すも徐々になつくさま、猫同士が打ち解けていっしょに寝転がる姿、父にはなつかなかったモチャがなついて撫でることを許してくれたときの嬉しさなど、ささやかだが幸せな「猫あるある」が描かれていく。

写真や動画でだけ猫に接している人にはなかなかわからない、猫を飼った事がある人こそが実感できる「ああ、そうだよね」ということがページをめくるたびに飛び出してくる。

一方で「拾われなかった猫もいる」という事実も示し、命の大切さと縁を感じさせる。

私の家で飼っている猫は2匹ともおばあちゃんになり、もはやモチャやミルクのように活発には動かないし、食欲も衰えてしまった。
けれど、だからこそ本作を読んでいると「元気に走り回ったり、袋となれば見境なく首を突っ込んだりしていたころもあったな」と思い出がリフレインする。

本書はもともと著者の飼育体験の思い出から再構成された猫の姿を描いたものだ。
だからだろう、かわいらしい猫の動作のひとつひとつに、どこか失われてしまった過去を回想するような“想い”が込められているように、ふと感じられる時がある。
愛猫との記憶を刺激される作品だ。

『拾い猫のモチャ』1巻 試し読み(KADOKAWA)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321806000515/

にごたろ Twitter
@vriGOpzvmMRE5Dv

親友の死の謎というテーマと「あえて描かない」演出の一致が「語りたさ」を生む衝撃作

©平庫ワカ/KADOKAWA

『マイ・ブロークン・マリコ』(作:平庫ワカ / KADOKAWA)

連載初回がウェブに掲載されるや否やバズを巻き起こした、謎の新人による話題作。

「大人女子に贈る『お仕事×エンタメ』マンガ」を謳うKADOKAWAの「COMIC BRIDGE ONLINE」連載作品だが、お仕事要素はほとんどない。
主人公のOL・シイノは、出先のラーメン屋で観たTVニュースにショックを受け、本当は一件寄るべき場所があったのに勝手に直帰し、その後も無断欠勤。彼女がまともに働く姿はほぼまったく出てこない。

では何の話か?
ひとつの軸は、幼少期からの親友マリコの自殺をめぐってのふたりの関係性の回想。
もうひとつの軸は、マリコ喪失の衝撃から暴走するシイノが出会っていく見ず知らずの人たちが、シイノに対して心を砕くことで、彼女がどうにか日常に戻ってくるまでを描いたものだ。

マリコは子どものころから父によって虐待され、心が壊れている。そんな彼女が唯一心を通じ合わせていたのが、学校の屋上でタバコを吸って(マリコからは)自由に見えたシイノだった。

といってもこの作品はこの1冊で完結していて、シイノがどんな生い立ちなのかは描かれない。死んだマリコがどれだけシイノに救われていたのかを綴った手紙の描写とシイノによる回想からしか、シイノの過去は見えてこない。
シイノに関する直接的な描写は少ない。
けれどシイノというキャラクターがうまく描けていない、とは思わない。

せりふで説明はしないが絵で示す、あるいは直接は描かないが読み手に想像させるという演出方法が本作では効果的に多用されているからだ。

もちろん読者はあくまで推測、想像できるだけであって、本当にそうなのかはわからない。

そしてこの「空白を意図的に用意することで読み手に行間を想像させる」という演出方法は、本作を貫き、シイノを嘆かせる「マリコはシイノがいたのにどうして自殺したのか」という、シイノも読者も知ることができない謎とつながっている。

感情表現の激しい主人公を描きながらも、ここぞという場面での「空白を活かす」「あえて描かない」という抑制的な演出方法によって、直接的に描く以上に、横溢するきもちが伝わってくる。鬼才の仕事だ。

『マイ・ブロークン・マリコ』試し読み
https://www.kadokawa.co.jp/product/321908000317/

平庫ワカ Twitter
@MuicoMu

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