Interview

草彅 剛が役者人生をかけて絶対的な悪役に挑む。舞台『アルトゥロ・ウイの興隆』まもなく上演!

草彅 剛が役者人生をかけて絶対的な悪役に挑む。舞台『アルトゥロ・ウイの興隆』まもなく上演!

草彅 剛がシカゴのギャングに扮する舞台『アルトゥロ・ウイの興隆』が、2020年1月11日(土)よりKAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉にて上演される。
原作はドイツ演劇の巨匠、ベルトルト・ブレヒトの大作。演出はKAAT神奈川芸術劇場の芸術監督・白井 晃が手がける。本作はヒトラーが独裁者としてのぼり詰めていく過程を、シカゴのギャングの世界に置き換えて描き、ファンク・ミュージックを散りばめた音楽劇となっている。劇中の音楽は、“キング・オブ・ソウル”と呼ばれるジェームス・ブラウンの楽曲を中心に構成され、オーサカ=モノレールによる生演奏が舞台に彩りを添える。共演には、古谷一行、神保悟志、那須佐代子らベテラン陣、渡部豪太といった若手キャストなど、舞台、テレビ、映画で幅広い活躍をしている個性豊かなキャストが集う。
そこで主演の草彅 剛にインタビューをして、今作のこと、役づくりまで聞いた。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 岩田えり


脚本も読まずに出演を決めてしまった

今作に出演が決まったときの気持ちから聞かせてください。

演出の白井 晃さんと舞台『バリーターク』(2018)でご一緒したときに、とても新鮮な感覚を覚えました。戯曲は読み込むのが難しかったし、役どころを掴むのも苦労しましたが、演じてみると楽しくて、今作も白井さんが声をかけてくれたので、脚本も読まずに出演を決めてしまって(笑)。

草彅 剛 エンタメステーションインタビュー

実際に脚本を読んでみていかがでしたか。

難しいですね。役を理解するのが難しいのも、『バリーターク』と同じです。今回は音楽劇で、日本の皆さんもよく知っているジェームス・ブラウンの曲が流れて、ひたすら“ゲロッパ!”と叫んでいるので、稽古をしているうちに誰を演じているのかわからなくなって、「僕はジェームス・ブラウン役なのかな?」と錯覚するほどで(笑)。僕はつねに舞台上にいて、生バンドのメンバーもステージにいるという演出になります。いろいろと試行錯誤していますが、本番ではひたすら“ゲロッパ!”と叫んでいるかも(笑)。

白井さんは役者としての未知なる扉を開いてくれた

(笑)。稽古が始まって演じ方の糸口は掴んでいる感じですか?

今のところは、わからないなりに、正直に演じるしかないと思っています。『バリーターク』もお芝居をするのは難しかったけれど刺激的で、白井さんは役者としての未知なる扉を開いてくれたし、舞台は僕の知らない自分と出会えるチャンスを与えてくれるので、今回も期待しています。

稽古で大変なところはありますか。

台詞の量が膨大で、“よくぞここまで喋るな!?”という戯曲です(笑)。しかも難解なので、台本を読んでいてもどこを読んでいるのかわからなくなるので……困ったものですね(苦笑)。

草彅 剛 エンタメステーションインタビュー

(笑)。それ以外にもお仕事をされているから同時進行するのは大変ですね。

ええ。YouTubeの撮影をしたりしながら稽古をしているので、ほかの仕事の合間に台詞を覚えないといけない慌ただしい日々を過ごしています。前回の舞台『家族のはなしPART I』(2019)では犬の役だったので、喋らなくてよかったんです。あのときは(小西)真奈美ちゃんと池田成志さんが喋って、僕は“ボケー”っとしているだけだったので、その“ツケ”が回ってきたのかな(笑)。今回の僕の役は相手を罵倒したり、叫んだり、泣いては笑う浮き沈みのあるキャラクターで、なおかつ平気で人を騙したり、悪いことを企んだり、人間の“憎悪”を表現しないといけない個性的な役なので、アルトゥロ・ウイを演じることは役者冥利に尽きますね。白井さんとは『バリーターク』で良好な関係性を築くことができたので、ディスカッションをしながら役をつくっています。

白井さんのおっしゃったことで印象に残っている言葉はありますか。

“剛くん”ではなくて、“剛さん”と呼んでいただけることが、僕のことを信頼してもらっている気がして心地よくて(笑)。海外の翻訳作品で白井さんも未知なところがあるから手探りで演出をされていますが、僕は白井さんを信頼しているし、身を預けて、演じてみてダメであれば、方向性を変えながら稽古をしていきたいです。

草彅 剛 エンタメステーションインタビュー

今作の魅力はどういったところになりますか。

1年前に『道(La Strada)』(2018)という音楽劇に出演して、初めての音楽劇でしたが、音楽とお芝居を融合させることが“こんなに素晴らしい舞台になるのか!”と実感しました。今作は生バンドが台詞に合わせて音を出すこともあるので、かなりの声量が必要になってくると思います。白井さんは僕の中に眠っている役者としての“魂”を音楽によって呼び覚ましたいと狙っているそうで、僕は音に負けない声を振り絞って、観客の皆さんに味わったことのない感動を届けたいと思います。

音楽と共存すると言えばいいのでしょうか?

