横川良明の演劇コラム「本日は休演日」  vol. 24

Column

俳優たちのボーダレスな活躍が光る2019年の演劇シーンを振り返る。横浜流星、黒羽麻璃央、宇佐卓真らが盛り立てるエンターテインメントへの期待

俳優たちのボーダレスな活躍が光る2019年の演劇シーンを振り返る。横浜流星、黒羽麻璃央、宇佐卓真らが盛り立てるエンターテインメントへの期待
「本日は休演日」番外編

2019年も残りわずか。そこで今年の演劇シーンを総ざらいしたいところだけど、今回は「俳優」という軸に絞って、2019年を総決算。そこで見えてきた若手俳優たちの歩みにクローズアップする。

文 / 横川良明


20〜30代のトップ俳優が舞台の世界で獅子奮迅

2019年の舞台を振り返ってみると、20〜30代の俳優の活躍が目立った1年だった。それも、映像作品で主演級の俳優がキャリアメイクのひとつとして舞台を選ぶケースが増えてきたように思う。たとえば今年の主な例は、以下の通り。

伊藤健太郎『春のめざめ』
岡田将生『ハムレット』『ブラッケン・ムーア ~荒地の亡霊~』
賀来賢人『恋のヴェネチア狂騒曲』
神木隆之介『キレイ―神様と待ち合わせした女―』
窪田正孝『唐版 風の又三郎』
坂口健太郎『お気に召すまま』
志尊 淳『Q:A Night At The Kabuki』
鈴木亮平『渦が森団地の眠れない子たち』
菅田将暉『カリギュラ』
瀬戸康史『ドクター・ホフマンのサナトリウム 〜カフカ第4の長編〜』
田中 圭『チャイメリカ』
中村倫也『クラッシャー女中』
林 遣都『熱帯樹』『風博士』
藤原竜也『プラトーノフ』『渦が森団地の眠れない子たち』
松坂桃李『ヘンリー五世』
松田龍平『イーハトーボの劇列車』
三浦春馬『罪と罰』『キンキーブーツ』
向井 理『美しく青く』
森山未來『オイディプス』
柳楽優弥『CITY』
山田孝之『ペテン師と詐欺師』
山田裕貴『終わりのない』

藤原竜也森山未來に関してはもともと舞台を軸とする俳優ではあるし、瀬戸康史中村倫也など初期の頃から映像と舞台の両軸でキャリアを築いてきた俳優もいるけれど、それにしても充実した顔ぶれだ。こうしたメジャー級の俳優が積極的に板の上に立つことで、かつて舞台につきまとっていた「マイナー」というイメージはかなり薄れ、生の空間で芝居を楽しめる「プレミアム感」の方が強まりつつある。

なぜ今、彼らは舞台を選ぶのか。その理由はいくつかある。

何かと規制の多いコンプライアンス時代、なかなか攻めた企画が連ドラでは通りづらくなった。そんななか、俳優にとって、挑戦的な役柄や実験的な作品にトライできるのは、いい意味でクローズドな舞台ならではのメリット。また、観客の視線に晒されること。稽古から本番という長い時間をかけて芝居を熟成させられること。これらを舞台の醍醐味として語る俳優は多い。

さらに付け加えるなら、昨今の「推し」ブームによって、俳優ファンの間で「推し」に「課金」する楽しさが定着したのも、若手俳優の舞台進出を後押ししているところはあるかもしれない。

横浜流星が『初めて恋をした日に読む話』で一気にブレイクしたように、時の人を生む力は依然連ドラが最も強い。けれど、ひとたびコケれば「低視聴率俳優」のレッテルが貼られる連ドラは、事務所サイドから見ればハイリスクハイリターン。ある程度のポジションを確立したら、以降はしっかり企画を吟味し、連ドラに関してはこれぞという作品に主演。それ以外は、年1本ペースで舞台に出演し力をつけながら、映画などでバイオグラフィーを積み上げるというのが、20〜30代の俳優の理想的なキャリアモデルになっているようだ。

2020年も新田真剣佑が『星の大地に降る涙 THE MUSICAL』、高橋一生が『天保十二年のシェイクスピア』、横浜流星伊藤健太郎が『巌流島』に出演するなどスター俳優の舞台登板が目白押し。もともと扉座の団員として活躍してきた高橋一生が、3年半ぶりに舞台に本格出演するのは演劇ファンとしてはうれしいかぎり。また、『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』で覚醒した金子大地が『ヘンリー八世』で初舞台を踏むのも上半期の大きなトピックだ。

中でも今最もキャスティングしたい俳優である横浜流星が、数あるオファーの中から、拘束期間の長い(そのわりに世間的な露出度は低い)舞台を選んだのは、ひと昔前なら考えられないこと。これだけで舞台のプライオリティーが業界内で高まっているのが見て取れるし、何よりあの横浜流星が同世代の伊藤健太郎とどんな演技対決を見せるのかは、2020年のエンターテインメント界の一大ニュースと言えるだろう。

個人的には、今後は高良健吾佐藤 健中川大志など実力ある俳優の舞台出演に期待したいところ。次に劇場で会えるのは、はたして誰だろうか。

黒羽麻璃央、鈴木拡樹らの活躍が「2.5次元」の壁を打ち破る

一方、近年の演劇界を大いに盛り上げてくれている2.5次元舞台もますます活気づいている。その中で、俳優という視点から語ると、「2.5次元俳優」とジャンル分けされる俳優たちがさらにボーダレスに活躍の場を広げた1年だったと言える。

