劇場版『新幹線変形ロボ シンカリオン 未来からきた神速のALFA-X』特集  vol. 3

Interview

【ネタバレ注意!】劇場版『シンカリオン』1分たりともムダにできなかった79分の宝物、その完全燃焼を終えて…池添隆博監督が見つめる未来とは?

【ネタバレ注意!】劇場版『シンカリオン』1分たりともムダにできなかった79分の宝物、その完全燃焼を終えて…池添隆博監督が見つめる未来とは?

劇場版『新幹線変形ロボ シンカリオン 未来からきた神速のALFA-X(アルファエックス)』の公開が、2019年12月27日よりスタートした。日本に実在する新幹線が変形する巨大ロボ・シンカリオン、それに乗り込む子どもたちと大人たちが見せる人間ドラマ。TVシリーズに続き制作された劇場版は、小学6年生の主人公・速杉ハヤトの前に、父・ホクトが9歳の子どもの姿になって登場するというエピソードを軸に完全新作として姿を現した。

新幹線やロボットが好きな子どもたちがメインターゲットという作品ではありつつも、家族愛と、何かを「好き」でいることの大切さを訴えるメッセージ性に、一緒に観たパパ・ママも思わず涙してしまうであろう一本。シンプルに感動を呼ぶ物語というだけではなく、“未来の新幹線”として注目を集めるJR東日本の新幹線試験車両「ALFA-X」の登場、『新世紀エヴァンゲリオン』とのコラボを始め、次から次へとお楽しみが押し寄せてくる“お祭り”感も見どころになっている。

今回は、これまで1年半放送されたTVシリーズでも監督・総監督(第65話~)をつとめ、劇場版の制作に再び尽力した池添隆博監督にインタビュー。子ども向け、でも大人も楽しめて、映画としては厳しい時間制限があって……要求がとても多い本作をどんな思いでやりとげたのか。劇場版の公開を経て、『シンカリオン』の未来をどのように見つめているのか。聞きたいことは本当にたくさんあった。

取材・文 / 柳 雄大


『ミク』も『エヴァ』も。本筋には直接関係ないシーンでも「やるからには…」のこだわり

池添隆博監督

劇場版『シンカリオン』、楽しくて、感動的で、時間の限りがある中でとにかくたくさん要素が詰まった映画でした。まず気になったのは上映時間のことで、“79分”という長さはどういう基準から決まったのでしょうか?

池添 子ども向けの作品ということで、もともとは「70分以内にしてほしい」というオファーだったんですよ。そこから若干オーバーする程度は大丈夫、とは聞いていたんですけど……本格的な作画作業に入る前の編集段階で、やっぱり8~9分ぐらいはどうしてもこぼれてしまう、というか「切れない!」ということがわかりました。関係者のみなさんには、「なぜ切れないのか」をせつせつと説明して、「80分以内」という枠でなんとかOKを出してもらいました。

なるほど! ちなみに、「切るか切らないか」のせめぎ合いになったシーンは具体的にどんなところだったんですか?

池添 いろんなシーンをトータルで見て、ではありますが、ストーリーの縦軸には直接関係ないところが多いです。それこそミクのライブシーン(※1)とか、『エヴァ』(※2)もそうですね。こういう要素は(たっぷり時間を使わなくても)別の見せ方があるんじゃないか、という話もあったんですけど。ミクも、歌うシーンを用意するからにはフルで歌ってほしいですし。

そうですよね。

※1 ミクのライブシーン
『シンカリオン』とバーチャル・シンガー『初音ミク』とのコラボにより生まれたキャラクターで、「シンカリオン H5はやぶさ」の運転士「発音ミク」がライブ会場で歌唱するというシーン。

※2 『エヴァ』
『新世紀エヴァンゲリオン』。のキャラクターたちが次元を超えて登場するシーンのこと。TVシリーズ第31話「発進!!シンカリオン 500 TYPE EVA」に続いて、劇場版でも碇シンジ(声:緒方恵美)をはじめ『エヴァ』の登場人物たちがオリジナルキャストで登場する。

池添 ゴジラ(※3)も、シンカリオンと戦うことになったからには、ちゃんと出したかったし。あとはやっぱり、ドラマが大事な作品なので、会話にも尺がほしいですし。ロボットアニメですから、ロボの変形シーンもちゃんとほしい。変形シーンは、泣く泣く「決めポーズだけ」になってしまった子(シンカリオン)たちもいましたけど……一方で「この合体シーンは完全に見せたい」という部分はこだわりました。終盤で立て続けに出てくる形になっていますが(笑)。

確かに、初登場の「シンカリオン ALFA-X」を筆頭に、ロボの変形・合体シーンは見どころですね。

池添 子どもたちが長時間観ていても飽きないように、ロボの要素は、「短いかな?」「長すぎるかな?」というのを慎重に探りながら入れ込みました。本当に尺(時間)の調整は難しくて……。

入れたかったけど、入りきらなかったシーンなどもありましたか。

池添 そうですね。シナリオ上では「ALFA-X」(新幹線)の実機をしっかり紹介するシーンなども存在しましたが、泣く泣く削っています。あとは劇場版が“異次元もの”の設定になったので、これがどういう理屈なのかを丁寧に説明しよう、という話もありました。結果的に、そのあたりはいっさいオミットして、本当に入れたい要素、優先するべき要素にこだわって……ギリギリ「伝わるかな?」というラインを探りました。自分の中で、そのせめぎ合いは本当につらかったですね。