そうだと思います。白井さんの作品はどんな舞台でも、メンタルとフィジカルをすごく使うので、今作も終演を迎えるたびに抜け殻になってしまう気がします(笑)。でも、そうすることでしか、お客様に伝わらないものがあると信じています。

“覚えていればいいや”ぐらいのポジティブな思考で

難読な台詞はどのように覚えていきますか。

僕が台詞を覚えないと物語が進まないので、“覚えていればいいや”ぐらいのポジティブな思考で脚本を読んでいます。キャラクターは残虐ですが、僕は“いい人”なはずで(笑)、実際の人物と役のギャップが面白いと思います。台詞と悪戦苦闘するのはこれまでの舞台の状況と変わらないし、稽古を進めて役をつくれば不安要素が必ず出てきます。前回の犬の役もそうでしたが、最初に稽古場でどうするのか途方にくれるのは、どの現場でも同じなので、舞台は毎回そうではありますが、今回も挑戦だと思っています。だから役者人生をかけて演じたいです。

草彅 剛 エンタメステーションインタビュー

その心意気が草彅さんを役者として突き動かすんですね。

フルスロットルで後先を考えずに演じないといけない役なので大変ではありますが、脚本のページを飛ばさないぐらいの気負わない感じで臨みたいです。今作は僕が舞台の中央にいないときは、あたかも観客のように演じるお芝居を要求されるのですが……。

劇中劇の要素があるんですね。

テレビショーをお客様の目の前で見せるような作品なので、ショーをしていない間は“楽屋にいる体”で演じなければいけないので、もしかしたら、本番でも実際に脚本を手にしていても大丈夫かもと思ったりして。これからの稽古で提案してみようと思いますが、却下されそうだなあ(笑)。

草彅 剛 エンタメステーションインタビュー

(笑)。アルトゥロ・ウイはどのような役だと思いますか。

ヒトラーがモチーフになっているので、YouTubeでヒトラーが演説しているところを観たり、ジェームス・ブラウンの音楽を聴いて、役をイメージしています。実は、KAAT神奈川芸術劇場で初めて観た舞台が『アドルフに告ぐ』(2015)で、友達の成河くんがヒトラーを演じていました。その舞台はとても残酷で、ストレートなヒトラーを描いていて怖かったですね。アルトゥロ・ウイは、どちらかといえば怖くなくて、ファンク・ミュージックがかかっているし、パーティーをしているような舞台なので雰囲気も違いますし、面白くなると思います。

たしかにヒトラーをいろいろな角度で扱った舞台がたくさんありますね。

今作の日本での初演は、1969年の劇団俳優座の『ギャング・アルトゥロ・ウイ~おさえればとまるアルトゥロ・ウイの栄達』で、共演する古谷一行さんが出演するかもしれなかったそうなんです。

そうなんですね!?

ただタイミングが合わなくて、そのときは田中邦衛さんがアルトゥロ・ウイを演じたそうです。歴史ある作品だし、お話としてもいろいろなパターンがあると思いますが、今作は音楽劇と銘打っていますし、これまでとは違って異質なものになると思います。僕たちはヒトラーの持つ怖さや残虐性を打ち出すよりも、パーティーをして楽しんでいる感覚を大事にしたいです。

草彅 剛 エンタメステーションインタビュー

アルトゥロ・ウイは根本から最悪の男

草彅さんは、最近では映画『まく子』(2019)や『台風家族』(2019)で、悪役を演じられることが多くなっていますね。

『まく子』と『台風家族』では悪役を演じましたが、根は良い人間でした。ただ、アルトゥロ・ウイは根本から最悪の男で、ジェームス・ブラウンの音楽がかかっているのもあって陽気に見えるけれど、最低な行動ばかりしてしまうし、どちらかというと、それを楽しんでいるキャラクターです。そういう悪い人は自分のしたことを悪いとは思わずに、ふてぶてしい態度で勝手に振り切れるというか、自分の信じていたことをしたら、結果的に“悪”になってしまう。悪いことをすることが内面で自然化してしまったタイプだと思います。性格の良い人だと、人のことを敬う礼儀があったり、その人をカタチづくるいろいろな定義があると思いますが、アルトゥロ・ウイのような悪人はボーダーラインがないから、キャラクターがコロコロ変わったように見えてしまうので、かえって良い人にも見えたりするのが特徴ですね。自分の都合が悪くなったら、手のひらを返したように怒鳴り散らしたり、逆に優しくなったりするので、演じていて面白いです。

やはり、音楽劇ですから音楽も楽しみですね。

小さいときから聴いている慣れ親しんだ音楽ではありますが、まさか僕がジェームス・ブラウンを歌うとは思ってなくて。歌詞カードを見ると、ジェームス・ブラウンはそのとおりには歌っていなくて、歌詞や小節がまったく違うので、どこをどうやって覚えればいいのか……(笑)。それでもそういった困難に立ち向かえば、ジェームス・ブラウンの音楽が、僕から“アルトゥロ・ウイの魂”を引き出してくれると思います。