もちろんこれまでも斎藤 工志尊 淳城田 優瀬戸康史などミュージカル『テニスの王子様』から数多くの人気俳優が巣立っていった。が、前述の俳優たちはまだ「2.5次元」という言葉が一般的に定着する前の、いわば黎明期を支えたレジェンドたち。『テニミュ』1強時代を経て、ミュージカル『薄桜鬼』、舞台『弱虫ベタル』など多くのヒット作品が生まれ、2.5次元舞台戦国時代に入ってからは、またその色合いは微妙に異なるように思える。

個人的には2.5次元舞台もそれ以外の舞台作品や映像作品も、人の心に潤いを与えるエンターテインメントとしては何も変わらないと思っているのだけれど、ジャンルの壁は厚く、2.5次元舞台を主軸とする俳優たちの活躍の場はまだまだ限定的だった。

しかし、その「定説」も徐々に崩れつつある。その筆頭格として既定路線を打ち破っているのが、黒羽麻璃央だろう。2019年はミュージカル『ロミオ&ジュリエット』でミュージカル俳優としての名乗りを上げ、『広告会社、男子寮のおかずくん』『コーヒー&バニラ』『いなくなれ、群青』など映像作品にも多数出演。2019年にインタビューしたときに、本人は「古川雄大をリスペクトしている」と語っていたけれど、確かにその横断的なバイオグラフィーは、古川雄大に近いものがある。向上心の強い彼がひたむきにキャリアを切り拓く姿は、きっと後に続く後輩たちにも勇気を与えているはずだ。

また、2.5次元界のトップランナーである鈴木拡樹も『映画刀剣乱舞』でこれまで以上にファンを増やしたところからスタートし、舞台「どろろ」や舞台「幽☆遊☆白書」など2.5次元舞台にも出演しながら、『虫籠の錠前』『カフカの東京絶望日記』と映像作品でも主演を務めた。あの『AERA』で表紙を飾るなど、「2.5次元舞台の顔」として2.5次元舞台を知らない層にその魅力を発信し続けてくれた鈴木拡樹には感謝の言葉を送りたい。

個人的には、小越勇輝が『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』『主人公』といった同世代俳優の集まる青春ドラマで実力のあるところを見せながら、2年ぶりの舞台「ハケンアニメ!」で別格の存在感を示していたのも趣深かった。

2.5次元俳優のキャリアは様々だ。あるタイミングで、2.5次元舞台に区切りをつけ、別のフィールドへ軸足を移す者もいれば、植田圭輔太田基裕のように2.5次元舞台にもそれ以外の作品にも変わらず出演し続ける者もいる。

「2.5次元俳優」という呼称は、彼らの能力や活躍の場を限定的なものにしているようであまり好きではなかったのだけれど、彼らの力強い活動を見ていると、もうそこに必要以上の違和感を抱くこともない気がしてきた。

かつて「特撮出身」というキャリアが黒歴史扱いされていた時代があったが、今、「ライダー出身」「戦隊出身」ということを卑下する風向きはほとんどないだろう。むしろ若い俳優たちは本気で『仮面ライダー』に出演することを目標のひとつにしているし、出身者たちはそこで過ごした時間を誇りにしている。それは、佐藤 健瀬戸康史松坂桃李横浜流星といった「特撮出身」の俳優たちが、そのキャリアをフックに大きな前進を遂げたことが大きい。

同じように「2.5次元俳優」という言葉も、あともう少しすればまた今とは少し意味合いが異なってくるのではないかな、と思う。そんな期待を持ちたくなるほど、2.5次元舞台でキャリアを積んだ俳優たちが目覚ましい活躍を遂げている。

彼らは自分たちを育ててくれた2.5次元舞台に感謝と誇りを持っているし、2.5次元の力を認めてもらえる芝居がしたい、と様々な場で語っている。彼らにとっては、ひとつひとつの出演作が戦いなのだ。2.5次元舞台からは数多くの実力ある俳優たちが生まれてきた。そう語られる未来を、きっと彼らなら勝ち取ってくれるはず。

そういう意味でも、2020年1月4日・5日放送のSPドラマ『教場』で味方良介が有名俳優を凌ぐ存在感を放ち、気炎を吐いているのは、舞台を愛するすべての人たちにとって大きな希望だ。彼らの2020年がさらに彩り豊かなものになることを、いちファンとして心から応援している。

「リアリティーショー」が若手俳優の新たな登竜門に?

そのうえで、「仮面ライダー俳優(戦隊俳優)」「2.5次元俳優」に続く若手登竜門があるとしたら、もしかしたら「リアリティショー俳優」というカテゴリーは今後さらに拡大していくのではないかな、というのが2019年に感じたことのひとつ。その旗手となるのが、宇佐卓真高橋文哉世古口 凌だ。

リアリティーショーは今や海外では超人気コンテンツのひとつ。日本でも『テラスハウス』のほか、『オオカミくんには騙されない?』など、話題の恋愛リアリティーショーが続々。特に若い世代では、恋愛ドラマより恋愛バラエティーの方が楽しいという層も一定数存在するほど人気が高い。

2018年7月に放送された『太陽とオオカミくんには騙されない?』を足がかりに、宇佐卓真はMANKAI STAGE『A3!』などで活躍。高橋文哉は『仮面ライダーゼロワン』で主演の座を射止めた。さらに『私の年下王子さま』で“ふんわり系チワワ王子”として注目を浴びた世古口 凌は、一気に舞台出演作品を増やし、2020年には『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage -track.2-で飴村乱数 役を演じる。次世代のイケメン俳優が生まれる場として、リアリティーショーはさらなる熱狂を帯びてくるかもしれない。

とはいえ、せっかく令和になったのだから、あまりジャンル分けに縛られたくないというのが正直な意見。大事なのは、どのカテゴリーの出身者かではなく、俳優として実力があるかどうか。力を持った俳優たちがジャンルに縛られず、どんどん大きな仕事を獲得し、活躍してくれることを願って、2020年も引き続き彼らの背中を追い続けたい。

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