そんな苦労の賜物、という感じがひしひしと伝わってくる映画でした。

池添 (笑)よかったです。

※3 ゴジラ
北海道でシンカリオンと対峙することになる巨大怪物体=コードネーム“雪のゴジラ”として、劇場版でまさかの初登場を果たす。

ちなみに、他作品からのキャラクターが登場することをはじめ、さまざまなコラボ案件があることも『シンカリオン』という作品の大きな特徴になりました。特にTVシリーズ第31話「発進!!シンカリオン 500 TYPE EVA」は単独でたびたび再放送されるなど、放送後に存在感がかなり大きくなっている気がします。こういった部分が注目されることを、監督としてはどう感じられていますか?

池添 僕個人としては、最初はそういう部分にちょっと否定的だったんです。第31話に関しては「500 TYPE EVA」の新幹線が(2018年3月までは)リアルに実在したし、(TVアニメ化以前から)既にシンカリオンに変形するおもちゃも出ていたのでアリかな、と思っていましたが……いろんなコラボをやって、「ややこしくなるとイヤだな」とか、「子どもが話についてきづらくなるんじゃないの?」というのは気がかりでした。

ただ「大人も入り込めるような作品にしていきたい」という現場の総意もあって、徐々に折れていくかたちで(笑)。最終的に、劇場版は「お祭りにしたろか!」という思いで臨みました。

お祭りに。なりましたね(笑)!

池添 はい、結局はこうなりますよね(笑)。でも、そこが『シンカリオン』のひとつの個性になって、それで大人のアニメファンがついてきてくださったのであれば、それはよかったことだし。僕は純粋に、子ども向けの作品としてメッセージを伝え続けたいですけど、「こういう形もアリかな」と今は思っています。

父から子へ、ではなく「ハヤトからホクトへ」伝えることをメインテーマに

さて、今回の劇場版は、ハヤトのお父さんであるホクトが9歳の子どもになってしまうという設定が何より驚きでした。「9歳」という年齢も含めて、こういう設定になった経緯を教えていただけますか?

池添 「ALFA-X」に乗るのはやっぱり子どもがいい、という前提のもと、当初はハヤトと並ぶような適合率やスキルを持った新キャラを登場させるという案もあったんです。でも、子どもたちや、『シンカリオン』ファンのみなさんが、映画でチラッと出てきた新キャラに感情移入するのはなかなか難しいんじゃないかと。そこで、「見たことがない顔の新しいキャラでありつつ、実はハヤトのお父さん」という設定が生まれました。

あとは、今回は物語の縦軸のテーマである「好き」という気持ちを、ハヤトからホクトにぶつけるのはどうだろうか? というアイデアでしたね。子ども時代のホクトがやってきてハヤトに教えてあげるのではなく、反対に12歳のハヤトから何かを教えてあげる話にするのはどうか、という案がシナリオ会議で出たんです。

なるほど!

池添 少年ホクトを、ちょっと根暗というか……ほぼハルカ(※4)なんですけど(笑)、ああいう性格にしたのも、その案が発端です。9歳に設定すると、ハヤトがお兄ちゃんになるので、相手として言いやすい年齢になるかなと。これが、同い年だったりハヤトの年上だったりすると、また違ったドラマになってきますよね。

お父さんとしてのホクトがいなくなって、なぜか年下になったお父さんが来てしまった、そこでハヤトがお父さんのためになんとかする……そういうドラマにしたかったんですよ。

※4 ハルカ
ハヤトの妹・速杉ハルカのこと。「○○なわけで……」という独特な口調など、このハルカが実は子ども時代の父・ホクトに似ていたということが劇場版で発覚する。

ドラマの作り方といえば、脚本家の下山健人さんとは、「どんな作品にしていこう」というような会話がありましたか。

池添 何より、映画を親子で観てほしいというところから、まずは速杉家を軸に置いて、「親子をテーマに」という話をしました。その上で、ホクト・ハヤトの親子としての対話はTVシリーズでひとまず完結できているので……「ホクトがもし子どもに戻ったらどういう目線で話すだろう?」というあたりは、特に詰めていった部分ですね。

子どもになったホクトに対しても、普段の友だちと同じように接していくハヤトの姿はとても印象に残りました。

池添 そうですね。お父さんが子どもになってしまったことで、一度はお母さん(サクラ)に弱音は吐くんですけど、ずっと困惑したままではなくて。シンカリオンの運転士として「しっかりしなきゃ」というのを自覚して、ああいう接し方ができるようになったのかなと思うんですけどね。

物語の骨格が決まって、脚本の下山さんがシナリオに肉付けをしていく中で、特におもしろいと感じられた点はありますか。

池添 もう全部おもしろいですよ、あの人の上げてくれるものは(笑)。『シンカリオン』ではいつも、初めに書いてもらったシナリオをうまく研磨して(削って)いって、縦軸をわかりやすく、という感じの作り方をしていて。劇場版でも、全部を使うことはできなかったのですが、細かいネタを散りばめてくれたのはあの人でした。作品のテーマがシンプルな分、遊びは多かったのですが、そこの部分で一生懸命ネタ出しをしてくれた下山さんには感謝です。

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