草彅 剛 エンタメステーションインタビュー

音楽ということでいえば、先日、『草彅剛のはっぴょう会』でライブをされましたね。

ギターを弾いて、今までのキャリアで経験したことのない新しい感覚を初めて覚えたので、今回で言えば、ジェームス・ブラウンの曲も新しいアプローチで表現できたらいいですね。これまではストレートプレイが多くて、お芝居の延長で歌を歌うのは初めてなので、これまでとは違った反応をお客様に生み出したいと思います。

板の上に立つときは、役者はエネルギッシュでなければいけない

舞台に出演するうえで気をつけていることはありますか。

やはり身体が資本なので、元気でいることです。板の上に立つときは、役者はエネルギッシュでなければいけないと思っているので、健康管理が一番大事だと思います。本番で台詞を一行でも飛ばしてしまえば後悔することもあるけれど、その公演が終わればすぐに次が待っている。細いことを気にするよりも、元気でいることを大切にしています。

草彅 剛 エンタメステーションインタビュー

普段の舞台ではどのように役づくりをしていますか。

まずは睡眠です。自律神経を整えるために、夜遅くまで脚本を読んだりしないことですね。疲れているときはとにかく寝ることが大切で、そのほうが台詞が身体の中にスッと入ります。それから、役のことを難しく考えすぎないこと。この人物はどう思っているのか深くは考察せずに、脚本に書かれていることに忠実でいようとします。あとは、大きな声ですね。舞台では劇場の奥まで伝わる大きな声を出したほうが説得力があると思っていて。いくら意味を考えてもわからないところは割り切ることも大切で、それも大きな声を出していけば、お客様に必ず伝わるので。ここが一番大切ですが、間違えることを怖がらないことですね。舞台の場合はドラマのようにやり直しができないので、間違いも楽しむ気持ちが大切です。

草彅さんの考える舞台の魅力はありますか。

ライブ感だと思います。舞台は毎公演ごとに感覚が違うし、決まった時間に見知らぬお客様同士が集まる空間です。僕らとの出会いは一期一会だし、同じ時間と空間に集まって、僕たちの舞台を観劇してくれると思うとたまらなく嬉しいです。

強みは“これぐらいがちょうどいい”という“テキトーさ”

草彅さんは、故・つかこうへいさんから、白井さんまで、様々な演劇人に愛されている印象があります。ご自身の役者としての強みを分析してみるといかがですか。

何も考えないことです。僕は自分のことを役者だと思っていなくて。役者一本でお仕事をしているわけではないので、本業の方には敵わない部分があるから、“これぐらいがちょうどいい”という“テキトーさ”が必要だと思います。考えすぎると意固地になってしまうので、不真面目でいるほうが、舞台でしっかり動けると認識するようになりました。深いところまで考えてはダメで、“誰かに怒られないうちは大丈夫だ”という余裕を持ちつつお芝居をしています。

草彅 剛 エンタメステーションインタビュー

それでは、最後に見どころをお願いいたします。

前向きな物語ではないかもしれませんが、ジェームス・ブラウンの曲が流れる、ノリの良いエンターテインメント性の強い作品だと思います。劇場を後にしたときに“気持ち良かった”と感じていただけるし、同時に“よく考えてみると怖いよね”と深く考えていただけると思います。“観劇して良かった”と喜んでもらえる舞台にしますので、ぜひ劇場にいらしてください。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『アルトゥロ・ウイの興隆』

2020年1月11日(土)~2月2日(日)KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉

【STORY】
シカゴギャング団のボス、アルトゥロ・ウイは、政治家・ドッグズバローと野菜トラストとの不正取引に関する情報を掴んだ。それにつけこみ強請るウイ。それをきっかけに勢力を拡大し、次第に人々が恐れる存在へとのし上がります。見る見るうちに勢いを増していくウイを、果たして抑えることができるのだろうか……。

作:ベルトルト・ブレヒト
翻訳:酒寄進一
演出:白井 晃
音楽・演奏:オーサカ=モノレール
振付:Ruu

出演:
草彅 剛
松尾 諭 渡部豪太 中山祐一朗 細見大輔 粟野史浩
関 秀人 有川マコト/深沢 敦 那須佐代子 春海四方
小川ゲン 古木将也 小椋 毅 チョウヨンホ 林浩太郎
Ruu Nami Monroe FUMI
神保悟志 小林勝也/古谷一行

企画製作・主催:KAAT神奈川芸術劇場

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草彅 剛(くさなぎ・つよし)

1974年7月9日生まれ、埼玉県出身。1991年、歌手としてデビュー。2007年に舞台『父帰る/屋上の狂人』で第14回読売演劇大賞 優秀男優賞・杉村春子賞を受賞。2017年、「新しい地図」の活動を開始。近年の主な出演作品には【舞台】『バリーターク』、音楽劇『道(La Strada)』、『家族のはなしPART I』【映画】『クソ野郎と美しき世界「光へ、航る」』、『まく子』、『台風家族』などがある。出演待機作に映画『ミッドナイトスワン』(2020年公開予定)がある。

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